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第三章 師弟
その二十 いざ王城へ
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「では……この方は姫様のお師匠様だ…ということですか?」
「う、うん」
ロヴィア君、と呼ばれていた騎士は、ルンの説明を聞いても信じられないと様子だった。
当然のことだ。
俺はどう見てもルンより幼い。
長命種ならまだしも、俺は純粋な人族だ。
(『完全に人族とは言い難いがの』)
(……)
そんなことは、ない。
………筈!
「い、いくら姫様の言葉でも……些か信じ難いものがあるのですが」
「それは分かってる……というか、実はボクも何でこんな見た目なのか分かんないんだよ」
「……はい?」
「ボクが知ってるテイルはもっと……」
「オッサンだったな」
俺がそう言うと、ロヴィアという騎士はジロリと鎧の隙間から睨んできた。
まぁ理由は分かる。大方、言葉遣いが気に食わないんだろう。
何せ俺は平民……例え師匠であっても、王女に対して馴れ馴れしくするのは不快に思われるのだろう。
「いやそんなことは――とにかく、本当はもっと大人びた見た目だったんだけどね」
「数年ぶりの再会でして。丁度そのことを話していた時に、貴方が来たのですよ」
「……あの。私に敬語を使うなら……」
ロヴィア君がもの言いたげな目線を向ける。
気持ちは分かる。
自分より上の立場の人間には砕けた口調で、自分には敬語。
おかしな話だ。
だが―――
「俺と貴方は初対面で、貴方はどうやら騎士様のようですから。ですが―――ルン、ルルティアは……元とはいえ、俺の弟子です。敬語を使うつもりはありませんよ」
「……そうですか」
ロヴィア君はまだ不満気だが……ルンに敬語は使えない。
昔……ルンが俺の弟子になって、まだ一年もたっていなかった時だ。
ルンが、上から目線で……「テイル君、菓子を取って来給え」とか宣ったことがあった。
当然、冗談の類だったんだが。
俺は彼女に合わせ、従者の様な……敬語で返した。
彼女はハッとしたような表情になり、泣き出してしまった。
修行ですら泣くことの無かったルンが、泣き出したんだ。
今思えば……詳しくは知らないが、あれは王族としての過去が原因だったんだろう。
彼女には言っていないが、これもルンが王女だと聞いて納得したことの一つだったりする。
「テイル……だったらロヴィア君にも敬語無しで良いんじゃない?」
「いや、ロヴィア君が良いならいいんだけどな?」
「………」
お前にまでそう呼ばれる筋合いはない、という表情だ。
甲冑で隠れているので予想だが。
「……ロヴィアで頼む。それと敬語はいらん……」
流石に主人より上に扱われるのは耐えられなかったか。
(『人柄の良い騎士ですね』)
(……やっぱり人柄の悪い騎士もいるのか?)
(『『それはもう』』)
どうやら二人とも覚えがあるらしい。
騎士と言えば、貴族に次いで立場が高いからおかしくはないが。
「それで……どうする?」
「うーん……家来る?」
何でだよ。
家って王城だろ。
「そんな軽いノリでいいのか?」
「……特に問題は無いと思うけど」
無いわけあるか。
「…………」
「ほらみろ。ロヴィアが困った顔をしてるじゃないか」
「えー…だって、話まだ聞き終わってないし」
「姫様……流石に、得体の知れない人物を王城に招くのは……」
「得体が知れないってことはないでしょ。僕の師匠なんだから」
「いえ、それを知っているのは姫様だけですし……」
「なに?ボクが信用できないの?」
「えっ、えぇ……」
ロヴィアが涙目になってきてるんだが。
「ルン、そう急がなくてもいいから。少なくとも、暫くはこの街にいるつもりだしな」
「うー…でも、ボクはそう頻繁に外には出れないよ?また暫く警備強化されるだろうし……ボクが抜け出したせいで」
聞こえないように呟いてるんだろうが、俺の耳にはバッチリ聞こえてるからな?
「しかしな……」
「えっ…え?」
ロヴィアの方に視線を向ける。
鎧兜の上からでも分かるほど、困惑している。
「…大丈夫か?」
「大丈夫だよ!テイルにはボクが手出しさせないから!!」
……気配を探ったところ、俺の皮膚に傷をつけられそうなやつは王城にはいない。
途轍もなく強力な武器…それこそ聖剣でも使えば別だが。
恐らく、殺されることは無いだろう。
よし、王城に行こう。
「う、うん」
ロヴィア君、と呼ばれていた騎士は、ルンの説明を聞いても信じられないと様子だった。
当然のことだ。
俺はどう見てもルンより幼い。
長命種ならまだしも、俺は純粋な人族だ。
(『完全に人族とは言い難いがの』)
(……)
そんなことは、ない。
………筈!
