前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第四章/杉井豊花(破)

Episode081╱杉井豊花

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(116.)
 愛のある我が家に戻ってきた面々。皆、悲壮感を漂わせている。味方がひとり亡くなったのだ。当然といえば当然かもしれない。

「翠月さんの穴を塞ぐのに抜擢できそうなひとを探す必要がありそうですね……少し、方々に連絡をかけてみます」

 沙鳥はツテをいくつ持っているのか知らないが、代わりになりそうな人材を探し始める。同時に仕事内容も聴こえてきた。

 自身が身体を売るのではなく、客と売り子の同時の護衛、そして監視。客が小型カメラを仕込んでいないか警察に通報しないか、売り子が親に報告しないか警察に通報しないか、そのケアをするのだという。

「決まりました」沙鳥は通話を切る。「結愛さんが、自身の身体を売るのではなければ手伝ってもいいとのこと。前回のお礼もありますし、異能力も進化した為多少は戦えると。さらに給金が出るなら大助かりだと言っておられました。こちらは結愛さんに務まるか不安ですが、翠月さんがやっていた内容を一(にのまえ)さん辺りに伝え、仕事を覚えてもらいましょう」

 迷った末に決定したらしい。
 愛のある我が家の穴埋めに、一時、あの結弦だとか言う人のタルパ? が実体化した結愛を入れることに。

「豊花さんは仕事です。近場の道路に黒い車が来ますから、合図が光ったらその車にそこの小型の段ボールを乗せてお金を受け取ってください」
「はい……」

 初仕事でドキドキする。別に私は小型の段ボール箱を運んでいるだけだ。中身は怪しくないと考えよう。
 私は近場に売人さんらしきひとが乗っている車が来ているか探す。すると、一台の止めてある黒い車のフロントライトが一度光った。
 注射器100本入れた小型の段ボール箱を後部座席に乗せた。

「はい、五万ね」

 若そうな売人からそのまま素で五万手渡しされる。

「ありがとうございます」

 チラッ、と観月の言葉が引っ掛かった。
 なにか……聞きたくなったのだ。
 被害者が本当にいるのかどうか。末端は被害者ばかりなのか。

「すみません、少し話を聞かせてくれませんか?」
「ああ? んだよ暇じゃねーんだよ。ま、嘘だけど。いいぜ、少しくらいなら。この辺ぐるっと回って一周する間な」
「ありがとうございます」

 人の良さそうな人で助かった。

「まず言っとくけどよ、俺はシャブ中じゃねぇ。今は車にブツも乗ってねぇからバンかけくらっても痛くねぇから話を聞いてやるんだぞ? で、なんだ話って?」

 よくわからない用語が使われている。が、気にせず質問をすることにした。

「あの……ネタ……覚醒剤をやっている人って、本当に助かっているんでしょうか?」
「ぶぶっ!」

 噴き出された。

「おまえアホか! まあ、本人にとってはなくちゃならねぇもんだから助かってるのかもしれねぇけどよ。やってるやつは端から見りゃ大概終わってる」売人は煙草に火を点ける。「まずな、シャブ中は嘘つきになるんだ。シャブやるために嘘をついて、シャブやる時間を稼ぐために嘘をついて、キレ際にも嘘をついて、嘘嘘嘘大嘘つきだ。だからおれは客は信用してねぇ」
「嘘つきになる……」

 それだけだと、まだ害がよくわからない。
 シャブをやることに対して嘘をつくから、それの時間を稼ぐためにも嘘をつく、嘘つきが大嘘つきへと成長していく。

「やってるのも中年が多い。若者も中にはいるが、大半は中年のおじさんおばさんだ。で、伴侶に内緒でキメセク相手を探す。ほら、また嘘つくだろ?」
「はあ」

 たしかに、嘘のかたまりだ。

「で、連中は基本的に毎日使うだろう? 次第に量も増していって限度を知らない量を使って頭がおかしくなる。知ってるか? 初心者が使うシャブの量は0.02g程度だ。だがバカな奴は連用するから耐性ついて常量じゃ効かなくなる。0.5g一気に注射するバカもいる。だから金欠にもなるし頭もパアッになり幻聴が始まる。やってんのは中年やおばさん、稀に若いやつもいるが、可哀想だと思うよ。自分の辿る道知らねぇんだから」

 可哀想……たしかに可哀想だ。
 自業自得とはいえ、そこまで行ったらもう後戻りはできない。

「運良く察にパクられても、そこでやめられねぇ奴が大半さ。シャブで何回も刑務所と外を出入りする。お前らもあくどい商売してるよな~。げへへ!」

 ちょうど元居た位置に車が停車した。

「ほらよ。てめぇでやるんじゃねぇぞ。あばよ、可愛い子ちゃん」

 車は走ってどこかに走り去った。
 売人さんいわく、シャブ中はどうしようもない人ばかりらしい。
 嘘つき、アホ、という売人の言葉が反芻する。
 それにやりつづけると頭がパアになる。量を誤って幻聴聞きつづける。売人すら、やらないほうがいいと言っていた。

 この業界は、売り逃げして察に捕まらない奴のみが勝ちらしい。

 考える。第一対等な取引なら舞香さんに覚醒剤を禁じている意味がわからない。
 つまり、対等に見えるだけで実際には対等ではない?
 愛のある我が家に帰りながら思慮に耽る。

 それと闇金と繋がっている人間も多いのではないだろうか?
 金欠になるやつも多いと言っていたし……。
 そもそも闇金を借りたらどうなるか、考えに至らない人たちも大勢いるんじゃないだろうか?
 対等とは、とてもじゃないがいえない。

 そう。
 元々は理解していた。
 商売なのだから対等では無意味なのだ。
 それを警察に捕まりにくい愛のある我が家がやっているのだから、質が悪い。

 とはいえ、観月のやっていた女の子を誰彼構わず誘拐して人身売買する組織よりはマシなはずだ。

 観月の最後の言葉に惑わされているのか、沙鳥の対等という言葉に操られているのか、わからなくなってくる。

 愛のある我が家の扉を開けた。

「ずいぶん時間がかかったようで心配しました」
「……あの」
「なにか?」
「いや、なんでもないです……」

 それを言ったところで何になる。
 いまの私は愛のある我が家に縛られている身だ。
 翌日は、結愛の仕事を見学させてもらおう。

「豊花さん、あまり深く考えないほうが良いですよ。我々はたしかに対等な商売を謳っていますが、あくまで商売です。食べ物を購入する際に金銭を渡し、その金銭を受けとる。食べ物は食べたらなくなりますが、不公平だと嘆くひとはおりません」

 それもまた、詭弁に思えた。







(117.)
 売買春は、とあるマンションの一室を借りたり、民家を借りたりしてやっているらしい。

 それぞれにヤクザが二名ずつついており、運転手役がひとり。その車内に未成年の女の子と結愛、私が乗っている。このままとある防音完備なマンションまで運ばれていくらしい。結愛はその見張りも兼ねている。

 昨日言っていた仕事の内容は、大半はヤクザが行うという。客は陰部の先から手足、髪の毛まで調べられるという。小型カメラで撮影され映像などが流出したら大損害だ。だから見つかった場合、ヤクザにしばかれ二度と警察にも行けないような脅しをかけられるのだという。なんとも怖い話だ。場合によっては、その脅しに結愛も加わるという。

「あの……結愛は異能力がどう成長したの?」
「ん? ああ、ほら」

 なにもないところから拳銃が現れた。
 まえは剣と盾だけだったのに。

「結弦が成長した証かしらね」

 それは異能力霊体侵食度が高まったというのでは……いや、もうそれを考えるのはやめよう。現実的に私もステージFだが、なにも変わっちゃいない。
 ふと、チャンスだと考え隣に座る被害者と思わし未成年女子に質問することにした。

