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第二章/葉月瑠璃
Episode029/月に叢雲、花に風。風にはーー。
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(51.)
およそ三割が闇に塗られた視界に、竜巻のような風に包まれた微風が映る。
破壊の化身から発せられた風が、僕の頬に触れながら後ろへ過ぎる。
相手との距離は、もう30メートルもない。
見た目だけなら、テレビゲームで頻繁に目にする風の精霊の様。しかし、そこから発された言葉は、下品な欲望と我が儘な怒りしか含まれてはいない。
「いたたたた……なに? なんなのよ、私の寝床って、あんな化け物から恨み買ってるわけ?」
僕が押し倒したせいで負った擦り傷を擦りながら、月影さんは立ち上がり微風を睨み付ける。
「月影さん早く逃げよう!」
ーー逃げよう、って?
自動車ですら追い付かれてこの有り様だ。車でダメだったのに足なら逃げられると?
無理だ、相手は元々生身で空を翔(かけ)ている。
相手が乗り物なら、まだ足のみ入れる空間などから逃げられたかもしれない。いや、辺りには地下鉄や地下街の類いも存在しない。
つまり、どう逃げようと、捕まるのは時間の問題ーー。
だからといって、ただただ突っ立っていれば、一瞬のうちに僕の初めてと人生は散らされてしまう。
「陽山月光ぶち殺ソードの出番ね? 私が倒すわ!」
月影さんは先日のナイフを取り出すと、威風堂々とした出で立ちで両手で構えて見せる。
「いやいやいや、いやいやいやいやいやいや!」
陽山のおかげで助かったんだよ!?
多分またやっても月影さん野蛮に突撃して『やれやれ』とか言われながら倒されるの目に見えてるよ!?
変な自信だけは有り余り過ぎてるみたいだけど、本当月影さん大丈夫なの!?
そんなナイフ両手で構えたってソードにはならないんだよ?
もしもありすがこの光景を見たら、泡を吹いて卒倒するかもしれない……。
「なんだよ舐めてるのかよああ!? てめぇ、こんなかじゃ一番微妙な顔してやがるから、前菜にしちまってもいいんだぞ、なあ?」
「ふん、悪は必ず負けるシステムになってるのよ? 正義は必ず勝つ!」
無駄に会話してくれている間にどうにかしないと……。
みんなは、みんなはいったい、どうするつもりなんだろう?
僕はチラリと皆を見る。
総谷さんは近場の街路樹に背中を預けるようにして座り込み、河川さんは手首から流れる血を止めず微風を見て動かない。
「豊花、下がって。ほら、あなたも」
「ちょっと、大丈夫なの? 私の陽山月殺ソードなくっても平気?」
瑠璃は月影さんの腕を引き、入れ換わるように自らが前に踊り出る。
「応援が来るまで私が何とか時間稼ぐ。豊花はそいつ連れて逃げるか隠れてなさい」
瑠璃は特殊警棒を振って伸ばし、挑むように微風へ向けた。
本当は逃げたいのだろう。瑠璃の手は、明らかに振るえている。
「あ? なになにわたしの言ったこと聞こえなかったの? てめぇはあとだそのメンヘラごっこで私の視界半分にしたクソガキから」微風は一旦立ち止まる。「だ、あ? 急に戻してはいごめんなさい、で済むなら警察要らねぇってなるから愛のある我が家も商売できなくなるだろうが! ああッ!?」
「自分の思いどおりにならなきゃ喚いて怒って暴力に訴え無理やり叶えようとするーーどっちがクソガキよ!」
瑠璃は負けじと言い返し、わざわざ近寄ろうと歩み出る。
このままだと瑠璃が危ないのに、僕は……なんて……無力……。
ーーおや? ほう、なるほど蛍光型はやはり速いな。もう異能力に捕らわれてしまったではないか。さて、どうなることか。ーー
「え、異能力ーーッ!?」
直後、脳裏に『失礼します』と聞き覚えのある声が透き通る。
『前へ出ないでください』
この声は、たしかーー。
「これってーー私のパパを襲った奴!? 愛のある我が家の二代目のリーダー!?」
愛のある我が家のリーダーであり、大輝さんを襲った特殊指定異能力犯罪組織の一員ーーつまり、微風の味方だ。
「無理……守りきれるわけないじゃない……? どうすればいいのよ……こんなの……!」
瑠璃は絶望的な状況に対して戦意を失った、その場で立ち尽くし声を震わせながら呟いた。
『念のため、もう少し下がってください。異能力に当たります』
「嘘よ……しっかりしろ葉月瑠璃……このままじゃみんな死ぬのよ……!」
たしかに、全滅しかねない状況に相手の増援がきたら致命的だけど、なにか変だ。微風はピクリとすら反応しなかった。
となると、この声は微風へ指示を出しているわけじゃない。この王手を指されたような状況、わざわざ微風を手伝いに来る必要もない。
つまりこれはーー僕たちに言っていないか?
