67 / 69
驟雪の章 衣川 2
~月山~ 2
しおりを挟む最後の使者が手ぶらで戻ったのを見て、頼義は赫怒し、いよいよ大軍を衣川関に差し向けようとした。
頼義は、舅の平直方から譲り受けた鎌倉の郎党をはじめ、相模の者たちに声をかけた。
その呼びかけに、板東の猛る者たちは、雲がにわかに集まって、雨が降りしきるようにやってきた。
その数は、歩兵と騎兵をあわせて万に迫る大群であり、輜重とそれを運ぶ兵卒は
野に満ち山を覆うかのようであった。
陸奥国の国内では、この勢いに震えおののき、頼義の挙兵の呼びかけに、郡司、郷司問わず、皆これに応じるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「支度の整った隊は、順次、此治城へ出立せ~い。」
「輜重隊は、ひとまず桃生柵へ入るのだ。わかったか!」
「桃生柵からは、船だぞ~。」
多賀国府の府下は人と馬、荷車でごった返していた。
無精髭を生やした荒武者に率いられて、次々と到着する坂東からの兵たちが、在庁武官の指示であちらへ、こちらへと移動しながら、怒声をあげている。
そんな凄まじい喧騒の中、此治城へと向かう一隊の内に、一際大柄な荒武者が率いる一団があった。
荒武者の身の丈は六尺をゆうに超えており、髭面ではあるが色白で、髪は直毛でやや赤みを帯びていた。
後に続く兵卒たちは、大きな葛籠をいくつも載せた荷車を牛に曵かせ、その後ろを押しながら進んでいく。
輜重隊とは別に、当座の自分たちの食い扶持などを共に運んでいくのは珍しいことではないので、その様子は一向に怪しまれることはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「---そういうことになった・・・。お前たちは、豊田館へ行ってくれ。」
頼義らと共に国府へと戻った経清と永衡は、妻子たちを集めてことの詳細を語り聞かせた。
次兄貞任が、国守や権守らの策謀によって罪に陥れられたこと。
それでも、捕獲される前に窮地を脱し、早々の落命は免れたこと。
国守からの再三の召喚命令に対して、安倍は断固拒否したこと。
したがって、もはや国府軍と安倍の間に、戦が避けられないこと。
どちらが勝つにせよ、安倍の一族であり、貞任の実の妹である有加らの立場は、非常に危ういものであり、万が一、質とされた場合、安倍にとってもそして経清と永衡にとっても身動きができなくなるおそれがあること。
ひとつひとつ丁寧に、噛んで含めるように言い聞かせた。
「それでもわたくしは、経清さまのもとにいとうございます。」
「わたくしも、永衡さまと共に・・・。」
有加と中加が、縋るような目をして訴えた。
「だめだ。そなたには、やらねばならぬことがある。」
そう言って経清は、母の腕に抱かれた赤児に目を落とした。
つられて、有加が自らの手の中で、何ごともないかのごとく、すやすやと眠る我が子の顏を観た。
「千寿丸は、未来だ。安倍の・・・そして藤原の・・・・いや、陸奥の未来なのだ。」
経清が手を伸ばして、柔らかな髪の毛の生える小さな頭を優しく撫でた。
その仕草を、その場にいる全員が見ていた。
「---理解りました。」
有加の言葉に、経清が顔を上げ、その瞳を見つめる。
「かならずや・・。必ず、迎えに来ていただけますね?」
有加は、経清の目を見つめ返して確認した。
「わたくしも。」
中加が、永衡の顔を真っ直ぐに見て言う。
経清と永衡は、黙って頷いた。
「---照井殿、ではよろしくお頼み申す。」
経清が、有加たちの後ろに控えている大男に声をかけた。
照井氏の当主、照井太郎が、頭を下げて微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
影武者の天下盗り
井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」
百姓の男が“信長”を演じ続けた。
やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。
貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。
戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。
炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。
家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。
偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。
「俺が、信長だ」
虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。
時は戦国。
貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。
そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。
その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。
歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。
(このドラマは史実を基にしたフィクションです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる