前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第六章/平凡な非日常

Episode146╱休日ーーでも

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(210.)
 前日はクリスマスを瑠璃たちと楽しんだり、普通になりたい同好会で普通の学生が楽しみそうなことの連続だった。
 表社会での私の地位が、少し、本の少しだけマシになった気がする。
 ひょんなことで休日がやってきた。
 休日とはいえ、私の場合は定期的に顔だししなくてはならない。そう、愛のある我が家のアジトへーー。

「おはようございます、豊花さん」
「おはようございます……あの、その」
「わかっています。ただ軽度の労働くらいはしてもらいますよ」

 先手を打たれてしまった。
 うう……休日があるなら瑠璃をデートに誘いたかった。

「豊花さんは本当に瑠璃さん一筋なんですね……気持ちはわからなくもないでしが」と言いながら沙鳥は舞香を見やる。
 舞香さんは覚醒剤の山を見ながら我慢しており、今にも覚醒剤の山にダイブしそうな勢いがあった。

「仕事の割り振りですが……」
「あの、やっぱり前日あまり働けなかったし、また、やっぱり自身には向いていない仕事だと思うので、変えていただきたいのですが……。
「はぁ~……またですか?」

 沙鳥は心底面倒くさげに髪をかきむしる。

「やっぱり、目の前で気持ちの悪いおじさんと、一見どこにでもいそうな女子高生が、“金銭を経由”して行うことが、どうにも自分の肌には合わなくて」

 これならまだ、闇金の取り立てや、覚醒剤の密売のほうが遥かにましだと思えたのだ。
 ーー自分が女の子になっているせいでこの思考になるのだろうか?
 それすらも、いまの自分自身では理解できない。

 直観・感覚・感情・思考を強化する力はあれど、なぜ女の子が金銭でからだを売って男がそれを抱くーーこれがどうして私は嫌だと感じるのか。いまいち理解が及ばない。
 こればかりは考えてもわからなかった。

「というわけで、別の仕事に変えてくれませんか? この際、闇金でも、覚醒剤の密売でも文句は言わないつもりです!」

 と、部屋のソファーに座るなり、沙鳥に目の前に立ち止まり、そのまま直訴した。

「はぁ……本当にまたですか……なんの仕事なら納得していただけるのでしょうかね?」沙鳥はペンで机を数回トントンする。「仕方ないです。覚醒剤の卸売りではなく、覚醒剤の小売り業をはじめてもらいましょうか? そこまで言うのであれば」
「え……覚醒剤の小売り業?」

 まさかのまさか、一周回って再び覚醒剤の密売コース。

「ええ。私たちは今までどちらも瑠奈さんに任せていましたが、今回から卸売りは瑠奈さん、小売りは豊花さんに任せることにでもしまょうかね。前例もありますし」
「あ、ありがとう、ございます?」

 いまいち理解が及ばず、とりあえず素直にお礼だけは口にした。

 沙鳥は説明を開始する。
 小売りは10g以下の商品を購入するユーザーに売り付ける。
 卸売りは100gなどを大量に購入する売人向け。
 小売りの場合も価格が変動する。
1g 40000円
2g 70000円
3g 100000円
4g 125000円
5g 150000円
10g 250000円
 だと説明してくれた。
 で、販売価格は固定。ペンは1gにつき2本まで無料で付ける。必要なら一本1000売る。
 前回の原価を訊いているとなんて暴利価格だ。

「お客様は連絡してきますから、間違えないようにバレないように荷物の取引場所に向かってください。下手打ちして察の厄介にはならないように。
「でも、どうして私が……」
「理由はいろいろありますが、瑠奈さんみたく子供の体躯、女の子、お菓子を持ち歩いていても不思議じゃないなど、マークされにくい理由があります」
「なるほど……」

 で、ですよ?
 と沙鳥はつづけた。

「すべて長方形のお菓子をバレないように剥がして中身を入れ換えてアイロンをかけています。金銭を取引する場所は車の助手席からネタを渡したり、宗教の勧誘に見せておきながらチラシの裏で封筒を渡す、相手にはいちいち現金を財布から出さないようにお願いしてください」
「はい……」

 うわああ、平凡から遠退いているぅ!

