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第三章 師弟
その二十三 王への信頼
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(あの親バカ国王……威厳があるのは見た目だけか)
(『擁護しきれませんね』)
(『これは無理じゃな』)
口には出さず、親子の愛情表現に勤しむルンとアガラ―トを横目に心中でそんな会話を交わす。
レインと呼ばれた騎士も見るからに呆れ顔で、それ以外の兵士達は同じく娘がいるのか暖かい視線を向ける者、疲れた様子で項垂れる者、反応は様々ではあるがそこに驚きは一切なく、普段からこの調子であることは見て取れた。
ちなみにロヴィアは死んだ目で自らの主――この場合ルンとアガラ―ト――を見ていた。
うん、アイツには苦労をかけないよう気を付けよう。
普通に可哀そうだ。
「おーいルン、戻ってこい」
「はっ!?ご、ごめん!!」
「チッ……」
俺が仲裁に入ったことに対して、馴れ馴れしくルンに話しかけていることに不快そうな表情をする者、「よくやった」という目を向けるもの、舌打ちする者……ここは本当に王城か?
(『紛れもなく王城です』)
(……残念だ)
(『胸糞悪い言葉が飛び交うよりはマシじゃろ』)
それは確かに。
「それはさておき……テイルよ、貴様はルルティアの元師匠だということだが……」
「どうした?」
「――!」
アガラ―トはやや目を見開き、口元を歪めて笑みを浮かべた。
「ふむ。中々度胸はあるようだ。敬語を使うなと言われて躊躇わなかった者は初めて見たぞ」
「田舎者なもんでね」
「はっ、随分と特異な田舎者だな。――っと、そんなことはおいておこう。単刀直入に聞くぞ。貴様の種族はなんだ?」
「人族だが?」
「何?」
(なんでそんなことを聞くんだ?)
(『この後の展開が分かる気がします』)
(『同じじゃな』)
「そんなわけはないだろう?」
「は?」
「「「―――!!??」」」
おっと、思わず威圧混じりに返してしまったぞ。
いや、あんなことを言われてはしょうがないだろう。
俺は紛れもなく人族だからな。
((『……うわぁ』))
「なっ……!!い、いや。ルルティアからは四十代の男性だと聞いたぞ?それでは貴様のその姿はなんだ?」
「あっ」
アガラ―トが驚愕と困惑を表情に浮かべて疑問を呈した。
しまった……疑われるのも当然だった。
(『やっと理解したんじゃな』)
(『人族に若返りのすべはありませんから、当然でしょう』)
「それについてはまだルン、ルルティアにも話してなかったが……そうだな。出来ればあまり知られたくないんだが」
「ふむ……レイン、どう思う?」
暗に出来るだけ人を減らしてほしい、という俺の言葉にアガラ―トは傍に控えるレインに尋ねる。
「そうですね……少なくとも敵意は無さそうですから。仕方の無い事、と言ったところでしょうか」
「余も同じ考えだな」
レインが使った言葉は、一見この場に合わないものだ。
本来なら「問題ない」、「構わない」とでも言うのが正しいだろう。
しかも、実際は問題ないはずがない。ルンの説明だけで『王』が信用するわけにはいかないだろう。
――ただし、あくまでそれはここにいる面々で俺を止められる場合の話。
「仕方の無い事」。
より正確に言うならば「居ても仕方の無い事」。
(『英断じゃな』)
(『ですね』)
(偉そうに言うつもりはないが……傷つけられる気が全くしないからな)
事実、ここにいる兵士、騎士達だけでは俺を数秒足止めすることすらできない。
彼らは決して弱いわけではない。
そのほとんどが冒険者ランクに直せばCランク……一部はBランクに届くだろう。
レインと呼ばれた騎士に至っては英霊の島へ行く前の俺よりも間違いなく強い。
ランクに直せばAランク、といったところか。
しかしそれでも殺す気ならば、いや例え気絶させるだけでも数秒で済む。
何か特殊な魔法でもあるなら別だが、特に俺の魔力感知には引っかからない。
しかし、あの王ならば恐らくそれは先ほど俺が僅かに放った殺気でそれは理解しているだろう。
それでもアガラ―トが毅然とした態度でいるのは、俺がそんな性分ではないと確信しているからか。
まぁ……ルンの前で俺がそんなことをするわけがないしな。
(『ご主人様も……意外とアガラ―ト王と変わらないかもしれませんね』)
(『ううむ……親バカならぬ師匠バカじゃな』)
(いや俺はそんなことはな……)
いや……今思えば修行はルンを強くするために結構厳しくしてたが……
それ以外はかなり……甘くしてたかもな。
(……いわけではないかもしれない……)
(『……うむ』)
(『自分を省みることが出来るのはよいことです』)
何だその子供を諭す母親の様な声音は。
俺は心中で抗う心を振り切り、改めて状況を冷静に見回した。
まさか俺が王城に入る機会なんてものがあるとは思ってはいなかったが……不思議と落ち着いている。
幼い子供が抱くような興奮もない。
過去の俺ならばこうはいかなかっただろう。
どうやら英霊の島での三年間は、俺に身体的にだけでなく精神的にも大きく影響していたらしい。
己の過去に感慨深いものを抱きながら俺は退室――退間とでも言うべきなのかもしれないが――していく者達の後ろ姿を見送った。
どこの馬の骨とも知れない俺に敵意を抱くものがなかったのは主君への敬意故か、それとも――――
謁見の間周辺も含め気配が元師匠と元弟子、父親と苦労人、そしてもう一人の苦労人しか無くなったのを見計らい、先ほどまでのどこか間の抜けた様子を一片たりとも残さず消し去ったアガラ―トが口を開いた。
「さて……改めて、自己紹介をさせてもらおう。貴様の元弟子の父親にして、ダラン王国の王、アガラ―ト・ジン・ダランである」
初めに聞いた名前に更に一語加えた名を名乗り、アガラ―トはニヤリという擬音の出そうな笑みを浮かべながら、次に高らかと、そして誇るようにまたも名乗った。
「我こそは、"光天騎士王"アガラ―トである!!」
その言葉を聞いて、俺は先ほどの思考の続きを思い浮かべていた。
謁見の間を出た者達に俺に敵意を抱くものが無かったのは主君への敬意故か、それとも―――
間違いなく最上位の騎士であるレインを上回る力を持つ賢王に対しての―――
―――信頼、か。
(『擁護しきれませんね』)
(『これは無理じゃな』)
口には出さず、親子の愛情表現に勤しむルンとアガラ―トを横目に心中でそんな会話を交わす。
レインと呼ばれた騎士も見るからに呆れ顔で、それ以外の兵士達は同じく娘がいるのか暖かい視線を向ける者、疲れた様子で項垂れる者、反応は様々ではあるがそこに驚きは一切なく、普段からこの調子であることは見て取れた。
ちなみにロヴィアは死んだ目で自らの主――この場合ルンとアガラ―ト――を見ていた。
うん、アイツには苦労をかけないよう気を付けよう。
普通に可哀そうだ。
「おーいルン、戻ってこい」
「はっ!?ご、ごめん!!」
「チッ……」
俺が仲裁に入ったことに対して、馴れ馴れしくルンに話しかけていることに不快そうな表情をする者、「よくやった」という目を向けるもの、舌打ちする者……ここは本当に王城か?
(『紛れもなく王城です』)
(……残念だ)
(『胸糞悪い言葉が飛び交うよりはマシじゃろ』)
それは確かに。
「それはさておき……テイルよ、貴様はルルティアの元師匠だということだが……」
「どうした?」
「――!」
アガラ―トはやや目を見開き、口元を歪めて笑みを浮かべた。
「ふむ。中々度胸はあるようだ。敬語を使うなと言われて躊躇わなかった者は初めて見たぞ」
「田舎者なもんでね」
「はっ、随分と特異な田舎者だな。――っと、そんなことはおいておこう。単刀直入に聞くぞ。貴様の種族はなんだ?」
「人族だが?」
「何?」
(なんでそんなことを聞くんだ?)
