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第四章/杉井豊花(破)
Episode069╱殺しあい
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(111.)
ミミの怪我が想像より浅いこともあり、ミミは息を吐きながらすぐに立ち上がった。
「病院行こう!?」
「いやだ……あいつらの試合とやらを見るッ」
ミミは病院に連れていくことに反対し、刀子さんと善河が居る空き地に目を向ける。お互い間を空けて向かい合っている。
「やっとだ……やっとこの日がきたぜ」
善河が刀子さんに殴りかかる。それをすらりと避け居合い斬りをするが、それも薄皮一枚に当たっただけで大した怪我にはならない。
善河は刀を一度、二度、三度避けると下から上へて拳を突き上げる。
刀子さんはそれに当たらないよう距離を取り、再び斬りつける。
致命傷には至らないだけで、現在はまだ刀子さんのほうが有利に思える。
既に時刻は4時過ぎ、少しずつ気温が低くなっていくなか、二人の戦いはし烈な争いと化していく。
「刀子さん!?」
自滅紛いの特攻を善河はしかけた。拳を大きく引きまえに突き出す。
それを避け刀子さんは刀で心臓を穿った。かと思えば、よく見ると心臓からは大きくずれた位置に刀は突き刺さっていた。
それを刀子さんが引き抜くまえに善河は刀を素手で掴む。もう片手で思い切り肩を殴り付け、額を刀子さんの顔に叩きつけた。
耐えきれず仰向けに倒れた刀子に善河は股がる。そのまま拳を大きく引き上げる。
「チェックだぜ! 清水刀子!」
自滅の特攻でダメージを負いながら、ちからを失わずにいる善河。
このままでは刀子さんは殴り殺されてしまう。
「ありす! 助け」あれ、ありすがいない。「に行かないと……え?」
すると、ありすは瑠衣を助けたときに見せた、あの夢でも見た光景ーー凄まじい速度で善河に接近していた。そのまま思い切り逆手ナイフを善河の肩に突き刺し体当たりする。
「ぐぅ!?」
善河の力が抜けた隙をつき、刀子さんは隠し持っていたナイフを素早く取り出し善河の胸を一突き。流石の善河も口から血を吐き、辺りに血漿を散らばしながら刀子さんの上から退き横に倒れ転がる。
「くそっ……たれ……卑怯者……ども……」
「誰が一対一での勝負だと言った?」刀子さんは立ち上がり、切れたらしい口内からの血を、唾と共に地に吐き捨てる。「これは試合じゃない。殺し合いだよ。油断したおまえの負けだ」
「しくじったぜ……最後まで……うぜぇやろう……だ……」
ついに善河は動かなくなる。
こうして、長いようで短かった戦いは、呆気なく終わりを告げた。
「助かったぞ、ありす。おまえの援護がなければ転がっていたのは私だった」
刀子さんはありすに感謝を告げる。狙っていたわけではないのか。
「いえいえ師匠~、最初から殺し合いに一対一を持ちかける時点で私に目配せしたでしょ? あれなら誰でもわかるって」
壮絶な戦いを目前に、僕もミミも、もちろん瑠衣も瑠璃も、おそらく沙鳥も見守るしかできなかったのに、ありすはきちんと考えていたのか……。
「って、瑠衣! あんた腕、大丈夫なの?」
「ん……平気みたい。浅い」
焦った瑠璃に心配され、瑠衣は元気そうに切られた片腕を上げ下げする。もう血は止まりかけていた。傷が浅いのは本当みたいだ。
ホッと胸を撫で下ろす。
「あら、善河さんが負けちゃったのねー?」
そこに、見知らぬ長いブロンド髪をした二十歳ほどの女性がやってきた。
「煌季……裏切った様子だったけど本当?」
ありすは少し構えながら女性ーー煌季に歩み寄る。
このひとが、ありすの骨折を治した女性?
「いえ、煌季さんは単なるマネーで動いていただけのようですから、相応の代金でこちらに寝返ってもらいました」
沙鳥はにじり寄るありすの前に立つ。どうやら既に煌季さんとやらは味方に引き入れたあとらしい。
話を聞くに、煌季さんは金銭で治療を請け負っていただけで、別に最初から敵対していたわけじゃなかった。ただ、叶多に金銭を渡され携帯を一時没収されていたのだとか。
煌季さんはミミの背中に手を翳すと、傷口がみるみるうちに塞がっていく。
これが治療系の異能力……たしかに、ありすの言っていたとおりだ。
次に刀子さんを治療すると、「きみも怪我しているわねー?」と瑠衣に寄り片腕を手に取る。
一瞬、瑠璃は警戒した顔つきに変わるが、瑠衣の怪我が瘡蓋までなくなるのを見て安堵の表情に戻す。
「さてと。それじゃ、私は異能力者保護団体の仕事があるから、戻るわねー」
とだけ言い残し、煌季さんは善河の死体を気にせず立ち去った。
「……これが……殺し合い?」
ミミは予想に反して驚嘆していた。壮絶な殺しあいを目前に、まるで、今まで自分がやってきたことは、単なるチンピラの喧嘩だと思い知ったかのように。
まあ……あれは殺し合いでも上位者による戦いだったけど。
「予定と狂ったけど、どうする? ここは掃除屋さんに任せるから、場所を変えてその子を鍛えることにする?」
「うーん……」
結局、真実の愛は崩壊したのだろうか?
「ご安心ください」沙鳥が心中を読んだのか、僕に現状を告げてきた。「真実の愛は叶多さんが消えて事実上の消滅。竜宮会とは大海組と私たち愛のある我が家が金銭を提示し、それで手打ちとしました。それなりの大金を支払いましたので、向こうも納得していましたよ」
真実の愛は瓦解した。
……正直、実感がないまま終わってしまった気がする。
「もう普段通りの生活を送って大丈夫です。警戒を解きますから、ゆきさんと瑠奈さん、あとは瑠美さんに伝えてください。豊花さんは両親にも安全だと伝えてください」
少しずつ緊張が溶けていく。瑠璃たちも同じようだ。
「豊花さんは新たな組織……」豊かな生活の事かな?「……なんなんですかその名前は……まあいいでしょう。豊かな生活とやらのリーダーとして、これからシノギをつくり上納金を納めてもらいます。まだ最初のうちはキツいでしょうから上納金は構いませんが、しばらくしたらきちんと毎月献金することを忘れずにお願いします」
「ちょっと待ってちょっと待って! しのぎと言われても、私にはなにがなんだか……」
焦りのあまり噛みそうになる。いきなりシノギだなんて言われても無茶だ!
「忘れたのですか? 貴女の配下に瑠奈さんも置くのです。ミミさんだけではありませんよ?」沙鳥はそのままつづけた。「つまり、仕事は覚醒剤関係になるでしょうね。貴女のやることは、ひとつめは覚醒剤の受け取り。裕璃さんに会いたいなら、朱音さんにご注文ください。直接取りに行かせますから。覚醒剤の梱包の仕方などは後程お教えしますね」
まさかの覚醒剤……犯罪ど真ん中コースだ。トチ狂っているとはいえ、それらに一般人のミミも巻き込めというのか?
「絶対に使わせないでくださいね? で、二つ目は注射器の転売です。一本200円で売ってくださる薬局を紹介しますから、そこから100本単位で購入して売人に500円前後で売り捌いてください。こちらは犯罪にはなりませんので、比較的安全ですよ」
注射器の売買が犯罪じゃない?
いや、なんか昔それでニュースとかあった気がするけど、記憶違いかな?
