弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

文字の大きさ
9 / 38
第二章 冒険者

その九 ルルティアの悩み

しおりを挟む
――あの日、師匠テイルに勝ってしまったその日に、ボクはテイルの弟子ではなくなった。

 強くなれば、認めてもらえると思ったのに。

 子供扱いされなくなると思ったのに。
 
 ボクはテイルに勝てたことが嬉しかった。

 これでテイルと一緒に戦える。そう思ったから。

 けれど、ボクが勝った時、テイルの目には喜びは写っていなかった。

 その目に、ボクは一瞬怯えてしまった。もしかしたらボクは失敗したんじゃないか。卑怯な方法を使ってしまったんじゃないか。そしてテイルはそれを怒っているんじゃないか。そう思ったから。

 だけどテイルは怒ることも、注意することもなかった。
 その後にテイルが浮かべた笑顔は、どこか悲しそうな、虚しさを隠した笑顔だった。
 
――ああ、そっか。テイルはずっとレベルを上げたがってた。
――けれど、テイルは既に40歳を超え、100レベルに到達することは難しい。

 テイルがレベル99になったのは4年前。
 ボクがテイルの弟子になってから一年が経った頃だった。

 テイルは今まで必死に修行をしてきたって言ってた。
 自分には才能がない、ともよく言ってたんだ。


 それなのに、ボクは5年でレベル99まで上がったんだ。
 
――なんでボクはテイルと同じじゃないんだろう。
――テイルと同じだったら、ずっと一緒にいられたかもしれないのに。




 弟子を辞めてしばらく経った頃、テイルと一緒に住んでいた小屋・・・というと怒られるから家、に行った。
 けれど、そこにはいつもの様に修行に励むテイルの姿はなかった。

 
 きっと、テイルは修行の為に家を出たんだ。
 それなら、もしかしたら帰ってきたテイルはボクより強くなっているかもしれない。



 ・・・それなら良いのに。
 だけど、もしかしたらテイルは無茶をして怪我を負って、戦えないようになってるかもしれない。
 それなら・・・・・・ボクは、テイルを守れる力が欲しい。




◇◇◇◇


「はぁ……」

 ボクは今、憂鬱な気分だ。
 外に出て走り回りたい。
 修行もしたいのに。

 立場がそれを許さない。

 出来るのは訓練場での鍛錬だけ。
 それも、たまにだけだ。


 テイルと一緒に魔獣を狩っていたころが懐かしいよ・・・

 何でこんなことになっちゃったんだろう・・・


「あら、ルルティア様、如何しました?」
「ああ、ごめん、何でもないよ……」
「何でもないというお顔をしてませんよ」

 うう・・・勉強なんか嫌いだ・・・
 一年ほど前、ボクは王城に連れ戻された。
 

 母様にこっぴどく叱られたのは嫌な思い出。
 5年・・・長いようで短かったなぁ。テイルとの生活は・・・
 いや、修行に出てた期間も入れれば3年か。
 テイル、今何してるんだろう・・・
 
 奥さんとか出来てたりして・・・
 うぅ・・・嫌だなぁ・・・

「ルルティア様?聞いていますか?」
「……聞いてるよ」
「聞いていませんでしたね」

「…リーナは彼氏とか作らないのー?」
「なっ、何を……ハッ!ルルティア様!話を変えようとしないでください!!」
「ちぇー」

 リーナはボクに勉強を教えてばかりだから恋人も出来ないんじゃないの?
 

 テイルに会いたい・・・
 また抜け出そうかなぁ・・・
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...