8 / 38
第二章 冒険者
その八 長年の修行の成果、なんだと思う
しおりを挟む「――なるほど。そういうことか」
テイルはギルドマスターであるローグの自室に訪れている。
英霊の島に行ったことも含め、ルンの事以外は大体の事情を話した。
自分の力のことも。
ローグは「そんな力が手に入るとしても、俺はもうあんな島には行きたくないなぁ」と苦笑いしていたが。
どうやら一度だけ英霊の島に行ったことがあるらしい。
精霊があんな見た目だとは思わなかったが・・・
(『私も精霊は初めて見たぞ』)
(『私は前に一度だけ見たことがあります。上位精霊でしたけど』)
(上位の精霊なら姿が見えるのか?)
(『いえ、上位精霊は自分の意思で人間からも見えるようにできるんです。認めた相手にしか姿は見せないそうですが』)
(そうなのか)
若干得意気にラナティアが言う。
その辺りは流石勇者、なんだろうか。
(あれ?というか二人とも精霊が見えてたのか?)
(『いや、主と視界を共有しただけじゃ。魔王に精霊を見る能力なんぞないわ』)
(便利だな・・・)
「その魔獣血石の事だけど」
「何か知ってるんですか?」
俺としては、魔獣血石の事は結構気になっている。
あの島で手に入れた魔獣血石はどれも色が青かったし、その効果も高いように思えた。
そのせいか痛みも凄まじかったけど・・・
「これは俺の仮説なんだけどね。恐らく、魔獣血石が与える力は、その魔獣を討伐した人数によって違うんだと思う」
「人数、ですか?」
「さっき君が言っていた魔獣の力の一割が手に入る、って言うのは5人のAランク冒険者が討伐した『岩竜』のことだと思う。今のところ魔獣血石について分かってるのは、強い魔獣からしか取れないっていうことと、割ったりしたら血石の中にあった魔力や魔獣の力が無くなるっていうことなんだ」
「そうなんですか?」
思わず声が大きくなってしまった。
割ったら力が失われるっていうのは聞いたことがなかった。
魔獣血石を研究する研究者は数多くいる。もしかしてこの三年で分かったのかもしれないな。
それか俺が知らなかっただけか。
「そうなんだよ。だから魔獣血石を何人かで分けることは出来ない」
「討伐した人数によって得られる力が変わるっていうのは?」
「ここからが本題だ。君は魔獣血石はどうやって生成されると思う?」
魔獣血石がどうやって生まれるか・・・
「魔獣に認められると魔獣が自分で作るっていう説はご存知ですか?」
「勿論知っている。君はその説が正しいと思うのかい?」
そう言われると、詳しくは分からない。
認められる、というのが正しい、とはあんまり思えない。
「少なくとも、魔獣が自分の意思で作るというのは正しいと思っています」
「ほう、どうしてかな?」
ローグが面白そうに笑みを浮かべながら尋ねる。
「奇襲で殺したり、罠で殺したりした場合に魔獣血石が出たことがなかったからです」
「へぇ……それはイイ話を聞いたよ。なるほど、それなら俄然信憑性が増すね」
「ローグさんはどうなんですか?」
「俺も同じ考えだよ。魔獣は自らを殺せる力を持つ相手に、自分の力を授ける。討伐した人数によって貰える力が変わる、というのは恐らく魔獣が吸収出来る量を決めてるんじゃないかな。言わば子供を残すのと同じ、自分の一部を残すために」
「なるほど……」
突拍子もないように思えるかもしれないが、それなら確かに辻褄は合う。
「一つ聞きたいんだけど、あの石って食べたら吸収する力の量に合わせて痛みも増えるよね?」
「え、そうなんですか?」
道理で痛いはずだ。
最初の頃は必ず気絶してたしなぁ。
途中から慣れたけど。
(『主は変なことに慣れておるの・・・』)
(『慣れたくて慣れたんじゃない。慣れなきゃ生きていけなかったんだよ』)
気絶してる間に襲われたらどうする。
最初の黒竜の時以降は襲われないように注意してから魔獣血石を取り込んだ。
一度目で襲われなかったのは運が良かった。
「増えるんだよ。だから君はとんでもない痛みに襲われたはずだけど……よく耐えれたね」
「そうでもしないとすぐに殺されるので。島から逃げ出すのはもっと嫌でした」
「さっき言ったAランク5人が討伐した岩竜の魔獣血石を食べた人は二度と食べたくない、って騒いでたらしいけどね」
・・・・・・長年の修行の成果、だと思っておこう。
その後、ローグさんとの話を終えた俺は登録の為に受付へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる