弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

文字の大きさ
23 / 38
第三章 師弟

その二十三 王への信頼

しおりを挟む
(あの親バカ国王……威厳があるのは見た目だけか)
(『擁護しきれませんね』)
(『これは無理じゃな』)

 口には出さず、親子の愛情表現けんかに勤しむルンとアガラ―トを横目に心中でそんな会話を交わす。
 レインと呼ばれた騎士も見るからに呆れ顔で、それ以外の兵士達は同じく娘がいるのか暖かい視線を向ける者、疲れた様子で項垂うなだれる者、反応は様々ではあるがそこに驚きは一切なく、普段からこの調子であることは見て取れた。
 ちなみにロヴィアは死んだ目で自らの主――この場合ルンとアガラ―ト――を見ていた。
 うん、アイツには苦労をかけないよう気を付けよう。
 普通に可哀そうだ。


「おーいルン、戻ってこい」
「はっ!?ご、ごめん!!」
「チッ……」


 俺が仲裁に入ったことに対して、馴れ馴れしくルンに話しかけていることに不快そうな表情をする者、「よくやった」という目を向けるもの、舌打ちする者アガラ―ト……ここは本当に王城か?


(『紛れもなく王城です』)
(……残念だ)

(『胸糞悪い言葉が飛び交うよりはマシじゃろ』)

 それは確かに。



「それはさておき……テイルよ、貴様はルルティアの元師匠だということだが……」
「どうした?」
「――!」


 アガラ―トはやや目を見開き、口元を歪めて笑みを浮かべた。


「ふむ。中々度胸はあるようだ。敬語を使うなと言われて躊躇わなかった者は初めて見たぞ」
「田舎者なもんでね」
「はっ、随分と特異な田舎者だな。――っと、そんなことはおいておこう。単刀直入に聞くぞ。貴様の種族はなんだ?」
「人族だが?」
「何?」

(なんでそんなことを聞くんだ?)
(『この後の展開が分かる気がします』)
(『同じじゃな』)


「そんなわけはないだろう?」
「は?」
「「「―――!!??」」」


 おっと、思わず威圧混じりに返してしまったぞ。
 いや、あんなことを言われてはしょうがないだろう。
 俺は紛れもなく人族だからな。

((『……うわぁ』))


「なっ……!!い、いや。ルルティアからは四十代の男性だと聞いたぞ?それでは貴様のその姿はなんだ?」
「あっ」


 アガラ―トが驚愕と困惑を表情に浮かべて疑問を呈した。

 しまった……疑われるのも当然だった。

(『やっと理解したんじゃな』)
(『人族に若返りのすべはありませんから、当然でしょう』)


「それについてはまだルン、ルルティアにも話してなかったが……そうだな。出来ればあまり知られたくないんだが」
「ふむ……レイン、どう思う?」


 暗に出来るだけ人を減らしてほしい、という俺の言葉にアガラ―トは傍に控えるレインに尋ねる。


「そうですね……少なくとも敵意は無さそうですから。、と言ったところでしょうか」
「余も同じ考えだな」


 レインが使った言葉は、一見この場に合わないものだ。
 本来なら「問題ない」、「構わない」とでも言うのが正しいだろう。
 しかも、実際は問題ないはずがない。ルンの説明だけで『王』が信用するわけにはいかないだろう。

 ――ただし、あくまでそれはここにいる面々で場合の話。

 「仕方の無い事」。
 より正確に言うならば「居ても仕方の無い事」。



(『英断じゃな』)
(『ですね』)
(偉そうに言うつもりはないが……傷つけられる気が全くしないからな)

 事実、ここにいる兵士、騎士達だけでは俺を数秒足止めすることすらできない。
 彼らは決して弱いわけではない。
 そのほとんどが冒険者ランクに直せばCランク……一部はBランクに届くだろう。
 レインと呼ばれた騎士に至っては英霊の島へ行く前の俺よりも間違いなく強い。
 ランクに直せばAランク、といったところか。
 しかしそれでも殺す気ならば、いや例え気絶させるだけでも数秒で済む。
 何か特殊な魔法でもあるなら別だが、特に俺の魔力感知には引っかからない。

 しかし、あの王ならば恐らくそれは先ほど俺が僅かに放った殺気でそれは理解しているだろう。
 それでもアガラ―トが毅然とした態度でいるのは、俺がそんな性分ではないと確信しているからか。

 まぁ……ルンの前で俺がそんなことをするわけがないしな。


(『ご主人様も……意外とアガラ―ト王と変わらないかもしれませんね』)
(『ううむ……親バカならぬ師匠バカじゃな』)
(いや俺はそんなことはな……)


 いや……今思えば修行はルンを強くするために結構厳しくしてたが……
 それ以外はかなり……甘くしてたかもな。

(……いわけではないかもしれない……)
(『……うむ』)
(『自分を省みることが出来るのはよいことです』)

 何だその子供を諭す母親の様な声音は。
 俺は心中で抗う心を振り切り、改めて状況を冷静に見回した。
 まさか俺が王城に入る機会なんてものがあるとは思ってはいなかったが……不思議と落ち着いている。
 幼い子供が抱くような興奮もない。
 過去の俺ならばこうはいかなかっただろう。
 どうやら英霊の島での三年間は、俺に身体的にだけでなく精神的にも大きく影響していたらしい。

 己の過去に感慨深いものを抱きながら俺は退室――退間とでも言うべきなのかもしれないが――していく者達の後ろ姿を見送った。
 どこの馬の骨とも知れない俺に敵意を抱くものがなかったのは主君への敬意故か、それとも――――



 謁見の間周辺も含め気配が元師匠テイル元弟子ルルティア父親アガラ―ト苦労人レイン、そしてもう一人の苦労人ロヴィアしか無くなったのを見計らい、先ほどまでのどこか間の抜けた様子を一片たりとも残さず消し去ったアガラ―トが口を開いた。



「さて……改めて、自己紹介をさせてもらおう。貴様の元弟子の父親にして、ダラン王国の王、アガラ―ト・・ダランである」


 初めに聞いた名前に更に一語加えた名を名乗り、アガラ―トはニヤリという擬音の出そうな笑みを浮かべながら、次に高らかと、そして誇るようにまたも名乗った。


「我こそは、"光天騎士王"アガラ―トである!!」



 その言葉を聞いて、俺は先ほどの思考の続きを思い浮かべていた。
 謁見の間を出た者達に俺に敵意を抱くものが無かったのは主君への敬意故か、それとも―――




 間違いなく最上位の騎士であるレインを力を持つ賢王に対しての―――


 ―――信頼、か。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...