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第四章/杉井豊花(破)
Episode057/行動開始
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(94.)
「ちょっと豊花、大丈夫だったの?」
愛のある我が家に帰宅するなり、僕は瑠璃に心配された。
腹部を抑えているからだろう。善河にやられた痛みがまだつづいているのだ。
室内には大勢の人が揃っている。沙鳥を始め、僕、舞香、朱音、瑠奈、ありす、ゆき、瑠衣、そして瑠璃の9名もの人間がいる。さすがに部屋が狭く感じてしまう。
「だ、大丈夫……それより」
「それより失敗した。沙鳥、なにがあったか今から説明する」
僕が言うのを遮り、ありすは沙鳥に起こったことを伝えようとする。が、それを沙鳥は手で阻んだ。
「口で説明するよりも、起きた出来事を脳裏に描いてください。そちらのほうが手っ取り早いです」
「わかった。じゃあ想起するから読み取って」
とありすは言い、想像しているのか、沙鳥に目を合わせたまま無言になる。
「はぁ……リスクマネジメントが不足していましたね……」
沙鳥は悔しそうな表情をしながら、急いで携帯を取り出した。
「襲撃したとなれば返しがくるのは当然です。ヤクザとはそういうものです」沙鳥は今一理解していない僕の心情を読んだのか、そう答えてくれた。「しかし相手もバカじゃありません。無計画に襲ってもメリットがあるこちら側とは違い、何の策もなく襲撃してきたら返り討ちに遭う相手側は、何らかの策を講じるはずです」
それが何なのか想像できないが、返しは当然来るものとして計画を建てたほうがいいと沙鳥は言う。
そういうものなのだろうか。厄介な事になったのは確かだろうけど……。
そのとき、部屋のチャイムが鳴った。
刀子さんが帰宅したのだろうか?
「いえ、ちょっと玄関を開けてください」
そう言われ、特に誰も開けようとしなかったため、仕方なく一番玄関から近かった僕が玄関を開けた。
そこにはーー意外な人物が立っていた。
「うふふ、みんな揃っているのね」
「ママ!?」
僕と瑠衣、それに瑠璃の三人はまとめて驚いてしまう。
「予め連絡しておきました。あ、もしもし、大海さん、緊急事態ですーー」
沙鳥は説明しながら、僕らよりまえに部屋から出ていった大海さんたちに連絡を入れた。
玄関にいたのは瑠美さんだった。
沙鳥が呼んだらしいが、どういう繋がりなのかが全くわからない。
「ふふふ、久しぶりね、舞香ちゃん」
舞香に視線を向けて瑠美さんは言葉をかける。
そんな瑠美さんに対して、舞香は苦々しい表情を顔に浮かべながら「お久しぶりね……」と返事した。
「風香……姉が亡くなったのは当然の報いよ」
舞香はよくわからないことを呟く。それに対して、瑠美さんは特段興味がなさそうに「風香が亡くなったことは残念だけど、もう同僚でもなくただの知人、興味はないわ」と言い返した。
「え? え? ちょっとママ、どういうこと?」
「私が説明しましょう」沙鳥は通話を終えたのか、混乱する瑠璃に対して落ち着くように宥める。「瑠璃さんや瑠衣さんといった名前、若いのに異能力者保護団体の関係者、という点からもしかして……と思っていましたが、そういえば名字も同じ。やはり、瑠美さんの娘だったのですね」
なにやら当時から愛のある我が家と異能力者保護団体は敵同士であり、とある出来事を発端として、異能力者保護団体側を襲撃した際に舞香の姉でもある青海風香(あおみふうか)という異能力者保護団体職員を処分したという。そのとき対面した相手のひとりが瑠美さんだったらしい。
あまり覚えがよくない沙鳥だったが、流石に顔を見れば思い出せたらしい。
瑠美さんの夫ーー大輝さんについてはなにも知らなかったため、教育部併設異能力者研究所を襲ったときに出てきてもピンと来なかったと沙鳥は言う。
「それにしても、叶多ちゃんがねぇ……」
今回の事件が元異能力者保護団体の金沢叶多による独断と聞いて、瑠美は元部下だったのか妙に懐かしそうにする。
「そんな馴れ初めはどうでもいいわよ。どうしてママを呼ぶ必要があったのよ?」
瑠璃は疑問を口にする。
「敵対者が瑠衣さんにも怨みを抱いているなら、当然その家族である瑠璃さんやその両親も狙われます。無用な危険に曝さないためにも、一時来てもらったのです」
「え……じゃあパパは?」
瑠璃は新たに降ってわいた疑問を挟む。
「私の主人なら、教育部併設異能力者研究所(あそこ)にいるから問題ないわ。現状一番問題なのは、ここに居らず、竜宮会と敵対していながら唯一なにも知らされていない豊花くんの家族でしょうね」
「え……?」
瑠美さんに指摘され、一瞬思考が固まってしまった。
なぜ、無関係な家族が?
暴力団はカタギには手を出さないんじゃないのか?
さまざまな思考が入り混乱してしまう。
「豊花さん、ヤクザが一般人に対して暴力を行使しないのは無関係だからです。普段はデメリットばかりでメリットのない行動は取らないだけで、叶多さんの恨み相手である裕璃さんを助けようとしたのは豊花さんです。そして叶多さんは弟を殺害された。なら、一番危険なのは豊花さんの家族でしょう」
待て待てちょっと待ってくれ!
そんなこといきなり言われても、僕は家族に対し愛のある我が家に所属したなんて一言も言っていない!
