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薄墨の章 多賀国府7
~烏兎ヶ森山~2
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「さて、為時殿。我らがお伺いした用向き、すでにお分かりかと思うが、金氏はどうなされるおつもりかお聞かせ願いたい。」
経清が、つがれた杯を呑み干して問うた。
「その前にお尋ね申します。此度の件、朝廷から勅を賜ってのことか否か?」
為時は経清の目を真っ直ぐに見て言った。
「未だ勅は受けてはおらぬが、許しを得るための使者は既に発った。いずれ、征討の勅を賜ることになろう。」
膝に手を置き、経清は答えた。
「・・・ほう。では、今はまだ正式な討伐の軍ではないということですな?いや、むしろこのままでは順序が逆さま。奏上が認められなければ、その軍に加わるということは、私戦に加担することになるやもしれぬ可能性があると・・・。」
為時は、射抜くような視線を経清に向ける。
「では、気仙郡は安倍方につかれるということでよろしいのですね?」
経清は視線に動じることなく、問い返した。
「・・・いや。この金為時、帝より金姓を賜った一族として、また朝廷よりこの気仙郡をお預かりする郡司として、正式な勅なくして、みだりに軍を動かすことは出来ませぬ。かと言って、上官たる陸奥守様に兵を向けることもまた出来ぬこと。」
為時は視線を外さず言葉を続ける。
「では?」
経清と永衡が見つめる。
「朝廷より正式な勅が下されるまで、気仙郡は動くことはないであろう。」
為時はそう言って、目を閉じ、一礼した。
「・・・ふーぅ。」
長い沈黙のあと、永衡が息を吐く。
「建前(たてまえ)はここまでじゃ。」
経清が全身から力を抜いて、正座していた脚をあぐらに組み替えた。
「先ほどのお答えを承って、我らに課せられた任は果たされました。ここからは我ら自身の目的について話したい。」
経清が為時に酒を注ぎながら話し出すと、永衡も隣でうなずく。
為時は目で先を即した。
「わしは、恐らく勅は下るまいと思っておる。ここ何十年もの間、この地に下る国守や将軍もおられなかったにも関わらず、俘囚による反乱も無く、表向きは平穏にありました。そこに、にわかに俘囚の狼藉を訴えたところで、朝廷の方々がまともに取り上げられるはずがございません。」
経清は酒をひと口飲んで口を湿らせる。
「為時殿もご存知のように、国守様はあのようなお人柄。己の欲をあらわにすることはあっても、本来であれば欲に駆られて戦を起こすような方ではありません。しかし今回は、甥の秋田城介殿の力を頼み、さらには両人の積み重なった鬱憤が形となって現れようとしております。」
話す経清の横で、永衡は動かない。
「では散位殿たちはいかがなされるおつもりじゃ?」
為時が経清に酒を注ぐ。
「最後まで私戦で終わる戦に加担するつもりはございません。安倍氏方に理があるならば、この微力を供するまでと考えております。」
経清が断言すると、永衡も大きくうなずいた。
「なるほど。だがお二方は、国府在庁の官人。また、わしと同じ郡を預かる郡司でもある。曰理や伊具で兵を挙げたところで、またたく間に潰されるだけではないのか?」
為時は、経清らの決断を咎めることなく、もっともなことを問うた。
そこで、経清は永衡と話し合った、これからの計画を打ち明けるのだった。
経清が、つがれた杯を呑み干して問うた。
「その前にお尋ね申します。此度の件、朝廷から勅を賜ってのことか否か?」
為時は経清の目を真っ直ぐに見て言った。
「未だ勅は受けてはおらぬが、許しを得るための使者は既に発った。いずれ、征討の勅を賜ることになろう。」
膝に手を置き、経清は答えた。
「・・・ほう。では、今はまだ正式な討伐の軍ではないということですな?いや、むしろこのままでは順序が逆さま。奏上が認められなければ、その軍に加わるということは、私戦に加担することになるやもしれぬ可能性があると・・・。」
為時は、射抜くような視線を経清に向ける。
「では、気仙郡は安倍方につかれるということでよろしいのですね?」
経清は視線に動じることなく、問い返した。
「・・・いや。この金為時、帝より金姓を賜った一族として、また朝廷よりこの気仙郡をお預かりする郡司として、正式な勅なくして、みだりに軍を動かすことは出来ませぬ。かと言って、上官たる陸奥守様に兵を向けることもまた出来ぬこと。」
為時は視線を外さず言葉を続ける。
「では?」
経清と永衡が見つめる。
「朝廷より正式な勅が下されるまで、気仙郡は動くことはないであろう。」
為時はそう言って、目を閉じ、一礼した。
「・・・ふーぅ。」
長い沈黙のあと、永衡が息を吐く。
「建前(たてまえ)はここまでじゃ。」
経清が全身から力を抜いて、正座していた脚をあぐらに組み替えた。
「先ほどのお答えを承って、我らに課せられた任は果たされました。ここからは我ら自身の目的について話したい。」
経清が為時に酒を注ぎながら話し出すと、永衡も隣でうなずく。
為時は目で先を即した。
「わしは、恐らく勅は下るまいと思っておる。ここ何十年もの間、この地に下る国守や将軍もおられなかったにも関わらず、俘囚による反乱も無く、表向きは平穏にありました。そこに、にわかに俘囚の狼藉を訴えたところで、朝廷の方々がまともに取り上げられるはずがございません。」
経清は酒をひと口飲んで口を湿らせる。
「為時殿もご存知のように、国守様はあのようなお人柄。己の欲をあらわにすることはあっても、本来であれば欲に駆られて戦を起こすような方ではありません。しかし今回は、甥の秋田城介殿の力を頼み、さらには両人の積み重なった鬱憤が形となって現れようとしております。」
話す経清の横で、永衡は動かない。
「では散位殿たちはいかがなされるおつもりじゃ?」
為時が経清に酒を注ぐ。
「最後まで私戦で終わる戦に加担するつもりはございません。安倍氏方に理があるならば、この微力を供するまでと考えております。」
経清が断言すると、永衡も大きくうなずいた。
「なるほど。だがお二方は、国府在庁の官人。また、わしと同じ郡を預かる郡司でもある。曰理や伊具で兵を挙げたところで、またたく間に潰されるだけではないのか?」
為時は、経清らの決断を咎めることなく、もっともなことを問うた。
そこで、経清は永衡と話し合った、これからの計画を打ち明けるのだった。
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