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第五章/異能力者
Episode101╱霧城六花
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(145.)
真っ先にゆきが就寝したあと、次に寝るのは私ということで決定した。
瑠奈はどうやら生活サイクルがバラバラであり、今日は昼間に爆睡していたからまだ眠らなくていいそうだ。
沙鳥と舞香、鏡子は探索に意識を集中しているらしく、稀に言葉を交わしながらもソファーに座っている。
フローリングの床に敷いた布団から、ゆきが掛け布団を捲り起床した。
時計を見るとーー深夜0時。
四時間経っていないのに、意外と早い起床に感じた。
ゆきはなんとなく普段から眠っているイメージがあったから、もっと長時間熟睡するものだと思っていた。
「ん、次は豊花の番でいいって言ったよね? わたしはゆきと豊花の寝たあとの布団の香りを堪能しながら寝たいから」
そんな不純な理由もあったんかい……。
とはいえ、寝ようとすると眠れないのは誰しも経験することで……仕方なくマイスリーを取り出し飲み込んだ。
この睡眠導入剤は、どうやら半減期が短く寝起きに眠気が残りづらい点が優れているらしい。あと効果発現速度の早さも優秀だとかで、飛行機のパイロットも使っているなんて話もネットで読んだ覚えがある。
「この方々は違いますね……怪しいと思ったのですが、別の指定異能力犯罪組織でした」
「ええ。こいつらも扱っているシノギは私たちと似てるけど、薬物専門のうえ覚醒剤は扱っていないから競合していないわ。たしか、コカインやモルヒネ、LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)やMDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)、マリファナ各種なんかを扱っている薬物専門の組織よね? どうしてメタンフェタミンだけは扱わないのかしら?」
「私たちに勝てないのを理解しているのか、はたまた入手ルートを作れていないのか、そのどちらかではないでしょうか」
沙鳥と舞香の会話が耳に入ってくる。
そんな組織もあるのか……。
「ああ、そういえば、三日月さんと煌季さんにも声をかけておきました。あの二人が居れば四肢がもがれても治療できますし少しだけ不安が解消できます」
「流石にそのまえに心臓を撃たれるんじゃないかしら?」
ふふふ、と舞香の笑い声が聴こえる。
心臓……心臓、心臓、心臓?
ーー三日月。
そういえば、三日月って結局誰だったのだろう?
気になってしまい、布団に入りながら瑠奈に訊いてみることにした。
「ねぇ、瑠奈?」
「ん?」
「三日月さんって誰なの? このまえから名前だけ聞いたりしてるんだけど、そういえばはっきりとは聞いていなかったから」
「三日月……ああ、みかっちのことか。異能力犯罪組織クレセントムーンのリーダーで、うちらみたいな特殊指定異能力犯罪組織や異能力者保護団体の依頼を請け負う女の子だよ。今年19歳かな?」
「へー……」
三日月だからクレセントムーン……うーむ凄い安直過ぎる名前だ。まるで大海組みたいに組の名前じゃないか。
「異能力者なんでしょ? どんな異能力を使うの?」
「治療にも拷問にも使える便利で怖い力。煌季と組めば無敵のコンビネーションが発揮されるよん。あの二人がやる永久の拷問はえげつないって聞くしね。実際、沙鳥も以前リベリオンズのーーって知らないか。まあ、反・異能力者保護団体リベリオンズって特殊指定異能力犯罪組織があったんだけど、そいつらが勘違いして協力関係結んでたのにうちらを襲撃してさー」
なんだか聞きたい話から脇道に逸れているような……異能力と関係あるのだろうか?
リベリオンズ……名前だけは昔聞いたことがある気がする。
「そのとき相手が舞香を負傷させちゃったんだよねー。もーうさとりんブチギレ状態だよ。沙鳥様状態。即断即決で手回しして、刀子や静夜、三日月、大海組の力を借りてリベリオンズを全滅させちゃった。ヤバイよね、舞香に傷つけたから組織一同関係ない奴も皆殺しだもん」
「あ、あのさ、三日月さんの異能力が訊きたいんであって、そういう昔話は今は別に」
興味がないといえば嘘になるが、眠気がやってきた今、なるべく要点だけを知りたい。
「あ、そうだったそうだった。でも関係ある話だよ。リベリオンズのリーダーにわざわざさとりんが立ち会った理由が、みかっちの力を借りて拷問する為だもん」
「ご、拷問?」
それがどうして前回、保険みたいな呼び方されていたんだ?
「みかっちーー三日月の異能力はね、身体干渉系の異能力。心臓が直接傷つかれない限り強制的に魂を肉体に付与させつづける力。間接的に心臓を傷つけてもたしか無効。直接心臓を穿たない限りはね。つまり、四肢をもいでも、脳みそ抜いても、どれだけ苦しもうとも死ねない状態をつくることができるんだよ」
「……それで拷問……えぐい」
「本来はミリアムーーあ、リベリオンズのリーダーね? ミリアムを拷問しつづけて、本心から舞香に対して謝罪させるつもりだったんだって。静夜が邪魔して不発に終わったらしいけど」
「どうしてそれが保険?」
前回、異能力の世界と立ち会うまえに心臓だけは守れと言われた理由はわかったけど、そんな生きている死体みたいな状態でどうしろと?
……ああ。
なんとなく繋がってきた。
「煌季の異能力は回復じゃないよん。魂ある肉体を回帰するっていう概念干渉系の異能力。治療じゃなくて回帰だから、生きてさえいれば両手両足もがれていても、頭が潰されていても、元通りにできる。まあ、たとえば普通なら頭を潰されれば即死するから回帰も無理だけど、みかっちとコンビを組めば可能になる。治療にも拷問にも使える異能力ってわけ」
「なるほどね……」
ゾッとしないなぁ。
……指を潰されていき切断されつづけ、腕を切断されたあと断面を見させつけられ、足を切断されたあと、まだ終わらないのかと思いながら今度は自分の指を無理やり食べさせられる。無茶苦茶しようが二人が揃っていれば死ねないし、指を全て完食させられる。それでも死ねずに元通りにされて、また一から別種の拷問が始まる。
ーー地獄だ。
死んだほうがマシだーーを地でいける能力じゃないか。
「その代わり、三日月が異能力を発動している間は心臓以外を攻撃されても死なないで済むって意味でもある。だからみかっちが異能力を切らない状態で煌季が来れば回帰で完全復活が可能。現代医療の完全敗北だよね?」
「あはは……なるほどね……」
おっと、そろそろ、眠気が限界に……。
「おやすみ……」
「ん、おやすみ~」
………………。
…………。
……。
あんな話を聞いたら悪夢を見るのではないかと心配だったけど、どうやらそれは杞憂に終わったみたいだ。
まぶたを開き一安心する。
「おはよう、豊花ー。さてさて」私がまぶたを開けると同時に、瑠奈は布団に潜り込んできた。「わったし~も寝ーようっかなぁー」
「布団から出る時間くらい待てないの?」
私は瑠奈と入れ替わり布団から這い出て時計を見た。
ーー深夜三時。丑半刻。
意外と三時間しか経過していなかったのか。
なのに眠気がなく、普段よりスッキリしている。
これはあれか。レム睡眠ノンレム睡眠のサイクルのピントが合ったタイミングで起きられたからだろうか?
