無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第9話 創業は易く守成は難し

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 テーブルの上には、3つの空になった皿やうつわ
飲み終えたら学園に戻ろうとしているのに、すぐ来るはずのお茶が運ばれない。
壁に飾られた時計の針は、入店してから1時間がっていた。

「飲み物、忘れられたみたい。
ウェイトレスさんは、お持ちしますって言っていたのにね」

ケーキと一緒に紅茶を飲みたかったジャンヌは、水の入っていた空になったコップを持ち左右にらす。

「あのウェイトレスさん。
店内を見て探しているけど、見あたらないんだよ」

ロッタはそう言ってから、口の中が甘ったるいようでつばを飲み込む。

「半分残してお茶を飲みながら、また濃厚マンゴープリンを味わおうとしていたのよ。
二度美味しく、食べようとしていたのにー」

プリムローズにいたっては器を、ミシミシと音を立てて割りそうな勢いで握っていた。
ジャンヌが慌てて、プリムローズを落ち着かせようとする。

「こみ合う時間帯です。
遅くなるのも仕方ないわ」

ジャンヌの言葉に従って窓の外を見ると、店に入るために待っている人影が見える。

「それにしても、遅くないですか。
食べ終えてから、もう30分も待っているのよ」

厨房からウェイトレスに手渡しされる度に、自分たちの番だと待ち構えていた。
ふてくされているロッタは、テーブルひじをついててのひらにアゴを乗せて厨房ちゅうぼうの方へ顔を向けている。

「きっと、あれだな。
ティーポットの大きさから、私たちので間違いない」

『『『のどうるおせる~♪』』』

エプロンのひもを揺らし、近づくウェイトレスに身構える。
テーブルの上は、ティーポットの置く場所を確保。
片付けをしやすいように、食べ終えた皿を重ねて準備万端でお迎えする。

「お待たせいたしましたぁ~」

席を1つはさんで、ウェイトレスは歩みを止めた。

「お紅茶になります。
熱いので、気を付けてお飲みください」

ティーカップとポットを置くと、一礼して立ち去ろうとする。
これには、プリムローズたちも口をポカンとさせる。
予想が外れてロッタは、信じられないって文句をつける。

「へっ、マジかよ。
私たちのじゃあないのか!?」

「なんでよ、納得いかない。
ちょっと、ウェイトレスへ言いに行ってくる」

絶対ちょっとじゃすまないと、ジャンヌは立ち上がってプリムローズを止めようとする。

「プリムローズ嬢、およしになってー。
ウェイトレスさんを、席に呼んでか…ら」

ジャンヌの止める手をすり抜けて、近くで注文を取るウェイトレスに向かう。

「何て言うんだろう。
手を出さないといいだけどね」

のんきな口調で物騒なことを言って、ズンズンと近づいていく後ろ姿を見送る。

「止めに行ってくるわ」

「間に合わないよ。
見てごらん、ジャンヌ」

振り向いて背後を見ると、そこには話しかけているプリムローズがいた。

「ウェイトレスさん、お待ちなさい!」

キョロキョロして、背後にいたプリムローズへ向き変える。

「はい、お呼びでしょうか?」

「このお茶は、私たちに出すのが正解なのよ。
彼女たちが店に入って来る前から、別のウェイトレスがお茶を後から届けると言っていたのですから」

知らないで注がれていたお茶を口にする客たちは、プリムローズの言葉に吹き出しそうになって咳き込んでいた。
困った素振りで、横でこのやり取りを傍観ぼうかんしている。

「お客様の席は、どちらですか?
別のウェイトレスって仰いますが、どのウェイトレスですか?」

「植木が隣に置いてある席よ。
連れも、ほら座っているわ」

ロッタは余裕で右手をヒラヒラとさせ、ジャンヌはハラハラしてしている様子。

担当していたウェイトレスのモノマネで、笑顔で首をかしげる。
そのまま、プリムローズが特徴を詳細に伝えた。

あの子かとつぶやいてから、ガクって肩を落とす。
顔をあげると、ウェイトレスは疑問を投げかけた。

「お言葉ですが、お客様の注文書をコチラでは預かっておりません」

思ってもない返しをされて、プリムローズは頭の中が混乱した。

「そんなこと、言われても…。
こっちには、注文の紙はないわよ」

消えた注文書の行方ゆくえせいで押し問答になり、だんだんと険悪けんあくになってゆく。
プリムローズたちが嘘をついて、紅茶をただでもう一杯飲もうとしている。
こう疑うように、プリムローズには感じ取れた。

「貴女は、客である。
この私を疑っていますの!?」

「いえ、そこまでは……」

不満がありそうな顔つきで、エプロンを握りしめている。
押し黙ってうつ向く彼女の態度は、プリムローズがいじめているように見えた。

「この件を、店長に相談するか。
もう1度、消えた注文書を探すのが先でしょう」

お人好しにも解決策を教えるが、他の客にはそれが高圧的に見えてしまう。
この先どうなるかと、客たちは成り行きを注目していた。

「私たちが嘘を言って、文句をつけている思っているみたい」

「感じ良い店だったのに失望した。
それより、疑われるのは気に入らないな」

騎士道きしどうを学ぶものとして、これは黙っていられないと同時に思っていた。
ジャンヌとロッタは、どちらが正しいのか。
白黒させるべく、同時にスーッと席を立つ。

近づいていくと、見えて来たのは美しいプラチナブロンドが逆立って見える。
プリムローズの怒りを感じる後ろ姿と、ウェイトレスの苛立いらだつ態度に不満げな顔。

不穏な空気を引きく、男性の冷静な声がする。

「どうかしたのか。
お客様、どうされましたか?」

奥から出てきたのは、ちょうネクタイで黒いスーツ姿の男性だった。

「貴方が、ここの責任者?」

ウェイトレスを庇うように、黒服紳士は前に出てプリムローズに申し出をする。

「お客様、ここではなんですから。
奥の部屋で、詳しく用件を伺ってもよろしいですか!?」

他の客たちの手前、責任者はとり敢えず違う場所へプリムローズたちを移動させようとした。

「う~ん、そうね。
友人たちと、相談してからでもいいかしら?」

人の目のないところで、私たちを調子よく丸め込むつもりだろう。
店からしたら、評判を落としたくないものね。
大人って卑怯ひきょうだわ。

「よろしくはないな!」

「ここで話し合いましょう!」

真後ろから女性たちの声が、責任者の提案ていあんを拒絶する。

「ロッタ先輩!ジャンヌ様!」

冷ややかな目付きでジャンヌは、プリムローズの前に立つ男性に語りかけた。

「こんなに騒ぎになってしまったら、ここにおられる皆さんも気になると思いますよ」

「当店の従業員が、お客様に不適切なことを致しました。
誠に、申し訳ありません」

しっかりと謝罪すると、責任者がウェイトレスに命じる。

「君はー。
厨房で作業している者は、注文書を探すように伝えなさい」

「そこの君、君はー。
現在並んでいる人だけを、店に入れるよう指示しなさい。
この後は、臨時休業にする!」

責任者は騒ぎに対して、店を休みとするまで言い出す。
大事になってきたと、静かに見守っていた他の客もザワつく。

「あら、店を閉めるそうよ」

「飲み終えたし、もう帰りましょうか」

一人二人と立ち上がり、慌てて競うように店を出ていく。
興味みのある客は、残って事の成り行きを見物するようだ。

「お客様、お飲み物をお持ち致します。
どうか、もといた席にお戻りください」

「わかりました。
ハッキリするまでは、お茶はいりません。
それと、あと1時間位しか此処に居られません。
それまでに注文書を探して、お茶を持ってきてくれるとありがたいわ」

