四大精霊の愛し子 ~自慢の家族はドラゴン・テディベア・もふもふ犬!~

羽廣乃栄 Hanehiro Noë

文字の大きさ
14 / 44
霊山

9. 昔の道を辿ってみました

しおりを挟む
 時たま、ゆがんだピラミッドを発見すると、外れた頂上部分をめなおす。そして、まっすぐに立てるように二人で押した。結界には関係ないのかもしれない。あるいは逆に、結界が強化されてしまうかもしれない。でも何もしないままじゃ、フィオは山の中に閉じこめられたままだ。

 傘地蔵様のように、フィオを助けてくれますように。

 ピラミッドの周りの雑草まできちんと整えては、二人で真剣に手を合わせるけど……空気感も天候も、さして変化はなし。

 だんだんと光るタイルが減って、普通の砂利道と化してきた。フィオのお母さんによると、これも古代の人間が作った道。でも光る道よりは後代なんだって。つまり現代の人間が今でも利用している可能性がずっと高くなる場所。

≪ねぇ、芽芽ちゃん、ここ、大丈夫?≫

人気ひとけは全然しないんでしょ? それに一応、まだ山の中だし……ってぇ、私、この世界自体が昨夜初!≫

 いくら母竜に注意されたからって、私に振るな! しかも君ね、蜂の巣ハニカムタイルの道も、この砂利道も避けまくって、そいで悪人の巣窟の裏手に出ちゃった挙句、現在進行形で拘束されてるでしょーが!

 結界のふちが見当たらないのだけど、ここで探索は打ち切るべきか。夕方になる前に、野宿できそうな場所を検討したほうが賢いのだろうか。

 ついつい下を向いてしまう。深刻な顔したって、妙案は生まれないのに。

 ――背筋を伸ばして、口角は上げる! 景気づけに錫杖しゃくじょうを地面に打ちつけ、シャンシャンシャン!

 余韻に耳を澄ませていると、コンコンコンとかすかな音がした。斜めに倒壊した巨木の幹に、金属枠の虫かごびたくぎで打ちつけられてある。その中で紫色のアゲハちょうが闇雲に飛んでは、透明な壁にぶつかっていた。

≪この子も捕まっちゃったのかな≫

≪つか、わなが多いな! しかもどれも古いし!≫

 回収しろよ、人間。蛇杖へびづえたたくと、透明な素材は軽い音がする。プラスチックなのかな。何十年も洗ってない窓ガラスみたいに土ぼこりで汚れているのに、何故か横の一面だけ新品みたいにピッカピカ。

「わわっ!?」

 汚れていない側面を杖で突いたら、びよーんびよーんと伸縮する。なんだこれ、透明ゴム? 力加減を間違えて、強く押したらずぼっと中まで食い込んだ! しかも杖をこっちに戻したら、すっかり元通り。穴ひとつ残っていない。

≪何この素材?≫

≪さあ……人間の作った何か? それより芽芽ちゃん、この子も助けてあげようよ≫

 うーん。あんまり助けまくると、私たちまで身バレしちゃうんだけどなぁ。純粋無垢むくなフィオに向かって、気が乗らないとは言いづらい。

 虫篭の位置は、まっすぐ立った私の目線あたり。地面に落ちている細い枝を一本、ゴム壁に突き刺してフィオに握っててもらう。もう二本入れて、それぞれ三方へ引っ張ったら……お、穴が広がるぞ。蝶さん、こっから出ておいでませ。