相変わらず沙鳥と鏡子はソファーに座り、おそらく探索をしている。舞香はテーブルに頭をうつ伏せにして寝てしまっていた。
「この時間帯になると相手側も動いていないのか、おそらく寝ているでしょうね。怪しい人物は大抵薬の売人くらいしかいません。刀子さんたちの情報を待つことにして、我々も寝るとしましょうか」
「……はい……」
沙鳥は舞香の隣に座ったまま、背もたれに重心を寄せまぶたを閉じた。
「豊花さん、ゆきさん、念のため朝方まで見張り、よろしくお願いします」
「あ、うん。わかった」
二人とも寝ていないんだもんな……これでは明日も学校に行くどころではなさそうだ。
「……豊花さん……おやすみ……なさい……」
異能力の多用でかなり疲弊している様子の鏡子は、それだけ言い残すと気絶するようにソファーに寝転んだ。
ゆきと二人きりになる。
「……」
「……」
気まずい。
ゆきについてあんまり知らないんだよな~。普段から会話もほとんど交わさないし。
「あのさ……質問してもいいかな?」
「?」
ゆきは首を傾げて言葉を待つ。
「ゆきは澄に連れられて愛のある我が家に入ったんだよね」
「ん」
ゆきは頷く。
「どういう経緯で入ることになったの?」
「……私は、元々GCTOの商品。売られるのが怖くて、売られそうになったときに異能力者になった」
ゆきは独自のペースで過去を語ってくれた。
GCTOーーGirls children trafficking organizationという地球最大規模の特殊指定異能力犯罪組織は、主に幼い少女……3歳~15歳程の少女を見境なく様々な地域、国で誘拐したり強奪したり購入したりして揃え、所謂小児性愛や少女愛の顧客に高額で販売するという、まさしく人身売買組織だという。
ある日、まだゆきが幼い頃、ゆきの住んでいたマンションに住む全家庭の幼女や少女以外が惨殺された。両親と兄は部屋中が朱殷に染まるほど残酷な殺され方をされた。
暗闇夜々という名の中高生ほどの少女がリーダーであり、無敵の異能力を以て好き放題自身の欲望を発露していたという。
その欲望というのが酷く歪であり、例としてゆきは最も暗闇夜々が好んだ行為を説明してくれた。
それは、大切に育ててこられたであろう家庭の娘を無理やり誘拐し、あえて両親は殺害せずに生かしておく。誘拐してきた少女に『おまえは死ぬまで変態男の性欲を発散する為だけに産まれてきた』のだと洗脳・調教・虐待を受けさせたあと、実際に醜いロリコン男に売り付ける。その後、犯され尽くして性欲で全身が塗り潰された死体みたく変貌した姿を撮影し、その写真を両親に送りつけて絶望させて反応を楽しむ行為が大好きだったという。
ーー暗闇夜々……自分も少女の癖して、どうして、どうしてこうも吐き気を催す行為を好んだのだろうか?
「私の場合は趣味じゃなくて商売だったから……パパとママとお兄ちゃんは、暗闇夜々に弄ばれて、部屋中を血と汚物で汚しながら殺されたの」
暗闇夜々自身は容姿に恵まれていたらしく、なぜそのような狂気を孕んでいたのか謎だと、ゆきは今でも疑問に思うらしい。
「……なんか、ごめん……」
冷や汗が滲み出るほど残酷な過去を、ゆきは案外平気そうに口にする。その姿が、なせだか、こう……痛ましかった。
沙鳥の過去でさえ酷いと思っていたのに、ゆきの過去はそれ以上に凄惨だった。
「私は他の女の子や赤ちゃんたちと一緒にトラックに詰め込まれ、見たことのない施設に連れていかれたの」
そこで、ゆきはなるべく高価になるように商売としての教育を受けさせられた。
体罰は当たり前。逆らいすぎた子や歯向かった少女などは見せしめに、皆の前で一時間ほど拷問されたあと処分される。
いずれは逆らうような娘はいなくなる。幸い、商品の価値を上げる為に売れるであろうと認識されていたゆき自身は、顔などを傷つけられることはなく、顧客が気にする処女性を守るため強姦などはされなかったらしい。
そんな生活をつづけていたある日、ついに買い手の男がやってきてしまった。
ゆきは恐怖に駆られ、そこで異能力者となった。
