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冀救の翠
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一目見て分かった。あいつだと。
同時に思い出す記憶。
誰よりも守りたかった人の命が、目の前で消えたあの時の絶望。その感情に持って行かれそうになり、一瞬くらりと目眩がする。
それでも心は確かに歓喜していた。再びまみえたその奇跡。
やっと、見つけた。
この世界でなら同じように死んでしまうことはそうそうないだろう。
なら、誰よりも幸せに。
祈るように思った。
それならば、誰よりも穏やかであれと。
「ねえ。千景って顔いいね」
チャイムが鳴った昼休み。机と椅子をガタガタと逆に設置して、昨日まで空席だった後ろに座った転校生に向かい合って言った。
笑いかける咲耶に、相手は眉をピクリともさせず沈黙したまま。
「何やってんの?咲耶」
同じクラスの浅井がそんな僕らの様子を不思議そうに見て近寄ってきた。
「ん、千景褒めてた!」
「あー、確かに顔いいもんな。このイケメン好きが」
イケメン好きは否定しないが、節操無しの様に言うのはやめてほしい。
自分はただ単に、ある系の顔を見るとつい寄って行ってしまう癖があるだけだ。
机の主は全く一言も話さず、明らかに迷惑というのが顔にありありと浮かんでいる。
しかしそんな事には構わず、僕は浅井と騒ぎながら尚も転校生である田端千景に話しかけ続けた。
「ねえねえ。千景はお弁当派?購買派?僕はお弁当!一緒食べようよ!」
「なんで?」
千景がやっと発した言葉はため息とともにこぼれた短いものだった。
「えー。一緒のほうが楽しいよ?」
「諦めろ、田端。こいつはこうなるとしつこい」
「なんだよー。まぁその通りだけど!?」
がやがやと騒がしい教室の中で、一際騒がしく喋る僕の言葉に全く反応しないまでも千景は同じテーブルで弁当を広げだした。
その様子に嬉しくなる。
「んふふー」
「良かったなぁ、咲耶」
「うん。今日はいい日だ」
浅井が面白がるようにパンを取り出しながら同じテーブルに着く。
クスクスと笑いが聞こえる。
無邪気に懐く僕に、クラスメイトは微笑ましいものを見るように寛容だ。
たとえ周りから笑われようといいのだ。
本当にうれしかった。
また一緒に食事してる。目の前にいる。
あいつは嫌そうな顔してるけど。
目が合うとそっぽ向かれた。
まぁ、いきなり転校初日にこんな変な人間に纏わりつかれるのも迷惑な話などだろうけど、そんなことを気にしているわけにはいかなかった。気になることがあるから。
「千景ってどこ住み?帰りも一緒帰ろ」
「だからなんでだよ……俺は、」
明らかに拒絶の言葉を言いかけた千景を遮って、浅井が声をあげる。
「お。じゃあ交流がてらカラオケでも行く?久野もさそお」
「いいねー!そうしよう!」
やや強引だったが千景が断ることはなかった。
転校初日であまり態度が悪いのもよくないと思っているのか、喜びはせずとも本気で嫌がってはいない。
そして多分本当は優しい。
だからめんどくさい感が態度に出ていても、纏う空気はイライラしてはないし、近くに居ても周りの空気を損なうことはなかった。
変わってないと思う。
優し過ぎるから、あんなことになるんだ。
もちろんそれはあいつのせいではなかったし、むしろ救ってもらったのはこっちだ。
それでも。痛みがよみがえる。
じくじくと恐怖と不安が忍び寄ってくる。
「具合悪いならやめとけば?」
「え?」
「誰が?」
「藤井」
放課後有言実行とばかりに千景を拉致して4人で連れ立って歩いていると、千景が急に振り返って話しかけてきた。
千景の背中を見てたらちょっと泣きそうになってたけど、顔に出ていないはずなのにおかしいな。
浅井と久野がちょっと心配そうにこっちを見る。
「え。大丈夫なのか?」
「僕?全然平気だけど!?」
「うーん。いつも通りだよなぁ?」
「咲耶どっか悪いの?」
「ううん?」
ぜんぜん大丈夫!と、元気に言うと千景を引っ張ってカラオケに向かう。
案外するどいのな。
まぁでもこれで顔見知りのクラスメイトくらいにはなれただろうか。
無理やりのハイテンションで向かったカラオケはそこそこ盛り上がった。
千景は全く歌わなかったけども。
一緒に歌うのも断れたけど。
そっちのほが泣きそうだったが全く聞いてくれなかった。ちぇ。
そして千景と同じ路線の電車だと分かって勝ち誇った僕に千景はノーコメントを貫きながら、それでも連れ立って帰ってくれた。先に降りるのは千景の方。
「またね、千景」
「…また」
律儀に返事を返して去っていく背中を電車から見守る。
すぐに見えなくなったそれに、詰めていた息を一気に吐くようにため息をついた。
酷く疲れていた。いつにない緊張感のせいだろうか。
本当の自分はそんなに明るい性格でもない。
高校生らしく振る舞っているのと、あっちに持っていかれないように、敢えてテンション高く過ごしている。
千景か……。
間違いないと思う。あいつだ。
喜びの反面、いろんなことが蘇って自分が保てるのか不安になった。
本当は近付かない方がいいのかもしれない。
そう思ったのに、人を拒絶したような振る舞いと、影のある表情に放っておくことはできなかった。
何か、あったのだろうか。
今までの千景に苦しみや悲しみがあるのなら、どうにか取り除きたいと思うのは僕のエゴだろうか。
カタカタと電車の揺れにそって左右に傾きながら千景の姿を想う。
不思議と姿は以前とあまり変わらず見える。
艶やかな黒い髪に切れ長の瞳とスラリとした均整のとれた体。
見た目を裏切らず身体能力も高かった。
今の姿は昔の姿が重なる程に同じだ。
僕は、全く違う。前は銀髪と緑色の瞳だった。
千景ほどではなかったが、整った顔だったと思う。
今は当たり前だが黒髪黒目。童顔がコンプレックスだけど、おかげで上手く立ち回れているからよしとしよう。
前はお互いいろいろな意味で目立つ存在だったけれど、誰よりも信頼しあっていた。
また同じような関係になれたらいいのにと思うけれど。
難しいのだろうか。
「ギル」
大事な名前をそっと呟く。
……また会えたんだ。
せりあがる感情に泣かないように強く瞳を閉じる。
早く明日になってまた会いたい。
不安と同じほどの期待と歓喜がないまぜになった感情を無理やり抑え込むように深呼吸をする。
それでもぐちゃぐちゃになったそれはなかなか消えてはくれなかった。
僕には幼い頃から不思議な記憶があった。
歳をとるほどに鮮明になるその記憶を誰にも話をしたことはない。
これは本当にあったことだとどこかで確信していたし、誰にも信じてはもらえない事は理解していた。
生まれる前の世界というのだろうか。
そこは今の世界とは全く異なっていた。
魔法があって、魔物がいる世界。
僕は王国の魔術警備師団に所属し、サーチに特化した魔術師だった。
サーチとは、回りにいる魔物の属性、弱点、特性などを前衛である討伐隊に付き添い伝えて、戦況を有利に導くのが仕事だ。
街の中でも魔物の仕業と思われる案件を調査、原因を特定させていた。
闇に紛れやすい魔物達を暴くのも大事な仕事で、あまりその才を持つものは多くない事から、師団の中でも重宝されていた。
そして僕のパートナーがギルで、優れた討伐者のあいつと二人、王国で知らない者はいないと言われるほどだった。
それなのに、僕はあいつを喪った。僕のミスで。
後悔なんて死ぬほどした。
気が狂わんばかりの後悔に、救いは終ぞ訪れなかった。
その記憶を思い出したとき、僕ははなぜ生まれ変わっても記憶を忘ていないのかと、酷く落胆した。
魂に刻まれた後悔は消せないのかと。
何度も何度も夢を見て、何度も何度も苦しみを味わった。
でも、それももう一度あいつを見つけるためだったのなら、今までの苦しみなんかどうでもよくなった。
だから今度こそは。
あいつが以前望んでいた穏やかな生活を与えてやりたい。
たとえそれが自己満足と呼ばれるものでも。
「千景、次教室移動だよ!」
「わかった」
毎日毎日飼い主を見つけた犬のようにひたすらまとわりついていたら、返事をしてくれるようになった。
よしよし。
すれ違う同級生からのからかいに笑って応えながら、上機嫌で連れ立って廊下を歩く。
「藤井って慕われてるのな」
「そう?」
「俺はそろそろ慣れてきたから、もう面倒見なくても…」
「ていうか咲耶って呼んでって言ってるのに呼んでくれない」
拒絶の言葉を遮って、拗ねたように言う。
チラリとこちらを見た千景はため息をついて、それ以上続けることはなかった。
ここまで構われることを『転校生の面倒を見てあげてる面倒見のいいクラスメイト』として片づけたかったようだが、それでまたボッチになれると思ったら大間違いだ。
何で千景が頑なに周りと壁を作っているのかは分からない。
本当に他人が嫌いなら僕も拒絶するはず。
なのに拒絶しきれない。
なら目の届く範囲でボッチになんてさせるはずがなかった。
しかし、態度は冷たい。
まぁ一週間そこらで心を開けるわけはないか。
「ねえね。今度千景の家行ってみたい」
「無理」
「ええー。ケチ」
距離を詰めようと提案したが、案の定却下のようだ。
というか若干怯えたような表情が気にかかる。
家に何かあるのかな?
それは是非お邪魔しないとな。
しかし、何かあっても学生の身では出来ることなどたかが知れている。
まったく、子供って不便だ。
「もっと千景と遊びたいのに」
「なんでだよ」
「もちろん、好きだから」
「顔がだろ」
「ぐっ。酷い…」
「泣きまねヤメロ」
顔はもちろん好きだ。ギルと重なる姿にもう一度笑ってもらいたい。
ただ、前世から執着しているこの感情を何と表すのか自分でもよくわからない。
以前はお互い結婚したらなんて話を普通にしてたから、ギルはクリスを親友というかかけがえのないパートナーとして見ていたと思う。
僕もずっと同じように思ってたんだ。
それをあんな形で喪ったから、拗らせているのかもしれない。
自分の何もかもを使ってでも幸せにしたいと思うほどに。
今、千景が幸せそうに笑っていたならきっと近づかなかった。
なぁ、何がお前に影を差してる?
それが分かるまで離れてやるつもりは毛頭ないから。
「で、いつなら家行っていい?」
「5年後くらい」
「じゃあすぐだねぇ」
嫌がる千景に笑って応える。
ため息をつく姿にじゃあねと別れて席に着く。
5年なんてすぐだ。今までの時間に比べれば。
そうやって千景にまとわりついて常に行動して、帰りも一緒でたまに4人で遊んで。
電車では強引に家に行こうとすると思ったのか、隙を見せないようにしているのがありありだった。
でも、僕が千景に本気で嫌がることをするわけがない。
毎日あっさりまたねと別れるのに、不思議な顔をしながらまたと返事を聞く日々が続いた。
千景の傍には咲耶がいると皆の認識が定着するころには、そこそこ普通の友人とまで漕ぎつけたのではないかと思う。
僕はそれでも十分満足していた。
学校では世話をやきまくって、寂しさもなにも不自由ない生活を送れているはず。
よしよしと思うが、ここにきて夏休みという敵が現れた。
昨年まで楽しみにしていたそれは、もはや1か月千景の傍に居れないという苦行に等しい。
「夏休み…嫌だ」
「そんなこと言うやつ初めて見た」
「だって、千景に会えない…」
「お前本当に頭だいじょうぶか?」
さめざめ泣く僕に呆れたように千景が言う。
このころには名前で呼んでくれるようになったし、ラインの交換もして毎日おはようからお休みまでまめに連絡を取っていた。主に僕が。
しかし一か月は厳しい。
その間にまた距離が開いてしまったらどうするのだ。
その間…千景はどう過ごすのだろう。
煩いのがいなくて、悠々自適に過ごすのがありありと目に浮かぶ。
僕は千景がそれで満足なら…いいや、寂しい。耐えれるかな。
やっと会えたのに、その間何かあったらと思うと心配でたまらない。
「はぁ~」
「そんなに言うなら会えばいいだろ、休みの間」
「え!!!!?」
「?」
「いいの!?」
「まぁ。どうせ暇だろうし」
「やったー」
ぱぁぁと希望が下りてきた。
世界が優しく見える。
「よかったなぁ、咲耶」
「おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう」
周りも祝福してくれ、満面の笑顔で応える。
「なんで?」
千景だけが冷静だった。
最悪の事態は回避でき、夏休みに突入した。
相変わらず毎日ラインで連絡を取り(主に僕が)遊ぼうと言えば遊んでくれるので、週3日は会っていた。
それ以上も誘いたかったが、我慢した。
出かけるのは買い物や図書館で課題をというのが多かったが、浅野達と出かけることも多かった。
毎日じゃなくても、千景の様子を間近で見れて十分満たされた。
そしてある時、千景が笑った。
何の話をしていたか覚えてはいない。が、会話の途中で可笑しそうにふっと笑ったんだ。
一瞬固まったが、気付かれないように会話を続けた。
でも、内心歓喜の渦で心臓はバクバクしていた。
あぁ、もっと笑ってほしい。
屈託なく、常に笑っていてほしい。
そうしたらもう何も悔いはないのに。
僕も嬉しくなって、やけに上機嫌だと言われた。
うん。上機嫌だよ。
ふふふと笑う僕に、千景は気持ち悪いとやっぱり冷たかった。
今日もまた夢を見る。
国の気候は常に穏やか。
あまり大きな事件も起こらず、慢心していたのかもしれない。
王国隣の街で、人が行方不明になる案件があって俺の転生前であるクリスとギルが組んで調査にあたることになった。
推測された場所は街外れの古い教会。
着いてから先ずは、俺がサーチ能力で危険を探る。特に何も引っかかる所はなかった。
昼間だし、夜型のものかもしれないと二人で話しながら建物に入る。
教会の中に入って、一瞬違和感を感じたのに。
視覚とサーチの異常なしにそれを無視してしまった。
ギルと一緒というのにも安心していたのかもしれない。
二人が完全に中に入った瞬間、空間が歪んだ。
まずいと思ったが時遅く、歪みに取り込まれてしまっていた。
空間魔法を使う魔物はあまりいないし、上位のものが多い。
そしてそれはサーチにかかりにくい。
まずいの三文字がひたすら脳を埋め尽くす。
「クリス、下がれ」
「ごめん」
暗闇のどちらが上かも分からない空間で、せめてと灯りを灯すが自分たち二人が浮かび上がるだけだった。
どうせあちらには全て見られているならと、灯りの範囲を広げる。
「これは何だ?」
「空間自体が魔物だ。取り込み、糧にしている。弱点は火と光。…A級かな」
サーチをかけ敵を暴くが、内容はあまりよくない。
「襲ってはこないか」
「こちらがなにもしなければ、おそらく」
「核は?」
「ここにはない。恐らく外側」
厄介な魔物にため息がもれる。
ギルの得意は物理だ。
こういう敵は自分の分野だった。
魔術攻撃として、光か炎か…。
「光だ。ギル、補助頼める?」
「分かった」
何のと言わないまでも通じる疎通に心地よさを感じながら、身体に魔力を通す。
光属性の攻撃に入りながら、空間の弱点を探る。
入り口があるのなら、綻びはそこだ。
足元に歪みを感じて、「ここだ」と一気に青いプラズマを放つ光を叩き込んだ。
空気が歪み、四方から影のような物が襲いかかる。
それをギルが即座にはね除けながら、二人同時に足元の歪みに飛び込んだ。
光に一気に包み込まれ、思わず眩しさに瞼を閉じる。
魔物の中からは出れたけれど、実体を現した本体は目の前にあった。かなり巨大だ。
ギルがすかさず前に出て初手を防いでくれる。
その間に核を探す。
「ギル、上だ」
頭と呼べるものがあるなら、そこに赤い核が見えた。
見えないギルのために目印として印を魔物へ飛ばす。
「分かった」
即座に飛ぶが、届かないそれにギルが剣を投げて貫く。
全て即断で動かなければ間に合わない。
それでも、ギルと自分なら大丈夫だと思っていた。
他のチームでは成し遂げれないことを、確かに二人でこなしていた。
魔物の揺らぎにホッとした次の瞬間、自分のサーチの間違いに気づいた。
「違う、もう一つ」
希に核が複数ある魔物がある。
A級であればその可能性は十分考えられたのに。
剣を投げつけて小刀しかないギルに代わって魔術で核を貫くしかなくて。
「クリス下がれ!」
ギルが叫ぶ。
しかし、下がったら核に届かない。
師団の鉄則『自分のミスは自分で埋める』
少し焦っていたのかもしれない。
ミスを挽回しようと核を狙って魔術を放つ。
渾身の魔力でもって放った術は確かに核を捕らえてた。
でも、俺は回りを見てなかったんだ。
衝撃に飛ばされて、振り返った目に映ったのは、魔物に貫かれたギルの姿だった。
「え?」
何が起こった?
「ギル?」
ドッと倒れた身体に駆け寄る。
魔物はすでに消滅していた。
「ギル!」
既に意識もない身体を抱き起す。
どうしてこうなった?
自分はいったいいくつのミスをした?
倒れるべきは自分なのに。
戦闘音を聞いた街の人が寄って来るのに、救護班の要請を頼み、あまり得意ではない回復の術を必死にかける。
魔力が尽きて意識を失うまでひたすら治癒を施した。
血が、温もりが失われていく。
誰かが叫んでいる。違う、これは自分の声だ。
「ギル!」
はっと目を覚ます。
どくどくと激しい動機と汗が伝う。
一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
夢を見た時のために、鏡をすぐそばに掛けている。
鏡の中の自分は酷い顔をしていた。
大丈夫、僕だ。
記憶が混濁するため、自分の事はずっと僕と称している。
童顔のおかげでそれは違和感なく使えていて、クリスと僕との境目をちゃんと隔ててくれていた。
そうしないと、いつか夢に引っ張られて戻ってこれない気がしていた。
「僕は、咲耶」
呪文のようにつぶやく。
「千景は大丈夫」
はーっと布団にうつぶせながら言い聞かせるように言う。
あの後救護が来た時にはとっくにギルの魂はそこから消えていた。
クリスは大したお咎めを受けることはなく、よくある事故でそれは終わった。
多分大事だったのはサーチ能力を保有するクリスだったのだろう。
新しいパートナーをと言われていたが、誰にも告げる事なく王国を出た。
そこからひたすら旅をした。
命尽きるまでただ旅をした。
ギルがいなければ王国に留まる理由もなかったし、ギルがいなければ生きていく理由もなかった。
喪ってはじめてその存在をそこまで大事に想ってたなんて気づけなかったんだ。
どうして守れなかった?
誰よりもそれが出来る立場にありながら。
どうして間違えた?
どうしてギルは死んだ?
分かっている。全部自分のせいだ。
涙があふれる。
本当はずっと。あの世界で一緒にいたかった。
ギルが語っていた未来を自分が消してしまった。
「ごめん…ギル」
呟いた声は掠れていて誰のものなのか分からなかった。
「明日水族館行こうよ!」
僕の提案に千景はめんどくさそうな顔をしていたが、ペンギンが見れるって言葉にじゃあ行くとめでたくお誘いは成功した。
どうやらペンギンが好きらしい。
前世では海など知らなかったし、見たこともなかった。
どういう世界図になっていたのかも不明だが、生まれ変わって海や海の生き物を見た時はかなり感動したものだ。
残念ながら浅井達は都合が合わず二人で行くことになった。
まぁ千景と一緒なら何でもいいのだ。
服もきちんと選んだ。千景の傍に立つなら釣り合うようにしないと。
男二人でデートみたいだねと言うと案の定嫌な顔をされた。
でも無表情よりはいい。
はしゃぎながら、いろいろな魚を見ていく。
水族館は、夏休みとあってそこそこ人が多かった。メインは館内を貫く大型水槽だ。
ジンベイザメや様々な魚が悠々と泳ぐ様は圧巻で、あまりにも美しく見とれてしまう。
水の中の世界。
こことは違う時間のようなそれに、魅せられていた。
ふと気が付くと、千景も黙って見入っていた。
「魚って、綺麗だね」
素直な感想が口から零れ落ちた。
再び水槽を見つめる。
人混みの中、空気が変わった気がした。
距離感に既視感を覚える。
何度も二人で旅をした。
山の頂でみた朝日や、湖に映った星空とか、同じように黙ってただ二人で見てた。
いつもお前は少し斜め後で。
何でだろうと思ってたけど。
死角の少ないその位置で守ってくれてたのだと、居なくなってから気づいた。
今も同じ位置でいるのはただの偶然だろうけど、思い出してちょっと泣きそうになるから、半歩下がって千景に並ぶ。
「ペンギン、見にいこ?」
「え?あ、あぁ」
ぼんやりとしてた千景はちょっと瞬きをして、そうだなと歩きだした。
ペンギンをはしゃいで見て堪能して、電車で別れて帰る。
「送ろうか」
「え?」
「あ、いや。何でもない」
水槽の後から少し千景の様子がおかしい。
何だろう?
纏う雰囲気までもが少しギルに重なる。
まさか、僕がいるから記憶が引きずられている?
まさかな。
あれは、思い出しても仕方ない記憶だ。
あんな殺伐とした世界の事なんて、何の利にもならない。
知らない方がいい。
少し近付き過ぎたのだろうか。
まさかの想定外だが、今さら距離を空けるわけにもいかない。
まぁ、思い出すなんて万に一だろうし、片鱗を思い出しても夢か妄想くらいにしか思わないのが普通だ。
たぶん……大丈夫。
都合の悪い予感を意識から追い出して、
極力楽しい事に意識を向ける。
明日は何て誘おうかな。
今日の明日じゃ早すぎるかな?
うーん。
でも、会いたい。
千景に幸せになってほしい。笑っていてほしい。
それだけだったのに、ただ会いたいと思う心ももう隠しきれなくて。
また同じ夢を見そうな予感がするのに、今日はそこまで苦痛ではなかった。
何だろう?何かが変わっている。
僕の中でも、何かが。
あ。もうすぐ登校日だから、課題図書館でやろうって誘おう。
うん、そうしよう。
その前に、仮眠…。
思いの外疲れていた僕は、そしてそのまま眠りについてしまった。
部屋に差し込む朝日を見て、約束を取り付けてなかった!と飛び起きる。
当日でも来てくれるかなぁ、とスマホを引き寄せる。
画面を見て、固まった。
千景からラインが来てる!
こっちから送った返事しか、来たことなかったのに。
ドキドキしながら読む。
〈水族館、面白かったな〉
〈明日、図書館行かないか?〉
〈咲耶、寝てる?〉
はい、寝てました。
一生の不覚!
〈ごめん、寝てた〉
〈図書館いく!〉
〈何時にする!?〉
しゅぱぱぱと打ち込むが、すぐ既読にはならない。
寝てるかなぁ。
時間はまだ8時だ。
顔を洗ってリビングへいく。
「おはよー」
「おはよう」
あくびをしながら、パンを焼くべくトースターへ向かった。
父母は共働きで、すでにいない。
兄は大学生で県外へ出ているし、下は双子の姉妹だった。
挨拶をしたのは妹の葵。
お互い夏休みで気が抜けていて食事の間も無言だ。
ピコンと電子音に即座に反応する。
〈おはよう。だと思った〉
〈10時でどうかな〉
オッケーのスタンプを押して、パンを齧る。
「咲兄、やけに嬉しそう。彼女?」
「いんや。彼氏」
ブハッとコーヒーを吹き出す葵に、汚いなぁとパンを避難させる。
「え。咲兄。え?」
「ばっか、冗談だよ」
そんなものよりもっと大切な人だ。
混乱する妹を置き去りに、食事を終えて自室へ戻る。
出かける用意をして、さっさと家を出た。
図書館なら早く着いても暇はつぶれる。
千景が来るまで本でも読んで待っていれば、すぐだ。
今日は何しようかな?
課題のレポートなんかちょうどいい。
ネタ探しをして、千景来てから練り込めば。
そうだ、そうしようと思いつきに満足して、図書館へと向かった。
千景を待って、いろいろな本を漁る。
テーマは自由って、一番困るやつだよな。
歴史とか、福祉とか、そこらへんか。
ウキウキと相手を待って、一緒に過ごす。
それだけで楽しかった。
いつの間にか、自分が楽しんでいる。
千景も少しずつ笑ってくれてる。
そんな様子を見るだけでほっとしていた。
そういえば前世でも、最初はギルを心配ばかりしていたな。
危なげなギルを見出したのも僕だった。
あの時も独り立ち出来たら離す気でいたのに。
前世ではそこそこの家に生まれ、能力を見出だされてからは訓練と教育を受けて育った。
花形だが危険を伴う職のため、武術も必要で。
成人の後にパートナーと組んで仕事を始める事になっていた。
最初は相性を重視して、希望のパートナーを指名出来ると言われた。
正直誰でもいいと思っていたのに。
一般の訓練の傍を通ったとき。
既に有名人となっていた俺にひそひそと好奇や期待の眼差しがささる。
鬱陶しいなと思って見た先に、ギルがいた。
しごかれたのが、ボロボロの姿で。
でも凛とした綺麗な立ち姿で、多分すぐに強くなるだろうなと思った。
そして眼が。
強くこちらをまっすぐ何の感情もなくただ見ていた眼に惹かれた。
俺はギルをパートナーに指名して、さりげなく足りない所を教えるように連れまわした。
周りは反対していたが、ギルアートがめきめき強くなると手のひらを返したように褒め称えた。
でも、いちばん危ないポジションであるのは間違いなくて。
いつか離れないとと思いながら手離せなかった俺のせいで、結局死なせてしまった。
今も、理由をつけてただ傍にいたいだけなのかもしれない。
でもそれが今回も千景によくないことだとしたら?
離れられるのだろうか。
「むり…」
「何が?」
机に突っ伏してあれこれ考えていたら、いつの間にか時間になったらしい。
千景は机に積まれた本をチラリと見て隣に座った。
「課題そんなに難しい?」
「うー」
咄嗟に切り替えが出来なくて、唸るだけの僕に千景は笑いながら頭をくしゃりと撫でた。
「頭いいくせにな」
「ゼロから考えるのは苦手なんだよ」
触られた髪に全神経を向けながら、課題が嫌なそぶりで顔を隠す。
多分僕の顔は真っ赤だと思う。
千景の、温もり……。
ちょっと不意討ちすぎるだろう。
「じゃあ1まで考えてやるよ」
パラパラと本を捲る音がする。
その間になんとか平静を取り戻さなければ。
深呼吸だ。深呼吸。
どうにか動悸をやり過ごし、課題も無事終わらせて帰宅するとベッドにダイブする。
疲れた…。
千景と居たいのに、いつも酷く何かを消耗する。
はぁとため息をついたとこで、また千景からラインが届いた。
〈明日、うちくる?話たいことあるし〉
「え?」
声に出た。
驚きすぎて固まる。
あんなに嫌がってたのに?
