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第4章 騎士道を学べ
第9話 創業は易く守成は難し
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テーブルの上には、3つの空になった皿や器。
飲み終えたら学園に戻ろうとしているのに、すぐ来るはずのお茶が運ばれない。
壁に飾られた時計の針は、入店してから1時間が経っていた。
「飲み物、忘れられたみたい。
ウェイトレスさんは、お持ちしますって言っていたのにね」
ケーキと一緒に紅茶を飲みたかったジャンヌは、水の入っていた空になったコップを持ち左右に揺らす。
「あのウェイトレスさん。
店内を見て探しているけど、見あたらないんだよ」
ロッタはそう言ってから、口の中が甘ったるいようで唾を飲み込む。
「半分残してお茶を飲みながら、また濃厚マンゴープリンを味わおうとしていたのよ。
二度美味しく、食べようとしていたのにー」
プリムローズに至っては器を、ミシミシと音を立てて割りそうな勢いで握っていた。
ジャンヌが慌てて、プリムローズを落ち着かせようとする。
「こみ合う時間帯です。
遅くなるのも仕方ないわ」
ジャンヌの言葉に従って窓の外を見ると、店に入るために待っている人影が見える。
「それにしても、遅くないですか。
食べ終えてから、もう30分も待っているのよ」
厨房からウェイトレスに手渡しされる度に、自分たちの番だと待ち構えていた。
ふて腐れているロッタは、テーブル肘をついて掌にアゴを乗せて厨房の方へ顔を向けている。
「きっと、あれだな。
ティーポットの大きさから、私たちので間違いない」
『『『喉を潤せる~♪』』』
エプロンの紐を揺らし、近づくウェイトレスに身構える。
テーブルの上は、ティーポットの置く場所を確保。
片付けをしやすいように、食べ終えた皿を重ねて準備万端でお迎えする。
「お待たせいたしましたぁ~」
席を1つ挟んで、ウェイトレスは歩みを止めた。
「お紅茶になります。
熱いので、気を付けてお飲みください」
ティーカップとポットを置くと、一礼して立ち去ろうとする。
これには、プリムローズたちも口をポカンとさせる。
予想が外れてロッタは、信じられないって文句をつける。
「へっ、マジかよ。
私たちのじゃあないのか!?」
「なんでよ、納得いかない。
ちょっと、ウェイトレスへ言いに行ってくる」
絶対ちょっとじゃすまないと、ジャンヌは立ち上がってプリムローズを止めようとする。
「プリムローズ嬢、およしになってー。
ウェイトレスさんを、席に呼んでか…ら」
ジャンヌの止める手をすり抜けて、近くで注文を取るウェイトレスに向かう。
「何て言うんだろう。
手を出さないといいだけどね」
のんきな口調で物騒なことを言って、ズンズンと近づいていく後ろ姿を見送る。
「止めに行ってくるわ」
「間に合わないよ。
見てごらん、ジャンヌ」
振り向いて背後を見ると、そこには話しかけているプリムローズがいた。
「ウェイトレスさん、お待ちなさい!」
キョロキョロして、背後にいたプリムローズへ向き変える。
「はい、お呼びでしょうか?」
「このお茶は、私たちに出すのが正解なのよ。
彼女たちが店に入って来る前から、別のウェイトレスがお茶を後から届けると言っていたのですから」
知らないで注がれていたお茶を口にする客たちは、プリムローズの言葉に吹き出しそうになって咳き込んでいた。
困った素振りで、横でこのやり取りを傍観している。
「お客様の席は、どちらですか?