男に噛みつき血を飲み力を付けて買い手の男の腹部をぶち抜き、それを貪り食べて力を着けていくことを繰り返し始めた。
暗闇夜々に復讐する為、暗闇夜々が偶々不在のタイミングであったことから、教育係の男を殺し血を飲み、様子を見に来たGCTOの一員を殺害し血を飲みーー可能なかぎりの人間を食して血を飲みつづけた。
そのときだった。
暗闇夜々が帰還したのは……。
辺りを窺い激怒した暗闇夜々は、ゆきをなるべく残酷に殺害しようと企みーーそのせいで失敗した。
痛め付けている間に澄が現れ、地獄のように無敵であった暗闇夜々を一瞬で殺し、ゆきは問われたのだ。
『お主はGCTOの商品か? どうする? わしについてくるか?』
と……。
両親も兄も失い自立心も破壊されたゆきは、ただただそれに頷くしかなかった。
最初こそ澄が不気味に思えたが、少女は解放しGCTOメンバーは殺していくのを見ていくうちに、このひとは信頼できると思えたのだという。
「澄は……私にとってのセイヴィア。唯一地獄から救い上げてくれた救世主ーー」
出てからわかったのは、そこは本島ではなく離島の地下に人身売買専門の為につくられた巨大な施設だったことであった。
近場には赤ん坊工場という名の、ただただ子を産む装置と成り果てた母親と、種付けする為だけに永遠と性交させられる父親たちが詰め込まれた犯罪施設もあったらしい。
吐き気がする。
この時代に、そのような施設が存在することに……。
もしかしたら、暗部では今もバレずにやっている組織もあるかもしれない。そう考えると、酷く寒気がした。
「ありがとう、話してくれて……そしてごめん。嫌な記憶を思い出させちゃったね……」
「ううん。もう平気」ゆきはそのような過去があったとは思えないような笑顔を浮かべた。「今は幸せだから」
真っ先にゆきが就寝したあと、次に寝るのは私ということで決定した。
瑠奈はどうやら生活サイクルがバラバラであり、今日は昼間に爆睡していたからまだ眠らなくていいそうだ。
沙鳥と舞香、鏡子は探索に意識を集中しているらしく、稀に言葉を交わしながらもソファーに座っている。
フローリングの床に敷いた布団から、ゆきが掛け布団を捲り起床した。
時計を見るとーー深夜0時。
四時間経っていないのに、意外と早い起床に感じた。
ゆきはなんとなく普段から眠っているイメージがあったから、もっと長時間熟睡するものだと思っていた。
「ん、次は豊花の番でいいって言ったよね? わたしはゆきと豊花の寝たあとの布団の香りを堪能しながら寝たいから」
そんな不純な理由もあったんかい……。
とはいえ、寝ようとすると眠れないのは誰しも経験することで……仕方なくマイスリーを取り出し飲み込んだ。
この睡眠導入剤は、どうやら半減期が短く寝起きに眠気が残りづらい点が優れているらしい。あと効果発現速度の早さも優秀だとかで、飛行機のパイロットも使っているなんて話もネットで読んだ覚えがある。
「この方々は違いますね……怪しいと思ったのですが、別の指定異能力犯罪組織でした」
「ええ。こいつらも扱っているシノギは私たちと似てるけど、薬物専門のうえ覚醒剤は扱っていないから競合していないわ。たしか、コカインやモルヒネ、LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)やMDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)、マリファナ各種なんかを扱っている薬物専門の組織よね? どうしてメタンフェタミンだけは扱わないのかしら?」
「私たちに勝てないのを理解しているのか、はたまた入手ルートを作れていないのか、そのどちらかではないでしょうか」
沙鳥と舞香の会話が耳に入ってくる。
そんな組織もあるのか……。
「ああ、そういえば、三日月さんと煌季さんにも声をかけておきました。あの二人が居れば四肢がもがれても治療できますし少しだけ不安が解消できます」
「流石にそのまえに心臓を撃たれるんじゃないかしら?」
ふふふ、と舞香の笑い声が聴こえる。
心臓……心臓、心臓、心臓?
