無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第8話 塵も積もれば山となる

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 出入り口が開いては閉じて、その度にチリンチリンと呼び鈴の音が聞こえる。
他のお客さんたちは、気にならないくらいの音色。

『なんとか、彼の足を治す方法はないかなぁ~。
エテルネルとアルゴラから、国一番の名医をここに呼びつけてみるか』

ロッタの悲しい過去を知り、力になりたいとプリムローズは本気に考えていた。

ティータイムの時間帯に入って、ますます混んで活気づく。
この忙しさが過ぎれば休憩だと、従業員たちは気合いを入れ直していた。

「お嬢様たちが、お戻りになりました~!」

新規のお客様たちに、従業員たちは規律正しく出迎える。
見事に揃った声に、無意識にそちらへ向いてしまう。

「「「お帰りなさいませ。
お嬢様~!!!」」」

ロッタには悪いが、彼の古傷の件はいったん横に置く。
新たな商売のアイデアはないかと、頭を切り替えるプリムローズ。
ひときわ元気な声が聞こえ、そのやり取りする出入り口が気になる。
ロッタとジャンヌもそうだったようで、店内の様子を眺めていた。

「聞きまして、従業員たちは「お戻りになりました」って言ってましたよね。
私の聞き間違いかしら?」

ロッタは自分が話したせいで、重くなった空気をどう変えようか悩んでいた最中だった。
プリムローズの質問は、天の助けになる。

「うん、私にもそう聞こえた。
「いらっしゃいませ」と、普通はこう言うんだろう」

「私が思うに、お客様に店を自宅と思わせようとしているんじゃないかしら。
その方が、ほら親しみやすいでしょう」

ジャンヌの指摘は正しいが、一般の客たちと明らかなに区別されている。
私たちには、あんな風には言ってなかった。

「客が従業員に何かを見せて、それから店内へ案内されています。
もしかしたら、リピーターと新規の客を区別しているように見えます」

従業員にカードを見せている客に、プリムローズは商売のアイデアに心を踊らされる。

『これよ!
私が求めていたのはー。
いけない、ロッタ先輩の方が大事でしたわ』

ロッタとブルムヘル伯爵令息のカルヴィの関係を聞き終えると、目の前で暗く沈んだロッタを思い返した。
当ての外れたロッタの恋愛事情だったが、新たな難問を突きつけられた。

『話によると、医師は完治したと言っていたわ。
ブルムヘル伯爵令息の足は、治らないままなのかしら?
もしかして、治っていない振りをしている』

疑惑がプリムローズの頭を過るが、長年に渡り嘘をつく人には思えない。
そんな事をしても、彼にはなんの得もないからだ。

『消化不良で、胃がムカムカしている気分だわ。
これからケーキが運ばれてくるのに、この席だけ葬式に参列しているみたい』

「ごめん、この場で話す内容ではなかった。
場を暗くさせてしまったようだね」

考えていた事を当てられ、心が見通せるのかと驚いた。
ガサツに見えて繊細なロッタに、違うと首を左右に振る。
思ったことを、彼女に正直な気持ちで伝えた。

「謝らないで、ロッタ先輩。
悩みを話してくれたのは、私を信用してくれた証拠ですわ。
今日伺ったことを、私なりに考えてもいいですか?」

天使が囁くように優しい声。
愛らしい笑みを称えプリムローズが話すと、ロッタの顔がみるみるうちに赤らむ。

「うん、他国の君なら自分と違う考えをするんじゃないかと期待していた。
あの話は、忘れてくれ!
他人には、迷惑な話だった」

「ロッタ……」

ジャンヌがロッタに、役立たずで済まないと謝っている。
二人だけが持つ信頼度に、プリムローズは入れないでいる。

もうそろそろ、お目当ての品が来る時間だ。
ロッタの心が少しでも元気になれて、美味しく頂けたらとプリムローズはせめてそう願っていた。

他人事の他の客たちは、小鳥の囀ずりの様な笑い声を振り撒いている。
それと対象に涙を溢して泣いてはないが、葬式にでも列席しているような3人。

   
   そんなのを気にせずに、暗い空気を吹き飛ばす。
トレーを片手で持ちながら、間近に現れるウェイトレス。
シンプルな黒のドレスに、白のエプロンはフリフリのレース。
一つに纏めている髪には、ピンクの大きなリボン。
若くないと着られない店の制服に、ビジュアルへのこだわりを強く感じた。

