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第二章/葉月瑠璃
Episode025/女になっているから……?(中)
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(47.)
僕は自宅の布団に仰向けに寝転がり、今しがたの出来事を反芻していた。
自宅に月影さんを連れ帰ったとき、最初に言われたのが裕希姉の『くさっ!』だった。早急にシャワー浴びてこいと裕希姉に唆されながら、月影さんは風呂場へと連行されてしまった。
まあ、そりゃそうだ。
僕の勝手な印象だけど、女性は皆良い匂いがするとばかり思っていたけれど、さすがに二週間お風呂に入っていないとなると、ああも悪臭漂うことになるのかと、ひとつ勉強になった。
そして僕は、月影さんが風呂から出るのを待っているところだ。
すぐさま汚ぱんつを変えたいところだけど、なるべく風呂上がりに衣服を一新したい。そうしないと、なんだか勿体ない気がする。
ーーコンコンコココンコンコンコココンコンココココココン!
と、いきなりドアを誰かに連打された。それはまるで、太鼓をモチーフにした音ゲーをプレイしているかのような、ドンカッドンドンカッというリズミカルなテンポのノック。
「いやいや裕希姉でしょ? そんなバチで太鼓を叩いているみたいなリズムでノックしないでくれない? 一瞬びくっとするからさ」
ーードンドンカッカッドンカッカッカッ!
とノック音が響いたあと、ようやく扉が開かれた。
……カッて音をどうやって出したのかは聞かないでおこう。
「つまんねー! ま、そんなことよりさ? ゆったって、こんな人助けみたいなことしなかったじゃん? なになに? 心変わりでもしたん?」
「まあ、その……ほら、一応、異能力特殊捜査官になったんだから、見つけたら放っておけないじゃないか」
いや、それはユタカのおかげで変わったんだけど、そんな話、裕希姉に言ってもしょうがない。
今の姿になるまえは自信がなくて、助けたくても『僕みたいな陰キャのブサイクに助けられたら、逆に迷惑なんじゃないか?』とか考えてしまって、今までは一歩踏み出せなかったんだ。
でも、今は違う。
まえよりひ弱になったとしても、この素晴らしい容姿になれてから、妙に自信がついた。だからこそ、女子を助けるときに逡巡しなくなった。この姿なら、最悪助けられなくたって、相手は迷惑に感じないに決まっているーーそう思えるようになれた。
「ま、今のゆったのほうがいいと思うよ。弟だった頃は、なんか常におどおどしていて、ぶっちゃけキモかったし」
「ひどっ! 家族にキモいとか言う? 普通……」
「冗談冗談、ま、ロリコン連れてこなくてお姉ちゃん安心した! これからはその心意気で進むべし!」
「あ、あはは……」
もしも男に戻ったら、また再発しそうだけど。
ーー豊花。きみはもう少し自信を持ったほうがいい。私は“女になるまえの姿”の豊花を視認しているが、きみが思っているほど醜悪な容姿ではなかった。ーー
そうかな?
自分ではそう思えないんだよね……。
「ところで、どうして異能力者になったからってホームレスになったん? あの子」
裕希姉は、僕も詳しくは知らないことを尋ねてきた。
たしか、陽山という殺し屋に恨みを持っていて、そいつさえ殺れれば死んでもいいだなんて発言をしていたっけ。
だいたい、陽山の発言も気になる。
『きみの死に顔を見たい』と言っておきながら、静夜のナイフに当たらないよう、わざわざ蹴りを入れてナイフから遠ざけていたじゃないか。
あれではまるで、守っているように感じなくもない。
陽山という人物像がまったくわからないけど、彼は本当に月影さんを殺したいのだろうか?
いや、違う。
殺したいなら、あのときわざわざ手出しする必要はなかったはずだ。
…………それはおいておいて、なにか忘れているような気がしてならない。
ーー瑠衣か未来に連絡を入れるのではなかったのか?ーー
そうだった!
月影さんがお風呂に浸かっているあいだこそ、連絡するチャンスじゃないか!
「おーい、ゆったー? なんかぼけーっとしちゃってるぞ? にゃんかあったかー?」
にゃん、てなんだ。
稀に飛び出す謎の『にゃー』は、かわいいと思ってやっているのか、無意識でやっているのか、この姉は時々わからなくなる。
「いや、ちょっと用事ーーというか、これから電話しなくちゃいけないのを思い出した」
「なんでだ我がリトルシスター! あと私、ドラストのバイトやめちった」
リトルもシスターも余計だ。
だいたい、ドラッグストアのアルバイトをやめたなんて情報、こっちはどうでもいいんだけど?