ーー三日月。
そういえば、三日月って結局誰だったのだろう?
気になってしまい、布団に入りながら瑠奈に訊いてみることにした。
「ねぇ、瑠奈?」
「ん?」
「三日月さんって誰なの? このまえから名前だけ聞いたりしてるんだけど、そういえばはっきりとは聞いていなかったから」
「三日月……ああ、みかっちのことか。異能力犯罪組織クレセントムーンのリーダーで、うちらみたいな特殊指定異能力犯罪組織や異能力者保護団体の依頼を請け負う女の子だよ。今年19歳かな?」
「へー……」
三日月だからクレセントムーン……うーむ凄い安直過ぎる名前だ。まるで大海組みたいに組の名前じゃないか。
「異能力者なんでしょ? どんな異能力を使うの?」
「治療にも拷問にも使える便利で怖い力。煌季と組めば無敵のコンビネーションが発揮されるよん。あの二人がやる永久の拷問はえげつないって聞くしね。実際、沙鳥も以前リベリオンズのーーって知らないか。まあ、反・異能力者保護団体リベリオンズって特殊指定異能力犯罪組織があったんだけど、そいつらが勘違いして協力関係結んでたのにうちらを襲撃してさー」
なんだか聞きたい話から脇道に逸れているような……異能力と関係あるのだろうか?
リベリオンズ……名前だけは昔聞いたことがある気がする。
「そのとき相手が舞香を負傷させちゃったんだよねー。もーうさとりんブチギレ状態だよ。沙鳥様状態。即断即決で手回しして、刀子や静夜、三日月、大海組の力を借りてリベリオンズを全滅させちゃった。ヤバイよね、舞香に傷つけたから組織一同関係ない奴も皆殺しだもん」
「あ、あのさ、三日月さんの異能力が訊きたいんであって、そういう昔話は今は別に」
興味がないといえば嘘になるが、眠気がやってきた今、なるべく要点だけを知りたい。
「あ、そうだったそうだった。でも関係ある話だよ。リベリオンズのリーダーにわざわざさとりんが立ち会った理由が、みかっちの力を借りて拷問する為だもん」
「ご、拷問?」
それがどうして前回、保険みたいな呼び方されていたんだ?
「みかっちーー三日月の異能力はね、身体干渉系の異能力。心臓が直接傷つかれない限り強制的に魂を肉体に付与させつづける力。間接的に心臓を傷つけてもたしか無効。直接心臓を穿たない限りはね。つまり、四肢をもいでも、脳みそ抜いても、どれだけ苦しもうとも死ねない状態をつくることができるんだよ」
「……それで拷問……えぐい」
「本来はミリアムーーあ、リベリオンズのリーダーね? ミリアムを拷問しつづけて、本心から舞香に対して謝罪させるつもりだったんだって。静夜が邪魔して不発に終わったらしいけど」
「どうしてそれが保険?」
前回、異能力の世界と立ち会うまえに心臓だけは守れと言われた理由はわかったけど、そんな生きている死体みたいな状態でどうしろと?