〈いく!〉
話が何だか分からないけど行けるなら。
ピコンと地図が貼り付けられる。
〈迎え行こうか?〉
〈大丈夫!ありがとう〉
驚きはしたけど、嬉しくなってきた。
多分、僕が家に行きたいって言ったのを気にしてくれたんだろうな。
仲良くなれた…のだろうか。
嬉しさと少しの不安と。
眠れるだろうかと心配したけども、昼間の疲れか気が付いたら眠りについていた。
千景のうちはマンションだった。
エントランスで番号を呼び出して鍵をあけてもらう。
ドキドキしながら部屋へ入った。
「おじゃましまーす」
「どうぞ」
てっきり千景の部屋へ行くのかと思ったけど、リビングに通される。
綺麗に整頓された部屋。
両親は共働きらしいけど、千景がそれで不自由している風はない。
手渡されたアイスティーをありがとうと受けとると、千景もソファーへ座る。
並んで座った千景は戸惑っているようにも見える。
「千景?どうしたの?」
「いや、あんまり人を呼ぶことないから、少し緊張する」
「そなの?じゃあ僕はクラスメイトから友人くらいに昇格してるって事だよね!?」
「なんだそれ、とっくにだろ」
やったーと喜ぶ僕に、吹き出しながら笑って千景が言う。
レアな千景に見とれてると、ふと真顔になった千景は手元のグラスを見ながら躊躇するように話し出す。
「昔は友人を招く事も多かったんだ。でも、発作が起きるようになって」
「発作?」
「原因は分からないけど、急によく分からないことを言って、気を失うらしい」
「え。大丈夫なの?」
心配になって、俯いた千景を覗きこむ。
「いろいろ調べたけど、体に異常はなかった。ただ、何回かあるうちに条件は分かって」
「うん」
「狭い空間、暗さ、同年代の友人と二人」
「?」
「それが揃ったら発作が起きる」
「そうなんだ。だから、部屋じゃなくてリビング?」
「そう。悪いな」
「いや、大丈夫」
「部屋以外も、エレベーターとかやばい」
「そっかぁ」
「だから、あまり同級生とつるんだりしなかったんだけど」
なるほど。
そこに押し掛けたのが僕ってことか。
拒絶しながら、寂しかったのかもしれない。
千景の憂いを取り除いてあげたいけど。
「発作の時にさ、相手にここから出たら死ぬから出ちゃだめだって言うらしい」
「え?」
「引くだろ?ヤバいよな」
「…」
記憶は、ないはずた。
なのに、それがあの時の場面と重なる。
死ぬのは僕ではないけど。
「だからこの先咲耶といたら、どこかで起きるかもしれない。その話もあって、今日来てもらったんだ」
「あ…うん。そっか!わかった!運ぶのはまかせて!」
努めて明るく言う僕に、千景はほっとした様に息を吐く。
「ありがとう。でも何でかな、咲耶となら平気な気がするんだ」
「え?」
「何かの不安だろうって医者に言われたよ。それが何か分かって、不安も取り除けばよくなるって」
「そっか」
「咲耶がいれば不安じゃないんだ」
「千景?」
「この間から何かを忘れてる気がして。それが思い出せたらきっと」
「あ、あれだ。昔何か見てそれがトラウマになってるとか!でもほらそういうのって、思い出さない方がいいよ!」
「そうかな」
「そうそう!なるべく一緒にいるし、何かあってもフォローするし!だから安心して!?」
努めて明るくまくし立てる。
思いだしかけてる?
いや、ダメだろう。
あんな記憶。思い出しちゃいけない。
あんな殺伐とした記憶、ないほうがいい。
「わかった」
千景の言葉にホッとする。
「やっぱり咲耶、何か知ってるよね」
「え?」
冷や水を浴びせられたように血の気が下がった。
「何を…?」
「分からないけど。ずっと違和感感じてた。咲耶ってさ、いつも笑ってるけど、笑ってない」
「…」
「初めから違和感しかなくて。何でここまで俺を構うのかも分からなくて。何かの義務感の様にも感じた」
「違う、千景」
義務感とか、使命感とかは確かにあったかもしれないけど。
でもそれだけじゃなくて。
「俺はそれでもいいと思った。何故か咲耶がいたら不安が消えるんだ」
ふわりと笑う千景に泣きそうになる。
何と言ったらいいのか分からなかった。
「そんでさ、さっきのだけど。咲耶何を知ってるの?」
「何も…」
じっと射ぬくように見つめる視線に思わず目を反らす。
「じゃあさ、一緒に来て」
「え?」
千景に腕を掴まれ、リビングを出る。
廊下の途中の扉。
カチャリと開けた向こうはカーテンを閉めてるせいか、薄暗い。
「千景?」
「入って」
「でも、これ」
「咲耶が居たら分かる気がするんだ」
「いや、ダメだ」
「どうして」
入るのを拒否して腕を振りほどこうとするのに、外れない。
案外力強いな。
「思い出さないほうがいい」
「じゃあ何を知ってるか教えて」
「無理。千景、かんべんして」
「そっちのが無理。咲耶と小さい時に会ったことあった?」
「いいから離して」
「言えないなら入って」
「駄目だ!」
部屋の前で押し問答をする。
かよわいわけじゃないから、力ずくはどうにか免れているが。
ぐいぐい引っ張る千景に逆らいながら、また何か間違えたと後悔する。
今部屋に入れば千景は思い出すような予感がした。
ダメだ、それだけは。
あんな記憶思い出すものじゃない。
またミスをした。またどこで?何を間違えた?
思い出させたらダメだ。
「わかったから!話すから!」
ふっと力が緩む。
掴まれた所が痛い。馬鹿力め。
「本当?」
「だから、一旦リビングに」
次の瞬間、腰を引き寄せられて、抱き抱えられるように部屋へ引き込まれた。
「ちょ、」
「嘘って書いてた」
「ダメだ!思い出さないほうがいい!!」
叫ぶけど、遅かった。
パタンとドアが閉められる。
空気が変わる。
薄闇に二人。
息苦しくなる。
誰かの部屋だと視覚は映しているのに。
闇がまとわりつく感覚。
どこにいるのか分からなくなる。
ナンダコレハ?
息苦しい。
まずい。
ここは、まずい。
ここは、ダメだ。
ギルはどこだ?
逃げなければ、ここから。
誰かに抱きしめられている。
だめだ、動かないと。
「クリス」
あぁ、ギルだ。
苦しそうな声に大丈夫だと抱きしめ返す。
大丈夫だ、俺が助けるから。
何があっても、今度こそ。
遠くなる意識の中で、繰り返し繰り返し大丈夫だと呟く。
呟きながらそのまま俺は意識を手放していた。
ふっと意識が浮上する。
暖かい何かにくるまれていた。
目を覚ますと、ベッドに横たわっていて、誰かに抱き込まれていた。
「千景?」
「目、覚めた?平気?」
前髪を掬うように覗き込まれる。
心配がその表情から見てとれた。
「平気。千景……記憶」
「思い出せたよ」
ざっと血の気が引くのが分かった。
ダメだった。
落胆してため息をつくと、そっと顔を挟まれて千景に向けられる。
「何でそんなに嫌がるんだ?」
「だって…そんなのないほうがいい」
「俺にとっては大事な記憶だ」
「でも……。俺といたんじゃまた……」
目を反らして、聞いてみる。
「なぁ、恨んでないのか?」
本当はずっと聞きたかったこと。
不安で思わず涙が溢れる。
「俺はね、ずっとクリスに救われていたんだ。クリスが俺を選んでくれた時から。クリスがいなければとっくに死んでた命なのに恨むわけない」
優しく涙を拭うから、ますます止まらなくなる。
「でも、ごめん」
謝る僕に笑って千景が目元にキスを降らす。
ちょっと驚いて涙が止まった。
「ちょ、何して」
「咲耶可愛いって、ずっと思ってた。咲耶が笑ってるだけで何でか不安が消えるのが分かった。だから最初から拒めなかっただろ?」
「可愛いって……」
いろいろ複雑な気分になってきた。
「あのあと、死んだのは俺だけ?」
「うん……」
千景が良かったと呟く。
「あとは誰がパートナー?アグナ?ウィル?」
「誰も。すぐに王国でたし」
「え」
「ギル以外と組む気なかったし」
とたんにぎゅうぎゅうと抱きしめられて苦しい。
「ちょ、千景、苦しい」
「あ、ごめん。嬉しくて」
何だよもぅ、と苦情を言うが、千景はニコニコして全く懲りた様子はない。
「千景に笑って欲しかったんだ」
「そうか」
「だから、つらい記憶なんか思い出さないほうがいいって思って」
「うん」
「その代わり傍で助けられたらって。でも、ただ僕が傍にいたかったのかも」
「そう。でも俺は思い出した今のほうが幸せだ」
柔らかい笑顔に嘘ではないのが分かった。
「そっか、ならよかった」
何だか安心して、千景に抱きつく。
温もりにまた泣きそうだ。
「咲耶、あんまり抱きつかれると……」
「え?嫌?」
やっぱりどこか許せないのだろうか。
「そうじゃなくて」
不安になって千景を見上げる。
と、再びぎゅうぎゅう抱き込まれた。
「千景だって抱きついてるじゃん」
「俺はいいの」
抱きつかれるのはダメで、自分が抱きつくのはいいとかどういう理屈?
