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霊山
11. 遺体を始末する
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≪ん? ああ、この人形のことか? これを焼いてしまったらワシの居場所がなかろうが≫
≪焼くのはこっちよ、この年取って油断して呪いであっさり死んじゃった、みっともないジジイよ≫
おう。みっともない腐れ外道なのは片耳へにょりん猫さんに同意するが、ご遺体に火を放てと言っているのかね? つか『呪い』って何よ。
猫さんの説明と老人の補足によりますと、二人は神殿の魔導士たちが何を企んでいるのかずっと調査していたらしい。
霊山が怪しいとふんでこっそり来てみれば、数人がかりの複雑な結界が張ってある。
構造を調べに調べつくして道具を整えて、結界に開けた穴からようやく中に入ったはいいけれど、魔力を使い尽してしまい、警戒した魔導士たちが前々から放っていた呪いに見つかって倒れたのでした。
≪……呪いって生き物なのですか?≫
≪いや。しかし呪いの効力によっては放ってから数日間、対象を探して外を彷徨わせることが出来る。難解すぎて今は廃れた技だ≫
あなた死んでるんだから、技廃れてないじゃん。
というツッコミは置いておいて。
≪てことは、外に出れるんですよね。結界の穴って今も?≫
≪空いてはおるが、この道の先ではないぞ。場所が知りたかったら、ワシの体を焼け≫
ぬぉぉぉっ、なんと鬼畜な。そりゃさ、荷物譲ってもらえるのなら出来る限りのことはしますよ? だけど、人間を火だるまにした経験なんてないしね、昨日は出来ても今日は火が点かない可能性だってあるのですよ?
≪あーもう。さっさと装飾品外してよね、ほら≫
苛立った猫が、老人の肩に被りつき、強引にケープを引っ張って遺体をぐるりとひっくり返した。
ペルシャ猫って大柄な男性をこんな風に動かせた? なんか変だよ、この猫。
≪わたしは人間と契約した魔獣なの、本物の猫じゃないんだから当然でしょ≫
昨日こっち来たばっかだし。『当然』が何か判るわけないじゃん。そもそも私のいた世界では、竜も魔法も魔獣も御伽話の中だけの存在だ。
≪え゛ええええっ≫
あ、フィオが一番驚いているよ。説明しなかったっけ?
≪だってだって、あのお歌の竜は? 大好きだったんでしょ?≫
≪うん。でも歌でしか存在しない。空想なの。本物はいないよ? だから本物の竜に合えて『人生悔いなし!』になれたんだよ≫
両腕ガッツポーズで自慢げに語っていたら、こちらに歩いてきた猫があからさまに『この娘、大丈夫?』という目線を寄越してくる。人生人それぞれなんだから放っておいてよ、竜に一目会えたら死んでもいい人間だっているんだよ。
≪まずはここと、ここのブローチ、外しなさい。それから左右の袖口に魔杖が一本ずつ入ってるから、取り出すわよ≫
……話をスルーされた。この猫、私の一生分の夢をさくっとスルーした!
文句の一つも言ってやりたいけど、売れる物を譲っていただけるのなら従うしかない。でもどうやったって死体と接触することになるよね、やだなぁ。うー、我慢だ、芽芽。
私は言われたとおりにアクセサリーを外す。どれも大粒の宝石が埋まっていた。本物なら質屋や古物商で捌こうとした日にゃ、警察が呼ばれそうな代物である。
ゴツイ指輪を一個ずつ外していく作業で、生の死体に触るのにも抵抗はなくな……~~らないけどっ、なくなったと必死に自己暗示中。
「うぇぇぇぇっ」
顔を限界までしかめて、こみあげる吐き気をやりすごしていたら、フィオが場違いなくらいに目をキラキラさせ出す。
≪きれぃ……≫
ローブの下に隠すように掛けてあった首飾りを、片耳へにょりん猫が口に咥えて引っ張り出したのだ。御伽話のお姫様に似合いそうな、繊細なデザイン。赤・黄・青・紫の四種類の石が交互に美しく配置されていた。
で、老人の頭を浮かせて取り出すのは私の役目なのね。吐かなかった私、エライ、天才、最高。……もう死体剥ぎなんて、したくないいいっ。
≪ちょっと、さくさく動きなさいよ≫
≪やだぁ……≫
≪きれー!≫
天を仰ぐ私を無視して、猫が袖口に潜る。引っ掻きだしたのは、二本の棒。
きらめく宝石にフィオはふたたび感動しているが、こっちの心は擦り切れトンボだよ。ねぇ、そこな四本足や、ご遺体を踏みつけまくりすぎじゃない?
