前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第五章/異能力者

Episode128╱日常?⑨

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(184.)
 空気が流石に冷たい土曜日の深夜。もう少しで日曜日になるくらいの、ギリギリな時間帯ーー。

 無言の気まずい空気のなか、瑠璃を連れて異能力者保護団体に戻ってきた。

「杉井……いくら心配だからって暴走し過ぎ。相手は手練れの殺し屋集団だったんだよ? 危うく死ぬところだったんじゃない?」

 ありすは不機嫌そうな表情を浮かべ、説教のようなことをいきなりはじめる。

「そうですよ、豊花さん。今回は上手くいったのかもしれませんが、失敗していたらどうなさるおつもりだったんですか?」

 沙鳥まで説教をしはじめてしまった。

「ごめん……でも結果的に最善手だった。瑠璃はほぼ無傷で助け出したし、相手は四人とも殺しーー倒してきたし」

 ありすと沙鳥はため息を溢す。

 瑠璃はまだ緊張しているのか、緊張感が抜けないのか、いつもならなにかしら言い出しそうな雰囲気なのに、きょうに限っては終始あまり喋ろうとせず、白い顔を浮かべている。

「豊花、ありがとう。でも、ごめん……少しだけ、ひとりにさせて……」

 瑠璃は気分悪そうな顔をしたまま、施設の奥のエレベーターにひとり入っていってしまった。

「瑠璃さんは豊花さんが敵対相手を容赦なく殺害したことによって、今はまだ内心複雑な状態です。無理もないでしょう。豊花さんがひとを殺害する現場なんて、未だにかつて見たことなかったわけですから」

ーー嵐山沙鳥の言うとおりだ。どうしてああもすぐに感情を燃やし、無謀にも策もないまま突入できたな。ーー

 ユタカまで……うるさい。

「あ、え、豊花さんがひとりで救出に言ったのですか? あ、す、すごいです」

 香織はヨイショでもしているつもりなのか、よくわからない現状のままただただ誉めてくる。

「香織さん、こういう行為は無謀と言えるんです。普通ならやってはいけません。今回はたまたま相手を倒しましたけど、相手は皆が皆、ありすさんには劣るものの選りすぐれた殺し屋が集まっているチームでした。それは命令無視とも捉えられてしまいますよ? 以降は気をつけてください」

 命令無視?
   命令違反?

 そんなことぐだぐだ悩んでいるうちに、もしかしたら瑠璃は拷問されたりレイプされまわされたり、爪とか歯とかくらいは抉られていたかもしれない。
 それは私にとって絶対に許してはならない事柄なのだ。

 私は……間違ったことはしていない。

「まあいいでしょう。結果だけを考えるなら、作業は減りましたし、瑠璃さんも無事救出できた。ですが、相手が想像よりも弱かったから助かっただけなのかもしれませんし、これ以上に命令に背くこともあれば、本戦いの一線からは身を退いていただきます」
「……助け出したのにやたら愚痴愚痴言うね。実際、すでに軽く殴られていたんだよ? 時間をかけたら暇潰しに瑠璃にいろいろするかもしれない。死なないような範囲で欲望を満たすかもしれない。そう思えるなら、普通は迅速に手を打つべきだったんだ」

 沙鳥は深くため息をつく。

 香織はおろおろしながら、なにも言えずにソファーに座ったりたったりうろちょろしたりしている。

「……あ」ふと思い出しポケットから使用済み注射器を取り出して見せた。「戦いの最中、焦った脳裏を冷静にするために覚醒剤のほうを注射したんだけど、これってなにか問題ありますか?」

 使い捨ての注射器を沙鳥に差し渡す。

「……使ってしまったのですか」沙鳥はため息を再び吐いた。「まあ、こちらは単なる医療用の覚醒剤です。内容量は3mg程度ぽっち。乱用者は100mgほど使いますから、体感する薬効も異なります。ですから大丈夫な範囲でしょう。ただし、しばらくは覚醒剤から離れて作業してくださいね?」
「うん……まあ気をつける」

 今のところ普段と違うのは、やたらと眠気が失せて、妙にクリアな活力を覚えるだけで済んでいる。
 ……無駄に気分爽快なのは、薬の効果なのか、はたまた助け出せた勢いで気分爽快な気持ちになっているだけなのか、判断がつかない。

