弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

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第三章 師弟

その十七 悩みと再会

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 教会を出た後、冒険者ギルドへ向かった。
 驚きが薄れてくると、異常なほどに身体に力が溢れているのが分かった。
 ・・・正直、早めに慣れないと不味い。



(『ご主人様、力を制限しないと街が崩壊しますよ』)
(怖いこと言わないでくれ・・・)
(『教会を出る時も扉が「ミシッ」とかいっとったしの』)
(くっ・・・考えないようにしてたのに)



 そういうことだ。
 99⇒179Lv
 80レベルアップはとんでもなかった。
 ただでさえ化け物みたいな力があったのに……
 今なら指一本で黒竜を捻り潰せる気がする。


(『全力で殴れば街ぐらい吹き飛ぶと思いますよ?』)
(分かってるよ・・・)


 レベルアップ……急ぎ過ぎたかもな。
 だが、いつ俺より強い奴が現れるかは分からないんだ。
 強くなり過ぎなんてことは無い。


(『主は少々驕ったぐらいが丁度いいと思うのじゃ』)
(・・・・・・・)


 ……いや、ダメだ!!
 まだまだ俺は弱い!!ハク、龍神様みたいに俺より強い奴だっているんだからな!


(『ご主人様、少々比較対象がおかしいかと・・・』)
(・・・ああ。知ってる)


 神と比較するもんじゃないよな……
 だが神以外でも俺より強い奴はいるかもしれない。


(『主は面倒な性格じゃの』)
(自覚してるよ・・・)


 分かってる。分かってるんだが・・・

(「修練を絶やすな」ってのは俺がルンにいつも言ってたことだからな)
(『・・・主よ、そのルンというのは主の何――じゃなくて誰じゃ?』)
(『私も気になりますね・・・』)
(ああ・・・)


 そういえば、二人には俺の事はほとんど話してなかったな・・・
 英霊の島に行ったのも「修行の為」としか言っていなかった。


 ……早めに言う方がいいか。
 道すがらに話しておこう。

 正直、気は進まないが……


(ルンは・・・俺の弟子だ。そして―――俺が英霊の島に行った理由でもある)


 驚いた様子(何となくだが)の二人に、英霊の島に行く前の事を話した。



 ―――弟子ルンに負けた事。



―――俺には才能が無かった事。



 ―――半ば自殺の様な行動だった事。



 話すべきだと、そう思った俺の過去汚点も全て。
 落胆されてもおかしくない……
 いや、むしろそれが普通だとすら思う。


 今思えば、ルンを追い出したのだって八つ当たりみたいなものだった。
 下らない、醜い、馬鹿らしい嫉妬。

 三十年、ひたすらに努力して手に入れた力を、
 三分の一にも満たない時間で凌駕された事に対する、
 羨望と妬み。
 四十六、いや三年前だから四十三か。
 そんな年にもなってガキみたいに妬んでいたんだ。

 ルンが努力していることを、俺は知っていた。
 師匠だったから、ごく当然のことだ。




 そう、俺は知っていたんだ。


 ルンが、俺よりも努力していたことも。
 なのに、認められなかった。

 言い訳ならいくらでもできる。

 師匠がいなかったから。
 修行以外にもやることがあったから。
 一人だけだったから。



 だが……違う。
 そんなことじゃない。
 俺は、知っていたはずだ。
 自分が弱いことに、言い訳しても意味が無いんだって。


 幼い頃に、学んだはずだ。


 なのに……なのに、俺は認められなかった。
 弟子が師匠を超える。
 師匠はそれを喜ぶ筈だったんだ。


 なのに、悔しかった。悲しかった。
 ルンが自分より何倍も早く、強くなっていったことが。
 弟子に、超えられたが事が。


 弟子が強くなったことも素直に喜べない、ダメな師匠。
 そんな風になりたかったんじゃないのに。
 ルンを拾った時から、自分の才能の無さに辟易していた。
 だからこそ、弟子を育てれば、俺も強くなれるかもしれないと。
 そう思った。






 ―――…そう思ったんだ。



 俺がレベル99になった時、ルンは妬んだか?悔しがったか?

 いいや違う、あの子は喜んだ。喜んでくれた。

 屈託のない、満面の笑みで。
 まるで自分の事の様に。




 ――――…情けないな、俺は






(『・・・はぁ』)
(『ご主人様・・・』)


 やっぱり、失望されたか。
 二人は……俺を見限るだろうか。
 こんな主じゃなければ良かったのに、と。
 そう言われるだろうか。






((『………………………悩み過ぎじゃ(です)』))

「……え?」
「うん?どうした兄ちゃん」


 えっ……
 何て……?



「おい、兄ちゃん?大丈夫か?」
「あっ、すいません!」


 思わず、声に出てしまった。
 だって……そんな……


(・・・ラナ?ロベリア?)
(『二度も言わせるな!悩み過ぎなんじゃ!!』)
(『そうですね……ロベリアに同意です』)


 え……


(『そもそも、人間とはそういう生き物じゃろうが!』)
(『ダメなことなのは間違いないですが、無闇に怒りを振りまかなかっただけマシでしょう』)
(・・・そう、か?)
(『そうです。そんなことでグチグチ悩むより、会いに行って謝るほうがいいと思いますよ?』)
(ぐっ・・・)


 確かにその通りだ。


(『そもそもじゃな、弟子に負けた悔しさで英霊の島に行くとか、主は阿呆あほうなのか?』)
(・・・言われてみれば)
(『納得するでないわ!!全く・・・』)
(『ふふ、そうですね。ご主人様はお馬鹿さんなのでしょう』)
(否定できないな・・・)



 本当に……俺は馬鹿だ。
 悪い事をしたと思ったなら謝る。
 子供でも出来ることじゃないか……


 それより……二人は俺の事をどう思っているんだろうか。


(『・・・ふん。心配せんでも主を見捨てるような真似はせんわ。まぁ、今の私達は剣じゃがの』)
(『そうですよ。私だけでもついていきますから』)



 どうやら、老獪な魔王様と勇者様にはお見通しだったらしい。



(『何じゃその言い方は!まるで私が主を見捨てるようではないか!!』)
(『あら。あくまでロベリアが着いていかなかったとしても、という仮定の話よ』)
(『そもそも私達は一本の剣であろうが。どうやって離れるつもりだ』)
(『さぁ?』)


 ははっ・・・
 悩んでたのが馬鹿らしくなってくるな・・・


(『おや、ご主人様。頬が濡れていますよ』)
(え・・・)
(『泣いておるのか―?中身はオッサンだというのに!』)



 おどけたように言うラナティアの声に、手を頬にあてる。
 ロベリアの笑い声が響く。


 ラナティアとロベリアの言う通り、俺は知らぬ間に涙を流していた。
 ・・・俺は、それだけ悩んでたのか。
 自分でも気づかないものだな。



 さすがに人の多い通りで泣いていたら訝しがられる。
 俺はすぐに道のわきにある路地裏に入った。



























「――――――――テイル……?」



 目の前に、美しい青い髪の女性。


 貴族の様な上等な服を着た、


 かつての弟子ルルティアが、そこにいた―――
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