無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第26話 煮え湯を飲まされる

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    赤レンガ造りの壁は小さな可愛らしい花垣になっていて、万人受けする入りやすい店構えをしていた。
入り口に吸い込まれるように、客たちが次々に出入りする。

プリムローズは、人影から外から店内を覗くと、空席がほぼ見当たらない。
かなり、店は大人気のようだ。

『ふたりの近くに座りたくても、店の中に入るのすら難しい。
待ち時間が長くなりそうだ』

ふたりが入店したのは、馬車の中から目視していたので間違いない。
プリムローズが服を着替えている間に、注文して飲み終わっている可能性がある。
すでに店内に居なくなっているのではと、プリムローズは不安な気持ちになり始めた。
隣でソワソワした態度を察して、タルモだけが先に店に入ることにした。

「店の人と話をしてきますので、ここで待っていて下さいませんか?」

「ええ、タルモ殿。
宜しくお願いします」

ここは顔の広いタルモに、素直に頼んだ方が利口だと思う。
出入り口から離れた場所で待機しながら、窓ガラスを挟んでタルモの姿を目で追っていた。
店長らしい人と、親しげに言葉を交わしているようだ。
話がついたようでタルモは戻ってくると、プリムローズに店とのやり取りをタルモが説明してくれる。

「プリムローズ嬢、あの男女が座る真後ろの席を空けるように頼みました。
真後ろに座れば、会話も聞き取りやすく顔も見られません」

「えっ?!
座っていた人の席を、ムリに空けさせた。
そんなことをして、店側に迷惑をかけてしまっていいのですか?!」

「よく取引先を連れて、この店で商談に使います。
お茶をしながら、リラックスして話せますからね」

「そうね。
笑い声がする明るい雰囲気なら、話し合いもすんなりいきそう」

「そういうことです。
座っていた客には、障りなく席を移動してもらいました。
もちろん、お茶代をサービスすると提案してね」

「それなら大丈夫か。
しかし、その分はお店の売り上げが減ってしまったわ」

どんな手を使ったかは知らないが、迷惑した客も無料になるなら悪い気はしないだろう。

「すべての損害は、こちらがキチンと払います。責任者から、今度卸す茶葉を安くしろと言われました。
私も負けずに、私たちがこらから食べるケーキをサービスさせました」

「ふふふ、タルモ殿もやりますわね。
もし、ご入り用ならエテルネルの茶葉を手配させます」

「本気にしないでください。
商売人の間では、挨拶みたいなものです。
それよりも、呼び方を考えなくてはいけませんな。
プリムローズから名前を変えましょう」

「そうしましょう。
私の正体が知られてしまうと、ちょっと面倒になるかも。
普段から、言いれた名前がいいですわね。
どんなのがいいかしら、そうだ!
メリーではどうでしょうか?」

「それはいい!
彼女の名前なら、馴染みがあり言いやすい。
メリーさん、違いましたな。
メリー、これでいきましょう」

タルモもメリーさんなら呼び慣れていると、満足そうに何度も繰り返し名前を声に出していた。
プリムローズは大きく息を吸い吐きだし、心を落ち着かせてから店内に足を踏み入れる。

責任者から頼まれた案内役のウェイターが、彼らの死角しかくになりながら誘導ゆうどうしてくれた。

プリムローズがジャンヌの想い人と背中合わせ、タルモは前を向くと女性が目に入る配置はいちであった。

「最近、あの子たちは姿を現さないわね。
若い子は気まぐれだし、貴方にきたのかしら。
綺麗そうな子だったから、少し寂しいんじゃない!?」

「誰が寂しいんだって!
あんなちちくさい子供、相手にするのが面倒だった。
お前みたいに、こうして手を出せないしな」

どう考えてもやり取りは、普通の兄妹の会話じゃない。
聞き耳たてて聞いて飲み物を待つ彼女は、さらに機嫌を悪くした。

見えなくとも気配でテーブルの上で手をつなぎ合っているのを、プリムローズには教えられないとタルモは心にかたく決めていた。

「そんな事を言ったら、可哀想だわ。
貴方に好意をもって、尊敬して憲兵けんぺいになりたいって可愛いじゃない」

「本気かどうかー。
会えばウザかったから、来なくなって静かになった」

彼らの会話を注意して聞き、不自然にならないように声色こわいろを変えて話す。

「メリー、お茶が遅いね。
事故のせいで、まだ道は混乱しているようだ」

「うん、そうだね。
お父さん、早くこないかなぁ」

親子の振りをして、会話を聞いてないアピールを二人はしていた。
周囲はガヤガヤとうるく、耳を集中させないと聞こえづらい。
彼は声のトーンを下げて、話の続きを続けた。