≪ほら、さっさと袋に入れちゃって!≫
≪はぁ……≫
猫が棒を目の前に持ってくるので、大人しく受け取る。もはや反論する気力も湧かない。
そのまま手掴みでポイっと袋に入れたら、なぜだか老人と猫からめちゃくちゃ驚いた気配が伝わってきた。気のせいかな、息を呑んで目をまん丸にされた感じがしたのだけど。
≪魔杖よ、それ≫
≪でしょうね≫
だって、袖口に入ってるってさっき説明されたし。もう一本、猫が咥えてくるので、やはり袋に入れた。うん、もうどうでもいいや。
『魔杖』はどちらも30cmくらいの透明な棒で、最初の一本は青系、もう一本はやはり四色の、様々な宝石が内側にも外側にも嵌め込まれていた。
魔術で作った特殊な強化ガラス、と念話で脳内変換されてたから、私のプラスチック製の所持品もそこまで怪しまれるものではないかもしれない。
≪でも私のこと奇抜ってさっき言ってましたよね、なぜ?≫
どうやらパーカーと巻きスカートが強烈に変らしい。つるつるの化繊地はこちらには無いし、登山靴の蛍光イエローの紐も毒々しい。……て、オイ。
鈴はこちらも存在するけど釣り鐘式が主流で、もっと雑な音だし、ぶら下げて歩くのは放牧された家畜だそうだ。……て、いいじゃんか。好きなんだもん。
あと、女性なのに髪をお団子にまとめていないのも変。男のようにズボンを履いているのも変。
おまけにこの世界の動物のぬいぐるみは剥製に近いリアルな作りらしい。
勝手に中に入っておきながら、≪これが熊じゃと?! 強さが全く感じられん!≫とミーシュカにクレームつけやがった。私には人形持ち歩くなんで幼児かとか、その外見で最高学府への入学寸前はありえんとか。
≪うるさいっ! もー丁寧に話すのやめた! 取引するなら、こっから対等に話させてもらうからねっ≫
≪おう。構わぬぞ。それより外に出るならその格好は控えろ。ワシの服を被れ≫
≪…………やだ。脱がしたくない≫
≪兵士に目をつけられて、しょっぴかれたいか?≫
≪……~~やだけど、脱がす≫
遺体からローブを外すのは、フィオと猫が手伝ってくれても困難な作業だった。モカシンみたいな革靴も脱がす。
水虫とか移ったらやだな、と思ったけど、老人ってば相当足が大きいわ。しかも足を風呂敷みたく覆うデザインだったから、紐をほどいて大きさ調整したら、なんと私のゴツイ靴がまんま中に入ったよ。
……でもあんまり履きつづけたくない。大きさを確かめた後は、リュックに入っていた折り畳みのエコ袋に入れて、老人の斜め掛け袋のほうに詰め込む。私のリュックの半分くらいの収容量だけど、荷物はほとんど入っていなかった。
ローブは、畳もうと動かすたびにむわっと何かが鼻を突く。生ゴミのような腐敗臭はしないけど、すんごい男臭い。強烈なお酒の臭いもする。あとはなんだ、松ヤニみたいな匂いと、フランキンセンスのような男性用香水かな? あんま意味ないと思う。
老人を殺害した呪いは、発信元の魔導士が術を解くまで遺体の状態保存もするらしい。相棒の猫が動けなくなったのも呪いのせい。
ちなみに老人が亡くなったのは、二・三日前。猫はその横でじわじわ黒化していっていたとか。
私たちが来るまで老人の意識は戻らなかったらしく、その間この猫は独りぼっちだったわけで。それは……辛いね。
≪あれ? じゃあ、呪いが邪魔して火で焼けないじゃない≫
≪……通常の火ならね。魔術で作った火なら問題なし≫
そんなものなの? いまいち納得できない私を無視して、猫はそう言い放つと遺体に情け容赦なく噛みつき、道の真ん中まで引き摺った。
≪ほら。これであんたの言う山火事云々の危険性は消えたわよ。狙い外さなきゃね≫
うぐ。もしかして喧嘩売られてます? なんかこの猫ヤダ。言うこと聞きたくない。
≪芽芽ちゃんなら出来るよ、ボク応援する!≫
よっしゃ、見てて! 頑張っちゃうもんね、私。
燃えろ! と強く念じてみる。……あれ? 燃えない。
≪昨夜は点いたのであれば、その状況を思い出せ≫
老人が促してきた。えーと、どうやったら点いたんだっけ? 最初はじっと見つめても火が点かなくて、それから……あ、ヤンキー団栗だ。
カーディガンのポケットを探って、ぎゅっと握る。
深呼吸して、心を落ちつけよう。
まずは「出来る」と信じないと何も始まらない。そして唱える、「芽芽様にかかれば、こんなの平気の河童巻き、超絶簡単アップルパイ」! さぁ、心のブロックは外れた。
自分の下地が整ったら丸っと他力本願だっ。さぁさお立合い、眠っていた力を引き出しておくんなまし。
――火を司る神様、諸々の皆様、どうかお願い、助けてください!
