四大精霊の愛し子 ~自慢の家族はドラゴン・テディベア・もふもふ犬!~

羽廣乃栄 Hanehiro Noë

文字の大きさ
30 / 44
朝焼けの街 (カハルサーレ)

20. 朝、街に出る(3日目)

しおりを挟む

芽芽めめ視点に戻ります。

****************


 翌朝、異世界人らしさを精一杯消そうとした私は、その引き換えに怪しさ満載のいでたちとなって、高さ3メートルほどの街壁の前に立っていた。

 フィオは小さくなって背中に背負った私のリュックの中で待機。顔は出せないけれど、内側に開けたのぞき穴から外が見えるのは確かめた。
 熊のぬいぐるみミーシュカの中に入ったままのじじ様は、首から掛けたネックストラップでぶら下がっている。

 鈴系は穴にティッシュを詰めて全て音消しした。ミーシュカから取り出したガムラン心臓は、穴がないからタオルでくるんだだけ。走ったりジャンプしたりしなければ、そこまで鳴ったりしないから大丈夫。
 いざという時はポケットの中で風の補助具を握りしめ、私が消音魔法を展開していく予定。

 うねうねした蛇杖へびづえは、森との境界線に建つちびピラミッド裏手に隠すしかなかった。拾い物だから、たとえ戻ってこれなくても諦められ……るだろうか、自信ない。
 七福神の寿老人じゅろうじん福禄寿ふくろくじゅが持ってそうな貫録たっぷりのレア物なんだもん。

 そういや南極寿星カノープスってあったよねって、さっき命名したところ。太陽やシリウスに次いで明るいはずなのに、地平線すれすれだから見えにくい恒星だ。平和な時代になると見えるとか、見えたらラッキーだと言われている。
 ちなみにサンスクリット語で猿はカピ。カノープスの愛称にぴったりである。

「カピちゃん、良い子でお留守番しててね」

 日本語でそう呼びかけて、なでなでした。我が魔王軍の一員として、是非とも隠密活動を完遂してほしい。森の神様にも手を合わせておいた。

 私自身は、爺様の布巻き靴を自分の登山靴の上に被せているから、足元が亀さん大魔王。
 全身を覆い隠す爺様の勝色のローブは私の身長よりも長かった。裏側から安全ピンで多少は裾上げしてみたものの、足元を隠すために地面すれすれだ。



≪まさか髪をばっさり切るとは思わなかったわ≫

 足元の白い犬がめ息をついている。

 旅の安全を考えると、極力男の子っぽくしたほうがいいに決まってる。さっき森を出る直前、ピラミッドを見てはたと思い至った。

 隣国ならば男も長く伸ばして、後ろでまとめるのが伝統なんだって。でも、戦争するかもしれない相手国の髪形はまずいだろう。おまけに、隣国でもこの国でも黒い地毛自体が珍しい。

 ただし、表向きのみ友好国の帝国で、短髪を黒く染めるのが流行中。この国や隣国の首都圏でも、それに追従している人が一定数いる。髪の色が簡単に変えられないなら、長さを模倣するほうが手っ取り早いじゃないか。

 鳥さん型の糸切ばさみでショートにした。裁縫セットに最初から付属していたのは小指サイズで使い辛いからと、だいぶ前に交換しておいて良かった。

≪そんなに変かな?≫

≪ごめんね、芽芽ちゃん。ボクと一緒にいるせいで……≫

 後ろのリュックでまた竜が凹んでいる。

≪フィオ、私は一緒にいたくているから大丈夫。
 あとね、髪にこだわりないから。今まで長めに伸ばしていたのは、そのほうがしょっちゅう切らなくて済むからだもん≫

 母親も父親も、美容院に行くときはお一人様を満喫する時間とでも思っていたふしがある。私を一緒に連れて行くという発想が、まるっと欠如した人たちだった。
 昔はおじいちゃんが気づいてそろえてくれたけど、やがて自分でも風呂場で切れるようになった。前髪も長くしておけば、毛先の長さがプロ並みにぴったりでなくても、そこまで目立ちゃしない。