「てかさてかさ、クソガキって言わなかった? 言ったよ? 言ったね? 言ったもんね? もういい。おまえがさきにイきたいってんならしょーがないからさきにしてやんよ!!」
微風は体を傾けた。
ーー葉月瑠璃を退かせろ。線形の燐光は前に落ち膨張を始めている。ーー
なんだかわからないけど、このままじゃ瑠璃が危ない!
僕は瑠璃の腕を掴んで、そのまま後ろに強く引いた。
「ゆ……豊花……?」
「瑠璃! なんだか嘘じゃないみたいだ!」
微風は前のめりになった状態で地を蹴り、こちらに向かって飛んだ。
その時ーー。
「なん!?」
微風の進行を阻害するように、巨大な何かが現れた。高さ二メートル幅三メートル、見た感じ奥行きも二メートルはありそうな、巨大な緑の透明な、石。いや、宝石みたくきらきら輝いているし、形は岩みたいに歪だ。
なんだろ、これって……なに?
「んでだれーーぶべッ!!!?」
微風は体を捻り頭を抱えた姿勢で石に衝突する。それと同時に甲高い炸裂音が幾重にも鳴り響く。が、石はほとんど無傷のままだ。
鎌鼬が石に跳ね返される音だろうか。採掘音と金属音が混ざり合うようなギャリギャリとした騒音は、衝突し微風が地に堕ちても未だ演奏を止めない。
進む勢いを落としていたから、おそらく死んではいない。微風は、当たる寸前スピードが急に低下していった。
微風は頭を手で擦りながら、『いっつ~! だれだよシルフストーンなんて密輸しやがったのはーーッて朱音しかいねぇだろ!! 朱音のばかアホいかたこッ!!』と小学生みたいな悪口で騒ぎながら石を何度も蹴り始める。
なんか今、ロールプレイングゲームとかでよく耳にする名前が聞こえた気がするんだけど? し、シルフストーン?
唐突に視界の暗い塗装がパッと消えた。
河川さんが何かしたわけではないし、僕もなにもしていない。さっきの微風の反応から察するに、どうも時間制の視界を奪う能力らしい。
血漿の力……と河川さんは呟いていた。つまり、血を出すことが発動条件に必須なのは間違いない。
視界を奪う能力。と説明されると、たしかに不安は煽られる。
しかし、個人的な感想を言ってしまうと、瑠衣のほうが遥かに危険な力に思えてしまう。
「シルフストーンはともかく、これを知ってるうえ、ここに出現させられる異能力者ーーあんの野郎、出てこい舞香ァああああッ!!」
微風は吼えるように誰かの名前を叫び散らす。そのまま辺りをキョロキョロ見るようにして、誰かを探し始めた。
「ゆ、豊花? どうして……どうして異能力発現地点が前だって……わかったの……?」
「え? いや、状況を踏まえたのと、あと、ユターーじゃなくて異能力霊体が、なんとかが前に落ちたとかなんとかーー」
「見えるの!? 異能力霊体にも異能力発露の光が見えるって言うの!? そいつ、その異能力霊体はなんか言ってなかった? 異能力発露の蛍光とか、もしくは燐光とか留光みたいに」
瑠璃は至近距離のまま問い詰めてくる。
なんでそんなに近づくの? なんだか恥ずかしい……いや、本音は嬉しいけど。
ーーさて、どうしたものか。異能力霊体と異能力者の繋がりを弄ぶような玩具の発明を目指す異能力者研究所の仲間に、わざわざ情報を与えたくなどない。しかし、私の唯一無二が教えたいと言うのであれば、唯一に嫌われたくない私は必死で教えるしかないではないか。ーー燐光、だ。異能力発現地点で線形ではなくなる燐光。つまり、線形非線形燐光型と伝えればいい。ーー
あの……伝えていいの?