別のウェイトレスって仰いますが、どのウェイトレスですか?」
「植木が隣に置いてある席よ。
連れも、ほら座っているわ」
ロッタは余裕で右手をヒラヒラとさせ、ジャンヌはハラハラしてしている様子。
担当していたウェイトレスのモノマネで、笑顔で首をかしげる。
そのまま、プリムローズが特徴を詳細に伝えた。
あの子かと呟いてから、ガクって肩を落とす。
顔をあげると、ウェイトレスは疑問を投げかけた。
「お言葉ですが、お客様の注文書をコチラでは預かっておりません」
思ってもない返しをされて、プリムローズは頭の中が混乱した。
「そんなこと、言われても…。
こっちには、注文の紙はないわよ」
消えた注文書の行方せいで押し問答になり、だんだんと険悪になってゆく。
プリムローズたちが嘘をついて、紅茶をただでもう一杯飲もうとしている。
こう疑うように、プリムローズには感じ取れた。
「貴女は、客である。
この私を疑っていますの!?」
「いえ、そこまでは……」
不満がありそうな顔つきで、エプロンを握りしめている。
押し黙ってうつ向く彼女の態度は、プリムローズがいじめているように見えた。
「この件を、店長に相談するか。
もう1度、消えた注文書を探すのが先でしょう」
お人好しにも解決策を教えるが、他の客にはそれが高圧的に見えてしまう。
この先どうなるかと、客たちは成り行きを注目していた。
「私たちが嘘を言って、文句をつけている思っているみたい」
「感じ良い店だったのに失望した。
それより、疑われるのは気に入らないな」
騎士道を学ぶものとして、これは黙っていられないと同時に思っていた。
ジャンヌとロッタは、どちらが正しいのか。
白黒させるべく、同時にスーッと席を立つ。
近づいていくと、見えて来たのは美しいプラチナブロンドが逆立って見える。
プリムローズの怒りを感じる後ろ姿と、ウェイトレスの苛立つ態度に不満げな顔。
不穏な空気を引き裂く、男性の冷静な声がする。
「どうかしたのか。
お客様、どうされましたか?」
奥から出てきたのは、蝶ネクタイで黒いスーツ姿の男性だった。
「貴方が、ここの責任者?」
ウェイトレスを庇うように、黒服紳士は前に出てプリムローズに申し出をする。
「お客様、ここではなんですから。
奥の部屋で、詳しく用件を伺ってもよろしいですか!?」
他の客たちの手前、責任者はとり敢えず違う場所へプリムローズたちを移動させようとした。
「う~ん、そうね。
友人たちと、相談してからでもいいかしら?」
人の目のないところで、私たちを調子よく丸め込むつもりだろう。
店からしたら、評判を落としたくないものね。
大人って卑怯だわ。
「よろしくはないな!」
「ここで話し合いましょう!」
真後ろから女性たちの声が、責任者の提案を拒絶する。
「ロッタ先輩!ジャンヌ様!」
冷ややかな目付きでジャンヌは、プリムローズの前に立つ男性に語りかけた。
「こんなに騒ぎになってしまったら、ここにおられる皆さんも気になると思いますよ」
「当店の従業員が、お客様に不適切なことを致しました。
誠に、申し訳ありません」
しっかりと謝罪すると、責任者がウェイトレスに命じる。
「君はー。
厨房で作業している者は、注文書を探すように伝えなさい」
「そこの君、君はー。
現在並んでいる人だけを、店に入れるよう指示しなさい。
この後は、臨時休業にする!」
責任者は騒ぎに対して、店を休みとするまで言い出す。
大事になってきたと、静かに見守っていた他の客もザワつく。
「あら、店を閉めるそうよ」
「飲み終えたし、もう帰りましょうか」
一人二人と立ち上がり、慌てて競うように店を出ていく。
興味みのある客は、残って事の成り行きを見物するようだ。
「お客様、お飲み物をお持ち致します。
どうか、もといた席にお戻りください」
「わかりました。
ハッキリするまでは、お茶はいりません。
それと、あと1時間位しか此処に居られません。
それまでに注文書を探して、お茶を持ってきてくれるとありがたいわ」
責任者の彼は、一度頷いたから深々と頭を下げる。
プリムローズたちは、おとなしく従って席に戻ることにした。
「席に戻ってきてなんですが。
もしも、このテーブル下に注文書が落ちていたらと思ちゃった」
「ああ、もしあったら恥ずかしいな」
ロッタとプリムローズは、テーブルの下を覗きこもうとする。
「ありませんでしたよ。
ウェイトレスが注文書を落としたかもって思い、席のまわりを探してみたのです」
「なんだ、安心した」
「ありがとう、ジャンヌ様」
気を回してジャンヌが見てくれてきたようで、そうなると店側の過失になる。
お茶しに来ただけなのに、変な事になってしまったとプリムローズたちは困ってしまう。
はぁーと疲れた顔で下を向いていたら、パタパタと複数の足音が近づいてくる。
「私たちが、貴女方の紅茶を飲んでしまったようですね」
「謝るのも変ですが、ごめんなさい」
横取りされたと言いがかりをされた女性たちが、わざわざ席まで来て謝罪してくれた。
「リピーターですわ」
「お嬢様たちだ!」
「やめて、恥ずかしいわ。
立って話すのもなんですから、座って話しませんか?」
その場しのぎに、ジャンヌは軽い気持ちで誘ってみた。
「いいんですか!?