「今から連絡するから、ちょっと黙っててくれない?」
「黙れだと! 生意気なマイシスターめッ!」
だから、妹でもリトルシスターでもマイシスターでもないって。ブラザーだから!
なんて突っ込みを入れると、またややこしくなる。そう考え、僕は裕希姉をあえてスルーし携帯を取り出した。
未来さん未来さん……あれ、登録忘れていた?
渡された資料の中には書かれているんだろうけど、疲弊した体力では、探す気にもなれない。
まあ、探すしかないか……あっ。
『葉月瑠衣』と登録されている番号が目に入り、考えを改める。
瑠衣に連絡して、瑠璃に伝えてもらえばいいじゃないか。
思い付いたら吉秒。早速、僕は瑠衣の番号へと連絡した。
ただ、起きているかが不安だ。もう11時も近い。起きていない可能性だってある。だとしたら迷惑でしかない。
そう考えながら電話をつづける。
早くしないと月影さんが出てきてしまう。もう瑠衣に連絡してしまっているのだから、このまま繋がれば、そっちのほうが早いだろう。
だが、予想より迅速に繋がった。
『もしも豊花!』
しが一文字欠けていた。
もしもボックスじゃないんだからさ……。
だけど、起きていて一安心だ。むしろ、やたらと元気で溌剌とした明るい声だし。
「瑠衣、お願いがあるんだけど、いいかな?」
『ん、いいよ。何かあった? ロリコン?』
「ろ、ロリコン?」
僕をロリコンと言っているのか、ロリコンがなにかあったのか、ほかのなにかなのかさっぱりわからない。
『もしかして、ロリコン、襲われた?』
「違うから! ちょっと、瑠璃かありすに伝えてほしいことがあるんだけど……」
『わかった、ありす、豊花が、何かあるって』
すぐ近場にありすがいたらしい。
もしかしたら、治るまで居候しているのかもしれない。
『どしたの杉井? なんか用事?』
通話相手がありすに変わった。
「あ、うん。あのさ、実は今、月影日氷子って異能力者を見つけて、嘘ついて自宅に連れ込んだんだけど、どうすればいい?」
『へ? 新規異能力者? 月影日氷子月影日氷子……ちょっと待って。いまタブレットでデータベースにアクセスして確認してみるから』
どうやら異能力者保護団体の外でも、新規異能力者なのか登録済みの異能力者なのかわかるようだ。
たしかに、外で使えなければ、異能力犯罪者を捕まえることは難しくなるだろうし、当たり前っちゃ当たり前か。
『……うん。申請してないっぽいね。“つ”の異能力者一覧に見当たらないや。強制執行なら住民票も身分証も不要なんだけど、強制連行は異能力捜査官ないし第2級異能力特殊捜査官以上じゃないと無理だからなー。一般人の杉井にできることはなんだろ?』
「あ、言い忘れてた。今日から僕、一応、第4級異能力特殊捜査官になったんだよ」
『へ? え、なんで? 杉井、ただでさえ貧弱な女の子になってるのに、どーしてわざわざ異能力者保護団体に従事することになったん?』
どうやら瑠璃から聞いていないみたいだ。普段は仕事の話をしないって言っていたけど、それ、本当だったんだ。
「ま、まあ、いいじゃんそれは。ありす、いま動けないよね?」
『瑠衣に胸を揉みしだかれても、追い払うのに精一杯ってくらいズタボロ。そりゃ動けないでしょ? 歩くのが限界ーーだーかーらー揉むなって言ってるでしょ、ちょっ、瑠衣?』
な、なんだろう?
相変わらず瑠衣は、ありすに変な悪戯を加えているみたい。
「だ、だからさ? 瑠璃に伝えてくれないかなーって……で、どうにか異能力者保護団体に連れていくとバレないように連行する方法ないかな?」
『ちょっと、瑠衣? 瑠衣のお姉さんに今から言うこと伝えてきてくれない? あとそれマッサージじゃなくて単なる変態行為だからねー?』
通話口から『おっぱいマッサージ。健康に、いい』と瑠衣の声が聞こえてくる。
なんだよ、おっぱいマッサージ……思わず自身の胸を見下ろす。これって何カップなんだろう?
絶対Cは無さそうだし、Bすら怪しい。Aがいいところなんじゃないだろうか?