≪すごーい! 燃えてるよ!≫
フィオが自分のことのように喜んでくれた。めっちゃ報われた感あり。あれ、火が怖くないのかな、縞栗鼠が道を横切っていく。昨夜の子かな。
赤毛の縞栗鼠はすぐに茂みの中に消えてしまう。でもそれよりも問題は、火の勢いが急に加速しはじめたことだ。
≪こ、このまま全身に火が回って、思いっきし火柱とか上がったらちょっとやばくない?≫
≪ふむ。防音結界を作るのじゃ≫
……心配していたら、熊乗っ取り犯がななめ上の解決策を指示してきた。
****************
※「擦り切れトンボ」なる表現は、「尻切れトンボ」の芽芽流アレンジです。生き物の連想が好きな子なので。
「平気の河童巻き」は「平気の平左」から、「簡単アップルパイ」なる表現は、英語の「easy as pie」からの連想からかと思われます。こちらも芽芽語です。
≪焼くのはこっちよ、この年取って油断して呪いであっさり死んじゃった、みっともないジジイよ≫
おう。みっともない腐れ外道なのは片耳へにょりん猫さんに同意するが、ご遺体に火を放てと言っているのかね? つか『呪い』って何よ。
猫さんの説明と老人の補足によりますと、二人は神殿の魔導士たちが何を企んでいるのかずっと調査していたらしい。
霊山が怪しいとふんでこっそり来てみれば、数人がかりの複雑な結界が張ってある。
構造を調べに調べつくして道具を整えて、結界に開けた穴からようやく中に入ったはいいけれど、魔力を使い尽してしまい、警戒した魔導士たちが前々から放っていた呪いに見つかって倒れたのでした。
≪……呪いって生き物なのですか?≫
≪いや。しかし呪いの効力によっては放ってから数日間、対象を探して外を彷徨わせることが出来る。難解すぎて今は廃れた技だ≫
あなた死んでるんだから、技廃れてないじゃん。
というツッコミは置いておいて。
≪てことは、外に出れるんですよね。結界の穴って今も?≫
≪空いてはおるが、この道の先ではないぞ。場所が知りたかったら、ワシの体を焼け≫
ぬぉぉぉっ、なんと鬼畜な。そりゃさ、荷物譲ってもらえるのなら出来る限りのことはしますよ? だけど、人間を火だるまにした経験なんてないしね、昨日は出来ても今日は火が点かない可能性だってあるのですよ?
≪あーもう。さっさと装飾品外してよね、ほら≫
苛立った猫が、老人の肩に被りつき、強引にケープを引っ張って遺体をぐるりとひっくり返した。
ペルシャ猫って大柄な男性をこんな風に動かせた? なんか変だよ、この猫。
≪わたしは人間と契約した魔獣なの、本物の猫じゃないんだから当然でしょ≫
昨日こっち来たばっかだし。『当然』が何か判るわけないじゃん。そもそも私のいた世界では、竜も魔法も魔獣も御伽話の中だけの存在だ。
≪え゛ええええっ≫
あ、フィオが一番驚いているよ。説明しなかったっけ?