「お待たせ致しましたぁ~。
《真夏の恋は貴方と一緒に! まるごとマンゴープリン》のお客様はどちらのお嬢様ですか?」

マンゴープリンを片手に持ち、首を傾げて返事するまでニコニコしている。

「…………、私ですわ」

ウェイトレスは、商品名をハキハキと読み上げる。
聞いていて恥ずかしくなり、手を軽くあげて返事するプリムローズ。

「お次は、《片思いは甘酸っぱい味!パッションソースのレアチーズケーキ》はどちらのお嬢様ですか?」

「あっ、それは私です」

ジャンヌもメニューでは平気だったが、口に出して言われると笑いそうになる。

「最後は、《お猿さんも飛びつく まるごとバナナチョコクレープ》でございます」

「猿ではないが、クレープは私が注文したもので間違いない」

一言多いロッタの返しに、ウェイトレスは笑顔を崩さないで動じない。
従業員教育は、かなり高い質の店だった。
満面の笑みで次々に、美味しそうなお菓子を並べ始めた。

「お猿さんも可愛らしいですが、お嬢様の方が上ですわ。
飲み物の方は、すぐにお持ち致します。
ごゆっくり、お召し上がりください」

最後までお客様を気遣い、ロッタに不快さを感じさせずに接客してくれた。

「コミュニケーション力が高く、いい人だったね。
猿より可愛くないって言われたら、どうしようかとドキドキしていたよ」

『自分から余計な一言から、こうなったんだよ』

ジャンヌとプリムローズは同じことを思うと、意志疎通を交わしていた。
笑いそうになるのを我慢して、目を細めて口元を緩める。

「よかったわね、ロッタ。
しかし、この品名は誰がつけたのかしら?
もっと、短い方が注文しやすいのにね」

「さぁ、店長と従業員たち。
もしくは、経営者でしょう」

長ったらしい品名に、プリンをスプーンで掬って呆れていた。
パクリつき口に含むと、口の中は酸味と甘味が交わって広がる。

「あらっ、思ったより濃厚で美味しい!
上にかかっている生クリームが、ほどよくアクセントになっているわ」

エテルネルではお目にかかれないマンゴーに、夢中になりスプーンの動きが止まらない。
容姿は気品あって愛らしいが、がっつく態度は公爵令嬢にはみえない。
半分まで一気に食べると、スプーンを器に置く。 
ため息混じりに、プリムローズは悩みを打ち明ける。