いやなら伝えないようにするけど……。
というより、僕はそもそもユタカや瑠璃が何を言っているのかさえわからないんだよね。なに、凛子? 臨港?
ーーり・ん・こ・う。ここできみが『忘れちゃったテヘペロ』や『やだやだやーだいーやでーすンッ!』などと口走れば、葉月瑠璃から『大変健忘症いえ隔離病棟で治療するしかございませんわ』や『豊花なんてやだやだやーだ嫌いになったー!』と言われてしまう可能性はなきにしもあらず。そっちのほうがやだやだやーだいーやでーす、であろう。なあ?ーー
いや、誰の真似かすらわからないレベルだし、ユタカ可愛い口調維持できるなら普段からしてくれてもよくない?
そもそもこの状況下でテヘペロなんて言ったら誰でも嫌われる気がする。
どたらにしてもテヘペロなんて言わなかったけどーーうん、教えたい。伝えることにする、ありがとう。
ー照れてしまうではないか、礼はいいから、ひとり脳内会話が捗っている姿に呆けている葉月瑠璃に伝えてはどうかな?ーー
え?
瑠璃は、なんだか呆然と愕然、困惑の混じり合った表情で、『ちょっと、会話する為に意識飛ばす必要があるなら先に言ってくれない?』と至近距離から離れず、僕の返答を待っている。
「えっと、線形非線形燐光型って言ってた」
「線形非線形燐光型? え、豊花聞いて? 異能力発露の線光を可視するのは、私含め第二級異能力特殊捜査官でも無理なのよ? いま豊花が口に出したのは、異能力発露の線光って言って、第一級異能力特殊捜査官になる為の必須条件なの、わかる? 美夜さんとほぼ同クラスの行為を豊花は可能とした。この条件があるから一級特捜になれない二級特捜が大勢いるのに、それを豊花は、たまたま異能力霊体に見られて、たまたま豊花に教えてくれた……?」
ーーおや、むしろ異能力霊体が異能力に要する光を認識できないのはおかしいと思わないか? 我々異能力霊体は異能力者が異能力を使うとき光を用いる。線形で命中地点に照準を定め、燐光や蛍光はあくまで残光する持続時間でしかない。我々にとって物質界に出力する為になくてはならない光といさえいえる。不発で終われば暴発し異能力など使えたものではないぞ?ー
「異能力霊体に見られないわけがない、って言ってる」
「それは、たしかにそうかもしれないけど……うん、そうね。そもそも異霊体と会話が可能な異能力者なんていない。世界初の事例、前代未聞の異能力者だってわかってるの、豊花は?」
「え、あ、うん……多分?」
ーーきみは、理解できなくてもすべて『理解した』としてしまう悪い癖があるようだな?ーー
ぐっ……。
「あとで未来さんと教育部併設異能力者研究所にも連絡したほうがいいわね」と言っている場合ではなかった、と瑠璃はつづけた。「あいつの意識が散漫しているうちに、早く離れーーる?」
ーー空から風が吹く。
まさか!?
そう思うも、微風は未だ周りをキョロキョロ見回し『目の前に現れろ! チキンか!? 舞香さんよォおおおおああンッ!?』と吼え昂るだけで、こっちは眼中になくなっている。
微風は寸でのタイミングで僕らの上に振り向いた途端、目を大きく見開きながら動きを停止した。
「ーーわたしが迷惑かけてごめんね」
微風ボイスが真上から降ってくるのがわかり、僕は空を仰ぎ見る。
僕らの上空には、二人の女性が浮いていた。
ひとり目は、左目を前髪で隠す一部極端なアシンメトリーの髪型をしている大学生くらいの女の人。
そして、その女性をここまで手を繋ぎ連れてきたと思わしきーー微風が二、三歳成長した姿の少女。煌めき放つ緑髪を風に靡かせているそれは、やはり微風だと断言できて同じく微風ではないのも明白だ。
その幻想は地上に舞い降りたーー。
およそ三割が闇に塗られた視界に、竜巻のような風に包まれた微風が映る。
破壊の化身から発せられた風が、僕の頬に触れながら後ろへ過ぎる。
相手との距離は、もう30メートルもない。
見た目だけなら、テレビゲームで頻繁に目にする風の精霊の様。しかし、そこから発された言葉は、下品な欲望と我が儘な怒りしか含まれてはいない。
「いたたたた……なに? なんなのよ、私の寝床って、あんな化け物から恨み買ってるわけ?」
僕が押し倒したせいで負った擦り傷を擦りながら、月影さんは立ち上がり微風を睨み付ける。
「月影さん早く逃げよう!」
ーー逃げよう、って?