……ああ。
なんとなく繋がってきた。
「煌季の異能力は回復じゃないよん。魂ある肉体を回帰するっていう概念干渉系の異能力。治療じゃなくて回帰だから、生きてさえいれば両手両足もがれていても、頭が潰されていても、元通りにできる。まあ、たとえば普通なら頭を潰されれば即死するから回帰も無理だけど、みかっちとコンビを組めば可能になる。治療にも拷問にも使える異能力ってわけ」
「なるほどね……」
ゾッとしないなぁ。
……指を潰されていき切断されつづけ、腕を切断されたあと断面を見させつけられ、足を切断されたあと、まだ終わらないのかと思いながら今度は自分の指を無理やり食べさせられる。無茶苦茶しようが二人が揃っていれば死ねないし、指を全て完食させられる。それでも死ねずに元通りにされて、また一から別種の拷問が始まる。
ーー地獄だ。
死んだほうがマシだーーを地でいける能力じゃないか。
「その代わり、三日月が異能力を発動している間は心臓以外を攻撃されても死なないで済むって意味でもある。だからみかっちが異能力を切らない状態で煌季が来れば回帰で完全復活が可能。現代医療の完全敗北だよね?」
「あはは……なるほどね……」
おっと、そろそろ、眠気が限界に……。
「おやすみ……」
「ん、おやすみ~」
………………。
…………。
……。
あんな話を聞いたら悪夢を見るのではないかと心配だったけど、どうやらそれは杞憂に終わったみたいだ。
まぶたを開き一安心する。
「おはよう、豊花ー。さてさて」私がまぶたを開けると同時に、瑠奈は布団に潜り込んできた。「わったし~も寝ーようっかなぁー」
「布団から出る時間くらい待てないの?」
私は瑠奈と入れ替わり布団から這い出て時計を見た。
ーー深夜三時。丑半刻。
意外と三時間しか経過していなかったのか。
なのに眠気がなく、普段よりスッキリしている。
これはあれか。レム睡眠ノンレム睡眠のサイクルのピントが合ったタイミングで起きられたからだろうか?
相変わらず沙鳥と鏡子はソファーに座り、おそらく探索をしている。舞香はテーブルに頭をうつ伏せにして寝てしまっていた。
「この時間帯になると相手側も動いていないのか、おそらく寝ているでしょうね。怪しい人物は大抵薬の売人くらいしかいません。刀子さんたちの情報を待つことにして、我々も寝るとしましょうか」
「……はい……」
沙鳥は舞香の隣に座ったまま、背もたれに重心を寄せまぶたを閉じた。
「豊花さん、ゆきさん、念のため朝方まで見張り、よろしくお願いします」
「あ、うん。わかった」
二人とも寝ていないんだもんな……これでは明日も学校に行くどころではなさそうだ。
「……豊花さん……おやすみ……なさい……」
異能力の多用でかなり疲弊している様子の鏡子は、それだけ言い残すと気絶するようにソファーに寝転んだ。
ゆきと二人きりになる。
「……」
「……」
気まずい。
ゆきについてあんまり知らないんだよな~。普段から会話もほとんど交わさないし。
「あのさ……質問してもいいかな?」
「?」
ゆきは首を傾げて言葉を待つ。
「ゆきは澄に連れられて愛のある我が家に入ったんだよね」
「ん」
ゆきは頷く。
「どういう経緯で入ることになったの?」
「……私は、元々GCTOの商品。売られるのが怖くて、売られそうになったときに異能力者になった」
ゆきは独自のペースで過去を語ってくれた。
GCTOーーGirls children trafficking organizationという地球最大規模の特殊指定異能力犯罪組織は、主に幼い少女……3歳~15歳程の少女を見境なく様々な地域、国で誘拐したり強奪したり購入したりして揃え、所謂小児性愛や少女愛の顧客に高額で販売するという、まさしく人身売買組織だという。
ある日、まだゆきが幼い頃、ゆきの住んでいたマンションに住む全家庭の幼女や少女以外が惨殺された。両親と兄は部屋中が朱殷に染まるほど残酷な殺され方をされた。
暗闇夜々という名の中高生ほどの少女がリーダーであり、無敵の異能力を以て好き放題自身の欲望を発露していたという。
その欲望というのが酷く歪であり、例としてゆきは最も暗闇夜々が好んだ行為を説明してくれた。
それは、大切に育ててこられたであろう家庭の娘を無理やり誘拐し、あえて両親は殺害せずに生かしておく。誘拐してきた少女に『おまえは死ぬまで変態男の性欲を発散する為だけに産まれてきた』のだと洗脳・調教・虐待を受けさせたあと、実際に醜いロリコン男に売り付ける。その後、犯され尽くして性欲で全身が塗り潰された死体みたく変貌した姿を撮影し、その写真を両親に送りつけて絶望させて反応を楽しむ行為が大好きだったという。
ーー暗闇夜々……自分も少女の癖して、どうして、どうしてこうも吐き気を催す行為を好んだのだろうか?