(『この後の展開が分かる気がします』)
(『同じじゃな』)
「そんなわけはないだろう?」
「は?」
「「「―――!!??」」」
おっと、思わず威圧混じりに返してしまったぞ。
いや、あんなことを言われてはしょうがないだろう。
俺は紛れもなく人族だからな。
((『……うわぁ』))
「なっ……!!い、いや。ルルティアからは四十代の男性だと聞いたぞ?それでは貴様のその姿はなんだ?」
「あっ」
アガラ―トが驚愕と困惑を表情に浮かべて疑問を呈した。
しまった……疑われるのも当然だった。
(『やっと理解したんじゃな』)
(『人族に若返りのすべはありませんから、当然でしょう』)
「それについてはまだルン、ルルティアにも話してなかったが……そうだな。出来ればあまり知られたくないんだが」
「ふむ……レイン、どう思う?」
暗に出来るだけ人を減らしてほしい、という俺の言葉にアガラ―トは傍に控えるレインに尋ねる。
「そうですね……少なくとも敵意は無さそうですから。仕方の無い事、と言ったところでしょうか」
「余も同じ考えだな」
レインが使った言葉は、一見この場に合わないものだ。
本来なら「問題ない」、「構わない」とでも言うのが正しいだろう。
しかも、実際は問題ないはずがない。ルンの説明だけで『王』が信用するわけにはいかないだろう。
――ただし、あくまでそれはここにいる面々で俺を止められる場合の話。
「仕方の無い事」。
より正確に言うならば「居ても仕方の無い事」。
(『英断じゃな』)
(『ですね』)
(偉そうに言うつもりはないが……傷つけられる気が全くしないからな)
事実、ここにいる兵士、騎士達だけでは俺を数秒足止めすることすらできない。
彼らは決して弱いわけではない。
そのほとんどが冒険者ランクに直せばCランク……一部はBランクに届くだろう。
レインと呼ばれた騎士に至っては英霊の島へ行く前の俺よりも間違いなく強い。
ランクに直せばAランク、といったところか。
しかしそれでも殺す気ならば、いや例え気絶させるだけでも数秒で済む。
何か特殊な魔法でもあるなら別だが、特に俺の魔力感知には引っかからない。
しかし、あの王ならば恐らくそれは先ほど俺が僅かに放った殺気でそれは理解しているだろう。
それでもアガラ―トが毅然とした態度でいるのは、俺がそんな性分ではないと確信しているからか。
まぁ……ルンの前で俺がそんなことをするわけがないしな。
(『ご主人様も……意外とアガラ―ト王と変わらないかもしれませんね』)
(『ううむ……親バカならぬ師匠バカじゃな』)
(いや俺はそんなことはな……)
いや……今思えば修行はルンを強くするために結構厳しくしてたが……
それ以外はかなり……甘くしてたかもな。
(……いわけではないかもしれない……)
(『……うむ』)
(『自分を省みることが出来るのはよいことです』)
何だその子供を諭す母親の様な声音は。
俺は心中で抗う心を振り切り、改めて状況を冷静に見回した。
まさか俺が王城に入る機会なんてものがあるとは思ってはいなかったが……不思議と落ち着いている。
幼い子供が抱くような興奮もない。
過去の俺ならばこうはいかなかっただろう。
どうやら英霊の島での三年間は、俺に身体的にだけでなく精神的にも大きく影響していたらしい。
己の過去に感慨深いものを抱きながら俺は退室――退間とでも言うべきなのかもしれないが――していく者達の後ろ姿を見送った。
どこの馬の骨とも知れない俺に敵意を抱くものがなかったのは主君への敬意故か、それとも――――
謁見の間周辺も含め気配が元師匠と元弟子、父親と苦労人、そしてもう一人の苦労人しか無くなったのを見計らい、先ほどまでのどこか間の抜けた様子を一片たりとも残さず消し去ったアガラ―トが口を開いた。
「さて……改めて、自己紹介をさせてもらおう。貴様の元弟子の父親にして、ダラン王国の王、アガラ―ト・ジン・ダランである」
初めに聞いた名前に更に一語加えた名を名乗り、アガラ―トはニヤリという擬音の出そうな笑みを浮かべながら、次に高らかと、そして誇るようにまたも名乗った。
「我こそは、"光天騎士王"アガラ―トである!!」
その言葉を聞いて、俺は先ほどの思考の続きを思い浮かべていた。
謁見の間を出た者達に俺に敵意を抱くものが無かったのは主君への敬意故か、それとも―――
間違いなく最上位の騎士であるレインを上回る力を持つ賢王に対しての―――
―――信頼、か。
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