弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

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第四章 国難

その三十一 魔王

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「……随分と遠慮がないな、貴様は」

 テイルの物言いに相変わらず銀色の鎧を纏った男、国王アガラ―トは嘆息した。


「あんな真似されたらな。当然じゃないか?」
「ふむ。その言い方は、既に冒険者ギルドへ行ったのだな?ならば話が早い」

 そこで一旦話を区切ったアガラ―トは、レインへと視線を送る。
 それを受け、腹心の臣下レインは即座に人払いを行った。
 元々少なかった兵士がいなくなる。

「……また何か面倒事か」
「うむ。親としては複雑だが、国王としては前よりも遥かに厄介な事だ」

 その言葉は第一王女が病に伏すよりも厄介だと示していた。
 それを理解したテイルは、真面目な顔つきで言葉を待つ。
 この場においてロベリアだけは楽しそうに笑っている。


「端的に言おう。『魔王』が出現した」
「――」


 テイルの真面目な顔が崩れた。
 ロベリアでさえも神妙な様子で黙っている状況で、「いや確かに俺の隣にいるけどな」と言いそうになった男は即座に顔を引き締めた。
 ラナも微妙に顔を歪めている。

「……?どうした」
「いや、何も」
「そうか。既に貴様も知っているだろう。王都の周辺ですら、Bランク魔獣が出現したのだ」

 テイルは首を傾げた。
 それが魔王の出現と何の関係があるのかと。

「……貴様、知らんのか?……いや、長年山に籠っていたんだったか」

 疑問を呈したアガラ―トは、愛娘ルンに睨みつけられ納得した。
 その顔に冷や汗が流れていたことは誰も言及しなかった。
 緊迫した空気が霧散する中、咳払いをした国王は説明を続ける。

「原因は分からんが……歴史上、魔王が出現した時代には必ず魔獣の活性化が確認されている。それに伴いそれまでは滅多に出現しなかった魔獣が、人里に現れるようになるのだ。王都周辺で起こったような異常事態が、各地で起きている。故に、同盟国を含め、我が国も『魔王が出現した』と判断した」


 王の顔に戻り、事態がどれだけ悪いのかを彼は入念に語った。

 辺境にはAランクの魔獣が出現するようになり。
 王国以上に魔族の領域に近い国では、Sランク魔獣すら確認された。
 野に住む多くの魔獣が人里へと侵攻し。
 他国では既に幾つかの街が壊滅状態に追いやられている。

 予想以上の事態に、テイルは顔を顰めた。
 ロベリア、ラナの両者も同様である。

「それに対する対抗策も、推し進めている。残念ながらこれ以上は語るわけにはいかん。既に一度助けられた相手に、このようなことを頼むのは心苦しいが……どうか協力してほしい」


 そう言って、王は頭を下げた。
 傍らの臣下は苦々し気に顔を歪ませた。
 王の娘は懇願するような、それでいて申し訳なさそうな目を向ける。
 その護衛は、主君のために頭を下げた。

 既にくだけた雰囲気は消え失せ、どこか重い空気感が満ちていた。
 対する少年は。
 年に合わない、不似合いな外見をした少年は。

 笑みを浮かべた。


「やめろ。勝手に頭を下げるな。強い奴がいるなら、どの道戦いに行くつもりだった。元弟子の居る国だ、潰させやしない」

 ニィッと口角を上げる。
 どこか重かった空気が霧散する。
 己惚れるつもりはないが、自分を卑下するつもりもない。
 今の俺とまともに戦うことは、元魔王ロベリア元勇者ラナですら出来ない。
 Sランク魔獣を軽く瞬殺出来るような二人でも、だ。
 俺の知識の中には、俺より強い存在があの龍神以外存在しない。
 あとは名前しか知らない他の神か。

 だからこそ、神以外で俺より強い奴がいるなら会ってみたいもんだ。
 この言い方じゃ慢心にしか聞こえないけどな。
 英霊の島……単体で国を潰せる魔獣だらけのあの島で三年も生きたんだ、少しくらいはいいよな?


「……感謝するぞ。娘の元師匠よ」
「了解した。元愛弟子まなでしの父親」
「ふっ、ふはっ、ふはははっ!」

 王の笑声が、城内に響いた。
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