「私の場合は趣味じゃなくて商売だったから……パパとママとお兄ちゃんは、暗闇夜々に弄ばれて、部屋中を血と汚物で汚しながら殺されたの」
暗闇夜々自身は容姿に恵まれていたらしく、なぜそのような狂気を孕んでいたのか謎だと、ゆきは今でも疑問に思うらしい。
「……なんか、ごめん……」
冷や汗が滲み出るほど残酷な過去を、ゆきは案外平気そうに口にする。その姿が、なせだか、こう……痛ましかった。
沙鳥の過去でさえ酷いと思っていたのに、ゆきの過去はそれ以上に凄惨だった。
「私は他の女の子や赤ちゃんたちと一緒にトラックに詰め込まれ、見たことのない施設に連れていかれたの」
そこで、ゆきはなるべく高価になるように商売としての教育を受けさせられた。
体罰は当たり前。逆らいすぎた子や歯向かった少女などは見せしめに、皆の前で一時間ほど拷問されたあと処分される。
いずれは逆らうような娘はいなくなる。幸い、商品の価値を上げる為に売れるであろうと認識されていたゆき自身は、顔などを傷つけられることはなく、顧客が気にする処女性を守るため強姦などはされなかったらしい。
そんな生活をつづけていたある日、ついに買い手の男がやってきてしまった。
ゆきは恐怖に駆られ、そこで異能力者となった。
男に噛みつき血を飲み力を付けて買い手の男の腹部をぶち抜き、それを貪り食べて力を着けていくことを繰り返し始めた。
暗闇夜々に復讐する為、暗闇夜々が偶々不在のタイミングであったことから、教育係の男を殺し血を飲み、様子を見に来たGCTOの一員を殺害し血を飲みーー可能なかぎりの人間を食して血を飲みつづけた。
そのときだった。
暗闇夜々が帰還したのは……。
辺りを窺い激怒した暗闇夜々は、ゆきをなるべく残酷に殺害しようと企みーーそのせいで失敗した。
痛め付けている間に澄が現れ、地獄のように無敵であった暗闇夜々を一瞬で殺し、ゆきは問われたのだ。
『お主はGCTOの商品か? どうする? わしについてくるか?』
と……。
両親も兄も失い自立心も破壊されたゆきは、ただただそれに頷くしかなかった。
最初こそ澄が不気味に思えたが、少女は解放しGCTOメンバーは殺していくのを見ていくうちに、このひとは信頼できると思えたのだという。
「澄は……私にとってのセイヴィア。唯一地獄から救い上げてくれた救世主ーー」
出てからわかったのは、そこは本島ではなく離島の地下に人身売買専門の為につくられた巨大な施設だったことであった。
近場には赤ん坊工場という名の、ただただ子を産む装置と成り果てた母親と、種付けする為だけに永遠と性交させられる父親たちが詰め込まれた犯罪施設もあったらしい。
吐き気がする。
この時代に、そのような施設が存在することに……。
もしかしたら、暗部では今もバレずにやっている組織もあるかもしれない。そう考えると、酷く寒気がした。
「ありがとう、話してくれて……そしてごめん。嫌な記憶を思い出させちゃったね……」
「ううん。もう平気」ゆきはそのような過去があったとは思えないような笑顔を浮かべた。「今は幸せだから」
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『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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