「とりあえず、もうきょうは遅いです。各自自室に帰って眠り、明日以降のために鋭気を養いましょう」

 沙鳥の言葉に、香織と私は頷き同意した。

 いつ見ても手狭な宛がわれた部屋に入り、ありすと瑠衣が隣のベッドで寝ているのを確認すると、その反対側隣にある鏡子が寝ている布団に入り込んだ。

 一瞬、鏡子はビクッとからだを揺らすが、私だと認識すると「おかえりなさい……豊花さん……」と眠気眼で言いながら端にからだを寄せた。






(185.)
 しかし眠りに落ちれないまま朝までいってしまい、昼からやけに強い眠気に襲われて怠い状態のまま寝落ちした。

 日曜日は普段どおり暮らして、なにもないまま過ぎていった。
 それが一番なのだが、不定期でいつ敵対組織がやってくるのか予測が立たず、精神的には磨耗していくのが自分でも理解できる。
 常に気をはっている状況なのだ。

 そんな日曜日をほのぼのと過ごし、休暇が終わるとまた月曜日がやってきた。
 外は相変わらず寒く、制服の上から羽織るようにフード付きの衣服を纏う。

「ほら、みんな顔は洗った? 朝ごはん食べた? ならいくわよ。瑠衣、ありす、瑠奈、豊花……」
「うん……」

 なんだか気まずい空気が流れている。
 たしかに、殺害現場を見られてしまったのはまずかったかもしれない。
 でも、あのときはああするしか手段はなかったんだ。私は悪くないはずだ。

 五人でぞろぞろと異能力者保護団体から外に出て、学校を目指す。

「……この前は助けに来てくれたのに、変なこと言っちゃってごめん……」

 瑠璃が柄にもなく謝ってくる。

「少し気が動転しちゃって、豊花が人を殺す人間だとは思わなくて、それで……」 「いや、こっちこそショッキングな場面を見せて悪かったよ」
「うん……まあ、気を取り直していくわ」

 瑠璃とぎこちない会話がつづく。

 瑠璃は私が人を躊躇なく殺害した件でモヤモヤしており普段よりも口数が減ってしまっている。

 私は私で、なるべく見せたくなかったーー好きな子の前で見せたくない殺人を見せつけてしまったのだと少し後悔しながら歩く。

「今日こそ瑠衣っちに説明しよう」説明?「どうして貝合わせのほうがいいのかなんだけど、いきなり貝合わせするわけじゃなくて、互いに舐めあいっこしたり、指で恥ぶっ!」

 瑠奈は瑠璃に頭を叩かれて口が止まる。

「瑠奈……あんたのせいで変な趣味ができたらどうするつもり? 責任とれるの?」

 いやいや瑠衣のお姉さん?
 既に変な趣味はとっくのとうに出来ちゃっていますよ。

「もちろん、ハーレムに加えてあげるのもやぶさかではない」
「加わらない。ただ、参考になるから、聞いているだけ」

 瑠衣と瑠奈って地味に仲がいいというか、どこかにシンパシーを感じているのか、瑠衣と瑠奈が邂逅してからというものの、この面子のなかでは瑠衣ばかりに絡みにいっている気がする。

「あ! 瑠奈様! みなさん、おはようございまーす!」

 と、信号待ちしていると、来た道の少し斜め後ろから、少女がひとりーー蒼井 碧が駆け寄ってきた。

「碧ちゃんじゃーん。私に会いたくて会いたくて仕方なかった?」
「はい!」

 碧は瞳をきらきら輝かせている。
 まるで初恋のひとを見るかのような瞳を、よりにもよって、クレイジーサイコレズこと瑠奈に対して向けてしまっている。

 瑠奈なんて見た目が美少女なだけで、中身はアラサー、重度のヤニカス、おまけに無尽蔵にある女の子に対する性欲ですべてが詰まっている変態ってだけなのに。

 よくもまあ、こんな純粋そうな女の子、レズというより百合に近い娘が近寄ってくるものだ。
 自分には理解できない。
 外面だけはいいから、外見にみんなして騙されているんじゃないか?

