弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

文字の大きさ
6 / 38
第二章 冒険者

その六 冒険者ギルド

しおりを挟む
 冒険者ギルド――
それは二百年ほど前に創設された、魔獣の討伐から護衛、雑務まで様々な依頼を請け負う組織。
そこに所属する者達は冒険者と呼ばれ、個人にあった適切な依頼を発注し、その報酬として金銭を稼ぐ。
危険ではあるが、その分だけ実力のあるものなら高い稼ぎを得ることが出来る。
E~Sまでのランクがあり、Sランクともなれば一つの大陸にも片手で数えるほどしかいない。
国に雇われればその国の最高戦力と呼ばれる、それがSランクの次元である。
しかし便利屋の様な印象もある反面、命を賭けて人助けをする仕事でもあるためか、傲慢で粗暴な者も多く、民衆、そして貴族は特に冒険者を嫌うものが多かった。
ダラン王国の中にはいくつかの冒険者ギルドだあるが、王都にある冒険者ギルドも例外ではない。


そんな冒険者ギルドの入り口に、現在テイルは来ている。


「ここが冒険者ギルドか……流石、立派な建物だな」

冒険者ギルドはその特性から魔獣等に襲撃された際の対策だけでなく、冒険者同士で争うこともあるため比較的丈夫に作られている。
テイルが感想で述べたように、冒険者ギルドの建物は木造ではあるものの、どれだけ金をかけたのか分からないほどに立派な建物だ。
木造とは言ってもその建材は魔法建材と呼ばれるもので、木自体も特別頑丈なものに水の魔力を籠めた燃えにくい建材なので、石の建築よりもむしろ戦に向いていると言える。


(『確かに・・・全体的に魔力を帯びていますし』)
(『建材に態々魔法印を施すとは・・・面倒なことをするのう。私の城はミスリルを混ぜた鉄や石を使い常に魔力を流し続けて丈夫にしたものじゃがの』)


 ちなみに現在、剣は別空間にしまっている。
 というより剣が別空間に移動している、と言った方が正しいが。
 それでもこうやって話せているのは魔王と勇者の意識が俺と繋がっているから・・・らしい。
 なんとも便利な能力だ。

(贅沢な使い方だな・・・ミスリルなんてのは今じゃ武器や防具に使うだけで精一杯だぞ。純ミスリルの装備はそれこそ小さめの城が買えるくらいの値段はする)
(『なんともけち臭い時代になったもんじゃな・・・』)


 そんなことを話しながらギルドの入り口をくぐると、髭の濃い男や刺青だらけの男、そんないかにもガラの悪そうな冒険者が多くいた。大抵の者は馬鹿にするような目を向けていたが、一部の者は品定めをするような目でこちらを見ていた。

冒険者たちのやる気を上げるためか、大体のギルドは受付に見目麗しい女性を雇う。
事実このギルドの受付嬢は美人と言って差し支えない金髪の女性だった。
テイルの身長が低いため、カウンターの向こうで座っている受付嬢と目線の高さがほぼ同じ、という少々気恥しい気分を味わってしまったが。


「冒険者登録をお願いします」
「はい?」

受付嬢に話しかけると、その受付嬢は信じられないといった様子で見てきた。
 
(もうちょっと隠そうとは思わないのか・・・)
(『教育がなってないわね』)
(『生意気な娘じゃの』)

しかしそれもある意味仕方のないことだ。
なにせテイルは中身こそ46歳という中年だが、現在の外見は16、いや元々が小柄であることを考えると14歳辺りに見えてもおかしくない。そんな子供が冒険者になりたいと言っても黒髪の子供が己の力を過信しているだけにしか思えないのだ。


「え、えーっと……とりあえずこちらの用紙に記入して下さい」
「分かった」
(とりあえずって・・・)
(『信用されていませんね・・・まぁしょうがないかもしれないけど』)
(『主は見た目だけ子供だからのう・・・見た目だけ』)
 ・・・何度も言うな

渡された用紙はかなり単純なもので、記入する必要があるのは名前と年齢だけ。
後はギルドのルールが書かれている程度だった。
ルールと言ってもそう難しいものではなく、ギルド内での勝手に争うこと、または破壊行為を禁止したり、依頼を失敗した場合の罰則と言った程度のものだった。


「文字はもう書けるんですね……」

受付嬢の意外そうな声が聞こえてくる。
この国は識字率があまり高くない。
テイルの格好は英霊の島で来ていたぼろきれや服ではなく、王都に向かう途中で買ったものだが、それでも金持ちには見えない。子供の時から文字を学んでいるのは貴族の子かそうでなくとも金のある家庭、または親が教育熱心な家庭のみだ。

(だったら最初から文字が書けるかどうか聞いたらいいのでは・・・)
(『変に見栄をはろうとするかどうかを見てるんじゃないでしょうか』)
(なるほど)
 やるな冒険者ギルド・・・


「名前は……テイル君ですね。ルールはもう読みましたか?」
「はい」
「それでは、こちらの魔道具に触れてください。魔力を記憶させるものですので、様々な時に本人確認の為に使います」

そう言って差し出されたのは、球体の紫水晶のような拳大の魔道具だった。

そっと手を触れさせると一瞬だけ紫色の光を発した。

「はい、もういいですよ。それでは……最後に試験になります。試験といっても筆記試験ではなく、戦闘試験ですが」
「分かりました。どこに行けばいいんですか?」
「今試験官の方を呼んできますので、少々お待ちください」
そう言って受付嬢はカウンターの奥へ向かおうとした―――


「ティアちゃん、そいつの相手は俺がやるよ」
「ええっ!?ローグさん突然どうしたんですか!!」

―――が、赤い髪をした男に呼び止められた。

「ギルドマスターが試験官をやっちゃあ駄目なのかい?」
「駄目ってわけじゃないですが・・・」

(あいつ・・・相当強いな)
(『確かに中々の強者つわもののようじゃの』)

ローグと呼ばれた男はしなやかながらも鍛え上げられた肉体を持っているのが見て取れた。
それだけではなく、その男の耳は本来耳たぶがある場所がギザギザになっており、形が細長く尖った形状をしていた。


(エルフがギルドマスターとは・・・意外とあるもんなのか?)

そう、ローグは所謂いわゆるエルフだ。
エルフで初めて冒険者ギルドのマスターになった人物として有名だったりするのだが、世間の情報にあまり興味のなかったテイルには知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...