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第三章 師弟
その二十二 親子喧嘩
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(『あやつ……女だったとは』)
特に驚くことでもないだろ。
いや、思った以上に美人だったことは驚くことか?
(『えっ……ご主人様、気づいてたんですか?』)
(そりゃな。あんな島で生きてたんだ。そのくらいの感覚は身につくさ)
(『何か、納得できん!!』)
(『同意します』)
そうか……?
確かに鎧のせいでくぐもった声になってた、のか?
喋り方も女っぽくはなかったか。
まぁ俺には女声として聞こえてたからな。
気づくのも当たり前だ。
………ん?ロヴィアが得意気にこっちを見ている。
どうしたんだアイツ。しかもその表情で固まったままだ。
王の前でそれでいいのか。
「面をあげよ。貴様が、ルルティアの師匠か?」
ほう。これが国王か……
何というか、思ったより若いな。
見た目は三十台に見えるが。
ルンの親であることを考えるともっと上だよな。
ルンと同じ鮮やかな水色の髪に平均的に見て高い身長、見たところかなり鍛えられている。
整った顔はルンの親であることが納得できるものだ。
しかしルンとは違いその眼光は射貫くような力強さと鋭さを持っている。
それに顔つきは幾度も死線を超えた猛者を思わせる精悍さがある。
服装は貴族然とした装飾を施したもの、ではなく。
煌めく銀色の鎧を着ていた。
手には杖ではなく、鍛えられた黄金の輝きを放つ剣。
あれは恐らく……聖金か。
聖剣にも使われる光属性の魔力を帯びた鉱石だったはずだ。
服装、というよりは装備と言った方がいいか。
戦時でもないのになんだあの格好は・・・・・・
「元、ですが。名はテイル。御覧の通り平民です」
「ほう」
笑みを顔に張り付けて、躊躇わずそう答えた。
すぐ傍でルンが悲し気に俯くのははっきりと分かったが、しかし今は師匠ではない。これは事実だ。
やや胸を締め付けられる感覚を覚えていると、ラナの声が頭に響いた。
(『・・・・・・私の父、いや私の時代の愚王よりは人柄も良さそうですね』)
(『全くその通りじゃな』)
愚王て・・・・・・
「なるほど・・・・・・そうかそうか」
何やら怪しげな笑みを浮かべる国王。
なんだあの人。
「余がダラン王国国王、アガラート=ダランである。堅苦しい敬語はいらんぞ。ただし公の場以外では、だがな」
国王もといアガラートはそう言って肩を竦める。
面倒だから助かるな。
「ところで・・・・・・余は私室で会いたいと言ったはずだが?レインよ」
「あなた様が何を仕出かすかわかったものじゃないですから」
「チッ......」
アガラートに応じるのはそばに控えていた一人の蒼髪の騎士。
明らかに他の立ち並ぶ兵士達と比べると装備も佇まいも上だな。
相当な実力者だ。それは王にも言えることだが。
(というかアイツ今舌打ちしたよな。私室で何する気だったんだ?)
(『仮にも王をアイツ呼ばわりは・・・・・・と言いたい所なのですが、仕方のないことに思えてきました』)
(『それでいいのか元姫よ・・・・・・と言いたい所なのじゃが、私も同意だの』)
「全く・・・・・・姫様に関わることになると本当に、駄目ですね」
「駄目とは何だ駄目とは!!変な男が寄り付かないようにしているだけだ!!」
「それが駄目何です。変な男用に毒薬まで用意して!」
「な、何っ!?貴様なぜそれを!!」
「メイドも含め全員にあなた様に命ぜられたことは必ず報告させるようにしていますから」
「なっ!?フィナンまでも貴様の手下だったというのか!!くぅぅ・・・・・・!!」
何か・・・あの騎士さん苦労してるんだな。
そしてあの国王大丈夫なのか。
(『慕われているようですし・・・・・・大丈夫なんじゃないですか』)
とりあえず、食事を出されたら警戒しよう。
(『主に効くような毒が存在するとは思えんがの』)
まぁ、確かにそうなんだけどな。気を付けるに越したことはないだろう。
(『バジリスクの石化毒やヨルムンガンドの致死毒を越える毒なんてあるのでしょうか?』)
(『主が水代わりに飲んでたやつか。私は知らんぞ?あれ以上の毒など』)
ああ、あれか。パチパチと弾ける爽やかさが旨かったな。
(『……人間、いや生物ですか?』)
(当然、人間だ)
人を化け物みたいに……心外な。
俺がそんな思考を続ける中、アガラート王が何かを決意したような表情で口を開いた。
「よし・・・・・・テイルと言ったな?」
「うん?」
「娘はやらん。絶対にだ!!」
は?
コイツは何をいってるんだ?
「ちょちょちょっと!?お父さんっ!?」
ほら、さっきまで羞恥に震えていたルンも怒ってるじゃないか。
「ルルティア!!公の場では『お父様』と、それ以外では『パパ』と呼べと言ったであろう!!」
「バカなの!?」
「バカではない!パパだ!!」
((((何で謁見の間が親子喧嘩の場に・・・・・・))))
俺、騎士さん、一部の兵士と文官の心が一つになった瞬間だった。
特に驚くことでもないだろ。
いや、思った以上に美人だったことは驚くことか?