自動車ですら追い付かれてこの有り様だ。車でダメだったのに足なら逃げられると?
無理だ、相手は元々生身で空を翔(かけ)ている。
相手が乗り物なら、まだ足のみ入れる空間などから逃げられたかもしれない。いや、辺りには地下鉄や地下街の類いも存在しない。
つまり、どう逃げようと、捕まるのは時間の問題ーー。
だからといって、ただただ突っ立っていれば、一瞬のうちに僕の初めてと人生は散らされてしまう。
「陽山月光ぶち殺ソードの出番ね? 私が倒すわ!」
月影さんは先日のナイフを取り出すと、威風堂々とした出で立ちで両手で構えて見せる。
「いやいやいや、いやいやいやいやいやいや!」
陽山のおかげで助かったんだよ!?
多分またやっても月影さん野蛮に突撃して『やれやれ』とか言われながら倒されるの目に見えてるよ!?
変な自信だけは有り余り過ぎてるみたいだけど、本当月影さん大丈夫なの!?
そんなナイフ両手で構えたってソードにはならないんだよ?
もしもありすがこの光景を見たら、泡を吹いて卒倒するかもしれない……。
「なんだよ舐めてるのかよああ!? てめぇ、こんなかじゃ一番微妙な顔してやがるから、前菜にしちまってもいいんだぞ、なあ?」
「ふん、悪は必ず負けるシステムになってるのよ? 正義は必ず勝つ!」
無駄に会話してくれている間にどうにかしないと……。
みんなは、みんなはいったい、どうするつもりなんだろう?
僕はチラリと皆を見る。
総谷さんは近場の街路樹に背中を預けるようにして座り込み、河川さんは手首から流れる血を止めず微風を見て動かない。
「豊花、下がって。ほら、あなたも」
「ちょっと、大丈夫なの? 私の陽山月殺ソードなくっても平気?」
瑠璃は月影さんの腕を引き、入れ換わるように自らが前に踊り出る。
「応援が来るまで私が何とか時間稼ぐ。豊花はそいつ連れて逃げるか隠れてなさい」
瑠璃は特殊警棒を振って伸ばし、挑むように微風へ向けた。
本当は逃げたいのだろう。瑠璃の手は、明らかに振るえている。
「あ? なになにわたしの言ったこと聞こえなかったの? てめぇはあとだそのメンヘラごっこで私の視界半分にしたクソガキから」微風は一旦立ち止まる。「だ、あ? 急に戻してはいごめんなさい、で済むなら警察要らねぇってなるから愛のある我が家も商売できなくなるだろうが! ああッ!?」
「自分の思いどおりにならなきゃ喚いて怒って暴力に訴え無理やり叶えようとするーーどっちがクソガキよ!」
瑠璃は負けじと言い返し、わざわざ近寄ろうと歩み出る。
このままだと瑠璃が危ないのに、僕は……なんて……無力……。
ーーおや? ほう、なるほど蛍光型はやはり速いな。もう異能力に捕らわれてしまったではないか。さて、どうなることか。ーー
「え、異能力ーーッ!?」
直後、脳裏に『失礼します』と聞き覚えのある声が透き通る。
『前へ出ないでください』
この声は、たしかーー。
「これってーー私のパパを襲った奴!? 愛のある我が家の二代目のリーダー!?」
愛のある我が家のリーダーであり、大輝さんを襲った特殊指定異能力犯罪組織の一員ーーつまり、微風の味方だ。
「無理……守りきれるわけないじゃない……? どうすればいいのよ……こんなの……!」
瑠璃は絶望的な状況に対して戦意を失った、その場で立ち尽くし声を震わせながら呟いた。
『念のため、もう少し下がってください。異能力に当たります』
「嘘よ……しっかりしろ葉月瑠璃……このままじゃみんな死ぬのよ……!」
たしかに、全滅しかねない状況に相手の増援がきたら致命的だけど、なにか変だ。微風はピクリとすら反応しなかった。
となると、この声は微風へ指示を出しているわけじゃない。この王手を指されたような状況、わざわざ微風を手伝いに来る必要もない。
つまりこれはーー僕たちに言っていないか?