「あ、そういえばひとつ、瑠衣に聞きたいことがあるんだけど」
気になることをーーおっぱいじゃなくてーー思い出した僕は、ちょっと聞いてみることにした。
『瑠衣にもなんかあるの? なんかあった?』
「い、いやさ……これ、瑠衣の番号じゃん?」
『うん、じゃなきゃ瑠衣にかからないっしょ?』
「……登録した覚えがないんだけど、なんかみっちり登録されてるんだよね。これって、もしかして瑠衣が登録したのかなと思ってさ?」
『ーーまあ、瑠衣ならありえそうっちゃありえそうだけど。パスワードかけてないの?』
「いや、パスワードでロックしてあるから、どうやって登録したのか気になってさ」
「ゆったー、なんか友達増えてんじゃん。男いるなら紹介してよー年下でかまわないからさー」
裕希姉、静かにするか部屋から出るかしてほしいんだけど……。
という空気が伝わったのか、渋々ながらといった顔をさせながら、ようやく部屋から出ていってくれた。
『なら無理じゃーーえ? うそ……え、それで解いたの? どーして普通に連絡先交換しないかなー?』
「え? やっぱ瑠衣なの? どうやって解除したの?」
『なんか、指紋の濃い場所をいくつかなぞってたら解除できたってさ』
怖っ!
え、そんなに指紋着いているの?
というか、よく解除できたな……。
「ま、まあいいや。とりあえず瑠璃に伝えてくれない? もうすぐ月影さん風呂から上がってくると思うから、方法が決まったらメールで教えてほしい、って言ってくれない?」
ちょっと話が脱線してしまったせいもあり、月影さんがお風呂から上がってきそうなくらい、時間は経過していた。
『了解。おっけー、わかった。伝えとくね。てか、ラインとかTwitterはやってないの? 最近はメールよりラインでやり取りするひとのほうが多いよー?』
残念ながら、僕はラインやTwitterを知らない。いまいち楽しさがわからないのだ。
「ごめん、どっちもやってないや……」
『んー、まあわかった。瑠衣の携帯に登録されてるメアドに送りゃいいんだよね?』
「うんーーえ?」
登録?
あ、そうか。
僕の携帯に登録すると共に、自身のスマホにもいろいろみっちり登録したのだろう。瑠衣……言わなかった僕も僕だけど、瑠衣も瑠衣だ。言ってくれれば電話番号くらい交換したのに……。
よし。瑠璃には明日、きちんと電話番号、教えてもらうことにしよう。恥ずかしがっていたら、いつまで経っても状況は変わらない。
「それじゃ、お願い。どうなるかわからないけど、できれば穏便に済ませたいんだ」
『穏便かー……てか、その月影ってやつ、どんな異能力をつかっていたの?』
「いや、特に使ってないけど」
『は? え、ちょい待ち杉井。どうして異能力者だとわかったのさ?』
「え、ああ。陽山ってひとが月影さんを見て言ってた」
『えぇ陽山~? どうしてあんな奴と知り合ったのさー?』
なんだろう?
月影さんからともいい、陽山という男は嫌われているのかな?
「とりあえず、まあ、瑠璃に伝えておいて。そろそろ切るよ。さすがに月影さん出てきちゃうから」
『出てきちゃう? まっ、了解りょーかい。ただし、陽山には深く関わらないようにしなよ?』
「……それは、うん。わかった」
それほど危険な男なのかもしれない。
たしかに、静夜やありすも、殺し屋だと言われなければ普通、そうは思えない外見だ。陽山だって、見た目だけなら紳士なおじ様って感じだった。
『豊花!』
「どわっ! いきなり変わらないでよ……」
いつの間にか、ありすから瑠衣に変わっていた。
『次、いつ、家来る?』
「へ?」
『友達、スキンシップ、とらなきゃ』
奥から『ちょっ瑠衣のこれはスキンシップじゃなくて変態行為だから!』という言葉が聞こえてくる。
「あはは……まあ、そのうち?」
なにか、ありすみたいなことをされそうな気しかしない。
『約束』
「う、うん」と、足音が部屋に近づいてきた。「ごめん、悪いけど切るね?」
慌てて通話を切ると共に、部屋に小綺麗になった、下着姿の女性ーー月影さんが入ってきた。
「あの……服は?」
「同性なのよ? 気にしなくていいじゃない」
……肝心な事を言い忘れていた。
考えてみなくても、僕は今、誰が見たって単なる女の子じゃないか。
どう説明すればいいか迷いながら、僕はユタカのーー。
ーーおや、オナニーはしなくてもいいのか?ーー
という下品な言葉を聞き流すのであった。
……いや、興味はあるんだけどね?
僕は自宅の布団に仰向けに寝転がり、今しがたの出来事を反芻していた。
自宅に月影さんを連れ帰ったとき、最初に言われたのが裕希姉の『くさっ!』だった。早急にシャワー浴びてこいと裕希姉に唆されながら、月影さんは風呂場へと連行されてしまった。
まあ、そりゃそうだ。
僕の勝手な印象だけど、女性は皆良い匂いがするとばかり思っていたけれど、さすがに二週間お風呂に入っていないとなると、ああも悪臭漂うことになるのかと、ひとつ勉強になった。
そして僕は、月影さんが風呂から出るのを待っているところだ。
すぐさま汚ぱんつを変えたいところだけど、なるべく風呂上がりに衣服を一新したい。そうしないと、なんだか勿体ない気がする。
ーーコンコンコココンコンコンコココンコンココココココン!
と、いきなりドアを誰かに連打された。それはまるで、太鼓をモチーフにした音ゲーをプレイしているかのような、ドンカッドンドンカッというリズミカルなテンポのノック。
「いやいや裕希姉でしょ? そんなバチで太鼓を叩いているみたいなリズムでノックしないでくれない? 一瞬びくっとするからさ」
ーードンドンカッカッドンカッカッカッ!
とノック音が響いたあと、ようやく扉が開かれた。
……カッて音をどうやって出したのかは聞かないでおこう。
「つまんねー! ま、そんなことよりさ? ゆったって、こんな人助けみたいなことしなかったじゃん? なになに? 心変わりでもしたん?」
「まあ、その……ほら、一応、異能力特殊捜査官になったんだから、見つけたら放っておけないじゃないか」
いや、それはユタカのおかげで変わったんだけど、そんな話、裕希姉に言ってもしょうがない。
今の姿になるまえは自信がなくて、助けたくても『僕みたいな陰キャのブサイクに助けられたら、逆に迷惑なんじゃないか?』とか考えてしまって、今までは一歩踏み出せなかったんだ。
でも、今は違う。
まえよりひ弱になったとしても、この素晴らしい容姿になれてから、妙に自信がついた。だからこそ、女子を助けるときに逡巡しなくなった。この姿なら、最悪助けられなくたって、相手は迷惑に感じないに決まっているーーそう思えるようになれた。
「ま、今のゆったのほうがいいと思うよ。弟だった頃は、なんか常におどおどしていて、ぶっちゃけキモかったし」
「ひどっ! 家族にキモいとか言う? 普通……」
「冗談冗談、ま、ロリコン連れてこなくてお姉ちゃん安心した! これからはその心意気で進むべし!」
「あ、あはは……」
もしも男に戻ったら、また再発しそうだけど。
ーー豊花。きみはもう少し自信を持ったほうがいい。私は“女になるまえの姿”の豊花を視認しているが、きみが思っているほど醜悪な容姿ではなかった。ーー
そうかな?
自分ではそう思えないんだよね……。
「ところで、どうして異能力者になったからってホームレスになったん? あの子」
裕希姉は、僕も詳しくは知らないことを尋ねてきた。
たしか、陽山という殺し屋に恨みを持っていて、そいつさえ殺れれば死んでもいいだなんて発言をしていたっけ。
だいたい、陽山の発言も気になる。
『きみの死に顔を見たい』と言っておきながら、静夜のナイフに当たらないよう、わざわざ蹴りを入れてナイフから遠ざけていたじゃないか。
あれではまるで、守っているように感じなくもない。
陽山という人物像がまったくわからないけど、彼は本当に月影さんを殺したいのだろうか?
いや、違う。
殺したいなら、あのときわざわざ手出しする必要はなかったはずだ。
…………それはおいておいて、なにか忘れているような気がしてならない。
ーー瑠衣か未来に連絡を入れるのではなかったのか?ーー
そうだった!
月影さんがお風呂に浸かっているあいだこそ、連絡するチャンスじゃないか!
「おーい、ゆったー? なんかぼけーっとしちゃってるぞ? にゃんかあったかー?」
にゃん、てなんだ。
稀に飛び出す謎の『にゃー』は、かわいいと思ってやっているのか、無意識でやっているのか、この姉は時々わからなくなる。
「いや、ちょっと用事ーーというか、これから電話しなくちゃいけないのを思い出した」
「なんでだ我がリトルシスター! あと私、ドラストのバイトやめちった」
リトルもシスターも余計だ。
だいたい、ドラッグストアのアルバイトをやめたなんて情報、こっちはどうでもいいんだけど?
「今から連絡するから、ちょっと黙っててくれない?」
「黙れだと! 生意気なマイシスターめッ!」
だから、妹でもリトルシスターでもマイシスターでもないって。ブラザーだから!
なんて突っ込みを入れると、またややこしくなる。そう考え、僕は裕希姉をあえてスルーし携帯を取り出した。
未来さん未来さん……あれ、登録忘れていた?
渡された資料の中には書かれているんだろうけど、疲弊した体力では、探す気にもなれない。
まあ、探すしかないか……あっ。
『葉月瑠衣』と登録されている番号が目に入り、考えを改める。
瑠衣に連絡して、瑠璃に伝えてもらえばいいじゃないか。
思い付いたら吉秒。早速、僕は瑠衣の番号へと連絡した。
ただ、起きているかが不安だ。もう11時も近い。起きていない可能性だってある。だとしたら迷惑でしかない。
そう考えながら電話をつづける。
早くしないと月影さんが出てきてしまう。もう瑠衣に連絡してしまっているのだから、このまま繋がれば、そっちのほうが早いだろう。
だが、予想より迅速に繋がった。
『もしも豊花!』
しが一文字欠けていた。
もしもボックスじゃないんだからさ……。
だけど、起きていて一安心だ。むしろ、やたらと元気で溌剌とした明るい声だし。
「瑠衣、お願いがあるんだけど、いいかな?」
『ん、いいよ。何かあった? ロリコン?』
「ろ、ロリコン?」
僕をロリコンと言っているのか、ロリコンがなにかあったのか、ほかのなにかなのかさっぱりわからない。
『もしかして、ロリコン、襲われた?』
「違うから! ちょっと、瑠璃かありすに伝えてほしいことがあるんだけど……」
『わかった、ありす、豊花が、何かあるって』
すぐ近場にありすがいたらしい。
もしかしたら、治るまで居候しているのかもしれない。
『どしたの杉井? なんか用事?』
通話相手がありすに変わった。
「あ、うん。あのさ、実は今、月影日氷子って異能力者を見つけて、嘘ついて自宅に連れ込んだんだけど、どうすればいい?」
『へ? 新規異能力者? 月影日氷子月影日氷子……ちょっと待って。いまタブレットでデータベースにアクセスして確認してみるから』
どうやら異能力者保護団体の外でも、新規異能力者なのか登録済みの異能力者なのかわかるようだ。
たしかに、外で使えなければ、異能力犯罪者を捕まえることは難しくなるだろうし、当たり前っちゃ当たり前か。
『……うん。申請してないっぽいね。“つ”の異能力者一覧に見当たらないや。強制執行なら住民票も身分証も不要なんだけど、強制連行は異能力捜査官ないし第2級異能力特殊捜査官以上じゃないと無理だからなー。一般人の杉井にできることはなんだろ?』
「あ、言い忘れてた。今日から僕、一応、第4級異能力特殊捜査官になったんだよ」
『へ? え、なんで? 杉井、ただでさえ貧弱な女の子になってるのに、どーしてわざわざ異能力者保護団体に従事することになったん?』
どうやら瑠璃から聞いていないみたいだ。普段は仕事の話をしないって言っていたけど、それ、本当だったんだ。
「ま、まあ、いいじゃんそれは。ありす、いま動けないよね?」
『瑠衣に胸を揉みしだかれても、追い払うのに精一杯ってくらいズタボロ。そりゃ動けないでしょ? 歩くのが限界ーーだーかーらー揉むなって言ってるでしょ、ちょっ、瑠衣?』
な、なんだろう?
相変わらず瑠衣は、ありすに変な悪戯を加えているみたい。
「だ、だからさ? 瑠璃に伝えてくれないかなーって……で、どうにか異能力者保護団体に連れていくとバレないように連行する方法ないかな?」
『ちょっと、瑠衣? 瑠衣のお姉さんに今から言うこと伝えてきてくれない? あとそれマッサージじゃなくて単なる変態行為だからねー?』
通話口から『おっぱいマッサージ。健康に、いい』と瑠衣の声が聞こえてくる。
なんだよ、おっぱいマッサージ……思わず自身の胸を見下ろす。これって何カップなんだろう?
絶対Cは無さそうだし、Bすら怪しい。Aがいいところなんじゃないだろうか?