≪だってだって、あのお歌の竜は? 大好きだったんでしょ?≫
≪うん。でも歌でしか存在しない。空想なの。本物はいないよ? だから本物の竜に合えて『人生悔いなし!』になれたんだよ≫
両腕ガッツポーズで自慢げに語っていたら、こちらに歩いてきた猫があからさまに『この娘、大丈夫?』という目線を寄越してくる。人生人それぞれなんだから放っておいてよ、竜に一目会えたら死んでもいい人間だっているんだよ。
≪まずはここと、ここのブローチ、外しなさい。それから左右の袖口に魔杖が一本ずつ入ってるから、取り出すわよ≫
……話をスルーされた。この猫、私の一生分の夢をさくっとスルーした!
文句の一つも言ってやりたいけど、売れる物を譲っていただけるのなら従うしかない。でもどうやったって死体と接触することになるよね、やだなぁ。うー、我慢だ、芽芽。
私は言われたとおりにアクセサリーを外す。どれも大粒の宝石が埋まっていた。本物なら質屋や古物商で捌こうとした日にゃ、警察が呼ばれそうな代物である。
ゴツイ指輪を一個ずつ外していく作業で、生の死体に触るのにも抵抗はなくな……~~らないけどっ、なくなったと必死に自己暗示中。
「うぇぇぇぇっ」
顔を限界までしかめて、こみあげる吐き気をやりすごしていたら、フィオが場違いなくらいに目をキラキラさせ出す。
≪きれぃ……≫
ローブの下に隠すように掛けてあった首飾りを、片耳へにょりん猫が口に咥えて引っ張り出したのだ。御伽話のお姫様に似合いそうな、繊細なデザイン。赤・黄・青・紫の四種類の石が交互に美しく配置されていた。
で、老人の頭を浮かせて取り出すのは私の役目なのね。吐かなかった私、エライ、天才、最高。……もう死体剥ぎなんて、したくないいいっ。
≪ちょっと、さくさく動きなさいよ≫
≪やだぁ……≫
≪きれー!≫
天を仰ぐ私を無視して、猫が袖口に潜る。引っ掻きだしたのは、二本の棒。
きらめく宝石にフィオはふたたび感動しているが、こっちの心は擦り切れトンボだよ。ねぇ、そこな四本足や、ご遺体を踏みつけまくりすぎじゃない?
≪ほら、さっさと袋に入れちゃって!≫
≪はぁ……≫
猫が棒を目の前に持ってくるので、大人しく受け取る。もはや反論する気力も湧かない。
そのまま手掴みでポイっと袋に入れたら、なぜだか老人と猫からめちゃくちゃ驚いた気配が伝わってきた。気のせいかな、息を呑んで目をまん丸にされた感じがしたのだけど。
≪魔杖よ、それ≫
≪でしょうね≫
だって、袖口に入ってるってさっき説明されたし。もう一本、猫が咥えてくるので、やはり袋に入れた。うん、もうどうでもいいや。
『魔杖』はどちらも30cmくらいの透明な棒で、最初の一本は青系、もう一本はやはり四色の、様々な宝石が内側にも外側にも嵌め込まれていた。
魔術で作った特殊な強化ガラス、と念話で脳内変換されてたから、私のプラスチック製の所持品もそこまで怪しまれるものではないかもしれない。
≪でも私のこと奇抜ってさっき言ってましたよね、なぜ?≫
どうやらパーカーと巻きスカートが強烈に変らしい。つるつるの化繊地はこちらには無いし、登山靴の蛍光イエローの紐も毒々しい。……て、オイ。
鈴はこちらも存在するけど釣り鐘式が主流で、もっと雑な音だし、ぶら下げて歩くのは放牧された家畜だそうだ。……て、いいじゃんか。好きなんだもん。
あと、女性なのに髪をお団子にまとめていないのも変。男のようにズボンを履いているのも変。
おまけにこの世界の動物のぬいぐるみは剥製に近いリアルな作りらしい。
勝手に中に入っておきながら、≪これが熊じゃと?! 強さが全く感じられん!≫とミーシュカにクレームつけやがった。私には人形持ち歩くなんで幼児かとか、その外見で最高学府への入学寸前はありえんとか。
≪うるさいっ! もー丁寧に話すのやめた! 取引するなら、こっから対等に話させてもらうからねっ≫