私たちは、このお店が好きなんです。
ですから、嫌な風に誤解されたくないの」
「ウェイトレスがあんな態度になってしまったのには、それなりの理由があるのです。
話を聞いてくれませんか?」
ん!?って、私たちはなんだろうなという表情になってしまう。
いち早く、ロッタがプリムローズたちに問いかけた。
「聞いてあげよう。
さっきから、私たちを不快に思っている。
店内の空気を感じているんだ」
プリムローズたちもウンって返事すると、ビシビシと刺すような周りから視線が気になる。
偶然に空いていたプリムローズたちの席を目にすると、この席に移って来ますと言い出した。
ガタガタと隣から音がすると、
ティーポットやカップを持って本当にやって来た。
「従業員たちに断りに行ったら、注文書を探しておりましたよ」
「私たちは、責任者とは顔見知りなの。
きちんと、了承は頂けました」
こうして、新たな情報を聞かせてくれるのは助かる。
彼女たちは、この店を祖母の代から贔屓にしていると話す。
プリムローズは府に落ちて、側に置かれていたカードを見ながら質問した。
「それで、このカードを貰えているのね」
「いいえ、それは違います。
これは、年一度だけ限定50人に発行される年間カードです」
「朝から何時間も並んで、苦労して手に入れたものなんです。
制限はありますが、月に二回だけ無料になります」
「その他は、割引してくれたりするの。
お得意なカードでしょう」
嬉しげに自慢してくる彼女らは、心から店を愛しているのだろうとわかる。
「そんなカードがあったとは、耳にしたことがありません」
何度も店に足を運んでいたジャンヌは、カードの存在すら知らなかった。
あの責任者が、3年前から始めた試みだと教えてくれた。
【創業は易く守成は難し】を、責任者は先代から受け継いだ教えだそうだ。
「何事であっても、物事を新しく始めることは容易だ。
すでに出来上がっている事を引き継いで、衰えないように守っていくことは難しいという意味です」
「そうした困難が、ある事件から浮き彫りになりました。
ここ一年前から、無銭飲食する悪い人が現れたのです」
『『『無銭飲食?!』』』
女性しかいない店内。
タダで食べて逃げたのは、女の人だったのか。
「まさか、私たちはそれを疑われた」
プリムローズは同じカフェ経営者として、頭を思い切り叩かれた衝撃を受けた。
「ないとは言えないけど、貴女たちは違うと思いました。
黙って支払わないで、店から出ていく人ではないでしょう」
「それとは違うと思いましたので、こうして貴女方とお話を聞いてみたかったのです」
変な目付きで見ている客たちは、この店が無銭飲食されていることを知っているからだ。
しかし、自分たちの注文書が見つからなかったらどうしよう。
「私たちの注文書は、どこに消えてしまったの。
このまま、出てこなかったら……」
「大丈夫だ、プリムローズ嬢。
我らは、セント・ジョン軍学園の生徒だ。
そんな犯罪者と同じでない」
「私たちは、正義の名のもとで学んでいます。
堂々と判断を待てばいいわ」
ロッタとジャンヌは背筋を伸ばして、大きくも小さくもない声で言った。
プリムローズたちの会話を盗み聞きしていた、残っていた客たち。
軍学園の生徒ですってと、一斉に噂を始める。
「あら、軍学園の学生さんでしたか。
貴女も、同じ学生さん?」
1人キラキラの頭髪に、見たこともない紫の瞳。
二人に比べて、外見も年齢も差がある。
「私もセント・ジョン軍学園の生徒です。
精神と体を鍛えて、騎士道の志を学んでおります」