「あのさ……言っちゃ悪いんだけど、その……仕事辛くない?」
「は? 私たちは若さを売ってお金に替える、おじさんは若さを買って性欲を発散させる。マージンは引かれるけど、その分私たちは安全に行為ができる。win-win-winの関係じゃん! むしろなにが辛いの?」

 そうか。
 この子たちは自分の意思で売春をしているのだ。訊くだけ無駄だった。
 でも、こういう子たちにも親はいる。
 親が被害者とはいえないだろうか?
 大切に育てた子どもを見知らぬオヤジの食い物にされて……。
 第一、この子たちだってまだ幼い。

「大人になったとき後悔するかもよ……」

 と、念のために助言しておく。すると。

「うっざ……あんたのほうが年下の癖に説教? なんなのコイツ?」

 と機嫌を損ねてしまった。

 結局、そのままマンションまでは同行したが、中には入らなかった。被害者はここにはいない。
 親や未来の自分が被害者になり得ると考えたからだ。

 愛のある我が家まで向かいながら考える。
 澄のしている行為は目視できないけど、愛のある我が家じゃ対応できない相手の対処だろう。でも、対処できるからといって相手は悪なのだろうか?
 今までそこには目を向けていなかった。
 もしかしたら、別の思想同士が対立している可能性も……。

ーー深く考えるな。豊花の悪い癖だ。このまま考えに耽ると、澄のように善悪の境界を探るはめになるぞ。そのような場所、存在しない。ーー

 ユタカにいきなり告げられる。
 まあ、たしかに異能力者保護団体のやり方にも疑念がある。
 この世界の善と悪の境界とは?
 神は澄にそれを探させているのか?


 すると、真横にスゥっと、自分が現れた。


「か、え、か、神?」
「そう、私さ」
「なんか用でも?」

 焦りながら訊いてしまう。

「一対のものは二つで成り立っている。男と女、善と悪、火と水、天使と悪魔、それをひとつに返し、やがて完璧へ返すのが私がしたいことなんだよ。きみはそれを叶えてくれないかい? それとも止めるかい? 異能力霊体だって、人と異能力霊体、一対の存在がやがてひとつになり得るかどうかの実験だった。実験は大方成功さ。大抵は異能力霊体を受け入れステージFになりひとつになった」
「待ってくれ。わけがわからない」

 言っている内容がちんぷんかんぷんだ。

「でも、半分は失敗さ。異能力を悪意に使い捕まりステージFまえに人生を終えるか自由を奪われる。また、きみのように完全に分離した異能力者も現れた」
「完全に」

ーー分離した……だと? 待て、我々はおまえの実験の為に産み出されたのか?ーー

「そうだよ? なにが悪い」

ーーふざけるな! 私たちはこの地に生を落とすために人間と努力してーー

「その知識は誰が与えた?」

ーー……まさか。ーー

「そう、私だよ。さあ、豊花よ。世界初になった異能力霊体と分離しつつ異能力を使える人間よ。私に新たな奇跡を見せてくれ! 二つのものをひとつに、ひとつを無に返し、完璧な世界に戻しておくれ。私は、澄に世界を壊すかどうか委ねた。私は、現世朱音に世界を作る苦悩を与えた。おまえには、選択の自由を与えよう。善だろうと悪だろうと、には変わらない。完璧を見せてくれ。それを私は待つとしよう。あるいは」神は最後にこう残した。「私を邪魔して止めてみせてくれ」

 神の声はそれきり聴こえなくなった。存在が消滅した。

 完璧……それって、つまり……なにもなくなることじゃあ……。

 だったら、私は神を止めなければいけない……?

ーーユタカ、深く考えるな。ゆっくり考えていけばいい。私でさえ、あの者がなにを言っているのかほとんど理解できていないのだからな。ーー
 うん……。


 地球の終わりか、神を止めるか……。


 なぜ、私なんかに神が言葉を託したのだろうか……?


 私は苦悩しながら愛のある我が家に帰るのであった。
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