「待ち合い場所は近場の駅の人気のなるべく少ない場所にしてください。客から電話がかかってきます」沙鳥は私にガラケーを投げ渡した。「トバシケータイです。薬物関係以外の話題にはつかわないでくださいね。あとで破壊しますから」
「あ、はい……」

 どうしてもこうしても、そもそも犯罪集団にまともな仕事などなかった。 

 早速ケータイが鳴り響く。

「もしもし」
『あの、クリスタルを2gと道具四つください』
「居場所は?」
『いまそちらの建物の近くに止まっています。黒いので目立つかと』
「わかりました。七万円+二千円、計72000円です」
『はい……』
 
 と、通話を切った。

「早速のお仕事じゃないですか。これから土曜日だけでもこちらで働いてくださいね。瑠奈を出すと単発の相手には時間がかかるんですよ。あっちいったりこっちいったり、ネタ落とした~とか喚いたことも」
「はぁ、まあ……」細かいことが苦手そうだしなぁ……。

 沙鳥は急いで縦長の菓子の下を開けて、中身を手早く入れ直し、アイロンをぱぱっとかけて渡してきた。
 たしかに、これなら表面から見ると普通の菓子にしか見えない……。

 愛のある我が家を早足で出ていく。 
 
 そこには、確かに黒が目立つ自動車が停止していた。
 こちらの紙袋を見たのか、軽くライトをチカチカして誘導してきた。

「はい、金ね」とこれまた手のひらの中身に金をくしゃりといれて、直ぐ様渡す準備ができていたらしい。
 私も周りの目を気にしがら顧客に菓子箱を渡す。
 相手はなんてことか、その場で菓子箱を開けてこそこそ中身を確認すると、「じゃあ、またよろしく」とだけ言い残して私だけが取り残された。

 これでいまの私は金銭以外に危ないものは持っていないことになる。
 
 なんだろうか?
 まえの売春倶楽部を見たあとだから、目に見える被害者がいないのは幾分気持ちが楽になる。

 いや……最終的に薬中になるあのひとを見ていると、あのひとがやがては被害者になるのか、などと感慨深い思いに浸った。

 愛のある我が家に帰宅し、少し気になることを窺った。

「卸売りをやっているのに末端ユーザーに売る意味とは?」
「まとめ売りだと安く叩かれてしまいますので、我が家では末端への販売も行っております。信頼できる相手に限り、ですけどね」
「はぇ~、なら末端だけに売りさばくのはどうなの?」
「リスクがありますから。卸売り先には信頼できない相手もなかにはいます。が、捕まってもとかげの尻尾切りみたくなるため、信頼関係が気づけた末端にしか売りは使えないんですよ」

 いまいちよくわからない……。

「と、とりあえず普通になりたい同好会という部活にはいることにしたので、こういうちまちましたことしかできない。申し訳ないけど」

 ただまあ、土曜日だけの参加なら、日曜日は瑠璃をデートに誘ったりできるし、問題ないか。

「あ、また鳴っていますよ」

 急いで通話を繋ぐ。

『川崎駅まで氷5g至急たのみたい』

 か、川崎駅~?
「文句は言わない。今は瑠奈も行動中ですからくるーーまは乗れませんよ。そんな離れていないので、バッグ持参、中には菓子箱を詰めて取引に行ってください」

 うう……面倒くさ~。
 だいたいほしいなら家の近辺に来てもらえばいいのに。

 だいたいクリスタルとか氷とかSとか冷たいのとか、覚醒剤には隠語が多すぎて、一瞬なんのことかわからなくなります。

「くれぐれも捕まりそうになったら、あなただけは絶対に逃亡してくれます。あとは警察に任せて知らんぷりを貫きとおり、無理だと思ったら逃げてください。豊花さんなら可能ですよね」
「過大評価すぎるよ……」

 こうして、せっかくの休日の一日目は、シャブ売りの少女になるはめになったのであったーー。

 こんなことをしておいて、本当に普通に戻れるのだろうか?
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