「29Gのインスリン用注射器です」さて、と沙鳥は手を叩く。「瑠璃さんや瑠衣さんは元の生活へ。ミミさんはありすさんから指導を受けて豊花さんに指示を仰いでください。で、豊花さんには、取引のルールや瑠奈さんやミミさんの動かしかたについて翌日以降教えます。ちなみに瑠奈さんの家は愛のある我が家のアジトですから、帰してもらって結構ですよ。では、解散しましょう」
そう言うと、沙鳥は刀子さんと共に空き地を去っていく。
「私たちも早くこの場から去ろう? 死体が見つかると流石に不味いからさ。で、その子」
「柊! 柊ミミって名前がちゃんとあるから」
「柊ちゃんのナイフ戦を私は鍛えることにするから、瑠衣たちはさきに帰っといて」
ありすはミミと二人で何処かへ向かう。
ミミが少し従順な気がするのは、先ほどの壮絶な殺し合いを間近で見たからだろう。
「私たちも帰りましょ?」
「うん……」
瑠璃に言われて、僕は静かに頷いた。
ようやく、あらかた問題が片付いた気がする。
瑠衣と瑠璃、二人と共に、善河の死体を放置して逃げるように去るのであった。
ミミの怪我が想像より浅いこともあり、ミミは息を吐きながらすぐに立ち上がった。
「病院行こう!?」
「いやだ……あいつらの試合とやらを見るッ」
ミミは病院に連れていくことに反対し、刀子さんと善河が居る空き地に目を向ける。お互い間を空けて向かい合っている。
「やっとだ……やっとこの日がきたぜ」
善河が刀子さんに殴りかかる。それをすらりと避け居合い斬りをするが、それも薄皮一枚に当たっただけで大した怪我にはならない。
善河は刀を一度、二度、三度避けると下から上へて拳を突き上げる。
刀子さんはそれに当たらないよう距離を取り、再び斬りつける。
致命傷には至らないだけで、現在はまだ刀子さんのほうが有利に思える。
既に時刻は4時過ぎ、少しずつ気温が低くなっていくなか、二人の戦いはし烈な争いと化していく。
「刀子さん!?」
自滅紛いの特攻を善河はしかけた。拳を大きく引きまえに突き出す。
それを避け刀子さんは刀で心臓を穿った。かと思えば、よく見ると心臓からは大きくずれた位置に刀は突き刺さっていた。
それを刀子さんが引き抜くまえに善河は刀を素手で掴む。もう片手で思い切り肩を殴り付け、額を刀子さんの顔に叩きつけた。
耐えきれず仰向けに倒れた刀子に善河は股がる。そのまま拳を大きく引き上げる。
「チェックだぜ! 清水刀子!」
自滅の特攻でダメージを負いながら、ちからを失わずにいる善河。
このままでは刀子さんは殴り殺されてしまう。
「ありす! 助け」あれ、ありすがいない。「に行かないと……え?」
すると、ありすは瑠衣を助けたときに見せた、あの夢でも見た光景ーー凄まじい速度で善河に接近していた。そのまま思い切り逆手ナイフを善河の肩に突き刺し体当たりする。
「ぐぅ!?」
善河の力が抜けた隙をつき、刀子さんは隠し持っていたナイフを素早く取り出し善河の胸を一突き。流石の善河も口から血を吐き、辺りに血漿を散らばしながら刀子さんの上から退き横に倒れ転がる。
「くそっ……たれ……卑怯者……ども……」
「誰が一対一での勝負だと言った?」刀子さんは立ち上がり、切れたらしい口内からの血を、唾と共に地に吐き捨てる。「これは試合じゃない。殺し合いだよ。油断したおまえの負けだ」
「しくじったぜ……最後まで……うぜぇやろう……だ……」
ついに善河は動かなくなる。
こうして、長いようで短かった戦いは、呆気なく終わりを告げた。
「助かったぞ、ありす。おまえの援護がなければ転がっていたのは私だった」
刀子さんはありすに感謝を告げる。狙っていたわけではないのか。
「いえいえ師匠~、最初から殺し合いに一対一を持ちかける時点で私に目配せしたでしょ? あれなら誰でもわかるって」
壮絶な戦いを目前に、僕もミミも、もちろん瑠衣も瑠璃も、おそらく沙鳥も見守るしかできなかったのに、ありすはきちんと考えていたのか……。
「って、瑠衣! あんた腕、大丈夫なの?」
「ん……平気みたい。浅い」
焦った瑠璃に心配され、瑠衣は元気そうに切られた片腕を上げ下げする。もう血は止まりかけていた。傷が浅いのは本当みたいだ。
ホッと胸を撫で下ろす。
「あら、善河さんが負けちゃったのねー?」
そこに、見知らぬ長いブロンド髪をした二十歳ほどの女性がやってきた。
「煌季……裏切った様子だったけど本当?」
ありすは少し構えながら女性ーー煌季に歩み寄る。
このひとが、ありすの骨折を治した女性?
「いえ、煌季さんは単なるマネーで動いていただけのようですから、相応の代金でこちらに寝返ってもらいました」
沙鳥はにじり寄るありすの前に立つ。どうやら既に煌季さんとやらは味方に引き入れたあとらしい。
話を聞くに、煌季さんは金銭で治療を請け負っていただけで、別に最初から敵対していたわけじゃなかった。ただ、叶多に金銭を渡され携帯を一時没収されていたのだとか。
煌季さんはミミの背中に手を翳すと、傷口がみるみるうちに塞がっていく。
これが治療系の異能力……たしかに、ありすの言っていたとおりだ。
次に刀子さんを治療すると、「きみも怪我しているわねー?」と瑠衣に寄り片腕を手に取る。
一瞬、瑠璃は警戒した顔つきに変わるが、瑠衣の怪我が瘡蓋までなくなるのを見て安堵の表情に戻す。
「さてと。それじゃ、私は異能力者保護団体の仕事があるから、戻るわねー」
とだけ言い残し、煌季さんは善河の死体を気にせず立ち去った。
「……これが……殺し合い?」
ミミは予想に反して驚嘆していた。壮絶な殺しあいを目前に、まるで、今まで自分がやってきたことは、単なるチンピラの喧嘩だと思い知ったかのように。
まあ……あれは殺し合いでも上位者による戦いだったけど。
「予定と狂ったけど、どうする? ここは掃除屋さんに任せるから、場所を変えてその子を鍛えることにする?」
「うーん……」
結局、真実の愛は崩壊したのだろうか?
「ご安心ください」沙鳥が心中を読んだのか、僕に現状を告げてきた。「真実の愛は叶多さんが消えて事実上の消滅。竜宮会とは大海組と私たち愛のある我が家が金銭を提示し、それで手打ちとしました。それなりの大金を支払いましたので、向こうも納得していましたよ」
真実の愛は瓦解した。
……正直、実感がないまま終わってしまった気がする。
「もう普段通りの生活を送って大丈夫です。警戒を解きますから、ゆきさんと瑠奈さん、あとは瑠美さんに伝えてください。豊花さんは両親にも安全だと伝えてください」
少しずつ緊張が溶けていく。瑠璃たちも同じようだ。
「豊花さんは新たな組織……」豊かな生活の事かな?「……なんなんですかその名前は……まあいいでしょう。豊かな生活とやらのリーダーとして、これからシノギをつくり上納金を納めてもらいます。まだ最初のうちはキツいでしょうから上納金は構いませんが、しばらくしたらきちんと毎月献金することを忘れずにお願いします」
「ちょっと待ってちょっと待って! しのぎと言われても、私にはなにがなんだか……」
焦りのあまり噛みそうになる。いきなりシノギだなんて言われても無茶だ!
「忘れたのですか? 貴女の配下に瑠奈さんも置くのです。ミミさんだけではありませんよ?」沙鳥はそのままつづけた。「つまり、仕事は覚醒剤関係になるでしょうね。貴女のやることは、ひとつめは覚醒剤の受け取り。裕璃さんに会いたいなら、朱音さんにご注文ください。直接取りに行かせますから。覚醒剤の梱包の仕方などは後程お教えしますね」
まさかの覚醒剤……犯罪ど真ん中コースだ。トチ狂っているとはいえ、それらに一般人のミミも巻き込めというのか?
「絶対に使わせないでくださいね? で、二つ目は注射器の転売です。一本200円で売ってくださる薬局を紹介しますから、そこから100本単位で購入して売人に500円前後で売り捌いてください。こちらは犯罪にはなりませんので、比較的安全ですよ」
注射器の売買が犯罪じゃない?
いや、なんか昔それでニュースとかあった気がするけど、記憶違いかな?
「29Gのインスリン用注射器です」さて、と沙鳥は手を叩く。「瑠璃さんや瑠衣さんは元の生活へ。ミミさんはありすさんから指導を受けて豊花さんに指示を仰いでください。で、豊花さんには、取引のルールや瑠奈さんやミミさんの動かしかたについて翌日以降教えます。ちなみに瑠奈さんの家は愛のある我が家のアジトですから、帰してもらって結構ですよ。では、解散しましょう」
そう言うと、沙鳥は刀子さんと共に空き地を去っていく。
「私たちも早くこの場から去ろう? 死体が見つかると流石に不味いからさ。で、その子」
「柊! 柊ミミって名前がちゃんとあるから」
「柊ちゃんのナイフ戦を私は鍛えることにするから、瑠衣たちはさきに帰っといて」
ありすはミミと二人で何処かへ向かう。
ミミが少し従順な気がするのは、先ほどの壮絶な殺し合いを間近で見たからだろう。
「私たちも帰りましょ?」
「うん……」
瑠璃に言われて、僕は静かに頷いた。
ようやく、あらかた問題が片付いた気がする。
瑠衣と瑠璃、二人と共に、善河の死体を放置して逃げるように去るのであった。
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