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第三章/赤羽裕璃
Episode039/日常?
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(66.)
あれから学校ではかなりの騒動となり、登校は水曜日以降までしてはならなくなった。保護者の心配もあるだろうし、各種対応に忙しかったのだろう。
そして本日、木曜日。何事もなく登校日はやってきた。
いつもどおり女子用制服を羽織り、毎日飲むようの薬を飲む。
どうしても頭にちらついてしまう。ふたつのことが……。
ひとつは、裕璃が教育部併設異能力者研究所に連行されたこと。
そして、もうひとつは、る、瑠璃が僕の恋人になり、口付けを交わしてきたこと。
これで、本当に彼氏彼女の関係になったのだろうか?
あの日、瑠璃の表情を見る限り、付き合う恋人同士の表情ではなかった。
なにか、なにか大切なひとを守る決心がついたような、勇ましい表情を顔に浮かべていた気がする。
ーーユタカ、早く学校に行ったらどうだ?ーー
ユタカに言われなくてもわかっている。
僕は鞄を持ち、家から外に出たーー。
学校につくと、あんな大惨事があったというのに、生徒の大半はいつもどおりに登校している。皆、気にしないのだろうか?
あんなバラバラ殺人があったというのに……。
なかには、敢えて遠回りをして、バラバラ死体があった場所を迂回していた。
ああ、そうか。あの現場は、なにも全員が見たわけではないのだ。気にしないひとは気にしないし、見てしまったひとは迂回しているのだろう。
異能力者が現れてからというもの、学校の管理も杜撰になってきている気がする。
「おはよう、豊花」
と、背後から瑠璃の声が聞こえた。
思わず振り返ると、いつもと変わらない瑠璃の笑顔。
そうか……瑠璃は死体とかに慣れているんだっけ?
流石は第2級異能力特殊捜査官……その名はだてじゃない。
その隣には、瑠衣の姿。
「豊花ぁ~」と言いつつ抱きついてきた。
ちょっと待ってくれ、僕はいま瑠璃と付き合っていて……瑠璃はどう思っているのだろう?
ちらりと瑠璃の表情を窺う。
「こら、豊花が困っているでしょ?」
あれ?
恋人がべつの女の子に抱きつかれても嫉妬とかしないの?
それは逆に悲しいような……。
「ゆ、杉井さん!」
「へ?」
前方から歩いてきた後輩らしき男子生徒に、いきなり声をかけられた。
「な、なにかな?」
「あの、その……僕と、付き合ってください!」
……why?
「いや、あの僕はおと」
「どうして無理なんですか? 顔ですか? 性格ですか?」
これはもしや、ありすの言っていた告白しようと企んでいた男子生徒の一味かな?
いやいやいや、僕は男なんですけど……。
「ご、ごめん。もう付き合っているひとがいるから……」
嘘はついていない。だってぇ、僕はもう瑠璃と恋人同士なんだもん。
「あ、ああ、そ、そうですか……やっぱり僕なんかじゃ相応しくないですもんね……」
男子生徒はとぼとぼ歩いて、友達らしき二人に慰められていた。
「やっぱり無理だって」「あんな美少女、普通なら数人くらいイケメンの彼氏つくってるって。さあ、行こうぜ」
のっぴきならない言葉が聞こえた気がするのは、気のせいであってほしい。数人のイケメンと付き合っているだって?
僕はホモじゃない!
「流石にモテるわね、そんな格好じゃ」
瑠璃におちょくられる。
「まさか……会話すらまともにしたことのない相手に告白されるとは思いもよらなかったよ」
トホホ……な気分で、僕らはそれぞれの教室へと赴いた。
「なんか久しぶりに豊花ちゃんの顔を拝めた気がするぜ」
教室の騒がしいなか、開幕一番で声をかけてきたのは、唯一……いや、いまは唯一じゃない瑠衣もいるもん……の友達であった。
「その豊花ちゃんはやめてくれないかな……」
「なんか異能力捜査官になるから臨時休日だったり、まさかの裕璃が殺人事件起こしたりで、ほとんど会ってなかったじゃねぇか」
「それは……たしかに」
裕璃……今頃どうしているのかな?
ダメだダメだ!