「あんな安月給で、危険な治安を守る仕事をしたい者はいないぜ。
小遣こづかかせぎでも、しなくてはやってられるかよ」

『小遣い稼ぎって言ったよね?
なにか、悪いことをしているの』

プリムローズと背中合わせになり、真後ろで話す男の会話がすこし不穏になっていく。

「来週の週末にバザールがあるだろう。
その時に例の奴等やつら出張しゅっちょうに来る。俺たちが見回るが、見逃すように上からの命令だ」

「ねぇ、バレないかしら?
スリが多くなったって、最近は街の人たちが噂しているわ」

「捕まえる振りだけして、取り逃がせばいいさ。
人の多い場所では、この話をするな!」

「わ、わかったわよ!
お茶も飲み終えたし、そろそろ店を出ましょうか」

『この人たちの上の人が、指示しているって言った?
組織で繋がっているの!?』

会話を聞き漏らしたくなくて黙っていた偽装親子の元に、ウェイターが注文の品を運んできた。

「お客様、たいへんお待たせしましたぁ~!
お嬢さんは、ケーキと紅茶。
こちらのお客様は、当店自慢のオリジナルコーヒーになります。
ご注文の品は、お間違いありませんか!?」

お決まりの文句と語尾を伸ばす接客されて、タルモがつい苦笑し返事する。
プリムローズは、黙って愛らしくウェイターに微笑み返す。

「ああ、間違いない。
ありがとう!」

「それでは、以上になります。
ごゆっくり、お楽しみください」

タイミングよく店員が品物を持ってきてくれて、あやしまれずにすんだのだった。

「お父さん、美味しそうだよ。
私のケーキ、一口食べる~」

「ん、そうだなぁ。
いや、いいよ。
お前が全部食べなさい」

ノリのいいタルモが、よいお父さんを演じてくれている。

「ねぇ、これから買い物をつきあってよ」

「また、似合いもしない服でも買うんか?
金が入るからって、そんなに無駄遣いするなよ」

「あなたがプレゼントしてよ。
ねっ、いいでしょ?」

ターゲットの男女は、こんな熱々な会話をしながら席立って店の外へ出て行く。
横を通りすぎるときのプリムローズは、美しく花の形をしたケーキを静かにフォークでぶっ指した。
    
 背後を目で追って会計を済ませる二人に、最後まで身元がバレないかとヒヤヒヤしていたので安心した。
やっと、本音でタルモに普通の声の大きさで話しかけた。

「こうして、紅茶を飲んでおりますけど…。
え湯を飲まされる】ように、ムカムカ腹が立っている。
こんな気分になっておりますわ!」

話してから紅茶を一口ふくんでいる彼女を、前に座る彼は苦悶くもんの顔をして言ってきた。

「信頼していた相手から、何も知らないままに煮え湯を出され。
疑うことなくそのまま飲んでしまえば、大変なことになるでしょうからな」

コーヒーを飲み込むと、いつも以上に苦味を感じてしまう。

「次から次へと、裏切りが重なってくれたわね。
ジャンヌ様だけでなく、民間の人々さえも裏切ってしまっていた。
信頼していた憲兵がー。
絶対に!決して許せない!」

興奮するプリムローズに、声を落とすようにジェスチャーをした。
しかし、そのタルモさえ自重するのが大変だった。

「憲兵たちがスリを容認ようにんしているとは…。
これは、大問題になる」

「問題になる前に、なんとか阻止しないといけません」

顔を近づけて仲良し親子にみせながら、内容は深刻な話をしていた。

「言っていた上の者とは、憲兵隊長かもしれん。
バザールには、我が商会も出店する。
同業者は、各地のわざわざ地方からもやって来ます」

「楽しみにしている人々は、バザールで浮き立ってしまう。
注意が散漫さんまんになり、悪事あくじをするには絶好の機会になりますわ」

明るい店内の笑い声とは逆に、プリムローズたちは暗い顔になっていく。
バザールが始まる前に、早急に対策をらねばならない。
ジャンヌの想いを踏み潰されただけでなく、平民たちの信頼すら逆手にとった悪事を知ってしまったのだった。
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