≪おう。構わぬぞ。それより外に出るならその格好は控えろ。ワシの服を被れ≫
≪…………やだ。脱がしたくない≫
≪兵士に目をつけられて、しょっぴかれたいか?≫
≪……~~やだけど、脱がす≫
遺体からローブを外すのは、フィオと猫が手伝ってくれても困難な作業だった。モカシンみたいな革靴も脱がす。
水虫とか移ったらやだな、と思ったけど、老人ってば相当足が大きいわ。しかも足を風呂敷みたく覆うデザインだったから、紐をほどいて大きさ調整したら、なんと私のゴツイ靴がまんま中に入ったよ。
……でもあんまり履きつづけたくない。大きさを確かめた後は、リュックに入っていた折り畳みのエコ袋に入れて、老人の斜め掛け袋のほうに詰め込む。私のリュックの半分くらいの収容量だけど、荷物はほとんど入っていなかった。
ローブは、畳もうと動かすたびにむわっと何かが鼻を突く。生ゴミのような腐敗臭はしないけど、すんごい男臭い。強烈なお酒の臭いもする。あとはなんだ、松ヤニみたいな匂いと、フランキンセンスのような男性用香水かな? あんま意味ないと思う。
老人を殺害した呪いは、発信元の魔導士が術を解くまで遺体の状態保存もするらしい。相棒の猫が動けなくなったのも呪いのせい。
ちなみに老人が亡くなったのは、二・三日前。猫はその横でじわじわ黒化していっていたとか。
私たちが来るまで老人の意識は戻らなかったらしく、その間この猫は独りぼっちだったわけで。それは……辛いね。
≪あれ? じゃあ、呪いが邪魔して火で焼けないじゃない≫
≪……通常の火ならね。魔術で作った火なら問題なし≫
そんなものなの? いまいち納得できない私を無視して、猫はそう言い放つと遺体に情け容赦なく噛みつき、道の真ん中まで引き摺った。
≪ほら。これであんたの言う山火事云々の危険性は消えたわよ。狙い外さなきゃね≫
うぐ。もしかして喧嘩売られてます? なんかこの猫ヤダ。言うこと聞きたくない。
≪芽芽ちゃんなら出来るよ、ボク応援する!≫
よっしゃ、見てて! 頑張っちゃうもんね、私。
燃えろ! と強く念じてみる。……あれ? 燃えない。
≪昨夜は点いたのであれば、その状況を思い出せ≫
老人が促してきた。えーと、どうやったら点いたんだっけ? 最初はじっと見つめても火が点かなくて、それから……あ、ヤンキー団栗だ。
カーディガンのポケットを探って、ぎゅっと握る。
深呼吸して、心を落ちつけよう。
まずは「出来る」と信じないと何も始まらない。そして唱える、「芽芽様にかかれば、こんなの平気の河童巻き、超絶簡単アップルパイ」! さぁ、心のブロックは外れた。
自分の下地が整ったら丸っと他力本願だっ。さぁさお立合い、眠っていた力を引き出しておくんなまし。
――火を司る神様、諸々の皆様、どうかお願い、助けてください!
≪すごーい! 燃えてるよ!≫
フィオが自分のことのように喜んでくれた。めっちゃ報われた感あり。あれ、火が怖くないのかな、縞栗鼠が道を横切っていく。昨夜の子かな。
赤毛の縞栗鼠はすぐに茂みの中に消えてしまう。でもそれよりも問題は、火の勢いが急に加速しはじめたことだ。
≪こ、このまま全身に火が回って、思いっきし火柱とか上がったらちょっとやばくない?≫
≪ふむ。防音結界を作るのじゃ≫
……心配していたら、熊乗っ取り犯がななめ上の解決策を指示してきた。
****************
※「擦り切れトンボ」なる表現は、「尻切れトンボ」の芽芽流アレンジです。生き物の連想が好きな子なので。
「平気の河童巻き」は「平気の平左」から、「簡単アップルパイ」なる表現は、英語の「easy as pie」からの連想からかと思われます。こちらも芽芽語です。
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