どうしても裕璃を助け出せないかばかり考えてしまう。
「はいは~い、朝礼がはじまるから~、みんな~静かにね~」
雪見先生の声と共に、やたらとうるさかった喧騒がやみはじめる。
「おいおい、きょうの放課後」宮下は小声で僕に語りかける。「ゲーセンでも行って気分転換しようぜ? おまえ格ゲー得意だったろ?」
「得意ってほどじゃ……」それに、瑠璃とも帰りたいし。
「じゃあ、決まりなー。学校終わったら近場のゲーセン行こうぜ」
「あ、う、うん」
あまり乗り気じゃない。
裕璃の問題もあるし、瑠璃や瑠衣とも帰りたいし……。
「まあまあ、気分転換でもしたほうがいいぜ? おまえ顔色悪いもん。生理か?」
「いや、周期的にはまだな筈だけどーーって下品なこと言わないでくれない?」
「そこ~先生言いましたよね~うるさくしないって」
宮下のせいで雪見先生に怒られてしまった。
「え、きょうは、一緒に、帰らないの?」
昼休み、瑠衣の教室。事情を話したら、瑠衣が開き口一番そう訊いてきた。
「ごめん……友達にゲーセンに誘われちゃってさ……本当はみんなと帰りたいんだけど」
「いいんじゃない? たまには息抜きも必要だしね」
「あれ?」
瑠璃はそこまで止めてこなかった。
「裕璃のことを忘れる機会にでもなればってね」
「……」
瑠璃は未だに裕璃に執着している僕が気に入らないらしい。
でも、どうしても考えてしまうんだ。今はまだ怪我の治療を受けていたとしても、それが終わったら地獄のはじまりだ。
多少は間に合わなくてもいい。でも、幼なじみのよしみだ。せめて、日常生活が送れなくなっても、地獄のような環境からは救いだしたい。
「無理よ」
瑠璃は僕の心中を覗いたかのように、それを否定した。
「あそこに従事している異能力者や異能力捜査官は多勢いるし、拳銃やライフルなんかの武器も揃ってる。豊花ひとりでどうにかなる量じゃない」と、瑠璃は自分が食べるのに使っていたフォークでミートボールを刺し、こちらに向けた。「あーん」
「……」
「どう、恋人っぽいでしょ?」
今の話の流れからどうしてそうなる?
ありがたく頂くけど……うん、おいしい。
これに、瑠璃の唾液がががいかんいかん心頭滅却すれば間接キスなどには負けぬ!
「彼女のお願いとして聞いてよ。もう金輪際危ないことはしないってーー」
「……う、うん、いや、どうかな」
断言できない僕がいた。だって、事実まだ、愛のある我が家とのツテもあるし、裕璃を助けたい気持ちもある。
そして、瑠衣が隣で見よう見まねで僕にあーんさせようとしているのをどうにかーーあっ、ミートボールが落ちた!
それを突き刺し、再び僕に向けただと!?
「三秒、ルール」
「三秒以上経ってるから!」
そうこうしているうちに、昼休みは終わり、放課後がやってきた。
(67.)
すっかり夕暮れになりかけのなか、学校から一番近いゲーセンへと僕たちは来ていた。
もうそろそろ秋だというのに、まだ暑い……。
「近場のゲーセンでいいよな?」
「うん……」
宮下の言葉にうなずく。
瑠璃の問題は解決したといえるのか?
なんだか、無理やり恋人になったとしか思えない。
裕璃に関してはなにも解決していない、どころか悪化の一途を辿っている。
そんななか、ゲームセンターで格闘ゲームなぞやっていていいのだろうか?
「ほら、おまえの好きな女の子しか登場しない格ゲー、片方空いてるぜ?」
宮下が促した方向には、マジカルハートという登場キャラクターが女の子しかいないゲームが鎮座してある。
「う、うん……」
やるの恥ずかしいなぁ……しかも対戦形式だし。
「でも、あれだな。こうして歩いているとデートみたいだな」
「気色悪いこと言わないでくれないかなぁ、元男なんだし」
頭にいろいろとぐるぐる回る。
瑠璃や裕璃のこともさながら、教育部併設異能力者研究所や異能力者保護団体のこと、刀子さんとかいう謎の殺し屋、陽山やらのことも。僕は、問題をしっかり解決しているのだろうか?