「てかさてかさ、クソガキって言わなかった? 言ったよ? 言ったね? 言ったもんね? もういい。おまえがさきにイきたいってんならしょーがないからさきにしてやんよ!!」
微風は体を傾けた。
ーー葉月瑠璃を退かせろ。線形の燐光は前に落ち膨張を始めている。ーー
なんだかわからないけど、このままじゃ瑠璃が危ない!
僕は瑠璃の腕を掴んで、そのまま後ろに強く引いた。
「ゆ……豊花……?」
「瑠璃! なんだか嘘じゃないみたいだ!」
微風は前のめりになった状態で地を蹴り、こちらに向かって飛んだ。
その時ーー。
「なん!?」
微風の進行を阻害するように、巨大な何かが現れた。高さ二メートル幅三メートル、見た感じ奥行きも二メートルはありそうな、巨大な緑の透明な、石。いや、宝石みたくきらきら輝いているし、形は岩みたいに歪だ。
なんだろ、これって……なに?
「んでだれーーぶべッ!!!?」
微風は体を捻り頭を抱えた姿勢で石に衝突する。それと同時に甲高い炸裂音が幾重にも鳴り響く。が、石はほとんど無傷のままだ。
鎌鼬が石に跳ね返される音だろうか。採掘音と金属音が混ざり合うようなギャリギャリとした騒音は、衝突し微風が地に堕ちても未だ演奏を止めない。
進む勢いを落としていたから、おそらく死んではいない。微風は、当たる寸前スピードが急に低下していった。
微風は頭を手で擦りながら、『いっつ~! だれだよシルフストーンなんて密輸しやがったのはーーッて朱音しかいねぇだろ!! 朱音のばかアホいかたこッ!!』と小学生みたいな悪口で騒ぎながら石を何度も蹴り始める。
なんか今、ロールプレイングゲームとかでよく耳にする名前が聞こえた気がするんだけど? し、シルフストーン?
唐突に視界の暗い塗装がパッと消えた。
河川さんが何かしたわけではないし、僕もなにもしていない。さっきの微風の反応から察するに、どうも時間制の視界を奪う能力らしい。
血漿の力……と河川さんは呟いていた。つまり、血を出すことが発動条件に必須なのは間違いない。
視界を奪う能力。と説明されると、たしかに不安は煽られる。
しかし、個人的な感想を言ってしまうと、瑠衣のほうが遥かに危険な力に思えてしまう。
「シルフストーンはともかく、これを知ってるうえ、ここに出現させられる異能力者ーーあんの野郎、出てこい舞香ァああああッ!!」
微風は吼えるように誰かの名前を叫び散らす。そのまま辺りをキョロキョロ見るようにして、誰かを探し始めた。
「ゆ、豊花? どうして……どうして異能力発現地点が前だって……わかったの……?」
「え? いや、状況を踏まえたのと、あと、ユターーじゃなくて異能力霊体が、なんとかが前に落ちたとかなんとかーー」
「見えるの!? 異能力霊体にも異能力発露の光が見えるって言うの!? そいつ、その異能力霊体はなんか言ってなかった? 異能力発露の蛍光とか、もしくは燐光とか留光みたいに」
瑠璃は至近距離のまま問い詰めてくる。
なんでそんなに近づくの? なんだか恥ずかしい……いや、本音は嬉しいけど。
ーーさて、どうしたものか。異能力霊体と異能力者の繋がりを弄ぶような玩具の発明を目指す異能力者研究所の仲間に、わざわざ情報を与えたくなどない。しかし、私の唯一無二が教えたいと言うのであれば、唯一に嫌われたくない私は必死で教えるしかないではないか。ーー燐光、だ。異能力発現地点で線形ではなくなる燐光。つまり、線形非線形燐光型と伝えればいい。ーー
あの……伝えていいの?