 しばらく念じていたら、手の平大のアゲハが飛び出てきた。カラスアゲハのビロードの羽に、濃い紫の光沢。ひらりはらりと私たちの周りを漂う様は天女みたい。

≪わぁ、きれーい!≫

 脳裏に響くフィオの声が元気になった。

 フィオの力で倒木を地面まで完全に降ろしてもらって、虫篭はその衝撃のせいで亀裂が入って一部が欠けましたって感じに転がしておく。雨宿りで虫や小動物が入りこんだとしても、出たい時に出れる仕様である。
 にしても、この二種類の透明素材。文明度は高そうだ。それとも魔法で、ぽんって作れちゃうのかな。どこかに電気ショックや赤外線センサー付きの罠とか設置されていたら、どうしよう。杖でコンコン確認するだけでは対処できない。

 ~~~っ、しっかりしろ、魔王メメ! フィオに心配させちゃう。もっと別のことを考えるんだ!

≪知ってる? 蝶々ちょうちょって神様のお使いなんだって≫

≪じゃあきっと、どっちに行ったらいいのか教えてくれるね!≫

 死者の魂が戻ってきたという別解釈は黙っておこう。

 紫の蝶が先導役とばかりに、砂利道を舞うように進んでいく。視界も開けてきたので、お互いに人間の気配には警戒しつつ、後を付いていくことにした。

 光るタイルが丁寧に敷き詰められた道と比較すると、両端にひし形の細い煉瓦れんがが並んでいるだけで、あとは随分と味気ない砂利道だ。でも、周囲は地球でも見かける針葉樹林で、緩やかに下り坂だからホッとする。

 どの樹も、なんとなく薄っすら赤黄青紫の月の色がかっているけど、さっきみたいに極採色じゃない。落ち葉も四色ミックスだけど、全体的に土気色だから深く考えまい。気のせいだ、見ない見ない。

≪もしかして、それなりの数の人間が定期的に趣味で登山しちゃってたりする道?≫

≪そんなことないよ~。残っている古い道は森の中とか山の中が多いの。今の人間は、馬が引っ張る箱に入って移動するから、広い所にうんと大きな道を作ってるの≫

 言われてみれば、大人が片手を伸ばしたくらいの道幅だ。駅のエスカレーターと同じくらいの狭さでずっと道が続いている。

 だんだんと山の傾斜に沿って、蛇行するようになってきた。しかも今度は岩が突き出て向こうが見えない。

 そろそろ鈴を外すべきかな。既に杖を握る手の中にひもを手繰り寄せ、音はほとんど鳴らないようには用心している。

 紫天女のアゲハちょうさんが角で待っていてくれるけど、果たしてこれは曲がってよいものかどうか。

「ふべしっ!?」

 迷っていたら、蝶の足元が薄紫色にぼわわんと光りだして、風船みたくなって、そして羽を大きく扇ぐのと同時に足元で凝縮された紫の玉を私へ投げつけた!

≪あ、だね、芽芽ちゃん≫

≪え。もしかして、さっきの天道虫もあんな感じで、黄土色のあめ玉みたいなの出現させてた?≫

 フィオが≪そだよ~≫と、ほんわか応える。母竜いわく、自然が豊かなところでは、時々起こる現象らしい。

≪何それ、魔法?! 私の世界だと絶対に起きそうにないことなんだけど! ひょっとして攻撃されてるの?!≫

≪まほう……なのかな。よくわかんない。『贈り物』って呼ばれてたから、攻撃じゃないと思うけど……≫

 脱皮間際の対処法といい、教育ママンとしては詰めが甘いぞ、ママ・ドラゴン。

 お腹に軽くヒットをかましてくれた石つぶてを、地面から拾いあげた。不透明な薄紫の……岩塩の塊みたい。なんか粉ふいてて、ザラザラしている。

≪えーと、ありがとう、ございます?≫

 紫天女と意思疏通そつうを図ろうとしたら、先にカーブを曲がってしまう。

≪待って!≫

 慌てて追いかけたけれど、蝶は跡形もなく消えていた。パーカーの腰ポケットに手を入れると、左ポケットには昨夜の団栗どんぐり、右ポケットには今朝の蛇の髭ジャノヒゲ果実と、水辺の琥珀飴こはくあめの感触がある。

 どんな理由でもらえるのか、なぜぶつけてくるのか、意味が解らない。モンスターのドロップアイテムだって、条件は討伐とか、はっきりしているぞ。

 おまけに曲がった先には、さらなる珍事が待ち受けていた。

≪うーんと、コレも普通に時々あること?≫

≪は、はじめて! こんなのはじめて!≫

 フィオが慌てて否定する。だよね、なんでこんな所に白髪老人の変死体が横たわっているのだ。しかもリアルな黒猫の剥製まで隣に置いてある。

 ……魔除けの鈴、鳴らし続けておくべきだったのかもしれない。

 大地を踏みしめ、重心を落とし、杖を正面で真っ直ぐ構えた。里宮のお賽銭さいせん前の祓串はらえぐしのように両手で握りしめ、陰陽道みたいに人差し指と中指はピンと伸ばして剣印を結ぶ。

 念じたら火や水が出てくる世界なのだ。人生ハッタリだ。気合いで勝負だ。

「えええいっ。 悪霊退散、怨敵降伏おんてきごうぶく!」

 私は魔王メメ! ホラーは絶対、ダメなんだってば!






****************
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...