問題を解決する途中で次なる問題に巻き込まれて、ひとつひとつ解決できていない気がする。
マジカルハートの台に座り、対人戦を久しぶりにやることにした。
選ぶキャラクターは、大剣を持ったメイド服のキャラクター。
「おまえそいつ好きだな。自分のからだ見ろよ。幼児キャラ選ぶべきだろ」
「うるさいなぁ……」
レディーファイトーーという音声と共に対戦がはじまった。
相手は投げ主体の制服キャラクター。迂闊に近寄るのは危険だ。大剣を振り回しあえて牽制して、投げ技を透かしたらすかさず特効。小パンから中段を入れて相手のガードを崩し、そこから隙を見せずフルコンボをお見舞いする。起き上がりしょうりゅうぶっぱは先読みして回避、反撃確定な相手に再びコンボを入れ、しまいにちまちま小パンを入れて、相手が痺れを切らしたところに攻撃が当たり勝利。
「よし」
「相変わらずえげつねぇ……な……んん!?」
なんだろうと振り返ると、妙にギャラリーが増えていた。
「こんな可愛い子が、こんな強いだと」
「女の子でもマジカルハートやる子がいるんだ感激」
「仲良くなりてぇ」
と、男たちが並び観戦していたのだ。
うっ、恥ずかしい。僕は男だ。なんて言っても通用しないか……。
「ごめん、ゲーム放置するわ」
慌てて僕は外へと駆け出した。
「あ、おい待てよ豊花ちゃん!」
宮下の言葉も聞かずにゲーセンから出てしまった……。
どうしたものかとふらふらしていると、三人組のチャラそうな男たちに絡まれてしまった。
「へいへい、お茶しない」
「てか、もっといいことしない?」
このからだになって生理以外のデメリットにはじめて遭遇した……!
男のひとりに肩を触られようとしたところを、隣まで駈けてきた宮下がそれを食い止めた。
「やめろよ、いやがってるだろ。てか、おまえらロリコンかよ。こいつはまだ子どもだぜ?」
いや、たしかに子どもだけど宮下くんと同年代デスヨ。
「はあ? 風守学校の制服着てるじゃねーか」
しまった!
制服のままだった。
「てか、生意気だなてめえ。ちょっとこっちこいよ」
宮下が三人組に連れられて路地裏に連れていかれてしまう。
いくらなんでも三人は無謀だろ!
バカなのか自信があるのか知らないけど、僕もついていくことにするのであった、まる。
「よくも舐めた口聞いてくれたな、オイ」
チンピラのリーダー格が、宮下に脅しをかける。
しかし宮下は、ニヒルな笑みを浮かべていた。
「ロリコン三人組が、よくもまあそんな古風な言葉づかいできますね」
「やろぅ!」
チンピラのしたっぱが宮下に殴りかかる。それを宮下は右手でガード。顔面は歪むが、笑みを絶やさず腹部を殴り返した。
「てめぇ!」
もうひとりが顔面に殴りかかろうとするのを冷や汗を飛ばしながらギリギリ避けて、カウンターパンチを入れた。
「ちっ!」
リーダー格は刃物らしき獲物を取り出した。
「う!?」
さすがの宮下も焦ったのか、一歩たじろぐ。
危ない気がしてならない!
僕は地面の石ころを拾ったあと、宮下の前へと一気に躍り出た。
「豊花!?」
「なんだ、言うことを聞く気になったのか?」
「違うよ、おまえひとりなら僕で十分って言いたいんだ」
「んだとクソガキ!」
リーダー格の男は激昂し、刃物で腕を切ろうとする。
遅いーー。
舞香さんよりも、あの廃ホテルで遭遇した危ない奴よりも、俄然遅い!
刃物が当たる直前で避け、石を刃物の柄に思い切り当てた。
「ってぇ!」
一発じゃない。数回殴り付けて逆らわないようにした。
「や、やめてくれぇ……」
命乞いをする男。裕璃が味わう苦しみはこんな程度じゃないんだーー。
「おい、豊花! 豊花ちゃん! もうやめろ、それ以上やる必要はない!」
「宮下……」
宮下に言われ、ようやく現状を理解した。
いま、僕は一般市民に異能力をつかった……?