そんなこと知られたら、愛のある我が家がヤクザみたいな存在だと知ったら、うちの家族は全員卒倒しかねない。
「その家族のなかでも、一番危険なのは兄弟姉妹じゃないかしら」
と瑠美さんは言う。
つまり、裕希姉ぇが一番危ないのか……?
「リスクを評価していくと、何の知識もなく、敵対している豊花さんの家族であり、同時に外出していて非力のお姉さんーー裕希さんが、現状一番危険だとわかります。裕希さんに対してなら、向こう側も襲撃に必要なのは少人数の普通の人間。拉致してしまえばそれで済みますからね」
沙鳥は瑠美さんに紅茶の入ったティーカップを手渡した。
瑠美さんはそれを飲まずに物思いに耽っている。
どうして姉の名前を沙鳥が知っているんだろう?
いや、そんなの些細な事だ。
裕希姉ぇ含め家族は何にも知らない。
といっても、だからどうすればいいと言うんだ。
異能力者保護団体に配属したと思っていたら、知らず知らずのうちに敵対側の極悪犯罪集団に属していたーーなんて聞かされたら、裕希姉や父さんはともかく、母さんは卒倒するに違いない。
「卒倒するか死ぬかなら、卒倒するほうが幾分もマシですよ」
沙鳥は僕を説得する。
瑠美さんはティーカップの中身を溢さないようにしながら瑠璃に近寄り、鞄に手を突っ込んでいる。
「わかってるよ! 早く伝えに、守りに行かなきゃダメだろ!?」
僕は焦り、急いで玄関を開けた。
ーーそこには、見知らぬ女性が突っ立って待っていた。
だ、誰?
僕の目の前に立ち、女性は片手を前に差し出す。手のひらを精一杯開くと、それを閉じようとする。
直感がやばいというのを伝えてくるーー。
と、いきなり背後から中身入りのティーカップが女性に投擲されぶつかる。
「つっ……!」
瑠美さんがティーカップを女性にぶつけたらしい。女性は顔をしかめて一瞬動作を止めた。そのまま瑠璃の特殊警棒を取り出した瑠美さんは女性の伸ばしていた腕に特殊警棒で叩く。
『瑠美さんの背後に隠れてください。その方は大空(おおぞら) 白(しろ)。異能力者なら無条件で爆発できる脅威的な異能力の持ち主です』
脳裏に早口で沙鳥の思考が流れる。
ば、爆発!?
呆気に取られている間に、瑠美さんは再度白の腕に特殊警棒を強打した。
「つっ! くそ……っ!」
「襲撃よ。豊花くん、ボサッとしないの」
瑠美さんは逃げようとする白を背後から押し倒す。
「ありす、瑠璃、手伝ってちょうだい」
瑠美さん二人を呼びながら白の背中に跨がる。
「離せ! 離して!」
白はじたばたと抵抗するが、瑠美さんに乗っかられ抗えない。ありすは言われるまえから行動していたらしい。瑠美さんが発言した直後には、既に白の背中に手を回して結束バンドで両手を縛り付ける。
瑠璃は状況が理解できず、なにもできないまま呆然としていた。
「どうして貴女を助け出した私たちを襲おうとしたのですか?」
沙鳥は情報を得るためか、白に問いかける。
助け出した?
まえになにかあったのだろうか?
しかし、白は頑なに答えようとしない。ただただ唸るだけで返事はしない。
「……はぁ。貴女の彼氏を直接殺害したのは、貴女のお兄さんの静夜さんですよ?」
「兄貴が……?」
静夜……じゃあ、この女性はあの殺し屋の妹?
「いや、あなたたちが殺したんでしょ……! どうして私の彼を……偉才さんを、殺したのよ!?」
「それは殺されそうになったから殺し返しただけです。貴女の恨みは筋違いも甚だしい」沙鳥は返事をしながらため息をついた。「どうやら直接的に叶多さんに協力しているわけではなく、一方的に偏った情報だけを聴かされて、真実の愛に属し行動したみたいですね。残念ながら、ここから叶多さんの情報は追えそうにありません」
沙鳥は残念がりながら、視線を皆に移した。
「このまま殺しては静夜さんと敵対関係になります。そうなるくらいなら、静夜さんと直接対話させて解決してもらったほうがいいでしょう」
沙鳥はそう言うと、静夜に連絡を入れるのか、携帯を取り出し番号を打ち込む。しかし出ないのか、沙鳥は苦々しい顔をして再び白に目線を落とす。
「なるほど……お兄さんも真実の愛側に属すことになったのですね? なにを考えているのかわからない兄妹です」
「……わからないのはあんたたちよ!」
「今から帰宅してお兄さんと話をつけるなら解放します。ただし、こちらに牙を剥いたら、貴女を殺害して静夜さんも処分する羽目になるでしょう」
「どうして、兄貴は関係ないじゃない!」
沙鳥はわざとらしく首を傾げる。
「おや? やはり知らされていないのですか。偉才さんを殺したがっていたのは静夜さんで、直接殺害したのも静夜さんですよ? 貴女を犯罪者である角瀬偉才の側に立たせたくないーーそれが静夜さんの動機です」
白はまぶたを見開き驚愕を露にする。
「解放していいですよ、瑠美さん」
思考を読んだのか、沙鳥は瑠美さんにそう伝える。
「いいえ、無力化しておいたほうがいいわね」
しかし瑠美さんは離さず、白の右腕の関節をそのまま外した。
鈍い音が耳に入り込む。
「いっーー!」
「ま、ママ……?」
そんな瑠美さんを見て、瑠璃は唖然とする。
僕も、その容赦のなさに驚く。瑠美さん、こんなひとだったのか?
