僕はスキルで思い出す

魔法仕掛けのにゃんこ

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二章 王都バッシュテン編

オーリン・リュカーオ

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教会にある塔の窓から見下ろす町の通りは人気がなく、静謐な雰囲気を漂わせている。家々には明かりが灯り、今日一日の疲れを家族で過ごす事で癒すのだろう。家族……私にも両親はいたはずだけれど、生まれてすぐに教会に引き取られ、それ以来両親に会ったことはない、もちろん顔など覚えていない。
普通10歳の準成人式でスキルを授かるはずだけれど、私は生まれつきスキルを持っていたためだ。
生まれつきスキルを持つ子は額に三角形の痣があり、成人してから授かるスキルより強力な事が多い。私が持っていたスキルは『神眼』と『神聖魔法』で、特にユニークスキルである『神眼』のせいで私は教会から一歩も出る事ができない生活を余儀なくされている。『神眼』とは『鑑定』系統の最上位スキルであり、全ての人や物を完全に鑑定する事ができるものだからだ。人は誰もが知られたくない事がある、秘密を知られる事を恐れるのは普通の事であり、それを看破してしまう私は人々から離れて生活せねばならなかったのだ。

「オーリン様、本日のお役目お疲れ様でした。あまり夜更かしなどせず、お休みなさいませ。」

御付のシスタージェンマがそう言って部屋を出て行った。
『神眼の聖女』である私には毎日のお勤めがある。重要な魔法具を鑑定したり、大病や大怪我をした人を治癒したりする事が主だ。魔法具は隠された機能があったり、時間による劣化や故障があったりするためで、治療は『神眼』で悪いところやその原因を調べ『神聖魔法』で癒す事ができるからだ。

私は小さい頃から聖女として育てられた、何不自由ない生活をさせてもらっているし、イーディス神に使える事に不満はない。だけど……スキルの事を隠して市中で生活してみたい、6歳の普通の子はもっと違う人生を送っているはずだ……そんな他愛もない空想をしてしまう。私は6歳にしては大人びていると言われる事がある、多分同い年の子と接する事がないからだと思う。何が普通なのかわからない……



「君が神眼の聖女様だね?僕の名はパルシュ、今日はお手柔らかに頼むよ。」

そう声を掛けてきたのはまだ若い神父だった。私の仕事の一つに教会で奉仕をしている人のスキルを調べ、何が向いているのかの助言をすると言うのがある。生まれ持った才能だけでなく、後天的に得たスキルもある。それらを活かした仕事をすれば成功しやすいからだ、もちろん本人が希望すればそれ以外でも全然問題ないと思う。人は何でも自分で選ぶべきなのだ。

「ではこちらのテーブルにどうぞ。」

私はパルシュ神父に席を勧めると、早速『神眼』で調べる事にする。

ステータス
名前 パルシュ
種族 人間(魔族)
職業 神父
ユニークスキル  なし(『エナジードレイン』)
スキル      『神聖魔法Lv2』
         『詠唱速度Up Lv1』

ガタッ

私は驚きのあまり椅子を引いて神父を凝視してしまったが、神父は特におかしなそぶりもなく大人しく座っている。

「どうかしたかい?僕は準成人式の時は『神聖魔法』しかなかったんだけど、それから大分修行したし何かスキルが開花してるとうれしいんだけど。」

彼は何を言っているのだろうか、邪悪な魔族が何故神父に化けているのか。すぐ人を呼んで拘束しなければならない。
しかし……私が見たら看破されるなんてわかってるはずなのに……もしかして、自分が魔族だっていう事がわかっていないというのだろうか?そんなおかしな事が……?

「あの、結果の前に少しお聞きしておきたい事があるんですけど。」

「なんでもどうぞ。」

「それじゃあ……」

パルシュ神父に聞いてみたところ、彼はイーディス聖教国の南東アールヴの村出身で、生まれたばかりの頃に教会に捨てられていたところ、村の神父に拾われて孤児院で育ったそうだ。準成人の日に『神聖魔法』を授かった時、神父は「神への信仰を忘れず、正しき道を行きなさい。」と言う言葉を送ったそうだ。

魔族は生まれながらに邪悪だと言われている、私もそう教えられてきた。だけど目の前のパルシェ神父はあろう事か『神聖魔法』を取得している。『神聖魔法』は神への信仰の魔法、決して邪悪な者に使える魔法ではない。すると生まれが魔族だとしても、正しき育ちをすれば邪悪ではなくなると言うのだろうか。

種族とユニークスキルは生まれつき隠蔽されていたというよりは、村の神父が何らかの魔術で隠蔽したと考えるのがよさそうな気がする。送った言葉が意味深すぎるからだ。村の神父は彼が魔族だとしても邪悪ではないと判断したのだろう。

「これから話す事は誰にも言わないでください。」

私は迷ったが、そう前置きをして鑑定結果をパルシェ神父に伝えた。自分の事を知る権利はあるはずだ。

「そんな!?僕が……魔族だったなんて……」

衝撃に頭を抱えているパルシェ神父、見た目は全く人間と変わらないので今まで問題なく生きてきたのだろう。新しく覚えたスキル『詠唱速度Up Lv1』を伝え『エナジードレイン』(体力や魔力を吸収するスキル・魔族以外には取得できないスキル)はなるべく使わないように助言した。そして今回の結果は誰にも言わない事を約束し、生まれが魔族であっても正しき道は進めるのだという事を見せて欲しいとお願いした。村の神父もそれを願っていたはずだと。
パルシェ神父はこれからもイーディス神への信仰は変わらないし、正しき道を進むと約束してくれて面談を終えた。
この時私は知らなかった、面談を陰から見ていた者がいた事を……



私はシスタージェンマに教会の裏庭へと連れて行かれた。そこには二人の神官に両腕をとられ地面に押さえつけれたパルシェ神父がいた。

「よくも騙したな!言わないって言ったのに、何が聖女だ嘘つきめ!」

私を睨みながらパルシェ神父がそう叫ぶ。
その光景に立ちすくんでいると、シスタージェンマが耳元でささやいた。

「こまりますよオーリン様?聖女が魔族を匿うなどあってはなりません。魔族は邪悪な種族なのです、見つけ次第うち滅ぼすのがイーディス様への信仰と言うものです。」

押さえつけられたパルシェ神父に、剣を持った神官が一歩ずつ近づいていく。

「魔族が神聖なるイーディス教会に、よりによって神父に化けて進入してくるとは!神に代ってその身を滅ぼしてくれよう!」

ちがう、ちがうの!パルシェ神父は邪悪ではないの!私はそう言いたかったのに、震える喉がその言葉を発する事はなかった。私が鑑定の結果を神父に話してしまったばっかりに、こんな事になってしまうなんて……

神官が剣をパルシェ神父の首に一度あて大きく振りかぶった、絶望と怒りに歪むパルシェ神父の顔……その双眸が赤く変色すると神父の体から黒い風が吹き出してきた。

「ぐっ、貴様何の真似だ!うあああぁああぁあああー!」

剣を持っていた神官も、神父を抑えていた神官も、見る見るうちに萎びてまるでミイラのようになっていく。
その風は私達も巻き込んだ。

「よくも!オレを騙したなあああああああー!」

私が最後に見たのは、そう絶叫しながら涙を流すパルシェ神父の姿だった……




ステータス
名前 オーリン・リュカーオ
種族 人間
職業 聖女
ユニークスキル 『神眼Lv7』
スキル     『神聖魔法Lv8』
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