美しい瞳を閉じ心臓に手を置いてから、次は満面の笑みで力こぶを見せつけた。
プリムローズのポーズで彼女たちが笑いだしたら、厨房の方から歓声と拍手が聞こえてきた。
なにか、動きがあったようだ。
消えた注文書を見つけたのだろうか。
席に座っていた客たち全員が、そちらの方へ顔を向けて注目するのだった。
飲み終えたら学園に戻ろうとしているのに、すぐ来るはずのお茶が運ばれない。
壁に飾られた時計の針は、入店してから1時間が経っていた。
「飲み物、忘れられたみたい。
ウェイトレスさんは、お持ちしますって言っていたのにね」
ケーキと一緒に紅茶を飲みたかったジャンヌは、水の入っていた空になったコップを持ち左右に揺らす。
「あのウェイトレスさん。
店内を見て探しているけど、見あたらないんだよ」
ロッタはそう言ってから、口の中が甘ったるいようで唾を飲み込む。
「半分残してお茶を飲みながら、また濃厚マンゴープリンを味わおうとしていたのよ。
二度美味しく、食べようとしていたのにー」
プリムローズに至っては器を、ミシミシと音を立てて割りそうな勢いで握っていた。
ジャンヌが慌てて、プリムローズを落ち着かせようとする。
「こみ合う時間帯です。
遅くなるのも仕方ないわ」
ジャンヌの言葉に従って窓の外を見ると、店に入るために待っている人影が見える。
「それにしても、遅くないですか。
食べ終えてから、もう30分も待っているのよ」
厨房からウェイトレスに手渡しされる度に、自分たちの番だと待ち構えていた。
ふて腐れているロッタは、テーブル肘をついて掌にアゴを乗せて厨房の方へ顔を向けている。
「きっと、あれだな。
ティーポットの大きさから、私たちので間違いない」
『『『喉を潤せる~♪』』』
エプロンの紐を揺らし、近づくウェイトレスに身構える。
テーブルの上は、ティーポットの置く場所を確保。
片付けをしやすいように、食べ終えた皿を重ねて準備万端でお迎えする。
「お待たせいたしましたぁ~」
席を1つ挟んで、ウェイトレスは歩みを止めた。
「お紅茶になります。
熱いので、気を付けてお飲みください」
ティーカップとポットを置くと、一礼して立ち去ろうとする。
これには、プリムローズたちも口をポカンとさせる。
予想が外れてロッタは、信じられないって文句をつける。
「へっ、マジかよ。
私たちのじゃあないのか!?」
「なんでよ、納得いかない。
ちょっと、ウェイトレスへ言いに行ってくる」
絶対ちょっとじゃすまないと、ジャンヌは立ち上がってプリムローズを止めようとする。
「プリムローズ嬢、およしになってー。
ウェイトレスさんを、席に呼んでか…ら」
ジャンヌの止める手をすり抜けて、近くで注文を取るウェイトレスに向かう。
「何て言うんだろう。
手を出さないといいだけどね」
のんきな口調で物騒なことを言って、ズンズンと近づいていく後ろ姿を見送る。
「止めに行ってくるわ」
「間に合わないよ。
見てごらん、ジャンヌ」
振り向いて背後を見ると、そこには話しかけているプリムローズがいた。
「ウェイトレスさん、お待ちなさい!」
キョロキョロして、背後にいたプリムローズへ向き変える。
「はい、お呼びでしょうか?」
「このお茶は、私たちに出すのが正解なのよ。
彼女たちが店に入って来る前から、別のウェイトレスがお茶を後から届けると言っていたのですから」
知らないで注がれていたお茶を口にする客たちは、プリムローズの言葉に吹き出しそうになって咳き込んでいた。
困った素振りで、横でこのやり取りを傍観している。
「お客様の席は、どちらですか?
