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第三章 師弟
その十九 勘違い騎士様
しおりを挟む「それより……テイル、怒らないの?」
二人で歩いていると、ルンがそんなことを言い出した。
ちなみに、今は王城に行く途中だ。
ルンの場合は帰る、だが。
流石に王女が出歩いたまま、ってのはマズイ。
まぁ襲われたところで問題ない力はあると思うが。
「怒る……?何に?」
正直、思い当たることが無い。
首を傾げるしかなかった。
「いや、その……ボクが立場を隠してたこと……」
ああ、そういうことか。
「怒る理由にはならないな。お前が立場を隠してたからって、特に困ったことは無かった。お前の気持ちも分かるしな」
貴族やら王族やらとしての勉強、滅多に外に出ることも出来ず、王城で暮らす日々……
そんなもん耐えられるわけない。
「そ、そう……?もしかしたらとんでもない迷惑かかってたかもしれないのに……」
「気にするな。実際には何も無かったんだから、それでいいだろ。立場が同じなら、俺だって同じことをしただろうしな」
「……うん、分かった!!」
ルンは、明るく笑った。
蒼い髪が、風に靡く。
ルンは昔から割り切るのが得意だったからな。
だからこそ、だからこそその笑顔に、何度も心を救われたんだ。
本当に……俺は、バカなことをしたもんだ。
「やっぱり……そっちの方がいいな」
「―??何が?」
「いや……ルンは、笑ってる方が可愛いと思ってな」
「…………へ?」
……うん?
突然ルンが笑顔のまま固まった。
次第に顔が朱に染まり、手で顔を覆って俯いた。
………何でだ。
(俺……泣かせるような事したか?)
(『ある意味しましたね』)
(『……まさか、主がそういうタイプだとは思わなかったのじゃ』)
何でだ……?
これが、女心ってヤツか…?
(『当たってはいますが、肝心なところを勘違いしてますね……ご主人様は恐ろしいです』)
(『本当じゃの……まぁ弟子だから、というのも関係しとるのかもしれんがの』)
「―――ヤバいヤバいヤバイ、恥ずかしいよぉ……」
………恐らく、普通なら聞こえない音量で呟いてるんだろうが……
魔獣血石の影響でしっかり聞こえてるんだよな……
そんな恥ずかしがるような事じゃないと思うが……
「……けど嬉しい」
―――誰か、近づいてくる!
(『タイミングが悪いですね……』)
(『奇跡的なほどにの』)
丁度、路地裏を出た時だった。
「―――!?貴様ッ!!姫様に何をしたぁ!!」
そう叫んで斬りかかってきたのは、甲冑を来た騎士だった。
錆の無い綺麗な甲冑が、太陽の光を反射して煌めく。
振り下ろされる剣を眺めながら、現在の状況を分析する。
ルン……第三王女。泣いている(様に見える)。
俺……謎の人物。ルンの傍に立っている。
騎士……ダラン王国の騎士。王族を守る。
……………………なるほど。
勘違いされるわけだ。
「すまないが……俺は特に何もしてないぞ」
「―――なッ!!?」
振り下ろされた剣を抓み、何とか弁解出来ないか試みる。
流石にお尋ね者は嫌だからな。
――ん?この剣……
(ミスリルか)
(『そうですね……純粋な物では、ないようですが』)
まぁ、それはしょうがないだろう。
私費で買ったか、支給されたか。
後者なら、ミスリルが混じった鉄の剣でも大盤振る舞いだ。
目の前の唖然としている騎士の、位の高さが伺える。
「そ……そんな馬鹿な!!そんな……あり得ないだろう!!」
「あり得ない、信じられない、そんな考えは戦いの中で意味は無い」
(俺も英霊の島で学んだことだ)
(『まぁ……あの島で暮らせばならそうなりますよね。ロベリアより強い魔獣だらけですから』)
(『そうじゃの。魔力のせいで土地自体が丈夫になっておらなければ、とっくにあの島は消滅しておったじゃろう』)
(えっ)
結構驚きの情報なんだが。
そりゃもう、ルンが第三王女だったことよりびっくりだ。
まさか伝説上のバケモノ、魔王より強い魔獣がいたとは。
(『……一応言っておくが、主はその私より強い魔獣を屠りまくっておったんじゃぞ?』)
(…………)
考えるのを止めた。
「――っと、それよりも……ルン、さっさとどうにかしてくれないか」
「そ、そうだね……」
ん?何でルンまで驚いてるんだ?
「テイル……素手でミスリルの剣を受け止めるなんて、そんなこと出来たっけ……?」
………そういえば。
特に気にせず素手で掴んでたな。
何の脅威も感じなかったから、しょうがないだろう。
「いや、今はそれより……ロヴィア君!この人は本当に何もしてないよ!!」
「えっ……では、姫様はなぜ蹲っていたのですか」
「…あ、えっと、それはね……その……」
その後、弁解にニ十分かかった。
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