「瑠美さんー。私の心当たりがある異能力者がいるんだけど、そいつと連絡が繋がらないんだよねー。善河とかいう奴が味方にいるって言ってた異能力者と能力が酷似してるんだよ。もしも相手側にそいつがいたら、傷つける意味は皆無じゃないかな?」
ありすは相手に属すメンバーに心当たりがいるという。
そうか。どんな傷もたちまち治してしまう異能力者ーー善河が言っていた異能力者。その力を借りて、ありすは骨折を治療したのか。
「どのタイミングでかはわからないけど、一応敵対したと考えていいと思う。まったくさー、叶多といい煌季(きらき)といい、異能力者保護団体に所属している奴らが勝手に動きすぎでしょ」
ありすは煌季という異能力者(治癒能力)が相手側に属した可能性が高い、と沙鳥と瑠美さんに告げる。
「あらそう? でも」瑠美さんは白のもう片方の肩の関節を外した。「少なくともその異能力者に会うまで異能力は発動できなくできるでしょう? 何らかの心変わりが起きたとしても、殺害しないなら、それまで無力化するのは有効的じゃないかしら?」
瑠美さんようやく白から退き立ち上がった。
「ううっ……」
白はふらふらになりながら、両手をだらんと下げたまま出口に向かって歩き始めた。
「って、早く裕希姉ぇや母さん父さんに知らせに行かなきゃ……!」
今しがた起きた事象から思考が離れ、元々考えていた事柄を思い出す。
「待ってください」沙鳥は動こうとする僕を言葉で制す。「一時普段の仕事をストップしましょう。緊急事態ですからね。ここに含む私たち全員で三チームに別れましょう」
「どういうこと? それって私たちもやらなきゃいけないことなの?」
瑠璃が恐る恐る疑問を呈した。
「ええ、もちろん」沙鳥はそのまま説明をはじめた。「まずは豊花さんの家族を守る為に行動する班、真実の愛を解散させる為に行動する班、瑠衣さんを守りつつ日常生活をするための班、三つの班にそれぞれ分断して行動しましょう。その間、ここに戻るのは禁止です。今みたいに襲撃を受ける可能性が高いので」
沙鳥はつづけて、ぶつぶつなにかを呟き始めた。
ーー僕の家族を襲うのは竜宮会組員や上の人間である可能性が高いが、異能力者を使う必要性は薄い。そのため、異能力者の襲撃のリスクは薄い。
瑠衣は異能力者、それもそこそこ危険性のある能力。しかしありすがいる分リスクは下がる。とはいえ一度追い払っているのでなにが来るかは未知数。
真実の愛を解散させるのは最もリスクが高く人数を要する。
「人員を割くなら、真実の愛>豊花さん>瑠衣さんたちになりますね。で、こちらの戦力を考えます」
沙鳥は紙にズラズラっとなにかを素早く計算する。
覗き込むと、『杉井豊花、直感で危険性を把握できるため危険察知能力は最大、しかし戦力としてはまだ不十分、A×C=B(1.5)』と書かれていた。
同じように、ここにいる面々と刀子さんや翠月たちが記されている。
沙鳥B×D=C(1)
舞香C×A=B(1.5)
朱音C×D-=D-(0)
ゆきD×B=C(1)
瑠奈D×A=B(1.5)
ありすB×B=B(1.5)
翠月(帰宅前)D×C=D(0.5)
瑠璃C×D=D(0.5)
瑠衣D×C=D(0.5)
瑠美B×B=B(1.5)
刀子(帰宅前)A×A=A(2)
大海組(赤羽組含む)C×C=C(1)
澄(帰宅前)A×A+=A+(ーー)
な、なんだこれ?
数字とアルファベットが沢山記入してある。
「行動を共にしなければならない面々は、瑠璃さんと瑠衣さんと瑠美さん、そこにありすさんを加えて4点。私と舞香さんと翠月さんと朱音さん、そこに刀子さんを加えて5点。余った瑠奈さんとゆきさんを豊花さんに加えて4点。ちょうどいい分断になりますね」
「え? え? どゆこと?」
いまいち理解が追い付かない。
沙鳥は紙に、以下の様に記入した。
豊花班(○豊花、瑠奈、ゆき)
瑠美班(○瑠美、瑠璃、瑠衣、ありす)
沙鳥班(○沙鳥、舞香、翠月、刀子、朱音、大海組、澄は帰宅後は一気に蹴りをつけるため沙鳥班に所属)
「なによ、この丸?」
瑠璃は混乱しながら沙鳥に問う。
「まあまあ。さて、圧倒的不利な状況です。が、澄さんさえ帰宅すれば問題の解決は早く済むでしょう。ゆきさん、澄さんにすぐに連絡を入れて、帰宅するよう指示してください」
沙鳥はゆきに命令すると、ゆきはスマホを取り出した。
「私は刀子さんがどうなったか連絡を入れます」
沙鳥は沙鳥で、刀子さんへと連絡をはじめた。
刀子さん、ひとりで大丈夫だろうか?
まえに善河との争いを見たときは互角だった。となると、謎の異能力者ーーたしか眉墨とか呼ばれていた、あのストップだとかスリップだとか厄介な異能力を使う女性も目にした。
さらにいえば、竜宮会の組長や幹部もあの場にいた。果たして無事なのだろうか?
あの場で刀子さんと力を合わせて殲滅してしまったほうが楽だったんじゃないかとすら思ってしまう。
「はい、はい。わかりました。すぐに合流しましょう」
沙鳥は相手と繋がったのか、電話口でそう返事する。
「ど、どうなったんですか……?」
恐る恐る訊いてしまう。とても無事だとは思えないんだけど……。
「どうやら脱出はできたらしいのですが、逃走中だと言われました。私たちはすぐに刀子さんと合流して、一時朱音さんの異世界にでも身を隠すことにします。すぐに戻ってきますが」沙鳥は僕に一瞥くれると、突拍子もないことを忠告した。「豊花班は豊花さんがリーダーとなって、瑠奈さんとゆきさんに指示を出してください。豊花さん、あなたがリーダーです」
「へぁ!?」
僕が……リーダー?
「同じく、瑠衣さん班は瑠美さんがリーダー、私たちはいつもどおり私が指揮を取ります。短い間ですが、私たちは音信不通になります」沙鳥は瑠奈やゆき、瑠璃やありすを見回す。「くれぐれもリーダーの命令に逆らわないようにしてください。危険察知能力のある私や豊花さん、瑠美さんが皆さんの班の指揮を取ってもらいます。瑠奈さん、特にあなたは暴走しがちです。しっかりと豊花さんの命令に従ってくださいね」
と、沙鳥は瑠奈に対して強気に指示を下す。
い、いきなりリーダーになれと言われても困るんですけど……?
「豊花、豊花、豊花ちゃん? しばらくよろしくね!」
瑠奈は僕の肩に手を回して手をわきわきさせる。
「よろしく……」
ゆきに関しては、コミュ障ばりに反応が薄い。
ほ、本当にこのメンバーで大丈夫なのだろうか?
「豊花さんは早急に家族の身を守るために行動してください。そうですね。しばらく瑠奈さんとゆきさんは豊花さんの自宅に駐在してもらうことになりますね」
え?
は?
ふぁい!?
いやいやいや!
それって家族になんて説明すればいいんだ!?
第一ゆきはともかく、瑠奈なんて僕の命令に従いそうにないんだけど!?
「瑠璃さんや瑠衣さん、ありすさんは瑠美さんの指揮の下行動してください。さすがに学校を何日も休むわけには行かないでしょう。大丈夫、瑠美さんは実の娘の為なら真面目に考えて行動してくださるはずですので」
沙鳥の急な提案に対して、瑠璃は未だに自分が巻き込まれてしまうであろう理不尽な事件に納得していないのか、ムスッとしている。
「豊花さんは臨時とはいえリーダーです。扱いは難しいかもしれませんが、上手く瑠奈さんやゆきさんを利用して、家族と自分を守りとおしてくださいね。あなたの危機察知能力に関しては、私も信頼しておりますので」
いきなりそんなこと言われても、明らかに自分より強い異能力者二人を扱うなんてリスクが大きすぎる!
「えへへ~、よろしく! 豊花ちゃ~ん」
瑠奈が僕の肩に手を回してくる。ついでに胸を揉みしだいてくる。なぜか瑠衣も負けじと僕の胸をわしづかみにしようとしてくる。
なんなんだ、この状況……。
「さあ、時間がありません。各自行動を開始してください。豊花さんには酷かもしれませんが、家族には現状を伝えるべきです。例えお母様が卒倒しようと、怒られようと、命には変えられません。覚悟を決めてください」
うう……それしかないのかもしれないけど……家族に対して暴力団ーー特殊指定異能力犯罪組織に属したなんて告げたら、卒倒+激怒+悲哀+家族関係の崩壊に繋がるかもしれない。
でもーー家族が命に曝されるよりは遥かにマシだ。
それはきちんと理解できている。
「豊花……未だに私は納得できないことばかりなんだけど……気をつけてね?」
それはこっちの台詞だ。
瑠璃、瑠衣ーー僕の大切なひとが危険に曝されるなんて耐えられない。本来なら、瑠璃たちを守るために僕も行動したい。
でもーー父さん、母さん、それに裕希姉ぇ。家族の身の危険も心配なんだ……。
もしも僕が暴力団染みた組織に属したとしったら、父は怒るだろうし、母は卒倒、姉も驚愕してしまうだろう。
もう、僕には選択肢は残されていない。
「さて、いい加減、行動を開始しないと手遅れになる可能性があります。急いで各自行動を開始しましょう。くれぐれも、豊花さんがリーダーですので、瑠奈さんたちは豊花さんの命令にはきちんと従ってくださいね?」
沙鳥は再三瑠奈に忠告する。
おそらく一番命令に背くメンバーらしい。いちいち瑠奈に対してのみ沙鳥は何度も忠告する。
そのたびに心配になるのだけれど……。
「豊花さんのやるべきことは、自身の身内を守ること。身内に現状をきちんと伝えることです。可能なら家族には自宅待機を命じてください。瑠美さんのやるべきことは娘たちの身の安全の保証。私たちはーー真実の愛の足取りを掴み、澄さん帰宅後に、一気に相手の組織を潰すことです。ではーー」沙鳥はそれぞれのメンバーを見渡して。「直ぐに行動を開始しましょう。再度言いますが、連絡は行いつつ、逐一各メンバーは状況を報告。報連相を忘れずに」
瑠璃や瑠衣は未だに混乱気味だが、辛うじて頷いた。
うう……これから僕は家族を助けながら、暴力団染みた組織に属しただけで飽きたらず、家族にまで厄介な問題が降りかかる報告をしなければならないのだ。
怒られるかもしれない。
気絶されるかもしれない。
ビンタくらいで済まないかもしれない。
ーーそれでも、もう選択肢はない。
僕は瑠奈とゆきを引き連れ、玄関を開けた。
「豊花……もしピンチになったら、きちんと相談してよね?」
瑠璃に心配そうに言われ、僕は小さく頷いた。
「そっちこそ、無理しないようにね? なにかあったら連絡してほしい」
そう告げて、僕は瑠奈とゆきを引き連れ自宅へと向かうのであった。
「ちょっと豊花、大丈夫だったの?」
愛のある我が家に帰宅するなり、僕は瑠璃に心配された。
腹部を抑えているからだろう。善河にやられた痛みがまだつづいているのだ。
室内には大勢の人が揃っている。沙鳥を始め、僕、舞香、朱音、瑠奈、ありす、ゆき、瑠衣、そして瑠璃の9名もの人間がいる。さすがに部屋が狭く感じてしまう。
「だ、大丈夫……それより」
「それより失敗した。沙鳥、なにがあったか今から説明する」
僕が言うのを遮り、ありすは沙鳥に起こったことを伝えようとする。が、それを沙鳥は手で阻んだ。
「口で説明するよりも、起きた出来事を脳裏に描いてください。そちらのほうが手っ取り早いです」
「わかった。じゃあ想起するから読み取って」
とありすは言い、想像しているのか、沙鳥に目を合わせたまま無言になる。
「はぁ……リスクマネジメントが不足していましたね……」
沙鳥は悔しそうな表情をしながら、急いで携帯を取り出した。
「襲撃したとなれば返しがくるのは当然です。ヤクザとはそういうものです」沙鳥は今一理解していない僕の心情を読んだのか、そう答えてくれた。「しかし相手もバカじゃありません。無計画に襲ってもメリットがあるこちら側とは違い、何の策もなく襲撃してきたら返り討ちに遭う相手側は、何らかの策を講じるはずです」
それが何なのか想像できないが、返しは当然来るものとして計画を建てたほうがいいと沙鳥は言う。
そういうものなのだろうか。厄介な事になったのは確かだろうけど……。
そのとき、部屋のチャイムが鳴った。
刀子さんが帰宅したのだろうか?
「いえ、ちょっと玄関を開けてください」
そう言われ、特に誰も開けようとしなかったため、仕方なく一番玄関から近かった僕が玄関を開けた。
そこにはーー意外な人物が立っていた。
「うふふ、みんな揃っているのね」
「ママ!?」
僕と瑠衣、それに瑠璃の三人はまとめて驚いてしまう。
「予め連絡しておきました。あ、もしもし、大海さん、緊急事態ですーー」
沙鳥は説明しながら、僕らよりまえに部屋から出ていった大海さんたちに連絡を入れた。
玄関にいたのは瑠美さんだった。
沙鳥が呼んだらしいが、どういう繋がりなのかが全くわからない。
「ふふふ、久しぶりね、舞香ちゃん」
舞香に視線を向けて瑠美さんは言葉をかける。
そんな瑠美さんに対して、舞香は苦々しい表情を顔に浮かべながら「お久しぶりね……」と返事した。
「風香……姉が亡くなったのは当然の報いよ」
舞香はよくわからないことを呟く。それに対して、瑠美さんは特段興味がなさそうに「風香が亡くなったことは残念だけど、もう同僚でもなくただの知人、興味はないわ」と言い返した。
「え? え? ちょっとママ、どういうこと?」
「私が説明しましょう」沙鳥は通話を終えたのか、混乱する瑠璃に対して落ち着くように宥める。「瑠璃さんや瑠衣さんといった名前、若いのに異能力者保護団体の関係者、という点からもしかして……と思っていましたが、そういえば名字も同じ。やはり、瑠美さんの娘だったのですね」
なにやら当時から愛のある我が家と異能力者保護団体は敵同士であり、とある出来事を発端として、異能力者保護団体側を襲撃した際に舞香の姉でもある青海風香(あおみふうか)という異能力者保護団体職員を処分したという。そのとき対面した相手のひとりが瑠美さんだったらしい。
あまり覚えがよくない沙鳥だったが、流石に顔を見れば思い出せたらしい。
瑠美さんの夫ーー大輝さんについてはなにも知らなかったため、教育部併設異能力者研究所を襲ったときに出てきてもピンと来なかったと沙鳥は言う。
「それにしても、叶多ちゃんがねぇ……」
今回の事件が元異能力者保護団体の金沢叶多による独断と聞いて、瑠美は元部下だったのか妙に懐かしそうにする。
「そんな馴れ初めはどうでもいいわよ。どうしてママを呼ぶ必要があったのよ?」
瑠璃は疑問を口にする。
「敵対者が瑠衣さんにも怨みを抱いているなら、当然その家族である瑠璃さんやその両親も狙われます。無用な危険に曝さないためにも、一時来てもらったのです」
「え……じゃあパパは?」
瑠璃は新たに降ってわいた疑問を挟む。
「私の主人なら、教育部併設異能力者研究所(あそこ)にいるから問題ないわ。現状一番問題なのは、ここに居らず、竜宮会と敵対していながら唯一なにも知らされていない豊花くんの家族でしょうね」
「え……?」
瑠美さんに指摘され、一瞬思考が固まってしまった。
なぜ、無関係な家族が?
暴力団はカタギには手を出さないんじゃないのか?
さまざまな思考が入り混乱してしまう。
「豊花さん、ヤクザが一般人に対して暴力を行使しないのは無関係だからです。普段はデメリットばかりでメリットのない行動は取らないだけで、叶多さんの恨み相手である裕璃さんを助けようとしたのは豊花さんです。そして叶多さんは弟を殺害された。なら、一番危険なのは豊花さんの家族でしょう」
待て待てちょっと待ってくれ!
そんなこといきなり言われても、僕は家族に対し愛のある我が家に所属したなんて一言も言っていない!
そんなこと知られたら、愛のある我が家がヤクザみたいな存在だと知ったら、うちの家族は全員卒倒しかねない。
「その家族のなかでも、一番危険なのは兄弟姉妹じゃないかしら」
と瑠美さんは言う。
つまり、裕希姉ぇが一番危ないのか……?
「リスクを評価していくと、何の知識もなく、敵対している豊花さんの家族であり、同時に外出していて非力のお姉さんーー裕希さんが、現状一番危険だとわかります。裕希さんに対してなら、向こう側も襲撃に必要なのは少人数の普通の人間。拉致してしまえばそれで済みますからね」
沙鳥は瑠美さんに紅茶の入ったティーカップを手渡した。
瑠美さんはそれを飲まずに物思いに耽っている。
どうして姉の名前を沙鳥が知っているんだろう?
いや、そんなの些細な事だ。
裕希姉ぇ含め家族は何にも知らない。
といっても、だからどうすればいいと言うんだ。
異能力者保護団体に配属したと思っていたら、知らず知らずのうちに敵対側の極悪犯罪集団に属していたーーなんて聞かされたら、裕希姉や父さんはともかく、母さんは卒倒するに違いない。
「卒倒するか死ぬかなら、卒倒するほうが幾分もマシですよ」
沙鳥は僕を説得する。
瑠美さんはティーカップの中身を溢さないようにしながら瑠璃に近寄り、鞄に手を突っ込んでいる。
「わかってるよ! 早く伝えに、守りに行かなきゃダメだろ!?」
僕は焦り、急いで玄関を開けた。
ーーそこには、見知らぬ女性が突っ立って待っていた。
だ、誰?
僕の目の前に立ち、女性は片手を前に差し出す。手のひらを精一杯開くと、それを閉じようとする。
直感がやばいというのを伝えてくるーー。
と、いきなり背後から中身入りのティーカップが女性に投擲されぶつかる。
「つっ……!」
瑠美さんがティーカップを女性にぶつけたらしい。女性は顔をしかめて一瞬動作を止めた。そのまま瑠璃の特殊警棒を取り出した瑠美さんは女性の伸ばしていた腕に特殊警棒で叩く。
『瑠美さんの背後に隠れてください。その方は大空(おおぞら) 白(しろ)。異能力者なら無条件で爆発できる脅威的な異能力の持ち主です』
脳裏に早口で沙鳥の思考が流れる。
ば、爆発!?
呆気に取られている間に、瑠美さんは再度白の腕に特殊警棒を強打した。
「つっ! くそ……っ!」
「襲撃よ。豊花くん、ボサッとしないの」
瑠美さんは逃げようとする白を背後から押し倒す。
「ありす、瑠璃、手伝ってちょうだい」
瑠美さん二人を呼びながら白の背中に跨がる。
「離せ! 離して!」
白はじたばたと抵抗するが、瑠美さんに乗っかられ抗えない。ありすは言われるまえから行動していたらしい。瑠美さんが発言した直後には、既に白の背中に手を回して結束バンドで両手を縛り付ける。
瑠璃は状況が理解できず、なにもできないまま呆然としていた。
「どうして貴女を助け出した私たちを襲おうとしたのですか?」
沙鳥は情報を得るためか、白に問いかける。
助け出した?
まえになにかあったのだろうか?
しかし、白は頑なに答えようとしない。ただただ唸るだけで返事はしない。
「……はぁ。貴女の彼氏を直接殺害したのは、貴女のお兄さんの静夜さんですよ?」
「兄貴が……?」
静夜……じゃあ、この女性はあの殺し屋の妹?
「いや、あなたたちが殺したんでしょ……! どうして私の彼を……偉才さんを、殺したのよ!?」
「それは殺されそうになったから殺し返しただけです。貴女の恨みは筋違いも甚だしい」沙鳥は返事をしながらため息をついた。「どうやら直接的に叶多さんに協力しているわけではなく、一方的に偏った情報だけを聴かされて、真実の愛に属し行動したみたいですね。残念ながら、ここから叶多さんの情報は追えそうにありません」
沙鳥は残念がりながら、視線を皆に移した。
「このまま殺しては静夜さんと敵対関係になります。そうなるくらいなら、静夜さんと直接対話させて解決してもらったほうがいいでしょう」
沙鳥はそう言うと、静夜に連絡を入れるのか、携帯を取り出し番号を打ち込む。しかし出ないのか、沙鳥は苦々しい顔をして再び白に目線を落とす。
「なるほど……お兄さんも真実の愛側に属すことになったのですね? なにを考えているのかわからない兄妹です」
「……わからないのはあんたたちよ!」
「今から帰宅してお兄さんと話をつけるなら解放します。ただし、こちらに牙を剥いたら、貴女を殺害して静夜さんも処分する羽目になるでしょう」
「どうして、兄貴は関係ないじゃない!」
沙鳥はわざとらしく首を傾げる。
「おや? やはり知らされていないのですか。偉才さんを殺したがっていたのは静夜さんで、直接殺害したのも静夜さんですよ? 貴女を犯罪者である角瀬偉才の側に立たせたくないーーそれが静夜さんの動機です」
白はまぶたを見開き驚愕を露にする。
「解放していいですよ、瑠美さん」
思考を読んだのか、沙鳥は瑠美さんにそう伝える。
「いいえ、無力化しておいたほうがいいわね」
しかし瑠美さんは離さず、白の右腕の関節をそのまま外した。
鈍い音が耳に入り込む。
「いっーー!」
「ま、ママ……?」
そんな瑠美さんを見て、瑠璃は唖然とする。
僕も、その容赦のなさに驚く。瑠美さん、こんなひとだったのか?
「瑠美さんー。私の心当たりがある異能力者がいるんだけど、そいつと連絡が繋がらないんだよねー。善河とかいう奴が味方にいるって言ってた異能力者と能力が酷似してるんだよ。もしも相手側にそいつがいたら、傷つける意味は皆無じゃないかな?」
ありすは相手に属すメンバーに心当たりがいるという。
そうか。どんな傷もたちまち治してしまう異能力者ーー善河が言っていた異能力者。その力を借りて、ありすは骨折を治療したのか。
「どのタイミングでかはわからないけど、一応敵対したと考えていいと思う。まったくさー、叶多といい煌季(きらき)といい、異能力者保護団体に所属している奴らが勝手に動きすぎでしょ」
ありすは煌季という異能力者(治癒能力)が相手側に属した可能性が高い、と沙鳥と瑠美さんに告げる。
「あらそう? でも」瑠美さんは白のもう片方の肩の関節を外した。「少なくともその異能力者に会うまで異能力は発動できなくできるでしょう? 何らかの心変わりが起きたとしても、殺害しないなら、それまで無力化するのは有効的じゃないかしら?」
瑠美さんようやく白から退き立ち上がった。
「ううっ……」
白はふらふらになりながら、両手をだらんと下げたまま出口に向かって歩き始めた。
「って、早く裕希姉ぇや母さん父さんに知らせに行かなきゃ……!」
今しがた起きた事象から思考が離れ、元々考えていた事柄を思い出す。
「待ってください」沙鳥は動こうとする僕を言葉で制す。「一時普段の仕事をストップしましょう。緊急事態ですからね。ここに含む私たち全員で三チームに別れましょう」
「どういうこと? それって私たちもやらなきゃいけないことなの?」
瑠璃が恐る恐る疑問を呈した。
「ええ、もちろん」沙鳥はそのまま説明をはじめた。「まずは豊花さんの家族を守る為に行動する班、真実の愛を解散させる為に行動する班、瑠衣さんを守りつつ日常生活をするための班、三つの班にそれぞれ分断して行動しましょう。その間、ここに戻るのは禁止です。今みたいに襲撃を受ける可能性が高いので」
沙鳥はつづけて、ぶつぶつなにかを呟き始めた。
ーー僕の家族を襲うのは竜宮会組員や上の人間である可能性が高いが、異能力者を使う必要性は薄い。そのため、異能力者の襲撃のリスクは薄い。
瑠衣は異能力者、それもそこそこ危険性のある能力。しかしありすがいる分リスクは下がる。とはいえ一度追い払っているのでなにが来るかは未知数。
真実の愛を解散させるのは最もリスクが高く人数を要する。
「人員を割くなら、真実の愛>豊花さん>瑠衣さんたちになりますね。で、こちらの戦力を考えます」
沙鳥は紙にズラズラっとなにかを素早く計算する。
覗き込むと、『杉井豊花、直感で危険性を把握できるため危険察知能力は最大、しかし戦力としてはまだ不十分、A×C=B(1.5)』と書かれていた。
同じように、ここにいる面々と刀子さんや翠月たちが記されている。
沙鳥B×D=C(1)
舞香C×A=B(1.5)
朱音C×D-=D-(0)
ゆきD×B=C(1)
瑠奈D×A=B(1.5)
ありすB×B=B(1.5)
翠月(帰宅前)D×C=D(0.5)
瑠璃C×D=D(0.5)
瑠衣D×C=D(0.5)
瑠美B×B=B(1.5)
刀子(帰宅前)A×A=A(2)
大海組(赤羽組含む)C×C=C(1)
澄(帰宅前)A×A+=A+(ーー)
な、なんだこれ?
数字とアルファベットが沢山記入してある。
「行動を共にしなければならない面々は、瑠璃さんと瑠衣さんと瑠美さん、そこにありすさんを加えて4点。私と舞香さんと翠月さんと朱音さん、そこに刀子さんを加えて5点。余った瑠奈さんとゆきさんを豊花さんに加えて4点。ちょうどいい分断になりますね」
「え? え? どゆこと?」
いまいち理解が追い付かない。
沙鳥は紙に、以下の様に記入した。
豊花班(○豊花、瑠奈、ゆき)
瑠美班(○瑠美、瑠璃、瑠衣、ありす)
沙鳥班(○沙鳥、舞香、翠月、刀子、朱音、大海組、澄は帰宅後は一気に蹴りをつけるため沙鳥班に所属)
「なによ、この丸?」
瑠璃は混乱しながら沙鳥に問う。
「まあまあ。さて、圧倒的不利な状況です。が、澄さんさえ帰宅すれば問題の解決は早く済むでしょう。ゆきさん、澄さんにすぐに連絡を入れて、帰宅するよう指示してください」
沙鳥はゆきに命令すると、ゆきはスマホを取り出した。
「私は刀子さんがどうなったか連絡を入れます」
沙鳥は沙鳥で、刀子さんへと連絡をはじめた。
刀子さん、ひとりで大丈夫だろうか?
まえに善河との争いを見たときは互角だった。となると、謎の異能力者ーーたしか眉墨とか呼ばれていた、あのストップだとかスリップだとか厄介な異能力を使う女性も目にした。
さらにいえば、竜宮会の組長や幹部もあの場にいた。果たして無事なのだろうか?
あの場で刀子さんと力を合わせて殲滅してしまったほうが楽だったんじゃないかとすら思ってしまう。
「はい、はい。わかりました。すぐに合流しましょう」
沙鳥は相手と繋がったのか、電話口でそう返事する。
「ど、どうなったんですか……?」
恐る恐る訊いてしまう。とても無事だとは思えないんだけど……。
「どうやら脱出はできたらしいのですが、逃走中だと言われました。私たちはすぐに刀子さんと合流して、一時朱音さんの異世界にでも身を隠すことにします。すぐに戻ってきますが」沙鳥は僕に一瞥くれると、突拍子もないことを忠告した。「豊花班は豊花さんがリーダーとなって、瑠奈さんとゆきさんに指示を出してください。豊花さん、あなたがリーダーです」
「へぁ!?」
僕が……リーダー?
「同じく、瑠衣さん班は瑠美さんがリーダー、私たちはいつもどおり私が指揮を取ります。短い間ですが、私たちは音信不通になります」沙鳥は瑠奈やゆき、瑠璃やありすを見回す。「くれぐれもリーダーの命令に逆らわないようにしてください。危険察知能力のある私や豊花さん、瑠美さんが皆さんの班の指揮を取ってもらいます。瑠奈さん、特にあなたは暴走しがちです。しっかりと豊花さんの命令に従ってくださいね」
と、沙鳥は瑠奈に対して強気に指示を下す。
い、いきなりリーダーになれと言われても困るんですけど……?
「豊花、豊花、豊花ちゃん? しばらくよろしくね!」
瑠奈は僕の肩に手を回して手をわきわきさせる。
「よろしく……」
ゆきに関しては、コミュ障ばりに反応が薄い。
ほ、本当にこのメンバーで大丈夫なのだろうか?
「豊花さんは早急に家族の身を守るために行動してください。そうですね。しばらく瑠奈さんとゆきさんは豊花さんの自宅に駐在してもらうことになりますね」
え?
は?
ふぁい!?
いやいやいや!
それって家族になんて説明すればいいんだ!?
第一ゆきはともかく、瑠奈なんて僕の命令に従いそうにないんだけど!?
「瑠璃さんや瑠衣さん、ありすさんは瑠美さんの指揮の下行動してください。さすがに学校を何日も休むわけには行かないでしょう。大丈夫、瑠美さんは実の娘の為なら真面目に考えて行動してくださるはずですので」
沙鳥の急な提案に対して、瑠璃は未だに自分が巻き込まれてしまうであろう理不尽な事件に納得していないのか、ムスッとしている。
「豊花さんは臨時とはいえリーダーです。扱いは難しいかもしれませんが、上手く瑠奈さんやゆきさんを利用して、家族と自分を守りとおしてくださいね。あなたの危機察知能力に関しては、私も信頼しておりますので」
いきなりそんなこと言われても、明らかに自分より強い異能力者二人を扱うなんてリスクが大きすぎる!
「えへへ~、よろしく! 豊花ちゃ~ん」
瑠奈が僕の肩に手を回してくる。ついでに胸を揉みしだいてくる。なぜか瑠衣も負けじと僕の胸をわしづかみにしようとしてくる。
なんなんだ、この状況……。
「さあ、時間がありません。各自行動を開始してください。豊花さんには酷かもしれませんが、家族には現状を伝えるべきです。例えお母様が卒倒しようと、怒られようと、命には変えられません。覚悟を決めてください」
うう……それしかないのかもしれないけど……家族に対して暴力団ーー特殊指定異能力犯罪組織に属したなんて告げたら、卒倒+激怒+悲哀+家族関係の崩壊に繋がるかもしれない。
でもーー家族が命に曝されるよりは遥かにマシだ。
それはきちんと理解できている。
「豊花……未だに私は納得できないことばかりなんだけど……気をつけてね?」
それはこっちの台詞だ。
瑠璃、瑠衣ーー僕の大切なひとが危険に曝されるなんて耐えられない。本来なら、瑠璃たちを守るために僕も行動したい。
でもーー父さん、母さん、それに裕希姉ぇ。家族の身の危険も心配なんだ……。
もしも僕が暴力団染みた組織に属したとしったら、父は怒るだろうし、母は卒倒、姉も驚愕してしまうだろう。
もう、僕には選択肢は残されていない。
「さて、いい加減、行動を開始しないと手遅れになる可能性があります。急いで各自行動を開始しましょう。くれぐれも、豊花さんがリーダーですので、瑠奈さんたちは豊花さんの命令にはきちんと従ってくださいね?」
沙鳥は再三瑠奈に忠告する。
おそらく一番命令に背くメンバーらしい。いちいち瑠奈に対してのみ沙鳥は何度も忠告する。
そのたびに心配になるのだけれど……。
「豊花さんのやるべきことは、自身の身内を守ること。身内に現状をきちんと伝えることです。可能なら家族には自宅待機を命じてください。瑠美さんのやるべきことは娘たちの身の安全の保証。私たちはーー真実の愛の足取りを掴み、澄さん帰宅後に、一気に相手の組織を潰すことです。ではーー」沙鳥はそれぞれのメンバーを見渡して。「直ぐに行動を開始しましょう。再度言いますが、連絡は行いつつ、逐一各メンバーは状況を報告。報連相を忘れずに」
瑠璃や瑠衣は未だに混乱気味だが、辛うじて頷いた。
うう……これから僕は家族を助けながら、暴力団染みた組織に属しただけで飽きたらず、家族にまで厄介な問題が降りかかる報告をしなければならないのだ。
怒られるかもしれない。
気絶されるかもしれない。
ビンタくらいで済まないかもしれない。
ーーそれでも、もう選択肢はない。
僕は瑠奈とゆきを引き連れ、玄関を開けた。
「豊花……もしピンチになったら、きちんと相談してよね?」
瑠璃に心配そうに言われ、僕は小さく頷いた。
「そっちこそ、無理しないようにね? なにかあったら連絡してほしい」
そう告げて、僕は瑠奈とゆきを引き連れ自宅へと向かうのであった。
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