上 下
81 / 98

81.イワン商会

しおりを挟む
6人と1匹で昼食を『シンちゃん食堂』で取ったあと、俺たちは商業ギルドへと戻ってきた。

「『ふじの湯商会』さん!」

ギルド1階のロビーから、2階の会議室へ向かおうとしていたら、横から声をかけられた。

「あっ、イワンさん?!」

振り向くと、先日会った『イワン商会』のイワンさんがいた。

「先日はどうも」

「銭湯、入らせていただきました!あれは素晴らしいですね!」

俺が挨拶すると、すごい勢いで寄ってきて、両手を握られ上下にブンブンと振られる。

「は、はあ。それは良かったです。気に入っていただけて・・」

振られる手に合わせて、俺の首もガクガクと上下する。

「それに。なんですか、あの水とお湯が出てくる仕組みは?!」

顔が近いっす・・。

「ああ、アレは貯水槽と水道管、それに蛇口を組み合わせた仕組で、ドンク工房さんと共同開発したものです」

「そうなんですか!?是非、あの仕組みを領都でも普及したいのですけど、業務提携をしていただけませんか?」

「いや・・あの、急に言われましても、ちょっとすぐには・・ドンクさんにも相談しませんと・・」

俺は、そっと握られた手を離しながら言った。

「そうですよね・・では、後日お時間を取らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。この仕組み全体や蛇口自体も、ドンク工房さんと共同で登録してありますので、ギルドを通して商談の場を設けてもらってもいいですか?」

俺はこの世界の商習慣なんて、まだ良く分かっていないからな・・相手が商人のプロだし、なるだけ慎重にいかないと・・。

「もちろんです!あっ、そういえば『おやすみ処』も、もうすぐ改装が終わるんでしたよね?」

イワンさんは破顔し、続けてそう言って来た。

「ええ、あと2日か3日ほどで完成すると思います。丁度、新装開店に向けて、新しい従業員の面接をしていたところでして・・」

「ほう!着々と、事業を広げられているということですね。ますます、業務提携に向けて意欲が沸いてまいりました!」

んー・・これが根っからの商人ってやつか・・すごいな。

「そういうことで、これから午後の面接ですので、失礼させていただきます」

「おお!そうですか。足をお止めして申し訳ありませんでした」

「いえ、大丈夫です」

「では、わたしも商談がありますので、ここで失礼いたします。今日は本当にどうもありがとうございました!」

「はい、では失礼します」

お互いに一礼すると、イワンさんは個室(商談室)へ、俺たちは2階の会議室へと向かった。

「マモルさん!すごいですね」

ポールがメガネをクイクイ上げながら、興奮したように言ってくる。

「何がだ?」

「領都の大商会である『イワン商会』の会頭さんと知り合いなんて、凄くなくてなんだって言うんですか?!」

「領都の商会というのは知っていたけど、そんなに大きな商会なのかい?」

俺がそう聞き返すと、ポールが目を丸くして言ってきた。

「当たり前じゃないですか!『イワン商会』といえばこの国でも5本の指に入る大商会ですよ!この国の主な領都に支店があって、その上この大陸にある4つの国の王都にも支店がある凄い商会じゃないですか!」

そんなに凄い人だったのか・・。

「そうか・・じゃあ、この提携話はそれこそ慎重に対応しないといけなさそうだな・・」

「もちろん!」

いまだに興奮しているポールを横目で見ながら、階段を昇って行った。
しおりを挟む

処理中です...