でも、 苦しいけど何か嬉しい。
「これからも、傍にいていい?」
「逆だ。傍にいてほしい」
その言葉に心底喜びがこみ上げる。
ふふっと笑いながら、温もりを確かめる。
今度こそ失わないように。
今度こそこの世界で。
「千景が何よりも大事なんだ。僕が千景を今度こそ幸せにするから」
「咲耶それ……プロポーズみたい」
「え。そうかな?」
真面目に言ったつもりなのに、変だったろうか。
悩む僕をよそに、千景は笑いながらありがとうと言った。
千景が穏やかに微笑むから、まぁいいかと僕も笑い返す。
そして願う。
この先千景が、穏やかに、幸せに過ごせますようにと。
祈るように願う。
薄闇の中、あの世界の気配はどこにもなくて、確かな温もりが願いの成就を予感させていた。
同時に思い出す記憶。
誰よりも守りたかった人の命が、目の前で消えたあの時の絶望。その感情に持って行かれそうになり、一瞬くらりと目眩がする。
それでも心は確かに歓喜していた。再びまみえたその奇跡。
やっと、見つけた。
この世界でなら同じように死んでしまうことはそうそうないだろう。
なら、誰よりも幸せに。
祈るように思った。
それならば、誰よりも穏やかであれと。
「ねえ。千景って顔いいね」
チャイムが鳴った昼休み。机と椅子をガタガタと逆に設置して、昨日まで空席だった後ろに座った転校生に向かい合って言った。
笑いかける咲耶に、相手は眉をピクリともさせず沈黙したまま。
「何やってんの?咲耶」
同じクラスの浅井がそんな僕らの様子を不思議そうに見て近寄ってきた。
「ん、千景褒めてた!」
「あー、確かに顔いいもんな。このイケメン好きが」
イケメン好きは否定しないが、節操無しの様に言うのはやめてほしい。
自分はただ単に、ある系の顔を見るとつい寄って行ってしまう癖があるだけだ。
机の主は全く一言も話さず、明らかに迷惑というのが顔にありありと浮かんでいる。
しかしそんな事には構わず、僕は浅井と騒ぎながら尚も転校生である田端千景に話しかけ続けた。
「ねえねえ。千景はお弁当派?購買派?僕はお弁当!一緒食べようよ!」
「なんで?」
千景がやっと発した言葉はため息とともにこぼれた短いものだった。
「えー。一緒のほうが楽しいよ?」
「諦めろ、田端。こいつはこうなるとしつこい」
「なんだよー。まぁその通りだけど!?」
がやがやと騒がしい教室の中で、一際騒がしく喋る僕の言葉に全く反応しないまでも千景は同じテーブルで弁当を広げだした。
その様子に嬉しくなる。
「んふふー」
「良かったなぁ、咲耶」
「うん。今日はいい日だ」
浅井が面白がるようにパンを取り出しながら同じテーブルに着く。
クスクスと笑いが聞こえる。
無邪気に懐く僕に、クラスメイトは微笑ましいものを見るように寛容だ。
たとえ周りから笑われようといいのだ。
本当にうれしかった。
また一緒に食事してる。目の前にいる。
あいつは嫌そうな顔してるけど。
目が合うとそっぽ向かれた。
まぁ、いきなり転校初日にこんな変な人間に纏わりつかれるのも迷惑な話などだろうけど、そんなことを気にしているわけにはいかなかった。気になることがあるから。
「千景ってどこ住み?帰りも一緒帰ろ」
「だからなんでだよ……俺は、」
明らかに拒絶の言葉を言いかけた千景を遮って、浅井が声をあげる。
「お。じゃあ交流がてらカラオケでも行く?久野もさそお」
「いいねー!そうしよう!」
やや強引だったが千景が断ることはなかった。
転校初日であまり態度が悪いのもよくないと思っているのか、喜びはせずとも本気で嫌がってはいない。
そして多分本当は優しい。
だからめんどくさい感が態度に出ていても、纏う空気はイライラしてはないし、近くに居ても周りの空気を損なうことはなかった。
変わってないと思う。
優し過ぎるから、あんなことになるんだ。
もちろんそれはあいつのせいではなかったし、むしろ救ってもらったのはこっちだ。
それでも。痛みがよみがえる。
じくじくと恐怖と不安が忍び寄ってくる。
「具合悪いならやめとけば?」
「え?」
「誰が?」
「藤井」
放課後有言実行とばかりに千景を拉致して4人で連れ立って歩いていると、千景が急に振り返って話しかけてきた。
千景の背中を見てたらちょっと泣きそうになってたけど、顔に出ていないはずなのにおかしいな。
浅井と久野がちょっと心配そうにこっちを見る。
「え。大丈夫なのか?」
「僕?全然平気だけど!?」
「うーん。いつも通りだよなぁ?」
「咲耶どっか悪いの?」
「ううん?」
ぜんぜん大丈夫!と、元気に言うと千景を引っ張ってカラオケに向かう。
案外するどいのな。
まぁでもこれで顔見知りのクラスメイトくらいにはなれただろうか。
無理やりのハイテンションで向かったカラオケはそこそこ盛り上がった。
千景は全く歌わなかったけども。
一緒に歌うのも断れたけど。
そっちのほが泣きそうだったが全く聞いてくれなかった。ちぇ。
そして千景と同じ路線の電車だと分かって勝ち誇った僕に千景はノーコメントを貫きながら、それでも連れ立って帰ってくれた。先に降りるのは千景の方。
「またね、千景」
「…また」
律儀に返事を返して去っていく背中を電車から見守る。
すぐに見えなくなったそれに、詰めていた息を一気に吐くようにため息をついた。
酷く疲れていた。いつにない緊張感のせいだろうか。
本当の自分はそんなに明るい性格でもない。
高校生らしく振る舞っているのと、あっちに持っていかれないように、敢えてテンション高く過ごしている。
千景か……。
間違いないと思う。あいつだ。
喜びの反面、いろんなことが蘇って自分が保てるのか不安になった。
本当は近付かない方がいいのかもしれない。
そう思ったのに、人を拒絶したような振る舞いと、影のある表情に放っておくことはできなかった。
何か、あったのだろうか。
今までの千景に苦しみや悲しみがあるのなら、どうにか取り除きたいと思うのは僕のエゴだろうか。
カタカタと電車の揺れにそって左右に傾きながら千景の姿を想う。
不思議と姿は以前とあまり変わらず見える。
艶やかな黒い髪に切れ長の瞳とスラリとした均整のとれた体。
見た目を裏切らず身体能力も高かった。
今の姿は昔の姿が重なる程に同じだ。
僕は、全く違う。前は銀髪と緑色の瞳だった。
千景ほどではなかったが、整った顔だったと思う。
今は当たり前だが黒髪黒目。童顔がコンプレックスだけど、おかげで上手く立ち回れているからよしとしよう。
前はお互いいろいろな意味で目立つ存在だったけれど、誰よりも信頼しあっていた。
また同じような関係になれたらいいのにと思うけれど。
難しいのだろうか。
「ギル」
大事な名前をそっと呟く。
……また会えたんだ。
せりあがる感情に泣かないように強く瞳を閉じる。
早く明日になってまた会いたい。
不安と同じほどの期待と歓喜がないまぜになった感情を無理やり抑え込むように深呼吸をする。
それでもぐちゃぐちゃになったそれはなかなか消えてはくれなかった。
僕には幼い頃から不思議な記憶があった。
歳をとるほどに鮮明になるその記憶を誰にも話をしたことはない。
これは本当にあったことだとどこかで確信していたし、誰にも信じてはもらえない事は理解していた。
生まれる前の世界というのだろうか。
そこは今の世界とは全く異なっていた。
魔法があって、魔物がいる世界。
僕は王国の魔術警備師団に所属し、サーチに特化した魔術師だった。
サーチとは、回りにいる魔物の属性、弱点、特性などを前衛である討伐隊に付き添い伝えて、戦況を有利に導くのが仕事だ。
街の中でも魔物の仕業と思われる案件を調査、原因を特定させていた。
闇に紛れやすい魔物達を暴くのも大事な仕事で、あまりその才を持つものは多くない事から、師団の中でも重宝されていた。
そして僕のパートナーがギルで、優れた討伐者のあいつと二人、王国で知らない者はいないと言われるほどだった。
それなのに、僕はあいつを喪った。僕のミスで。
後悔なんて死ぬほどした。
気が狂わんばかりの後悔に、救いは終ぞ訪れなかった。
その記憶を思い出したとき、僕ははなぜ生まれ変わっても記憶を忘ていないのかと、酷く落胆した。
魂に刻まれた後悔は消せないのかと。
何度も何度も夢を見て、何度も何度も苦しみを味わった。
でも、それももう一度あいつを見つけるためだったのなら、今までの苦しみなんかどうでもよくなった。
だから今度こそは。
あいつが以前望んでいた穏やかな生活を与えてやりたい。
たとえそれが自己満足と呼ばれるものでも。
「千景、次教室移動だよ!」
「わかった」
毎日毎日飼い主を見つけた犬のようにひたすらまとわりついていたら、返事をしてくれるようになった。
よしよし。
すれ違う同級生からのからかいに笑って応えながら、上機嫌で連れ立って廊下を歩く。
「藤井って慕われてるのな」
「そう?」
「俺はそろそろ慣れてきたから、もう面倒見なくても…」
「ていうか咲耶って呼んでって言ってるのに呼んでくれない」
拒絶の言葉を遮って、拗ねたように言う。
チラリとこちらを見た千景はため息をついて、それ以上続けることはなかった。
ここまで構われることを『転校生の面倒を見てあげてる面倒見のいいクラスメイト』として片づけたかったようだが、それでまたボッチになれると思ったら大間違いだ。
何で千景が頑なに周りと壁を作っているのかは分からない。
本当に他人が嫌いなら僕も拒絶するはず。
なのに拒絶しきれない。
なら目の届く範囲でボッチになんてさせるはずがなかった。
しかし、態度は冷たい。
まぁ一週間そこらで心を開けるわけはないか。
「ねえね。今度千景の家行ってみたい」
「無理」
「ええー。ケチ」
距離を詰めようと提案したが、案の定却下のようだ。
というか若干怯えたような表情が気にかかる。
家に何かあるのかな?
