弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

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第二章 冒険者

その五 勇者と魔王の仲の良さ

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 俺は今、王都リヴィアへと来ている。
 ナイティア大陸にある、ダラン王国の王都だ。
 俺が生まれた村は別の国にあったが、自分を鍛えるために20数年程前にこの国に来た。
 英霊の島はどこの国でもないが、ダラン王国が最も近いと言える。
 そして、俺が王都に来たのはある目的があり・・・そして俺は今ある宿屋に泊っているわけなんだが。

 
(『さっさと冒険者ギルドとやらに行かんのか?』)
(『ご主人様、早く行きましょう?』)

 頭の中に、麗しい女声が響いて止まない。
 どういう状況なんだ・・・!!!

 遡ること一日。というか昨日。俺が英霊の島からダラン王国へと戻ってきた時だった。


(『ご主人様・・・でいいんでしょうか』)
(『呼び方なぞなんでもよかろう。いつまでも女々しい奴じゃの』)
(『――!!女々しくてもいいでしょう!!女なんだから!』)

 突然頭の中に、いかにもお姉さんな感じの声と、かなり偉そうな口調の若い女の子の声が聞こえた。

 そして、色々と話した結果・・・

 お姉さん声の礼儀正しい口調⇒勇者
 若い女の子の声で尊大な口調⇒魔王

 
 ふざけんなと言う言葉を押し殺した俺を褒めたい。
 勇者って勇ましい男なイメージだったよ……
 確かに剣に魔王と勇者の意思があることは聞いた。
 けれどまさかこんな風に喋れるとは思ってなかった。
 そして勇者がお姉さんっぽい感じだと思わなかったし、魔王はもっとお爺さんの様な人物を想像していた。
 いや、実際に姿を見たわけではないから、あくまで声だけでの判断だが。


(分かったよ・・・)
(『やれやれ、見た目は若いと言うのに・・・中身がくたびれておるのう』)
(『しょうがないでしょう?外見が変わっただけで中身がすぐ変わるわけじゃないもの』)

 勇者は俺に対して敬語はいらないっていっても直してくれなかった。
 どうも慣れない……

 彼女たちが言う冒険者ギルド、それが俺が王都に来た一つ目の目的だ。
 理由は単純、お金を稼ぐため。
 以前の俺は山奥に住み、ルン以外の人間と交流することは少なかった。
 だが、魔王と勇者の意見でどうせなら街の中に行きたいということで、それならお金を稼ぐ必要があるので、冒険者になろう、と決断したわけだ。

 二つ目の目的は、レベルアップだ。
 99から100になるには、オーブを十分な量溜めて教会に行き、"祝福"と呼ばれるものを受ける必要がある。
 100になる際には、武神と魔神、精霊神の三神から、その者に最も適した加護を受け取れるらしい。
 99と100の差が大きいのは、その加護も影響しているらしい。
 加護が与えられる理由は「頑張ってそこまで上げたから」らしいが・・・神様は思ったよりも軽い性格なのかもしれない。


(『ご主人様、軽いのは基本的に武神と魔神だけです』) 

 軽いのはあってるのか。
 というかこの勇者―――ラナティア・ダランと言う名前なんだが――は神に会ったことがあるらしい。
 神から力を授かったっていうのは本当なんだな・・・

 名前から分かる通り、彼女は元はこの国の王女だったとか。

 
 そして先ほど彼女たちが言っていたように・・・俺は若返った。

 鏡を見た時は本当にビックリした。
 自分のことを中年のおっさんだと思っていたら、鏡に写っていたのが俺の16歳ごろの姿だったからな。
 英霊の島では水面で顔を見る余裕も無かったし・・・水の中には大抵魔獣がいた。
 水を飲むのも毎回最大限の警戒をしながらだった。

 まぁ、若返ったのは素直に嬉しい。
 元々俺の人生の時間が足りなかったのも、レベルを上げられないだろうと思った理由の一つだったから。

 若返ったのは、恐らくというか、それ以外に無いんだが・・・魔獣血石で魔獣の力を取り込んだのが原因だろう。
 魔獣の中には強力な再生能力を持つ者もいたし、大抵の魔獣は人間より再生能力が高いため、老化というものが存在しない。そんな力を吸収した結果、ここまで若返ったんだと思う。

 
「というか今更だけど・・・二人は俺がこの剣の持ち主でいいのか?」
(『本当に今更じゃの・・・それならば問題ないわ。剣術をもう少し磨いて欲しいとは思うがの。性格も・・・その・・・』)
(『あら、私は性格も実力も申し分ないと思うわ。ロベリアだってご主人様が戦っている時に見惚れてたじゃない』)


 ラナティアが呼んでいるように、魔王の名前はロベリアだ。

(『なッ!?そんなことはない!!!魔王である私が誰かに見惚れるなど・・・断じてないぞ!!!いいかあるじ!!調子に乗るなよ!!!』)
「乗ってないと思うんだがな・・・というかちょっと待ってくれ。二人とも俺が戦ってるところを見てたのか?どうやって?」
(『それはヒ・ミ・ツです♪』)
(『なぜそれを主に教えねばならんっ!!』)

 ・・・気になるんだが。
 というか主と呼ぶなら教えてくれてもいいだろうに。
苦笑いしながらも、テイルは話を続ける。


「まぁ、二人がいいならいいんだがな・・・ところで、その・・・主とかご主人様ってのはいい加減止めてくれないか?」
(『む?主は主じゃろう?』)
(『・・・ダメでしょうか?』)


 なんだこの抗えない感じは・・・声だけなんだがラナティアには逆らえない気がする。


(『私はむしろ、気軽にラナと呼んで欲しいです』)
「・・・分かったよ・・・ラナ」
(『・・・』)
「あれ?」


結構勇気を出して呼んでみたんだが・・・ラナティアの反応がない。

(『主よ、気にせんでいい。自分で言い出しておいて照れているだけじゃからの』)
(『うっ』)

 ・・・仲いいな。
 魔王と勇者って、殺し合いしたんじゃないのか。


気になったので聞いてみると、ロベリアは鼻を鳴らし、

(『何百年も前のことじゃぞ?それからずっと剣の中で二人だけだったのじゃ。いつまでも恨んでなどおれんわ』)
(『そうね、むしろずっといがみあってる方が疲れるもの』)

(確かにそうか・・・考えてみたら何百年も剣の中って・・・二人は一体いくつなんだ)
(『あら、女性の年齢を聞くのはマナー違反ですよ?』)
(『少なくとも500は超えておるの』)


 500・・・凄いな。

(『ご主人様、それよりも早く冒険者ギルドに行きましょう?』)
「それもそうだな・・・」
 謎の圧力を感じたのでこの話題はやめよう。

宿を出て、冒険者ギルドへ向かう。
 考えてみたら50近い歳だが・・・一度も冒険者ギルドには行ったことがない。
 なので、少し楽しみだ。
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