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第三章 師弟
その二十一 謁見の間
しおりを挟む案内された場所は王城の一部として存在する、賓客を招く宮殿だった。
初めて見る宮殿の中というのは、正しく王侯貴族の住む世界だ。
ここに来るまでの城壁、城門にあった荘厳な戦場に在る城、という雰囲気は一切なく。
豪華絢爛という言葉が似合う、装飾がふんだんにあしらわれたシャンデリア、八神を描いたであろう煌びやかなステンドグラス。
足元を見れば艶やかに磨かれた大理石、そしてその上に敷かれた赤い生地に金の装飾を施した絨毯。
芸術品が飾られているようなことは無かったが。
それでも十分すぎるほどに豪華で華美な雰囲気に、ややうんざりしてしまった。
(『ほう……思ったより質素ですね』)
これで……??嘘だろ……
(『いえいえ。私の時代よりはマシな方です。私の父は随分好き勝手してましたから……』)
(魔王がいたのにか?)
(『はい。魔王がいたのにです』)
(『あの愚王ならばそうじゃろうな。何せあの男、自分の国が危機に瀕しても私費で豪遊しとったからの』)
愚王とまで言われるとは。
俺の中の国王の評価が凄まじい勢いで低下していく。
「……テイル、どしたの?緊張してるの?」
「ああ、いや……」
「まぁテイルの性格じゃ気が乗らないのは分かるけど。でも王城に入る以上、オトウサマに挨拶しないわけにはいかないからね」
「分かってるよ」
ルン曰く、悪い人ではないらしい。
少なくとも、ラナの時代の国王よりは数段マシ。
なのだが―――
「やっぱりこういう空気は、合わないもんだな」
先ほどから、チラホラと文官、武官らしき者達が見える。
そのほとんどがこちらを見て驚き……あまり良い反応はしなかった。
ヒソヒソと話している声は、俺には傍で喋られるのと大差ない。
「……あれがルルティア第三王女の師匠ですと……?そんな馬鹿な」
「何でも事情があるのだとか……」
「馬鹿馬鹿しい。どうせ名を偽った偽物ではないのか」
「ですが王女が連れてきた人物ですよ……?」
「あの王女もどこまで信用出来るものか……」
「ちょ、ちょっと!王女に聞かれでもしたら……」
つまり、全て筒抜けなわけだ。
特に文官には、ルンはあまり好かれていないようだ。
兵士や騎士と言った人物は、ルンを信用してはいるものの、俺を信用できないと言ったところか。
「……テイル、何を言われてもあんまり気にしないでね」
「分かってる。俺は気は短くないつもりだが?」
「あはは、でもボクが馬鹿にされた時は怒って相手をボコボコにしちゃったでしょ?」
懐かしいな……
確か、数少ない二人で街に買い出しに行った時だったか。
あの時ルンはまだ小さかったから、偶然出会った冒険者に絡まれたんだったか。
相手がキレてルンを怒鳴りつけるもんだから、ついやり返してしまった。
(『……弟子バカというやつか』)
(『悪い事では、ないと…思いますが』)
(今は反省してるんだよ。ルンがいないところでやるべきだった)
(『『そういう問題じゃないわ(です)!!』』)
怒られた。解せない。
「今も正直に言えば怒鳴りたい気分だがな。ルンの為にならないだろう」
「……聞こえてるの?」
ルンが少し驚いた表情で尋ねてきた。
かなり距離があるため、彼女には聞こえていないらしい。
まぁその方が良いだろう。
「……少しはな」
肩を竦めて、そう返した。
改めて兵士達の実力を身近に感じると、ロヴィアの実力はかなり高い位置にあることが分かった。
ルンの直属の騎士兼専属護衛、という立場らしい。
ロヴィアの様なミスリルが混ぜられた剣を持っている者はごく一部のようで、自慢げに語っていた。
全身鎧の騎士は少ないが、これは立場には関係ないらしい。
ただ、「いとも容易く受け止められてしまったが」とややしょぼくれていた。
俺が慰めるのは逆効果なので、特に何も言わなかったが。
何せ今の俺は見た目は子供なのだから。騎士が素手で剣を受け止められるのは屈辱以外の何物でもないだろう。
「……何だその温かい目は」
「いや、気にしないで欲しい」
「…そうか」
ちなみに、彼女は俺に対しても敬語で喋ろうとしたのだが、流石にそれは止めた。
俺を目上として扱われるのはあまり嬉しくないからな。
(『主は変なところを気にするのじゃな……』)
(こういう性分なんだよ)
この性格は強くなったところで変わらない。
俺にはまだまだ伸びしろがあることも分かったからな。
傲慢になるつもりも、己惚れるつもりもない。
そんな会話をしている内に、広間に辿り着いた。
王への謁見を行う場所だろう。
とりあえず、跪いた。
ルンの隣を歩いていたロヴィアが跪いたからだ。
貴族の礼儀など分からないが、見様見真似でやるしかないだろう。
その際、ロヴィアが兜を外した。
赤色の長髪が煌めく。
兜が無くなり晒された素顔は、紛れもなく女性のものだった。
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