それは是非お邪魔しないとな。
しかし、何かあっても学生の身では出来ることなどたかが知れている。
まったく、子供って不便だ。
「もっと千景と遊びたいのに」
「なんでだよ」
「もちろん、好きだから」
「顔がだろ」
「ぐっ。酷い…」
「泣きまねヤメロ」
顔はもちろん好きだ。ギルと重なる姿にもう一度笑ってもらいたい。
ただ、前世から執着しているこの感情を何と表すのか自分でもよくわからない。
以前はお互い結婚したらなんて話を普通にしてたから、ギルはクリスを親友というかかけがえのないパートナーとして見ていたと思う。
僕もずっと同じように思ってたんだ。
それをあんな形で喪ったから、拗らせているのかもしれない。
自分の何もかもを使ってでも幸せにしたいと思うほどに。
今、千景が幸せそうに笑っていたならきっと近づかなかった。
なぁ、何がお前に影を差してる?
それが分かるまで離れてやるつもりは毛頭ないから。
「で、いつなら家行っていい?」
「5年後くらい」
「じゃあすぐだねぇ」
嫌がる千景に笑って応える。
ため息をつく姿にじゃあねと別れて席に着く。
5年なんてすぐだ。今までの時間に比べれば。
そうやって千景にまとわりついて常に行動して、帰りも一緒でたまに4人で遊んで。
電車では強引に家に行こうとすると思ったのか、隙を見せないようにしているのがありありだった。
でも、僕が千景に本気で嫌がることをするわけがない。
毎日あっさりまたねと別れるのに、不思議な顔をしながらまたと返事を聞く日々が続いた。
千景の傍には咲耶がいると皆の認識が定着するころには、そこそこ普通の友人とまで漕ぎつけたのではないかと思う。
僕はそれでも十分満足していた。
学校では世話をやきまくって、寂しさもなにも不自由ない生活を送れているはず。
よしよしと思うが、ここにきて夏休みという敵が現れた。
昨年まで楽しみにしていたそれは、もはや1か月千景の傍に居れないという苦行に等しい。
「夏休み…嫌だ」
「そんなこと言うやつ初めて見た」
「だって、千景に会えない…」
「お前本当に頭だいじょうぶか?」
さめざめ泣く僕に呆れたように千景が言う。
このころには名前で呼んでくれるようになったし、ラインの交換もして毎日おはようからお休みまでまめに連絡を取っていた。主に僕が。
しかし一か月は厳しい。
その間にまた距離が開いてしまったらどうするのだ。
その間…千景はどう過ごすのだろう。
煩いのがいなくて、悠々自適に過ごすのがありありと目に浮かぶ。
僕は千景がそれで満足なら…いいや、寂しい。耐えれるかな。
やっと会えたのに、その間何かあったらと思うと心配でたまらない。
「はぁ~」
「そんなに言うなら会えばいいだろ、休みの間」
「え!!!!?」
「?」
「いいの!?」
「まぁ。どうせ暇だろうし」
「やったー」
ぱぁぁと希望が下りてきた。
世界が優しく見える。
「よかったなぁ、咲耶」
「おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう」
周りも祝福してくれ、満面の笑顔で応える。
「なんで?」
千景だけが冷静だった。
最悪の事態は回避でき、夏休みに突入した。
相変わらず毎日ラインで連絡を取り(主に僕が)遊ぼうと言えば遊んでくれるので、週3日は会っていた。
それ以上も誘いたかったが、我慢した。
出かけるのは買い物や図書館で課題をというのが多かったが、浅野達と出かけることも多かった。
毎日じゃなくても、千景の様子を間近で見れて十分満たされた。
そしてある時、千景が笑った。
何の話をしていたか覚えてはいない。が、会話の途中で可笑しそうにふっと笑ったんだ。
一瞬固まったが、気付かれないように会話を続けた。
でも、内心歓喜の渦で心臓はバクバクしていた。
あぁ、もっと笑ってほしい。
屈託なく、常に笑っていてほしい。
そうしたらもう何も悔いはないのに。
僕も嬉しくなって、やけに上機嫌だと言われた。
うん。上機嫌だよ。
ふふふと笑う僕に、千景は気持ち悪いとやっぱり冷たかった。
今日もまた夢を見る。
国の気候は常に穏やか。
あまり大きな事件も起こらず、慢心していたのかもしれない。
王国隣の街で、人が行方不明になる案件があって俺の転生前であるクリスとギルが組んで調査にあたることになった。
推測された場所は街外れの古い教会。
着いてから先ずは、俺がサーチ能力で危険を探る。特に何も引っかかる所はなかった。
昼間だし、夜型のものかもしれないと二人で話しながら建物に入る。
教会の中に入って、一瞬違和感を感じたのに。
視覚とサーチの異常なしにそれを無視してしまった。
ギルと一緒というのにも安心していたのかもしれない。
二人が完全に中に入った瞬間、空間が歪んだ。
まずいと思ったが時遅く、歪みに取り込まれてしまっていた。
空間魔法を使う魔物はあまりいないし、上位のものが多い。
そしてそれはサーチにかかりにくい。
まずいの三文字がひたすら脳を埋め尽くす。
「クリス、下がれ」
「ごめん」
暗闇のどちらが上かも分からない空間で、せめてと灯りを灯すが自分たち二人が浮かび上がるだけだった。
どうせあちらには全て見られているならと、灯りの範囲を広げる。
「これは何だ?」
「空間自体が魔物だ。取り込み、糧にしている。弱点は火と光。…A級かな」
サーチをかけ敵を暴くが、内容はあまりよくない。
「襲ってはこないか」
「こちらがなにもしなければ、おそらく」
「核は?」
「ここにはない。恐らく外側」
厄介な魔物にため息がもれる。
ギルの得意は物理だ。
こういう敵は自分の分野だった。
魔術攻撃として、光か炎か…。
「光だ。ギル、補助頼める?」
「分かった」
何のと言わないまでも通じる疎通に心地よさを感じながら、身体に魔力を通す。
光属性の攻撃に入りながら、空間の弱点を探る。
入り口があるのなら、綻びはそこだ。
足元に歪みを感じて、「ここだ」と一気に青いプラズマを放つ光を叩き込んだ。
空気が歪み、四方から影のような物が襲いかかる。
それをギルが即座にはね除けながら、二人同時に足元の歪みに飛び込んだ。
光に一気に包み込まれ、思わず眩しさに瞼を閉じる。
魔物の中からは出れたけれど、実体を現した本体は目の前にあった。かなり巨大だ。
ギルがすかさず前に出て初手を防いでくれる。
その間に核を探す。
「ギル、上だ」
頭と呼べるものがあるなら、そこに赤い核が見えた。
見えないギルのために目印として印を魔物へ飛ばす。
「分かった」
即座に飛ぶが、届かないそれにギルが剣を投げて貫く。
全て即断で動かなければ間に合わない。
それでも、ギルと自分なら大丈夫だと思っていた。
他のチームでは成し遂げれないことを、確かに二人でこなしていた。
魔物の揺らぎにホッとした次の瞬間、自分のサーチの間違いに気づいた。
「違う、もう一つ」
希に核が複数ある魔物がある。
A級であればその可能性は十分考えられたのに。
剣を投げつけて小刀しかないギルに代わって魔術で核を貫くしかなくて。
「クリス下がれ!」
ギルが叫ぶ。
しかし、下がったら核に届かない。
師団の鉄則『自分のミスは自分で埋める』
少し焦っていたのかもしれない。
ミスを挽回しようと核を狙って魔術を放つ。
渾身の魔力でもって放った術は確かに核を捕らえてた。
でも、俺は回りを見てなかったんだ。
衝撃に飛ばされて、振り返った目に映ったのは、魔物に貫かれたギルの姿だった。
「え?」
何が起こった?
「ギル?」
ドッと倒れた身体に駆け寄る。
魔物はすでに消滅していた。
「ギル!」
既に意識もない身体を抱き起す。
どうしてこうなった?
自分はいったいいくつのミスをした?
倒れるべきは自分なのに。
戦闘音を聞いた街の人が寄って来るのに、救護班の要請を頼み、あまり得意ではない回復の術を必死にかける。
魔力が尽きて意識を失うまでひたすら治癒を施した。
血が、温もりが失われていく。
誰かが叫んでいる。違う、これは自分の声だ。
「ギル!」
はっと目を覚ます。
どくどくと激しい動機と汗が伝う。
一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
夢を見た時のために、鏡をすぐそばに掛けている。
鏡の中の自分は酷い顔をしていた。
大丈夫、僕だ。
記憶が混濁するため、自分の事はずっと僕と称している。
童顔のおかげでそれは違和感なく使えていて、クリスと僕との境目をちゃんと隔ててくれていた。
そうしないと、いつか夢に引っ張られて戻ってこれない気がしていた。
「僕は、咲耶」
呪文のようにつぶやく。
「千景は大丈夫」
はーっと布団にうつぶせながら言い聞かせるように言う。
あの後救護が来た時にはとっくにギルの魂はそこから消えていた。
クリスは大したお咎めを受けることはなく、よくある事故でそれは終わった。
多分大事だったのはサーチ能力を保有するクリスだったのだろう。
新しいパートナーをと言われていたが、誰にも告げる事なく王国を出た。
そこからひたすら旅をした。
命尽きるまでただ旅をした。
ギルがいなければ王国に留まる理由もなかったし、ギルがいなければ生きていく理由もなかった。
喪ってはじめてその存在をそこまで大事に想ってたなんて気づけなかったんだ。
どうして守れなかった?
誰よりもそれが出来る立場にありながら。
どうして間違えた?
どうしてギルは死んだ?
分かっている。全部自分のせいだ。
涙があふれる。
本当はずっと。あの世界で一緒にいたかった。
ギルが語っていた未来を自分が消してしまった。
「ごめん…ギル」
呟いた声は掠れていて誰のものなのか分からなかった。
「明日水族館行こうよ!」
僕の提案に千景はめんどくさそうな顔をしていたが、ペンギンが見れるって言葉にじゃあ行くとめでたくお誘いは成功した。
どうやらペンギンが好きらしい。
前世では海など知らなかったし、見たこともなかった。
どういう世界図になっていたのかも不明だが、生まれ変わって海や海の生き物を見た時はかなり感動したものだ。
残念ながら浅井達は都合が合わず二人で行くことになった。
まぁ千景と一緒なら何でもいいのだ。
服もきちんと選んだ。千景の傍に立つなら釣り合うようにしないと。
男二人でデートみたいだねと言うと案の定嫌な顔をされた。
でも無表情よりはいい。
はしゃぎながら、いろいろな魚を見ていく。
水族館は、夏休みとあってそこそこ人が多かった。メインは館内を貫く大型水槽だ。
ジンベイザメや様々な魚が悠々と泳ぐ様は圧巻で、あまりにも美しく見とれてしまう。
水の中の世界。
こことは違う時間のようなそれに、魅せられていた。
ふと気が付くと、千景も黙って見入っていた。
「魚って、綺麗だね」
素直な感想が口から零れ落ちた。
再び水槽を見つめる。
人混みの中、空気が変わった気がした。
距離感に既視感を覚える。
何度も二人で旅をした。
山の頂でみた朝日や、湖に映った星空とか、同じように黙ってただ二人で見てた。
いつもお前は少し斜め後で。
何でだろうと思ってたけど。
死角の少ないその位置で守ってくれてたのだと、居なくなってから気づいた。
今も同じ位置でいるのはただの偶然だろうけど、思い出してちょっと泣きそうになるから、半歩下がって千景に並ぶ。
「ペンギン、見にいこ?」
「え?あ、あぁ」
ぼんやりとしてた千景はちょっと瞬きをして、そうだなと歩きだした。
ペンギンをはしゃいで見て堪能して、電車で別れて帰る。
「送ろうか」
「え?」
「あ、いや。何でもない」
水槽の後から少し千景の様子がおかしい。
何だろう?
纏う雰囲気までもが少しギルに重なる。
まさか、僕がいるから記憶が引きずられている?
まさかな。
あれは、思い出しても仕方ない記憶だ。
あんな殺伐とした世界の事なんて、何の利にもならない。
知らない方がいい。
少し近付き過ぎたのだろうか。
まさかの想定外だが、今さら距離を空けるわけにもいかない。
まぁ、思い出すなんて万に一だろうし、片鱗を思い出しても夢か妄想くらいにしか思わないのが普通だ。
たぶん……大丈夫。
都合の悪い予感を意識から追い出して、
極力楽しい事に意識を向ける。
明日は何て誘おうかな。
今日の明日じゃ早すぎるかな?
うーん。
でも、会いたい。
千景に幸せになってほしい。笑っていてほしい。
それだけだったのに、ただ会いたいと思う心ももう隠しきれなくて。
また同じ夢を見そうな予感がするのに、今日はそこまで苦痛ではなかった。
何だろう?何かが変わっている。
僕の中でも、何かが。
あ。もうすぐ登校日だから、課題図書館でやろうって誘おう。
うん、そうしよう。
その前に、仮眠…。
思いの外疲れていた僕は、そしてそのまま眠りについてしまった。
部屋に差し込む朝日を見て、約束を取り付けてなかった!と飛び起きる。
当日でも来てくれるかなぁ、とスマホを引き寄せる。
画面を見て、固まった。
千景からラインが来てる!
こっちから送った返事しか、来たことなかったのに。
ドキドキしながら読む。
〈水族館、面白かったな〉
〈明日、図書館行かないか?〉
〈咲耶、寝てる?〉
はい、寝てました。
一生の不覚!
〈ごめん、寝てた〉
〈図書館いく!〉
〈何時にする!?〉
しゅぱぱぱと打ち込むが、すぐ既読にはならない。
寝てるかなぁ。
時間はまだ8時だ。
顔を洗ってリビングへいく。
「おはよー」
「おはよう」
あくびをしながら、パンを焼くべくトースターへ向かった。
父母は共働きで、すでにいない。
兄は大学生で県外へ出ているし、下は双子の姉妹だった。
挨拶をしたのは妹の葵。
お互い夏休みで気が抜けていて食事の間も無言だ。
ピコンと電子音に即座に反応する。
〈おはよう。だと思った〉
〈10時でどうかな〉
オッケーのスタンプを押して、パンを齧る。
「咲兄、やけに嬉しそう。彼女?」
「いんや。彼氏」
ブハッとコーヒーを吹き出す葵に、汚いなぁとパンを避難させる。
「え。咲兄。え?」
「ばっか、冗談だよ」
そんなものよりもっと大切な人だ。
混乱する妹を置き去りに、食事を終えて自室へ戻る。
出かける用意をして、さっさと家を出た。
図書館なら早く着いても暇はつぶれる。
千景が来るまで本でも読んで待っていれば、すぐだ。
今日は何しようかな?
課題のレポートなんかちょうどいい。
ネタ探しをして、千景来てから練り込めば。
そうだ、そうしようと思いつきに満足して、図書館へと向かった。
千景を待って、いろいろな本を漁る。
テーマは自由って、一番困るやつだよな。
歴史とか、福祉とか、そこらへんか。
ウキウキと相手を待って、一緒に過ごす。
それだけで楽しかった。
いつの間にか、自分が楽しんでいる。
千景も少しずつ笑ってくれてる。
そんな様子を見るだけでほっとしていた。
そういえば前世でも、最初はギルを心配ばかりしていたな。
危なげなギルを見出したのも僕だった。
あの時も独り立ち出来たら離す気でいたのに。
前世ではそこそこの家に生まれ、能力を見出だされてからは訓練と教育を受けて育った。
花形だが危険を伴う職のため、武術も必要で。
成人の後にパートナーと組んで仕事を始める事になっていた。
最初は相性を重視して、希望のパートナーを指名出来ると言われた。
正直誰でもいいと思っていたのに。
一般の訓練の傍を通ったとき。
既に有名人となっていた俺にひそひそと好奇や期待の眼差しがささる。
鬱陶しいなと思って見た先に、ギルがいた。
しごかれたのが、ボロボロの姿で。
でも凛とした綺麗な立ち姿で、多分すぐに強くなるだろうなと思った。
そして眼が。
強くこちらをまっすぐ何の感情もなくただ見ていた眼に惹かれた。
俺はギルをパートナーに指名して、さりげなく足りない所を教えるように連れまわした。
周りは反対していたが、ギルアートがめきめき強くなると手のひらを返したように褒め称えた。
でも、いちばん危ないポジションであるのは間違いなくて。
いつか離れないとと思いながら手離せなかった俺のせいで、結局死なせてしまった。
今も、理由をつけてただ傍にいたいだけなのかもしれない。
でもそれが今回も千景によくないことだとしたら?
離れられるのだろうか。
「むり…」
「何が?」
机に突っ伏してあれこれ考えていたら、いつの間にか時間になったらしい。
千景は机に積まれた本をチラリと見て隣に座った。
「課題そんなに難しい?」
「うー」
咄嗟に切り替えが出来なくて、唸るだけの僕に千景は笑いながら頭をくしゃりと撫でた。
「頭いいくせにな」
「ゼロから考えるのは苦手なんだよ」
触られた髪に全神経を向けながら、課題が嫌なそぶりで顔を隠す。
多分僕の顔は真っ赤だと思う。
千景の、温もり……。
ちょっと不意討ちすぎるだろう。
「じゃあ1まで考えてやるよ」
パラパラと本を捲る音がする。
その間になんとか平静を取り戻さなければ。
深呼吸だ。深呼吸。
どうにか動悸をやり過ごし、課題も無事終わらせて帰宅するとベッドにダイブする。
疲れた…。
千景と居たいのに、いつも酷く何かを消耗する。
はぁとため息をついたとこで、また千景からラインが届いた。
〈明日、うちくる?話たいことあるし〉
「え?」
声に出た。
驚きすぎて固まる。
あんなに嫌がってたのに?