 瑠奈は瑠衣から離れ、碧の隣ににゅるんと近寄る。と、そのまま自然な流れで腕に腕をまわし腕組フェイズに移行した。

「腕組みはしたいんですけど、ちょっと待っててください。また飲むの忘れてた」

 と、腕組みをほどいて、鞄をおもむろに開いた。
 そこには、普通なら使わないくらいの量の風邪薬や咳止め薬、鎮静剤の市販薬の空き箱と空き瓶が詰まっていた。
 そこからなにかを発掘するかのような手順で咳止め薬の中身入りの小さな瓶を取り出した。

 じゃらじゃらと少し不快な音が耳に入り込む。

「だからさー、碧ちゃん。たしかに違法じゃないけど、それって大量に飲むと諸に弱い覚醒剤と弱いモルヒネをダブルで使っていることになるからからだに悪いんだよ? だから違法薬(イリーガル)よりも内臓に悪いし、やめる際もかなり大変だよ。絶対にやめたほうがいい」

 瑠奈は舞香の記憶があるのか、薬に対して嫌悪感を抱いている。
 私ですら気持ち悪いと思ってしまうのだから、嫌悪を感じる瑠奈からすれば、さらに酷く感じてしまうのだろう。

 碧はおもむろに瓶に直接口を付け、じゃらじゃらと十錠強ほど一気に口のなかに入れると、鞄からグレープフルーツジュースを取り出し、ジュースで錠剤を一口で飲みきった。
 それを二回ほど繰り返すと、満足したのか瓶やジュースを鞄に仕舞った。

「グレープフルーツジュースで飲むと一部の成分が代謝阻害するので、効き目がわかりやすくなるんですよねゲボォすみませんゲップ出ました……いやー、一気に飲むとゲップが出やすいんですよね、あはは」
「碧ちゃん、そんな知識ーーグレープフルーツジュースで飲むと効果が強まるーーいったい誰から教えてもらったのかは知らないけど、そのままつづけてたら長生きできないうえ、死ぬ前はずっと病院生活になるよ?」

 瑠奈は優しくやめるようにと碧を宥める。

 ……でも、今の私はやめられない気持ちが少しだけ理解できてしまう。

 緊急事態とはいえ、医療に用いられる少量とはいえ、覚醒剤を迷わず摂取してしまったのだ。
 薬効が切れた瞬間、もうなにもかもやれないくらい気力がなくなり、なぞの焦燥感に曝されてしまった。
 これでも一般的な乱用者が使う量より圧倒的なくらい微量なのだ。

 それなのに、未だに怠さが抜けきっておらず、『ああ、覚醒剤を打てばこの倦怠感が消えるかもしれないのに』とついつい考え込んでしまうのである。
 これが一般的な量だったら、今さら廃人になっていたのかもしれない。そう考えると怖くなる。

 薬物をやめられないんじゃなくてやめたくないだけだろう。と、今までの私なら思っていた。
 しかし、自分で試してようやくわかった。やめたくてもやめられない状況に陥っているのが依存者なのだと……。

「とにかく、碧ちゃんは騙されたと思って、一週間だけやめてみたら?」
「無理です。飲まないとひどい腹痛と不安と多汗と吐き気に襲われて、三日間飲まないだけでも激しき腹痛と下痢で、トイレがお友達状態になるくらいなんです。そんな苦しみを味わうくらいなら飲み続けたほうがいいに決まっています。やめるつもりもございません。すみません、許してください」
「わたしは許す立場にいないけど、絶対にあとで後悔するからね? でも自己責任だから誰のせいにもできないよ? 死んでもみんなから自業自得だって言われちゃうよ? いいの?」

 瑠奈は合法薬物(リーガルドラッグ)にも違法薬物(イリーガルドラッグ)にも、やたらと厳しい態度で示す。舞香の例が記憶に根付いているのだろう。
 でも瑠奈さん。あなた重度のニコチン中毒ですよね?

「死ぬくらいならって始めたことなので、ある意味延命処置ですよ。私は薬に出会わなければ多分死んでいました。いまここに私が存在しないことになっていましたよ……だから、私にとって薬物は命の恩人なんです。これだけは譲れません!」

 碧は、やけに自信あるとばかりに胸を軽く叩く。

「ハーレム人選間違えたかなー……でもかわいいし、わたしが指導して飲まないように少しずつ成長させていこう」
「瑠奈の周りって濃い女の子ばかりだよね……」

 朱音といい、アリーシャといい、この碧って子といい、共通点は女の子っていうことくらいしかない気がする。

 ふぅ。なんだろう?
 きょうは平凡な一日になりそうな気がした。

 小さなトラブルはいいんだけど、大きな事態には発生してほしくはない。 

「豊花、ためしに、舐めさせて?」
「へ? どこを?」

 瑠衣は、私のスカートの中にある股の位置を、真面目な顔つきで指差していた。

「いやいやいや」
「なんで?」
「いやいやいやいやいや」
「瑠奈いわく、まずは舐めあいっこ、なんだって」

 瑠璃が再度、駆け足気味で瑠奈に近寄り、わりと強めの拳骨を落としたのであった。
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