責任者の彼は、一度頷いたから深々と頭を下げる。
プリムローズたちは、おとなしく従って席に戻ることにした。

「席に戻ってきてなんですが。
もしも、このテーブル下に注文書が落ちていたらと思ちゃった」

「ああ、もしあったら恥ずかしいな」

ロッタとプリムローズは、テーブルの下を覗きこもうとする。

「ありませんでしたよ。
ウェイトレスが注文書を落としたかもって思い、席のまわりを探してみたのです」

「なんだ、安心した」

「ありがとう、ジャンヌ様」

気を回してジャンヌが見てくれてきたようで、そうなると店側の過失になる。

    
 お茶しに来ただけなのに、変な事になってしまったとプリムローズたちは困ってしまう。
はぁーと疲れた顔で下を向いていたら、パタパタと複数の足音が近づいてくる。

「私たちが、貴女方の紅茶を飲んでしまったようですね」

「謝るのも変ですが、ごめんなさい」

横取りされたと言いがかりをされた女性たちが、わざわざ席まで来て謝罪してくれた。

「リピーターですわ」

「お嬢様たちだ!」

「やめて、恥ずかしいわ。
立って話すのもなんですから、座って話しませんか?」

その場しのぎに、ジャンヌは軽い気持ちで誘ってみた。

「いいんですか!?
私たちは、このお店が好きなんです。
ですから、嫌な風に誤解されたくないの」

「ウェイトレスがあんな態度になってしまったのには、それなりの理由があるのです。
話を聞いてくれませんか?」

ん!?って、私たちはなんだろうなという表情になってしまう。
いち早く、ロッタがプリムローズたちに問いかけた。

「聞いてあげよう。
さっきから、私たちを不快に思っている。
店内の空気を感じているんだ」

プリムローズたちもウンって返事すると、ビシビシと刺すような周りから視線が気になる。
偶然に空いていたプリムローズたちの席を目にすると、この席に移って来ますと言い出した。

ガタガタと隣から音がすると、
ティーポットやカップを持って本当にやって来た。

「従業員たちに断りに行ったら、注文書を探しておりましたよ」

「私たちは、責任者とは顔見知りなの。
きちんと、了承は頂けました」

こうして、新たな情報を聞かせてくれるのは助かる。
彼女たちは、この店を祖母の代から贔屓ひいきにしていると話す。
プリムローズはに落ちて、側に置かれていたカードを見ながら質問した。

「それで、このカードをもらえているのね」

「いいえ、それは違います。
これは、年一度だけ限定50人に発行される年間カードです」

「朝から何時間も並んで、苦労して手に入れたものなんです。
制限はありますが、月に二回だけ無料になります」

「その他は、割引してくれたりするの。
お得意なカードでしょう」

嬉しげに自慢してくる彼女らは、心から店を愛しているのだろうとわかる。

「そんなカードがあったとは、耳にしたことがありません」

何度も店に足を運んでいたジャンヌは、カードの存在すら知らなかった。
あの責任者が、3年前から始めた試みだと教えてくれた。

創業そうぎょうやす守成しゅせいがたし】を、責任者は先代から受けいだ教えだそうだ。

「何事であっても、物事を新しく始めることは容易だ。
すでに出来上がっている事を引き継いで、衰えないように守っていくことは難しいという意味です」

 「そうした困難が、ある事件から浮き彫りになりました。
ここ一年前から、無銭飲食むせんいんしょくする悪い人が現れたのです」

『『『無銭飲食?!』』』

女性しかいない店内。
タダで食べて逃げたのは、女の人だったのか。

「まさか、私たちはそれを疑われた」

プリムローズは同じカフェ経営者として、頭を思い切り叩かれた衝撃を受けた。

「ないとは言えないけど、貴女たちは違うと思いました。
黙って支払わないで、店から出ていく人ではないでしょう」

「それとは違うと思いましたので、こうして貴女方とお話を聞いてみたかったのです」

変な目付きで見ている客たちは、この店が無銭飲食されていることを知っているからだ。
しかし、自分たちの注文書が見つからなかったらどうしよう。

「私たちの注文書は、どこに消えてしまったの。
このまま、出てこなかったら……」

「大丈夫だ、プリムローズ嬢。
我らは、セント・ジョン軍学園の生徒だ。
そんな犯罪者と同じでない」

「私たちは、正義の名のもとで学んでいます。
堂々と判断を待てばいいわ」

ロッタとジャンヌは背筋を伸ばして、大きくも小さくもない声で言った。

プリムローズたちの会話を盗み聞きしていた、残っていた客たち。
軍学園の生徒ですってと、一斉に噂を始める。

「あら、軍学園の学生さんでしたか。
貴女も、同じ学生さん?」

1人キラキラの頭髪に、見たこともない紫の瞳。
二人に比べて、外見も年齢も差がある。

「私もセント・ジョン軍学園の生徒です。
精神と体を鍛えて、騎士道の志を学んでおります」

美しい瞳を閉じ心臓に手を置いてから、次は満面の笑みで力こぶを見せつけた。
プリムローズのポーズで彼女たちが笑いだしたら、厨房の方から歓声と拍手が聞こえてきた。
なにか、動きがあったようだ。
消えた注文書を見つけたのだろうか。

席に座っていた客たち全員が、そちらの方へ顔を向けて注目するのだった。

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