「い、いくら姫様の言葉でも……些か信じ難いものがあるのですが」
「それは分かってる……というか、実はボクも何でこんな見た目なのか分かんないんだよ」
「……はい?」
「ボクが知ってるテイルはもっと……」
「オッサンだったな」
俺がそう言うと、ロヴィアという騎士はジロリと鎧の隙間から睨んできた。
まぁ理由は分かる。大方、言葉遣いが気に食わないんだろう。
何せ俺は平民……例え師匠であっても、王女に対して馴れ馴れしくするのは不快に思われるのだろう。
「いやそんなことは――とにかく、本当はもっと大人びた見た目だったんだけどね」
「数年ぶりの再会でして。丁度そのことを話していた時に、貴方が来たのですよ」
「……あの。私に敬語を使うなら……」
ロヴィア君がもの言いたげな目線を向ける。
気持ちは分かる。
自分より上の立場の人間には砕けた口調で、自分には敬語。
おかしな話だ。
だが―――
「俺と貴方は初対面で、貴方はどうやら騎士様のようですから。ですが―――ルン、ルルティアは……元とはいえ、俺の弟子です。敬語を使うつもりはありませんよ」
「……そうですか」
ロヴィア君はまだ不満気だが……ルンに敬語は使えない。
昔……ルンが俺の弟子になって、まだ一年もたっていなかった時だ。
ルンが、上から目線で……「テイル君、菓子を取って来給え」とか宣ったことがあった。
当然、冗談の類だったんだが。
俺は彼女に合わせ、従者の様な……敬語で返した。
彼女はハッとしたような表情になり、泣き出してしまった。
修行ですら泣くことの無かったルンが、泣き出したんだ。
今思えば……詳しくは知らないが、あれは王族としての過去が原因だったんだろう。
彼女には言っていないが、これもルンが王女だと聞いて納得したことの一つだったりする。
「テイル……だったらロヴィア君にも敬語無しで良いんじゃない?」
「いや、ロヴィア君が良いならいいんだけどな?」
「………」
お前にまでそう呼ばれる筋合いはない、という表情だ。
甲冑で隠れているので予想だが。
「……ロヴィアで頼む。それと敬語はいらん……」
流石に主人より上に扱われるのは耐えられなかったか。
(『人柄の良い騎士ですね』)
(……やっぱり人柄の悪い騎士もいるのか?)
(『『それはもう』』)
どうやら二人とも覚えがあるらしい。
騎士と言えば、貴族に次いで立場が高いからおかしくはないが。
「それで……どうする?」
「うーん……家来る?」
何でだよ。
家って王城だろ。
「そんな軽いノリでいいのか?」
「……特に問題は無いと思うけど」
無いわけあるか。
「…………」
「ほらみろ。ロヴィアが困った顔をしてるじゃないか」
「えー…だって、話まだ聞き終わってないし」
「姫様……流石に、得体の知れない人物を王城に招くのは……」
「得体が知れないってことはないでしょ。僕の師匠なんだから」
「いえ、それを知っているのは姫様だけですし……」
「なに?ボクが信用できないの?」
「えっ、えぇ……」
ロヴィアが涙目になってきてるんだが。
「ルン、そう急がなくてもいいから。少なくとも、暫くはこの街にいるつもりだしな」
「うー…でも、ボクはそう頻繁に外には出れないよ?また暫く警備強化されるだろうし……ボクが抜け出したせいで」
聞こえないように呟いてるんだろうが、俺の耳にはバッチリ聞こえてるからな?
「しかしな……」
「えっ…え?」
ロヴィアの方に視線を向ける。
鎧兜の上からでも分かるほど、困惑している。
「…大丈夫か?」
「大丈夫だよ!テイルにはボクが手出しさせないから!!」
……気配を探ったところ、俺の皮膚に傷をつけられそうなやつは王城にはいない。
途轍もなく強力な武器…それこそ聖剣でも使えば別だが。
恐らく、殺されることは無いだろう。
よし、王城に行こう。
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