「マンゴーとパッションとバナナを、エテルネルでも栽培できないかなぁ~」

「温かくすれば、もしかしたら育つかもしれません。
試してみたら、いかがですか」

『温かくすれば、育つ?温かい場所で育てる』

ジャンヌの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

「いい考えです、ジャンヌ様。
クラレンスの領地で特殊な温室を造り、そこで育てみます。
新鮮な果物を、エテルネルのカフェで使いたいのです」

スプーンが変形するのを危惧するくらいに、プリムローズは力強く握る。
鼻の穴がピクピクと動き広がり、瞳がキラキラと言うよりギラつかせた。


「プリムローズ嬢のカフェの名前なんだ?、
メニューは、どんな名前をつけているんだい?」

からかうような笑みを向けて、訊ねるロッタの様子にひと安心する。

「教えてませんでしたっけ。
焼き菓子と小物を扱う店は、「セパヌイール」と名付けました。
意味は、努力してきたものが開花する言葉です」

「セパヌイールですか。
素敵な言葉の意味ですね。
ホテルを改装したお店は、どのような名前ですか?」

「ジャンヌ様に、お誉めて頂き嬉しいわ。
「カリス」と申します。
美と優雅をつかさどる女神たちの名です」

「カフェの中が、香水で充満してそうな名前だな。
間違った香水じゃなくて、金づるが集まる高級なイメージだ」
 
「ロッタ、感じ悪い言い方よ。
たとえ思っていても、我慢して口に出さないものよ」

「そう言うってことは、ジャンヌ様も同意見ですね。
批判はしませんよ。
経営方針は、ロッタ先輩の思った通りですもの」

あっさりと認めたプリムローズを、ロッタとジャンヌは呆れた顔をする。

「商売人が、赤字を求めるわけないでしょう。
利益がもぎ取れる場所と、余裕ある者から摂取する」

店を何店舗も経営して、利益を上げ続ける手腕。
紫の瞳を光らせ厳格な顔つきは、のほほん令嬢たちとは一線を引いていた。

「君がうらやましい。
コートンのために何かしたいが、学園を出て職にありつけることしかない。
微々たる給金を仕送りするくらいだな」

「私もロッタと同じ立場です。
ケトラ男爵家も、これといってひいでた作物も産業もありませんもの」

「そこで、相談がございます。
ヘイズには、独特な模様の織物がありますよね」

「独特な模様?
ああ、ヘイズリィーのことを言っているのかしら。
えーっと、コレでよね」

ジャンヌはハンカチをポケットから出して、プリムローズの前で広げてみせた。

「ええ、コレです。
ヘイズリィー、これはそう呼ばれているのですね。
やはり、何度見ても図柄がステキね!」

「これは、地域によって特色がある。
これで、出身地がわかるようになっているんだ」

「これは、良いことを教えて貰いましたわ。
突然ですが、領地のために私と取り引きしませんか!?」

胡散臭そうな誘い文句に、ロッタとジャンヌは顔を突き合わせる。

「身元はしっかりしているから、怪しくはないと思うんだ」

「取り引きって、何するんですか?」

まずは、ジャンヌが持っているものをエテルネルの店で販売したいと提案してきた。
生地と糸はプリムローズが用意するので、作業のみの手間賃が収入になる。

「【ちりも積もれば山となる】。
少量のものでも積もり積もって、山のようになることをいうことです。
品質を知るために、先に20枚位作って頂きたいわ」

「手の空いた時間で出来るってことは、コチラからしたら助かります。
これくらいの刺繍なら、領民でも練習すればこなせそう」

「ジャンヌ、待て待て!
「【ちりも積もれば山となる】だぞ。 
くずより小さい塵だ。
そんなんでは、くたびれもうけになるだけだ!」

12分前にはションボリしていたのに、同じ人物には見えない変わりようだ。

「ご安心ください。
この企画には、2年の期間を費やしております。
上流貴族の方々には、受け入れられて人気がありますのよ」

これまで苦労して、準備した来た熱き思いは止まらない。
アルゴラ王妃との協力で、ヘイズの独特な模様を両国で広める壮大な計画。
プリムローズのプレゼンは、2人の心を見事に掴んだようだ。

「影響力は、アルゴラ王妃には敵いません。
ですか、私なりにヘイズリィーを広めていきます。
一般人にも手が出せる小物に、こうして目をつけましたの」

「うん、ハンカチなら平民でも買えるしな。
両親の了承が必要になる。
手紙で相談してからでいいかい」

最初は気だるそうに聞いていた二人も、プリムローズの具体的な指示にやる気になってくる。
実家が貧乏から脱出できるなら、やってみる価値はある。

「ヘイズでの窓口を、ゲラン侯爵に頼むつもりでいます。
御両親も、その方が安心なさるでしょう」

ゲランってボソボソ繰り返すと、手をポーンと叩いてジャンヌが聞き返す。

「ゲラン侯爵って、王都で話題の方ですよね」

「ええ、そうですわ。
ヘイズ王様から、侯爵は信用されておられます」

ジャンヌは陛下と聞いて、目を輝かし表情を明るくさせる。

「数をこなして量産すれば、領民たちの暮らしが楽になるかもしれないわ。
それなら、やってみたいです」

「ジャンヌまでが、知っている有名人なんだ。
そんな凄い方が、私たちの間に立ってくれる。
ヨシ、決めた!
父を説得して、承諾しょうだくして貰おう」

プリムローズの思った通りだった。
公爵令嬢でも他国の成人前よりは、同国で侯爵の方がいい。
この場で、勝手に決めてしまう。

『ウィル親方なら、私のお願いをきいてくれるよね。
いざとなれば、メリーもギルも巻き込めばいいわ』

子供だからと言い訳して、アイデアだけは口にする。
面倒な仕事は、他人に丸投げしても何故か不思議なことにうらまれない。
人を従わせる才が、クラレンス公爵家の人たちは秀でていた。

この特殊能力を、デザートを食べているロッタとジャンヌは見せつけられる。
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