(『えっ……ご主人様、気づいてたんですか?』)
(そりゃな。あんな島で生きてたんだ。そのくらいの感覚は身につくさ)
(『何か、納得できん!!』)
(『同意します』)
そうか……?
確かに鎧のせいでくぐもった声になってた、のか?
喋り方も女っぽくはなかったか。
まぁ俺には女声として聞こえてたからな。
気づくのも当たり前だ。
………ん?ロヴィアが得意気にこっちを見ている。
どうしたんだアイツ。しかもその表情で固まったままだ。
王の前でそれでいいのか。
「面をあげよ。貴様が、ルルティアの師匠か?」
ほう。これが国王か……
何というか、思ったより若いな。
見た目は三十台に見えるが。
ルンの親であることを考えるともっと上だよな。
ルンと同じ鮮やかな水色の髪に平均的に見て高い身長、見たところかなり鍛えられている。
整った顔はルンの親であることが納得できるものだ。
しかしルンとは違いその眼光は射貫くような力強さと鋭さを持っている。
それに顔つきは幾度も死線を超えた猛者を思わせる精悍さがある。
服装は貴族然とした装飾を施したもの、ではなく。
煌めく銀色の鎧を着ていた。
手には杖ではなく、鍛えられた黄金の輝きを放つ剣。
あれは恐らく……聖金か。
聖剣にも使われる光属性の魔力を帯びた鉱石だったはずだ。
服装、というよりは装備と言った方がいいか。
戦時でもないのになんだあの格好は・・・・・・
「元、ですが。名はテイル。御覧の通り平民です」
「ほう」
笑みを顔に張り付けて、躊躇わずそう答えた。
すぐ傍でルンが悲し気に俯くのははっきりと分かったが、しかし今は師匠ではない。これは事実だ。
やや胸を締め付けられる感覚を覚えていると、ラナの声が頭に響いた。
(『・・・・・・私の父、いや私の時代の愚王よりは人柄も良さそうですね』)
(『全くその通りじゃな』)
愚王て・・・・・・
「なるほど・・・・・・そうかそうか」
何やら怪しげな笑みを浮かべる国王。
なんだあの人。
「余がダラン王国国王、アガラート=ダランである。堅苦しい敬語はいらんぞ。ただし公の場以外では、だがな」
国王もといアガラートはそう言って肩を竦める。
面倒だから助かるな。
「ところで・・・・・・余は私室で会いたいと言ったはずだが?レインよ」
「あなた様が何を仕出かすかわかったものじゃないですから」
「チッ......」
アガラートに応じるのはそばに控えていた一人の蒼髪の騎士。
明らかに他の立ち並ぶ兵士達と比べると装備も佇まいも上だな。
相当な実力者だ。それは王にも言えることだが。
(というかアイツ今舌打ちしたよな。私室で何する気だったんだ?)
(『仮にも王をアイツ呼ばわりは・・・・・・と言いたい所なのですが、仕方のないことに思えてきました』)
(『それでいいのか元姫よ・・・・・・と言いたい所なのじゃが、私も同意だの』)
「全く・・・・・・姫様に関わることになると本当に、駄目ですね」
「駄目とは何だ駄目とは!!変な男が寄り付かないようにしているだけだ!!」
「それが駄目何です。変な男用に毒薬まで用意して!」
「な、何っ!?貴様なぜそれを!!」
「メイドも含め全員にあなた様に命ぜられたことは必ず報告させるようにしていますから」
「なっ!?フィナンまでも貴様の手下だったというのか!!くぅぅ・・・・・・!!」
何か・・・あの騎士さん苦労してるんだな。
そしてあの国王大丈夫なのか。
(『慕われているようですし・・・・・・大丈夫なんじゃないですか』)
とりあえず、食事を出されたら警戒しよう。
(『主に効くような毒が存在するとは思えんがの』)
まぁ、確かにそうなんだけどな。気を付けるに越したことはないだろう。
(『バジリスクの石化毒やヨルムンガンドの致死毒を越える毒なんてあるのでしょうか?』)
(『主が水代わりに飲んでたやつか。私は知らんぞ?あれ以上の毒など』)
ああ、あれか。パチパチと弾ける爽やかさが旨かったな。
(『……人間、いや生物ですか?』)
(当然、人間だ)
人を化け物みたいに……心外な。
俺がそんな思考を続ける中、アガラート王が何かを決意したような表情で口を開いた。
「よし・・・・・・テイルと言ったな?」
「うん?」
「娘はやらん。絶対にだ!!」
は?
コイツは何をいってるんだ?
「ちょちょちょっと!?お父さんっ!?」
ほら、さっきまで羞恥に震えていたルンも怒ってるじゃないか。
「ルルティア!!公の場では『お父様』と、それ以外では『パパ』と呼べと言ったであろう!!」
「バカなの!?」
「バカではない!パパだ!!」
((((何で謁見の間が親子喧嘩の場に・・・・・・))))
俺、騎士さん、一部の兵士と文官の心が一つになった瞬間だった。
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