〈いく!〉
話が何だか分からないけど行けるなら。
ピコンと地図が貼り付けられる。
〈迎え行こうか?〉
〈大丈夫!ありがとう〉
驚きはしたけど、嬉しくなってきた。
多分、僕が家に行きたいって言ったのを気にしてくれたんだろうな。
仲良くなれた…のだろうか。
嬉しさと少しの不安と。
眠れるだろうかと心配したけども、昼間の疲れか気が付いたら眠りについていた。
千景のうちはマンションだった。
エントランスで番号を呼び出して鍵をあけてもらう。
ドキドキしながら部屋へ入った。
「おじゃましまーす」
「どうぞ」
てっきり千景の部屋へ行くのかと思ったけど、リビングに通される。
綺麗に整頓された部屋。
両親は共働きらしいけど、千景がそれで不自由している風はない。
手渡されたアイスティーをありがとうと受けとると、千景もソファーへ座る。
並んで座った千景は戸惑っているようにも見える。
「千景?どうしたの?」
「いや、あんまり人を呼ぶことないから、少し緊張する」
「そなの?じゃあ僕はクラスメイトから友人くらいに昇格してるって事だよね!?」
「なんだそれ、とっくにだろ」
やったーと喜ぶ僕に、吹き出しながら笑って千景が言う。
レアな千景に見とれてると、ふと真顔になった千景は手元のグラスを見ながら躊躇するように話し出す。
「昔は友人を招く事も多かったんだ。でも、発作が起きるようになって」
「発作?」
「原因は分からないけど、急によく分からないことを言って、気を失うらしい」
「え。大丈夫なの?」
心配になって、俯いた千景を覗きこむ。
「いろいろ調べたけど、体に異常はなかった。ただ、何回かあるうちに条件は分かって」
「うん」
「狭い空間、暗さ、同年代の友人と二人」
「?」
「それが揃ったら発作が起きる」
「そうなんだ。だから、部屋じゃなくてリビング?」
「そう。悪いな」
「いや、大丈夫」
「部屋以外も、エレベーターとかやばい」
「そっかぁ」
「だから、あまり同級生とつるんだりしなかったんだけど」
なるほど。
そこに押し掛けたのが僕ってことか。
拒絶しながら、寂しかったのかもしれない。
千景の憂いを取り除いてあげたいけど。
「発作の時にさ、相手にここから出たら死ぬから出ちゃだめだって言うらしい」
「え?」
「引くだろ?ヤバいよな」
「…」
記憶は、ないはずた。
なのに、それがあの時の場面と重なる。
死ぬのは僕ではないけど。
「だからこの先咲耶といたら、どこかで起きるかもしれない。その話もあって、今日来てもらったんだ」
「あ…うん。そっか!わかった!運ぶのはまかせて!」
努めて明るく言う僕に、千景はほっとした様に息を吐く。
「ありがとう。でも何でかな、咲耶となら平気な気がするんだ」
「え?」
「何かの不安だろうって医者に言われたよ。それが何か分かって、不安も取り除けばよくなるって」
「そっか」
「咲耶がいれば不安じゃないんだ」
「千景?」
「この間から何かを忘れてる気がして。それが思い出せたらきっと」
「あ、あれだ。昔何か見てそれがトラウマになってるとか!でもほらそういうのって、思い出さない方がいいよ!」
「そうかな」
「そうそう!なるべく一緒にいるし、何かあってもフォローするし!だから安心して!?」
努めて明るくまくし立てる。
思いだしかけてる?
いや、ダメだろう。
あんな記憶。思い出しちゃいけない。
あんな殺伐とした記憶、ないほうがいい。
「わかった」
千景の言葉にホッとする。
「やっぱり咲耶、何か知ってるよね」
「え?」
冷や水を浴びせられたように血の気が下がった。
「何を…?」
「分からないけど。ずっと違和感感じてた。咲耶ってさ、いつも笑ってるけど、笑ってない」
「…」
「初めから違和感しかなくて。何でここまで俺を構うのかも分からなくて。何かの義務感の様にも感じた」
「違う、千景」
義務感とか、使命感とかは確かにあったかもしれないけど。
でもそれだけじゃなくて。
「俺はそれでもいいと思った。何故か咲耶がいたら不安が消えるんだ」
ふわりと笑う千景に泣きそうになる。
何と言ったらいいのか分からなかった。
「そんでさ、さっきのだけど。咲耶何を知ってるの?」
「何も…」
じっと射ぬくように見つめる視線に思わず目を反らす。
「じゃあさ、一緒に来て」
「え?」
千景に腕を掴まれ、リビングを出る。
廊下の途中の扉。
カチャリと開けた向こうはカーテンを閉めてるせいか、薄暗い。
「千景?」
「入って」
「でも、これ」
「咲耶が居たら分かる気がするんだ」
「いや、ダメだ」
「どうして」
入るのを拒否して腕を振りほどこうとするのに、外れない。
案外力強いな。
「思い出さないほうがいい」
「じゃあ何を知ってるか教えて」
「無理。千景、かんべんして」
「そっちのが無理。咲耶と小さい時に会ったことあった?」
「いいから離して」
「言えないなら入って」
「駄目だ!」
部屋の前で押し問答をする。
かよわいわけじゃないから、力ずくはどうにか免れているが。
ぐいぐい引っ張る千景に逆らいながら、また何か間違えたと後悔する。
今部屋に入れば千景は思い出すような予感がした。
ダメだ、それだけは。
あんな記憶思い出すものじゃない。
またミスをした。またどこで?何を間違えた?
思い出させたらダメだ。
「わかったから!話すから!」
ふっと力が緩む。
掴まれた所が痛い。馬鹿力め。
「本当?」
「だから、一旦リビングに」
次の瞬間、腰を引き寄せられて、抱き抱えられるように部屋へ引き込まれた。
「ちょ、」
「嘘って書いてた」
「ダメだ!思い出さないほうがいい!!」
叫ぶけど、遅かった。
パタンとドアが閉められる。
空気が変わる。
薄闇に二人。
息苦しくなる。
誰かの部屋だと視覚は映しているのに。
闇がまとわりつく感覚。
どこにいるのか分からなくなる。
ナンダコレハ?
息苦しい。
まずい。
ここは、まずい。
ここは、ダメだ。
ギルはどこだ?
逃げなければ、ここから。
誰かに抱きしめられている。
だめだ、動かないと。
「クリス」
あぁ、ギルだ。
苦しそうな声に大丈夫だと抱きしめ返す。
大丈夫だ、俺が助けるから。
何があっても、今度こそ。
遠くなる意識の中で、繰り返し繰り返し大丈夫だと呟く。
呟きながらそのまま俺は意識を手放していた。
ふっと意識が浮上する。
暖かい何かにくるまれていた。
目を覚ますと、ベッドに横たわっていて、誰かに抱き込まれていた。
「千景?」
「目、覚めた?平気?」
前髪を掬うように覗き込まれる。
心配がその表情から見てとれた。
「平気。千景……記憶」
「思い出せたよ」
ざっと血の気が引くのが分かった。
ダメだった。
落胆してため息をつくと、そっと顔を挟まれて千景に向けられる。
「何でそんなに嫌がるんだ?」
「だって…そんなのないほうがいい」
「俺にとっては大事な記憶だ」
「でも……。俺といたんじゃまた……」
目を反らして、聞いてみる。
「なぁ、恨んでないのか?」
本当はずっと聞きたかったこと。
不安で思わず涙が溢れる。
「俺はね、ずっとクリスに救われていたんだ。クリスが俺を選んでくれた時から。クリスがいなければとっくに死んでた命なのに恨むわけない」
優しく涙を拭うから、ますます止まらなくなる。
「でも、ごめん」
謝る僕に笑って千景が目元にキスを降らす。
ちょっと驚いて涙が止まった。
「ちょ、何して」
「咲耶可愛いって、ずっと思ってた。咲耶が笑ってるだけで何でか不安が消えるのが分かった。だから最初から拒めなかっただろ?」
「可愛いって……」
いろいろ複雑な気分になってきた。
「あのあと、死んだのは俺だけ?」
「うん……」
千景が良かったと呟く。
「あとは誰がパートナー?アグナ?ウィル?」
「誰も。すぐに王国でたし」
「え」
「ギル以外と組む気なかったし」
とたんにぎゅうぎゅうと抱きしめられて苦しい。
「ちょ、千景、苦しい」
「あ、ごめん。嬉しくて」
何だよもぅ、と苦情を言うが、千景はニコニコして全く懲りた様子はない。
「千景に笑って欲しかったんだ」
「そうか」
「だから、つらい記憶なんか思い出さないほうがいいって思って」
「うん」
「その代わり傍で助けられたらって。でも、ただ僕が傍にいたかったのかも」
「そう。でも俺は思い出した今のほうが幸せだ」
柔らかい笑顔に嘘ではないのが分かった。
「そっか、ならよかった」
何だか安心して、千景に抱きつく。
温もりにまた泣きそうだ。
「咲耶、あんまり抱きつかれると……」
「え?嫌?」
やっぱりどこか許せないのだろうか。
「そうじゃなくて」
不安になって千景を見上げる。
と、再びぎゅうぎゅう抱き込まれた。
「千景だって抱きついてるじゃん」
「俺はいいの」
抱きつかれるのはダメで、自分が抱きつくのはいいとかどういう理屈?
でも、 苦しいけど何か嬉しい。
「これからも、傍にいていい?」
「逆だ。傍にいてほしい」
その言葉に心底喜びがこみ上げる。
ふふっと笑いながら、温もりを確かめる。
今度こそ失わないように。
今度こそこの世界で。
「千景が何よりも大事なんだ。僕が千景を今度こそ幸せにするから」
「咲耶それ……プロポーズみたい」
「え。そうかな?」
真面目に言ったつもりなのに、変だったろうか。
悩む僕をよそに、千景は笑いながらありがとうと言った。
千景が穏やかに微笑むから、まぁいいかと僕も笑い返す。
そして願う。
この先千景が、穏やかに、幸せに過ごせますようにと。
祈るように願う。
薄闇の中、あの世界の気配はどこにもなくて、確かな温もりが願いの成就を予感させていた。
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