別のウェイトレスって仰いますが、どのウェイトレスですか?」
「植木が隣に置いてある席よ。
連れも、ほら座っているわ」
ロッタは余裕で右手をヒラヒラとさせ、ジャンヌはハラハラしてしている様子。
担当していたウェイトレスのモノマネで、笑顔で首をかしげる。
そのまま、プリムローズが特徴を詳細に伝えた。
あの子かと呟いてから、ガクって肩を落とす。
顔をあげると、ウェイトレスは疑問を投げかけた。
「お言葉ですが、お客様の注文書をコチラでは預かっておりません」
思ってもない返しをされて、プリムローズは頭の中が混乱した。
「そんなこと、言われても…。
こっちには、注文の紙はないわよ」
消えた注文書の行方せいで押し問答になり、だんだんと険悪になってゆく。
プリムローズたちが嘘をついて、紅茶をただでもう一杯飲もうとしている。
こう疑うように、プリムローズには感じ取れた。
「貴女は、客である。
この私を疑っていますの!?」
「いえ、そこまでは……」
不満がありそうな顔つきで、エプロンを握りしめている。
押し黙ってうつ向く彼女の態度は、プリムローズがいじめているように見えた。
「この件を、店長に相談するか。
もう1度、消えた注文書を探すのが先でしょう」
お人好しにも解決策を教えるが、他の客にはそれが高圧的に見えてしまう。
この先どうなるかと、客たちは成り行きを注目していた。
「私たちが嘘を言って、文句をつけている思っているみたい」
「感じ良い店だったのに失望した。
それより、疑われるのは気に入らないな」
騎士道を学ぶものとして、これは黙っていられないと同時に思っていた。
ジャンヌとロッタは、どちらが正しいのか。
白黒させるべく、同時にスーッと席を立つ。
近づいていくと、見えて来たのは美しいプラチナブロンドが逆立って見える。
プリムローズの怒りを感じる後ろ姿と、ウェイトレスの苛立つ態度に不満げな顔。
不穏な空気を引き裂く、男性の冷静な声がする。
「どうかしたのか。
お客様、どうされましたか?」
奥から出てきたのは、蝶ネクタイで黒いスーツ姿の男性だった。
「貴方が、ここの責任者?」
ウェイトレスを庇うように、黒服紳士は前に出てプリムローズに申し出をする。
「お客様、ここではなんですから。
奥の部屋で、詳しく用件を伺ってもよろしいですか!?」
他の客たちの手前、責任者はとり敢えず違う場所へプリムローズたちを移動させようとした。
「う~ん、そうね。
友人たちと、相談してからでもいいかしら?」
人の目のないところで、私たちを調子よく丸め込むつもりだろう。
店からしたら、評判を落としたくないものね。
大人って卑怯だわ。
「よろしくはないな!」
「ここで話し合いましょう!」
真後ろから女性たちの声が、責任者の提案を拒絶する。
「ロッタ先輩!ジャンヌ様!」
冷ややかな目付きでジャンヌは、プリムローズの前に立つ男性に語りかけた。
「こんなに騒ぎになってしまったら、ここにおられる皆さんも気になると思いますよ」
「当店の従業員が、お客様に不適切なことを致しました。
誠に、申し訳ありません」
しっかりと謝罪すると、責任者がウェイトレスに命じる。
「君はー。
厨房で作業している者は、注文書を探すように伝えなさい」
「そこの君、君はー。
現在並んでいる人だけを、店に入れるよう指示しなさい。
この後は、臨時休業にする!」
責任者は騒ぎに対して、店を休みとするまで言い出す。
大事になってきたと、静かに見守っていた他の客もザワつく。
「あら、店を閉めるそうよ」
「飲み終えたし、もう帰りましょうか」
一人二人と立ち上がり、慌てて競うように店を出ていく。
興味みのある客は、残って事の成り行きを見物するようだ。
「お客様、お飲み物をお持ち致します。
どうか、もといた席にお戻りください」
「わかりました。
ハッキリするまでは、お茶はいりません。
それと、あと1時間位しか此処に居られません。
それまでに注文書を探して、お茶を持ってきてくれるとありがたいわ」
責任者の彼は、一度頷いたから深々と頭を下げる。
プリムローズたちは、おとなしく従って席に戻ることにした。
「席に戻ってきてなんですが。
もしも、このテーブル下に注文書が落ちていたらと思ちゃった」
「ああ、もしあったら恥ずかしいな」
ロッタとプリムローズは、テーブルの下を覗きこもうとする。
「ありませんでしたよ。
ウェイトレスが注文書を落としたかもって思い、席のまわりを探してみたのです」
「なんだ、安心した」
「ありがとう、ジャンヌ様」
気を回してジャンヌが見てくれてきたようで、そうなると店側の過失になる。
お茶しに来ただけなのに、変な事になってしまったとプリムローズたちは困ってしまう。
はぁーと疲れた顔で下を向いていたら、パタパタと複数の足音が近づいてくる。
「私たちが、貴女方の紅茶を飲んでしまったようですね」
「謝るのも変ですが、ごめんなさい」
横取りされたと言いがかりをされた女性たちが、わざわざ席まで来て謝罪してくれた。
「リピーターですわ」
「お嬢様たちだ!」
「やめて、恥ずかしいわ。
立って話すのもなんですから、座って話しませんか?」
その場しのぎに、ジャンヌは軽い気持ちで誘ってみた。
「いいんですか!?