いやなら伝えないようにするけど……。
というより、僕はそもそもユタカや瑠璃が何を言っているのかさえわからないんだよね。なに、凛子? 臨港?
ーーり・ん・こ・う。ここできみが『忘れちゃったテヘペロ』や『やだやだやーだいーやでーすンッ!』などと口走れば、葉月瑠璃から『大変健忘症いえ隔離病棟で治療するしかございませんわ』や『豊花なんてやだやだやーだ嫌いになったー!』と言われてしまう可能性はなきにしもあらず。そっちのほうがやだやだやーだいーやでーす、であろう。なあ?ーー
いや、誰の真似かすらわからないレベルだし、ユタカ可愛い口調維持できるなら普段からしてくれてもよくない?
そもそもこの状況下でテヘペロなんて言ったら誰でも嫌われる気がする。
どたらにしてもテヘペロなんて言わなかったけどーーうん、教えたい。伝えることにする、ありがとう。
ー照れてしまうではないか、礼はいいから、ひとり脳内会話が捗っている姿に呆けている葉月瑠璃に伝えてはどうかな?ーー
え?
瑠璃は、なんだか呆然と愕然、困惑の混じり合った表情で、『ちょっと、会話する為に意識飛ばす必要があるなら先に言ってくれない?』と至近距離から離れず、僕の返答を待っている。
「えっと、線形非線形燐光型って言ってた」
「線形非線形燐光型? え、豊花聞いて? 異能力発露の線光を可視するのは、私含め第二級異能力特殊捜査官でも無理なのよ? いま豊花が口に出したのは、異能力発露の線光って言って、第一級異能力特殊捜査官になる為の必須条件なの、わかる? 美夜さんとほぼ同クラスの行為を豊花は可能とした。この条件があるから一級特捜になれない二級特捜が大勢いるのに、それを豊花は、たまたま異能力霊体に見られて、たまたま豊花に教えてくれた……?」
ーーおや、むしろ異能力霊体が異能力に要する光を認識できないのはおかしいと思わないか? 我々異能力霊体は異能力者が異能力を使うとき光を用いる。線形で命中地点に照準を定め、燐光や蛍光はあくまで残光する持続時間でしかない。我々にとって物質界に出力する為になくてはならない光といさえいえる。不発で終われば暴発し異能力など使えたものではないぞ?ー
「異能力霊体に見られないわけがない、って言ってる」
「それは、たしかにそうかもしれないけど……うん、そうね。そもそも異霊体と会話が可能な異能力者なんていない。世界初の事例、前代未聞の異能力者だってわかってるの、豊花は?」
「え、あ、うん……多分?」
ーーきみは、理解できなくてもすべて『理解した』としてしまう悪い癖があるようだな?ーー
ぐっ……。
「あとで未来さんと教育部併設異能力者研究所にも連絡したほうがいいわね」と言っている場合ではなかった、と瑠璃はつづけた。「あいつの意識が散漫しているうちに、早く離れーーる?」
ーー空から風が吹く。
まさか!?
そう思うも、微風は未だ周りをキョロキョロ見回し『目の前に現れろ! チキンか!? 舞香さんよォおおおおああンッ!?』と吼え昂るだけで、こっちは眼中になくなっている。
微風は寸でのタイミングで僕らの上に振り向いた途端、目を大きく見開きながら動きを停止した。
「ーーわたしが迷惑かけてごめんね」
微風ボイスが真上から降ってくるのがわかり、僕は空を仰ぎ見る。
僕らの上空には、二人の女性が浮いていた。
ひとり目は、左目を前髪で隠す一部極端なアシンメトリーの髪型をしている大学生くらいの女の人。
そして、その女性をここまで手を繋ぎ連れてきたと思わしきーー微風が二、三歳成長した姿の少女。煌めき放つ緑髪を風に靡かせているそれは、やはり微風だと断言できて同じく微風ではないのも明白だ。
その幻想は地上に舞い降りたーー。
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ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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