三人組にはもう闘争心はない。
僕たちは、その場をあとにした。
しばらく無言の時間がつづいた。
開口一番に言葉を発したのは、宮下だった。
「おまえ、そんななりして案外逞しいんだな……」
「う、うん……」
なんとも不思議な一日を過ごすことになってしまったのであったーー。
あれから学校ではかなりの騒動となり、登校は水曜日以降までしてはならなくなった。保護者の心配もあるだろうし、各種対応に忙しかったのだろう。
そして本日、木曜日。何事もなく登校日はやってきた。
いつもどおり女子用制服を羽織り、毎日飲むようの薬を飲む。
どうしても頭にちらついてしまう。ふたつのことが……。
ひとつは、裕璃が教育部併設異能力者研究所に連行されたこと。
そして、もうひとつは、る、瑠璃が僕の恋人になり、口付けを交わしてきたこと。
これで、本当に彼氏彼女の関係になったのだろうか?
あの日、瑠璃の表情を見る限り、付き合う恋人同士の表情ではなかった。
なにか、なにか大切なひとを守る決心がついたような、勇ましい表情を顔に浮かべていた気がする。
ーーユタカ、早く学校に行ったらどうだ?ーー
ユタカに言われなくてもわかっている。
僕は鞄を持ち、家から外に出たーー。
学校につくと、あんな大惨事があったというのに、生徒の大半はいつもどおりに登校している。皆、気にしないのだろうか?
あんなバラバラ殺人があったというのに……。
なかには、敢えて遠回りをして、バラバラ死体があった場所を迂回していた。
ああ、そうか。あの現場は、なにも全員が見たわけではないのだ。気にしないひとは気にしないし、見てしまったひとは迂回しているのだろう。
異能力者が現れてからというもの、学校の管理も杜撰になってきている気がする。
「おはよう、豊花」
と、背後から瑠璃の声が聞こえた。
思わず振り返ると、いつもと変わらない瑠璃の笑顔。
そうか……瑠璃は死体とかに慣れているんだっけ?
流石は第2級異能力特殊捜査官……その名はだてじゃない。
その隣には、瑠衣の姿。
「豊花ぁ~」と言いつつ抱きついてきた。
ちょっと待ってくれ、僕はいま瑠璃と付き合っていて……瑠璃はどう思っているのだろう?
ちらりと瑠璃の表情を窺う。
「こら、豊花が困っているでしょ?」
あれ?
恋人がべつの女の子に抱きつかれても嫉妬とかしないの?
それは逆に悲しいような……。
「ゆ、杉井さん!」
「へ?」
前方から歩いてきた後輩らしき男子生徒に、いきなり声をかけられた。
「な、なにかな?」
「あの、その……僕と、付き合ってください!」
……why?
「いや、あの僕はおと」
「どうして無理なんですか? 顔ですか? 性格ですか?」
これはもしや、ありすの言っていた告白しようと企んでいた男子生徒の一味かな?
いやいやいや、僕は男なんですけど……。
「ご、ごめん。もう付き合っているひとがいるから……」
嘘はついていない。だってぇ、僕はもう瑠璃と恋人同士なんだもん。
「あ、ああ、そ、そうですか……やっぱり僕なんかじゃ相応しくないですもんね……」
男子生徒はとぼとぼ歩いて、友達らしき二人に慰められていた。
「やっぱり無理だって」「あんな美少女、普通なら数人くらいイケメンの彼氏つくってるって。さあ、行こうぜ」
のっぴきならない言葉が聞こえた気がするのは、気のせいであってほしい。数人のイケメンと付き合っているだって?
僕はホモじゃない!
「流石にモテるわね、そんな格好じゃ」
瑠璃におちょくられる。
「まさか……会話すらまともにしたことのない相手に告白されるとは思いもよらなかったよ」
トホホ……な気分で、僕らはそれぞれの教室へと赴いた。
「なんか久しぶりに豊花ちゃんの顔を拝めた気がするぜ」
教室の騒がしいなか、開幕一番で声をかけてきたのは、唯一……いや、いまは唯一じゃない瑠衣もいるもん……の友達であった。
「その豊花ちゃんはやめてくれないかな……」
「なんか異能力捜査官になるから臨時休日だったり、まさかの裕璃が殺人事件起こしたりで、ほとんど会ってなかったじゃねぇか」
「それは……たしかに」
裕璃……今頃どうしているのかな?
ダメだダメだ!