私たちは、このお店が好きなんです。
ですから、嫌な風に誤解されたくないの」
「ウェイトレスがあんな態度になってしまったのには、それなりの理由があるのです。
話を聞いてくれませんか?」
ん!?って、私たちはなんだろうなという表情になってしまう。
いち早く、ロッタがプリムローズたちに問いかけた。
「聞いてあげよう。
さっきから、私たちを不快に思っている。
店内の空気を感じているんだ」
プリムローズたちもウンって返事すると、ビシビシと刺すような周りから視線が気になる。
偶然に空いていたプリムローズたちの席を目にすると、この席に移って来ますと言い出した。
ガタガタと隣から音がすると、
ティーポットやカップを持って本当にやって来た。
「従業員たちに断りに行ったら、注文書を探しておりましたよ」
「私たちは、責任者とは顔見知りなの。
きちんと、了承は頂けました」
こうして、新たな情報を聞かせてくれるのは助かる。
彼女たちは、この店を祖母の代から贔屓にしていると話す。
プリムローズは府に落ちて、側に置かれていたカードを見ながら質問した。
「それで、このカードを貰えているのね」
「いいえ、それは違います。
これは、年一度だけ限定50人に発行される年間カードです」
「朝から何時間も並んで、苦労して手に入れたものなんです。
制限はありますが、月に二回だけ無料になります」
「その他は、割引してくれたりするの。
お得意なカードでしょう」
嬉しげに自慢してくる彼女らは、心から店を愛しているのだろうとわかる。
「そんなカードがあったとは、耳にしたことがありません」
何度も店に足を運んでいたジャンヌは、カードの存在すら知らなかった。
あの責任者が、3年前から始めた試みだと教えてくれた。
【創業は易く守成は難し】を、責任者は先代から受け継いだ教えだそうだ。
「何事であっても、物事を新しく始めることは容易だ。
すでに出来上がっている事を引き継いで、衰えないように守っていくことは難しいという意味です」
「そうした困難が、ある事件から浮き彫りになりました。
ここ一年前から、無銭飲食する悪い人が現れたのです」
『『『無銭飲食?!』』』
女性しかいない店内。
タダで食べて逃げたのは、女の人だったのか。
「まさか、私たちはそれを疑われた」
プリムローズは同じカフェ経営者として、頭を思い切り叩かれた衝撃を受けた。
「ないとは言えないけど、貴女たちは違うと思いました。
黙って支払わないで、店から出ていく人ではないでしょう」
「それとは違うと思いましたので、こうして貴女方とお話を聞いてみたかったのです」
変な目付きで見ている客たちは、この店が無銭飲食されていることを知っているからだ。
しかし、自分たちの注文書が見つからなかったらどうしよう。
「私たちの注文書は、どこに消えてしまったの。
このまま、出てこなかったら……」
「大丈夫だ、プリムローズ嬢。
我らは、セント・ジョン軍学園の生徒だ。
そんな犯罪者と同じでない」
「私たちは、正義の名のもとで学んでいます。
堂々と判断を待てばいいわ」
ロッタとジャンヌは背筋を伸ばして、大きくも小さくもない声で言った。
プリムローズたちの会話を盗み聞きしていた、残っていた客たち。
軍学園の生徒ですってと、一斉に噂を始める。
「あら、軍学園の学生さんでしたか。
貴女も、同じ学生さん?」
1人キラキラの頭髪に、見たこともない紫の瞳。
二人に比べて、外見も年齢も差がある。
「私もセント・ジョン軍学園の生徒です。
精神と体を鍛えて、騎士道の志を学んでおります」
美しい瞳を閉じ心臓に手を置いてから、次は満面の笑みで力こぶを見せつけた。
プリムローズのポーズで彼女たちが笑いだしたら、厨房の方から歓声と拍手が聞こえてきた。
なにか、動きがあったようだ。
消えた注文書を見つけたのだろうか。
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とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
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