日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

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驟雪の章 衣川 2

~月山~ 2

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 最後の使者が手ぶらで戻ったのを見て、頼義は赫怒かくどし、いよいよ大軍を衣川関に差し向けようとした。

 頼義は、しゅうと平直方たいらのなおかたから譲り受けた鎌倉の郎党をはじめ、相模の者たちに声をかけた。

 その呼びかけに、板東のたける者たちは、雲がにわかに集まって、雨が降りしきるようにやってきた。

 その数は、歩兵と騎兵をあわせて万に迫る大群であり、輜重しちょうとそれを運ぶ兵卒は
野に満ち山を覆うかのようであった。

 陸奥国の国内では、この勢いに震えおののき、頼義の挙兵の呼びかけに、郡司、郷司問わず、皆これに応じるのであった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


支度したくの整った隊は、順次、此治城へ出立せ~い。」

輜重隊しちょうたいは、ひとまず桃生柵へ入るのだ。わかったか!」

「桃生柵からは、船だぞ~。」

 多賀国府の府下は人と馬、荷車でごった返していた。

 無精髭を生やした荒武者に率いられて、次々と到着する坂東からの兵たちが、在庁武官の指示であちらへ、こちらへと移動しながら、怒声をあげている。

 そんなすさまじい喧騒の中、此治城へと向かう一隊の内に、一際大柄な荒武者が率いる一団があった。

 荒武者の身の丈は六尺をゆうに超えており、髭面ではあるが色白で、髪は直毛でやや赤みを帯びていた。

 後に続く兵卒たちは、大きな葛籠つづらをいくつも載せた荷車を牛に曵かせ、その後ろを押しながら進んでいく。

 輜重隊とは別に、当座とうざの自分たちの食い扶持ぶちなどを共に運んでいくのは珍しいことではないので、その様子は一向に怪しまれることはなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「---そういうことになった・・・。お前たちは、豊田館とよだのたちへ行ってくれ。」

 頼義らと共に国府へと戻った経清と永衡は、妻子たちを集めてことの詳細を語り聞かせた。


 次兄貞任が、国守や権守らの策謀によって罪に陥れられたこと。

 それでも、捕獲される前に窮地きゅうちを脱し、早々の落命はまぬがれたこと。

 国守からの再三の召喚命令に対して、安倍は断固拒否したこと。

 したがって、もはや国府軍と安倍の間に、いくさが避けられないこと。

 どちらが勝つにせよ、安倍の一族であり、貞任の実の妹である有加らの立場は、非常に危ういものであり、万が一、ひとじちとされた場合、安倍にとってもそして経清と永衡にとっても身動きができなくなるおそれがあること。


 ひとつひとつ丁寧に、んで含めるように言い聞かせた。


「それでもわたくしは、経清さまのもとにいとうございます。」

「わたくしも、永衡さまと共に・・・。」


 有加と中加が、すがるような目をして訴えた。


「だめだ。そなたには、やらねばならぬことがある。」


 そう言って経清は、母の腕にいだかれた赤児に目を落とした。

 つられて、有加が自らの手の中で、何ごともないかのごとく、すやすやと眠る我が子の顏を観た。


千寿丸せんじゅまるは、未来だ。安倍の・・・そして藤原の・・・・いや、陸奥みちのくの未来なのだ。」


 経清が手を伸ばして、柔らかな髪の毛の生える小さな頭を優しく撫でた。

 その仕草を、その場にいる全員が見ていた。


「---理解りました。」


 有加の言葉に、経清が顔を上げ、その瞳を見つめる。


「かならずや・・。必ず、迎えに来ていただけますね?」


 有加は、経清の目を見つめ返して確認した。


「わたくしも。」


 中加が、永衡の顔を真っ直ぐに見て言う。

 経清と永衡は、黙って頷いた。



「---照井殿、ではよろしくお頼み申す。」


 経清が、有加たちの後ろに控えている大男に声をかけた。
 
 照井氏の当主、照井太郎てるいたろうが、頭を下げて微笑んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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