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第三章 師弟
その十八 ダラン王国第三王女
しおりを挟む「―――――――テイル……?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
青い髪の女性、そして俺のことをテイルと呼ぶ……
そんな人物を、俺は一人しか知らない。
俺の驚愕とは裏腹に、目の前の女性は疑問顔になった。
「――――の子供?」
(……そうなるか)
(『当然じゃな。むしろ今の姿で主を思い浮かべただけ、流石は元弟子と言うべきじゃの』)
そう……目の前の女性は、間違いなく俺の元弟子、ルルティアだ。
「――あっ!ごめんね!!突然こんな……君の両親、特にお母さんの方教えてほしいんだけど、ダメかな?」
(……何で母親の方なんだ?)
(『当然の疑問でしょう。彼女は今ご主人様のことを、長年独身だと思っていた男性の子供だと思っているのですから』)
(『気になるのは当たり前じゃの』)
(まず俺の子供かどうかを確認しろよ……)
とりあえず、このままでは勘違いされたままになりそうなのでこちらから話しかけよう。
「あー……ルン、だよな?」
「えっ、ボクの事知ってるの!?」
「……いや、うん。何年も一緒に暮らしてたからな」
そう言うとルンはきょとんとした表情になった。
「えーっと……どこから説明したもんか…とりあえず、俺はテイル本人だ」
「へ?」
そりゃ驚くよな。
なんせ四十台のオッサンだった奴が自分より年下の見た目なんだから。
「え?……テイル?……嘘……ホントに??」
「ああ。間違いなく俺だ。まぁ見た目は……少し若返ってはいるが」
(『主……少しではないと思うのじゃ』)
(うるさい)
ややあって、ルンは俺の顔を確認するように頬に手を添えた。
「………ルだ」
「ん?」
「テイルだ……本当に…―――――テイルッ!!」
「うおっ?」
ルンは突然跳び上がり、抱きついてきた。
「テイル……!!会いたかったよおおお!!」
「おい………」
三年の歳月は、ルンを少女から大人の女性に変え、そして俺を若返らせた。子供にまで。
その結果―――ルンの方が俺より身長が高い。
ルンが伸し掛かったところで倒れることなど当然ないが、俺の頭に抱きついているため、三年で大人の女性らしく成長した、ルンの胸部に顔を押し付けられることになり―――
(こういう時……どうすればいいんだろうな?)
(『さぁ……?私もこのような経験は無かったので……』)
(『同じじゃの。ただ……とりあえず、離れるべきだと思うのじゃ』)
(いやそれは不味いだろ。ただでさえ気まずいのに)
心の中でロベリア達と相談しても、特に解決策は得られなかった。
というか、勇者と魔王の人生経験薄くないか?
立場上しょうがなかったのかもしれないが。
「ホーイ?ルン?」
「ひゃっ!??くすぐったいよぉ!!」
どうやら息が当たったらしい。
いやどうしろと。
(『チッ……』)
……ロベリア、舌打ちはやめなさい。
「あっ……ご、ごめんね、テイル……苦しくなかった?」
「ああ……大丈夫だ」
三年間魔獣血石を食い続け、数時間息を止めても平気な体になってるからな。
「で、でも……何でそんな見た目に?いやその姿も良いと思うんだけど……」
「あー…かなり長くなるが……時間は大丈夫か?」
「そ、そっか……じゃあ歩きながら話そ」
「分かった」
そして俺達は歩き出した。
「――ところで、俺の話をするのはいいが、お前のその恰好はどうしたんだ?」
ルンの今の格好は、明らかに高級な服装。
かなり高貴な身分の貴族とか……そんな雰囲気の格好だ。
俺が知っている限り、ルンはそういう格好よりも、動きやすい庶民的な服を好んでた筈だ。
「え、えーっとね……どこから話そうかな……」
「――??話したくなければ話さなくていいんだが」
無理に聞くような事でもないからな。
「いや……話すよ。そもそも、世間的には知られてることだし……」
…?世間的に?
「うん……テイルには言ったことなかったけどね、ボクはこの国の―――
――ダラン王国の、第三王女なんだ」
「……?」
あー……
「そういうことか」
「えッ!?驚かないの!!?」
いやまぁ、驚いたには驚いたんだが……
「まぁ……何となく、全部繋がった気がしてな。お前の性格を考えると……それを隠してたのも、俺に弟子入りしようとしたことも納得できる」
要は……ルン自身、その肩書や立場を煩わしく思ってたんだろう。
それ以外にも理由はある。
以前は――あの島に行く前――は分からなかったが……
「光属性も持ってるみたいだからな」
「へっ!?分かるの!?」
「ああ」
光属性は、基本的に勇者の家系――ダラン王国の王家――しか持っていない。
まぁ他にもいるのかもしれないが。
俺みたいな例外もいるわけだし。
「つまり……この三年の間に、理由は知らないが、連れ戻されたってことか?」
「当たり。正確には一年前ね。王位継承権からはかなり遠かったし、一年前までは諦められてたらしいんだけど。事情が変わって、捜索に力を入れ始めたみたいなんだ」
「事情が変わった……?」
「うん」
そのままルンの話を聞いていると、ルンが所謂お転婆姫だったことが分かった。
ある意味予想通りだが。
八年前、既に王女としての責任や立場に嫌気が差していたルンは、遠出の途中で魔獣に襲われたのを好機と見て逃げ出したらしい。
しかし、その先で再び魔獣に遭遇し―――
「―――テイルに助けられて、弟子になったんだ」
「ふむ……連れ戻された時、こっぴどく怒られたんじゃないか?」
「そりゃあもう……そのせいで今は貴族の礼儀や儀式何かの勉強ばっかりでね」
「なるほど……つまり、今も逃げ出してきてるわけか」
「うっ……だって…全然体動かせないし……」
「まぁ気持ちは分かるけどな」
そんな生活、俺なら耐えられるわけがない。
(『私も苦労しましたね……食事時のマナーだの、行儀だの……』)
(『魔族には貴族制度などなかったから、私は楽だったがの!!』)
魔族の方がいいな。
―――ふと、俺はルンに視線を向けた。
「……道理で」
脂肪がついているわけだ……
いや、成人女性ならそれでいいとも思うが。
「――!どこ見てるの!!」
「いや、太ってはいない分、一部に脂肪が溜まったんだなと」
「うう~!テイルはデリカシーがないよ!!」
(『ご主人様、あまり女性に体の事を言ってはいけませんよ』)
(『そうじゃぞ!大体私もあれぐらい……!!』)
怒られてしまった。
デリカシーが無かったのは認める。
ただ、ロベリアの見た目は残念ながら俺には分からないので、困るところだ。
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