どうしても裕璃を助け出せないかばかり考えてしまう。
「はいは~い、朝礼がはじまるから~、みんな~静かにね~」
雪見先生の声と共に、やたらとうるさかった喧騒がやみはじめる。
「おいおい、きょうの放課後」宮下は小声で僕に語りかける。「ゲーセンでも行って気分転換しようぜ? おまえ格ゲー得意だったろ?」
「得意ってほどじゃ……」それに、瑠璃とも帰りたいし。
「じゃあ、決まりなー。学校終わったら近場のゲーセン行こうぜ」
「あ、う、うん」
あまり乗り気じゃない。
裕璃の問題もあるし、瑠璃や瑠衣とも帰りたいし……。
「まあまあ、気分転換でもしたほうがいいぜ? おまえ顔色悪いもん。生理か?」
「いや、周期的にはまだな筈だけどーーって下品なこと言わないでくれない?」
「そこ~先生言いましたよね~うるさくしないって」
宮下のせいで雪見先生に怒られてしまった。
「え、きょうは、一緒に、帰らないの?」
昼休み、瑠衣の教室。事情を話したら、瑠衣が開き口一番そう訊いてきた。
「ごめん……友達にゲーセンに誘われちゃってさ……本当はみんなと帰りたいんだけど」
「いいんじゃない? たまには息抜きも必要だしね」
「あれ?」
瑠璃はそこまで止めてこなかった。
「裕璃のことを忘れる機会にでもなればってね」
「……」
瑠璃は未だに裕璃に執着している僕が気に入らないらしい。
でも、どうしても考えてしまうんだ。今はまだ怪我の治療を受けていたとしても、それが終わったら地獄のはじまりだ。
多少は間に合わなくてもいい。でも、幼なじみのよしみだ。せめて、日常生活が送れなくなっても、地獄のような環境からは救いだしたい。
「無理よ」
瑠璃は僕の心中を覗いたかのように、それを否定した。
「あそこに従事している異能力者や異能力捜査官は多勢いるし、拳銃やライフルなんかの武器も揃ってる。豊花ひとりでどうにかなる量じゃない」と、瑠璃は自分が食べるのに使っていたフォークでミートボールを刺し、こちらに向けた。「あーん」
「……」
「どう、恋人っぽいでしょ?」
今の話の流れからどうしてそうなる?
ありがたく頂くけど……うん、おいしい。
これに、瑠璃の唾液がががいかんいかん心頭滅却すれば間接キスなどには負けぬ!
「彼女のお願いとして聞いてよ。もう金輪際危ないことはしないってーー」
「……う、うん、いや、どうかな」
断言できない僕がいた。だって、事実まだ、愛のある我が家とのツテもあるし、裕璃を助けたい気持ちもある。
そして、瑠衣が隣で見よう見まねで僕にあーんさせようとしているのをどうにかーーあっ、ミートボールが落ちた!
それを突き刺し、再び僕に向けただと!?
「三秒、ルール」
「三秒以上経ってるから!」
そうこうしているうちに、昼休みは終わり、放課後がやってきた。
(67.)
すっかり夕暮れになりかけのなか、学校から一番近いゲーセンへと僕たちは来ていた。
もうそろそろ秋だというのに、まだ暑い……。
「近場のゲーセンでいいよな?」
「うん……」
宮下の言葉にうなずく。
瑠璃の問題は解決したといえるのか?
なんだか、無理やり恋人になったとしか思えない。
裕璃に関してはなにも解決していない、どころか悪化の一途を辿っている。
そんななか、ゲームセンターで格闘ゲームなぞやっていていいのだろうか?
「ほら、おまえの好きな女の子しか登場しない格ゲー、片方空いてるぜ?」
宮下が促した方向には、マジカルハートという登場キャラクターが女の子しかいないゲームが鎮座してある。
「う、うん……」
やるの恥ずかしいなぁ……しかも対戦形式だし。
「でも、あれだな。こうして歩いているとデートみたいだな」
「気色悪いこと言わないでくれないかなぁ、元男なんだし」
頭にいろいろとぐるぐる回る。
瑠璃や裕璃のこともさながら、教育部併設異能力者研究所や異能力者保護団体のこと、刀子さんとかいう謎の殺し屋、陽山やらのことも。僕は、問題をしっかり解決しているのだろうか?