「あ、そういえばひとつ、瑠衣に聞きたいことがあるんだけど」
気になることをーーおっぱいじゃなくてーー思い出した僕は、ちょっと聞いてみることにした。
『瑠衣にもなんかあるの? なんかあった?』
「い、いやさ……これ、瑠衣の番号じゃん?」
『うん、じゃなきゃ瑠衣にかからないっしょ?』
「……登録した覚えがないんだけど、なんかみっちり登録されてるんだよね。これって、もしかして瑠衣が登録したのかなと思ってさ?」
『ーーまあ、瑠衣ならありえそうっちゃありえそうだけど。パスワードかけてないの?』
「いや、パスワードでロックしてあるから、どうやって登録したのか気になってさ」
「ゆったー、なんか友達増えてんじゃん。男いるなら紹介してよー年下でかまわないからさー」
裕希姉、静かにするか部屋から出るかしてほしいんだけど……。
という空気が伝わったのか、渋々ながらといった顔をさせながら、ようやく部屋から出ていってくれた。
『なら無理じゃーーえ? うそ……え、それで解いたの? どーして普通に連絡先交換しないかなー?』
「え? やっぱ瑠衣なの? どうやって解除したの?」
『なんか、指紋の濃い場所をいくつかなぞってたら解除できたってさ』
怖っ!
え、そんなに指紋着いているの?
というか、よく解除できたな……。
「ま、まあいいや。とりあえず瑠璃に伝えてくれない? もうすぐ月影さん風呂から上がってくると思うから、方法が決まったらメールで教えてほしい、って言ってくれない?」
ちょっと話が脱線してしまったせいもあり、月影さんがお風呂から上がってきそうなくらい、時間は経過していた。
『了解。おっけー、わかった。伝えとくね。てか、ラインとかTwitterはやってないの? 最近はメールよりラインでやり取りするひとのほうが多いよー?』
残念ながら、僕はラインやTwitterを知らない。いまいち楽しさがわからないのだ。
「ごめん、どっちもやってないや……」
『んー、まあわかった。瑠衣の携帯に登録されてるメアドに送りゃいいんだよね?』
「うんーーえ?」
登録?
あ、そうか。
僕の携帯に登録すると共に、自身のスマホにもいろいろみっちり登録したのだろう。瑠衣……言わなかった僕も僕だけど、瑠衣も瑠衣だ。言ってくれれば電話番号くらい交換したのに……。
よし。瑠璃には明日、きちんと電話番号、教えてもらうことにしよう。恥ずかしがっていたら、いつまで経っても状況は変わらない。
「それじゃ、お願い。どうなるかわからないけど、できれば穏便に済ませたいんだ」
『穏便かー……てか、その月影ってやつ、どんな異能力をつかっていたの?』
「いや、特に使ってないけど」
『は? え、ちょい待ち杉井。どうして異能力者だとわかったのさ?』
「え、ああ。陽山ってひとが月影さんを見て言ってた」
『えぇ陽山~? どうしてあんな奴と知り合ったのさー?』
なんだろう?
月影さんからともいい、陽山という男は嫌われているのかな?
「とりあえず、まあ、瑠璃に伝えておいて。そろそろ切るよ。さすがに月影さん出てきちゃうから」
『出てきちゃう? まっ、了解りょーかい。ただし、陽山には深く関わらないようにしなよ?』
「……それは、うん。わかった」
それほど危険な男なのかもしれない。
たしかに、静夜やありすも、殺し屋だと言われなければ普通、そうは思えない外見だ。陽山だって、見た目だけなら紳士なおじ様って感じだった。
『豊花!』
「どわっ! いきなり変わらないでよ……」
いつの間にか、ありすから瑠衣に変わっていた。
『次、いつ、家来る?』
「へ?」
『友達、スキンシップ、とらなきゃ』
奥から『ちょっ瑠衣のこれはスキンシップじゃなくて変態行為だから!』という言葉が聞こえてくる。
「あはは……まあ、そのうち?」
なにか、ありすみたいなことをされそうな気しかしない。
『約束』
「う、うん」と、足音が部屋に近づいてきた。「ごめん、悪いけど切るね?」
慌てて通話を切ると共に、部屋に小綺麗になった、下着姿の女性ーー月影さんが入ってきた。
「あの……服は?」
「同性なのよ? 気にしなくていいじゃない」
……肝心な事を言い忘れていた。
考えてみなくても、僕は今、誰が見たって単なる女の子じゃないか。
どう説明すればいいか迷いながら、僕はユタカのーー。
ーーおや、オナニーはしなくてもいいのか?ーー
という下品な言葉を聞き流すのであった。
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俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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