≪女の子なんだから、もうちょっとこだわりなさいよ≫

 カチューシャの目が細くなる。

≪目のやり場に困るような露出してなくて、息出来ないような悪臭漂わせなかったらいいんじゃない?≫

≪あんた、判断基準がおかしいからね!≫

 そうかな。五感に訴える不快感さえ与えなければ、本人が好きな格好したらいいと思う。

≪どんな世界で生活していたのよ≫

≪うーん。どこも男が支配しているからね。黒い布ブルカで全身隠すよう命じられた女の人と、そんなん関係ねぇーってパレードで裸で練り歩く女の人と、どちらもいる世界≫

 個人的には白い布メジェド通学コスプレラクそうでいいな、と思っていたりする。朝ギリギリまで寝れて、下はパジャマのまま着替えなくていいなら被るんだけど。

≪要するに、普段から男装せねば自由に外に出れぬ、すさんだ世界なのじゃな! 道理で竜すら恐れぬわけじゃ≫

 爺様がなんか誤解している。ズボンは単に動きやすいからだってば。

≪ま、怪しいのは怪しいけど、一般人ならまさか異世界から来たとは思わないわ。帝国よりも南のどこか聞いたこともない土地から一人旅している半端者って感じよ≫

 カチューシャには、私の故郷はこれ以上追及してはいけない話題だと判断されたようだ。『自信持ちなさい』と励ましてくれているみたいなのだが、字面じづら的にまったく励まされた気がしないのはなぜだろう。

≪まぁなんじゃ。異国の旅芸人のフリをしていれば、少々怪しくても誤魔化せるじゃろ≫

 爺様、その若干投げやりなコメントは何。



 独り落ち込むことしばし。
 ……底は到達したから、後は上昇するのみ。荷物は多いが、浮遊石のおかげで軽いしね。

≪表向きは流離さすらいの旅芸人、実は最強の魔王でした、というテイで行きます!≫

 意を決して、街への扉に手を伸ばしかけた。

 あ、でも不安で仕方ないから、街の守護をきっと担っているであろう天界神界もろもろ界隈かいわいのお偉い方々に祈っておこう。
 職質かけられませんよーに。しょっぴかれませんよーに。石投げられませんよーに。タールぶっかけられて市中引き回しになりませんよーに。あと、鉄のおりに閉じ込められたまま川に沈められませんよーに。

≪……なんなの、それ≫

 途中から思わず念話になっちまったらしい。カチューシャにドン引きされてしまった。

≪むこうの世界ですっごくポピュラーだった昔の処刑方法≫

 投石は聖書の時代から婦女子も含めた市民に人気の娯楽だ。『タールに羽毛に市中引きり回し』は、アメリカなら南北戦争後も人々がこぞって熱狂した。『繰り返し川に沈めて最後に火あぶり』は、中世ヨーロッパの魔女裁判で定番コースである。
 一般人は異端に情け容赦ないのだ。

≪ま、まぁいいわ。えっと……そう。わたしはここからは魔術で、人間からは余り見えないようにするから≫

 およ、透明人間ならぬ透明犬?

≪違うわよ、人間の意識から外れるの。ほら、人混みの中で、そこにいるのに全く注目を集めない人間っているでしょ、視界には入っているはずなのに関心を持たれない存在≫

 見えてはいるらしいから、目の前に飛び出たり、大きな声で威嚇したりするとばっちし認識されてしまう。でも少し経つと、『なんか犬がウロウロしているなー……あれ、何考えてたっけ』で、終わるらしい。え゛ー、私もそっちがいい。

≪それだと、街で交渉し辛いわ。質屋がなかったら、市場で物々交換するつもりなんでしょ。誰も気に留めないわよ≫

 そりゃ困る。

≪それにこの技は相当熟練してないと難しいの。常時駆使しながら買いたい物なんか選んでられる? 会計できると思う?≫

 慣れないことを、あっちこっち同時並行で意識するなんて、無理無理無理! 私、基本すべてネット通販なんだよ? 街中で洋服買い出しショッピングなんて最後は何年前にしたのか、記憶すらおぼろげだ。

≪ううう゛。異国の旅芸人で魔王、がんばります……≫

≪芽芽ちゃん、がんばってー! きっとちゃんとタビゲイニンでマオーだよ、『旅して芸をする人』で『魔獣の味方の王様』なんだよね!≫

≪……フィオ、ありがとう。多分、ちゃんとものすごく『旅芸人』で『魔王』してるから大丈夫≫

 私は悪足掻あがきを諦め、街へ入ることにした。






****************

※この起きがけ部分が、2話目の「プロローグ(ヴァーレッフェ国)」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/954271435/276632074/episode/5744620)となります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

処理中です...