問題を解決する途中で次なる問題に巻き込まれて、ひとつひとつ解決できていない気がする。
マジカルハートの台に座り、対人戦を久しぶりにやることにした。
選ぶキャラクターは、大剣を持ったメイド服のキャラクター。
「おまえそいつ好きだな。自分のからだ見ろよ。幼児キャラ選ぶべきだろ」
「うるさいなぁ……」
レディーファイトーーという音声と共に対戦がはじまった。
相手は投げ主体の制服キャラクター。迂闊に近寄るのは危険だ。大剣を振り回しあえて牽制して、投げ技を透かしたらすかさず特効。小パンから中段を入れて相手のガードを崩し、そこから隙を見せずフルコンボをお見舞いする。起き上がりしょうりゅうぶっぱは先読みして回避、反撃確定な相手に再びコンボを入れ、しまいにちまちま小パンを入れて、相手が痺れを切らしたところに攻撃が当たり勝利。
「よし」
「相変わらずえげつねぇ……な……んん!?」
なんだろうと振り返ると、妙にギャラリーが増えていた。
「こんな可愛い子が、こんな強いだと」
「女の子でもマジカルハートやる子がいるんだ感激」
「仲良くなりてぇ」
と、男たちが並び観戦していたのだ。
うっ、恥ずかしい。僕は男だ。なんて言っても通用しないか……。
「ごめん、ゲーム放置するわ」
慌てて僕は外へと駆け出した。
「あ、おい待てよ豊花ちゃん!」
宮下の言葉も聞かずにゲーセンから出てしまった……。
どうしたものかとふらふらしていると、三人組のチャラそうな男たちに絡まれてしまった。
「へいへい、お茶しない」
「てか、もっといいことしない?」
このからだになって生理以外のデメリットにはじめて遭遇した……!
男のひとりに肩を触られようとしたところを、隣まで駈けてきた宮下がそれを食い止めた。
「やめろよ、いやがってるだろ。てか、おまえらロリコンかよ。こいつはまだ子どもだぜ?」
いや、たしかに子どもだけど宮下くんと同年代デスヨ。
「はあ? 風守学校の制服着てるじゃねーか」
しまった!
制服のままだった。
「てか、生意気だなてめえ。ちょっとこっちこいよ」
宮下が三人組に連れられて路地裏に連れていかれてしまう。
いくらなんでも三人は無謀だろ!
バカなのか自信があるのか知らないけど、僕もついていくことにするのであった、まる。
「よくも舐めた口聞いてくれたな、オイ」
チンピラのリーダー格が、宮下に脅しをかける。
しかし宮下は、ニヒルな笑みを浮かべていた。
「ロリコン三人組が、よくもまあそんな古風な言葉づかいできますね」
「やろぅ!」
チンピラのしたっぱが宮下に殴りかかる。それを宮下は右手でガード。顔面は歪むが、笑みを絶やさず腹部を殴り返した。
「てめぇ!」
もうひとりが顔面に殴りかかろうとするのを冷や汗を飛ばしながらギリギリ避けて、カウンターパンチを入れた。
「ちっ!」
リーダー格は刃物らしき獲物を取り出した。
「う!?」
さすがの宮下も焦ったのか、一歩たじろぐ。
危ない気がしてならない!
僕は地面の石ころを拾ったあと、宮下の前へと一気に躍り出た。
「豊花!?」
「なんだ、言うことを聞く気になったのか?」
「違うよ、おまえひとりなら僕で十分って言いたいんだ」
「んだとクソガキ!」
リーダー格の男は激昂し、刃物で腕を切ろうとする。
遅いーー。
舞香さんよりも、あの廃ホテルで遭遇した危ない奴よりも、俄然遅い!
刃物が当たる直前で避け、石を刃物の柄に思い切り当てた。
「ってぇ!」
一発じゃない。数回殴り付けて逆らわないようにした。
「や、やめてくれぇ……」
命乞いをする男。裕璃が味わう苦しみはこんな程度じゃないんだーー。
「おい、豊花! 豊花ちゃん! もうやめろ、それ以上やる必要はない!」
「宮下……」
宮下に言われ、ようやく現状を理解した。
いま、僕は一般市民に異能力をつかった……?
三人組にはもう闘争心はない。
僕たちは、その場をあとにした。
しばらく無言の時間がつづいた。
開口一番に言葉を発したのは、宮下だった。
「おまえ、そんななりして案外逞しいんだな……」
「う、うん……」
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50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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