前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第六章/平凡な非日常

Episode155╱日常の再開④

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(220)
 普通になりたい同好会の活動が終わり、私はその足で愛のある我が家へ向かった。
 いつもどおり空欄の煙草を指定して中にはいり、いつもの皆が集まる部屋に入る。
 そこには沙鳥と瑠奈、鏡子の三人が揃っていた。

「お待ちしておりましたよ豊花さん」
「他のメンバーは?」
「香織さんは売春倶楽部、舞香さんは金貸しの回収、ゆきさんは不祥事を働いた店の客の仲裁、澄さんは他県の悪徳な異能力者を討伐してもらいに行っております」

 やっぱり、みんな朝から忙しいんだな……。
 不定期に通っている自分が少しだけ不甲斐なく感じてしまう。

「大丈夫ですよ。豊花さんが高校を卒業した暁にはここでみっちり働いていただきますので」
「いつの間にか進路が決まっていた!?」

 まさかのまさか、大学進学を捨ててまで特殊指定異能力犯罪組織に正式に属することになるなんて。

「今回の仕事は楽ですよ。大半がここの近場の取引なので」
「あのさ……やっぱり覚醒剤の密売、荷が重いんだけど」

 知らないだけで碧みたくなっている人間もいるかもしれない。
 そう考えると、密売する意欲が削がれてしまう。

「いちいち顧客のことを気にしていては無意味です。豊花さんは豊花さんの任された仕事を遂行するだけでいいんですよ」
「やっぱり間違ってる! せめて、せめて覚醒剤を売るのはやめようよ!」

 瑠奈が話に割り込んで、怒声を上げる。

「あなただって、今まで多数の顧客や売人に覚醒剤を売り撒いていたじゃないですか」沙鳥は深いため息をつく。「偶然知人が大変な目に遭ったから商売をやめるなど到底できません」
「でも!」
「昔話をしましょうかーー私は昔、舞香さんが覚醒剤で大変な目に遇い入院する羽目になったときがあります。私はどうしたか? 舞香さんから覚醒剤を離したすえ、この商売をつづけています。それだけの覚悟が私にはあるんですよ」沙鳥は瞳を睨ませる。「命よりも大事な舞香さんがそういう目に遭ってもつづけてるんだ。いまさらやめるわけねーだろうが!」

 瑠奈は沙鳥の剣幕に圧され黙ってしまう。
 普段丁寧語しか喋らない人間がキレるとこうも恐怖心が芽生えるのかと、私もついつい身震いしてしまう。

「さて。話はこれで終わりです。豊花さんはそこの菓子をビニル袋に入れて渡してきてください。念のために待ち合わせの地図を送っておきますから、そこで待機していてください。時間も書かれています。くれぐれも五分前行動などといって立ち往生しないように」

 私は素直にお菓子とビニル袋が入った袋を手に持った。

「今回は皆が皆、1gですから値段は均一で三でいいです。よろしくお願いしますね」

 私は瑠奈に睨まれながら、愛のある我が家をあとにした。






(221.)
 地図を見ながら指定場所へ向かうと、一見するとオタクっぽいひとが佇んでいた。
 一応電話をかけると相手が出たことにより、その人だと確定する。

「はい。この菓子箱に入っていますので」
「あ、はい。あの、詐欺か確かめたいので中身を確かめてもいいですか?」

 その一言で、こいつが初見の客だと理解できた。
 しかし、こんな周りにひとがいる場所で確認なんてさせてられない。
 仕方無く、人目のつかない場所に誘導し、そこで中身を確認させた。

「す、すみません……詐欺によくあうものでして」
「わかりましたから、お金を早くお願いします」
「ひゃひゃい! えっと三万円ですよね」

 律儀に財布から取り出す。この時点で素人だと判明してしまう。
 慣れた顧客なら財布などにいれずにポケットに畳んで入れておき、それを差し出してくるのだ。

「あ、ありがとうございました」
「いえいえ……捕まらないようにお気をつけて」

 あいつが捕まったら、こちらにも捜査が及ぶかもしれない。
 信頼関係を築けている顧客はうたったりしない。しかし慣れていない初見の客は、平然と入手先を吐いてしまうのだ。

 ……ここまで知識がついてしまったのは、この仕事をつづけているだけではなく、沙鳥や舞香からの無駄知識のせいだろう。

 次の目的に着くと、なにやら顧客らしき人間が三人組の不良に囲まれていた。
 最近はヤンキーといい不良といい、なにか縁があるなぁ……。

「顧客はどなたですか?」

 一応訊いてみた。絡んでいるほうが顧客だったらまずいからだ。

「は、はい」

 顔に見あわず弱々しそうに手を挙げる男性。それを守るために、まずは不良の股に足を蹴りあげた。

「てめー! なにしやがん……だ……?」
「おい待てソイツ、愛のある我が家の奴らじゃねーか!?」
「すんません、すんません!」

 と、なにやら顔を見るなり逃亡してしまった。
 ええと……なんか不思議なんだけど。
 以前も愛のある我が家と聞かれて逃げ出したヤンキー。
 これはまだわかる。愛のある我が家の名が通っているからだろう。

 しかし、今回はなんだ?
 私の顔を見るなり愛のある我が家だと特定された。
 これは少しまずい事態かもしれない。

「助かりました! これ、少しだけ色付けておきます」

 と顧客は少しだけ多めに金銭を渡してきた。
 顧客に菓子を手渡す。

「中に入っていますので」
「知っていますよ、愛のある我が家のやり方は」

 愛のある我が家のやり方が漏洩している!?
 いろいろとまずいんじゃないか!?

 幸い残りの顧客は近場、尚且つ時間も近い。
 私は残りの顧客に覚醒剤を手渡し、急いで愛のある我が家に戻った。

 顔も判明していて、やり取りの仕方も漏洩していて、名前も通っている。
 これは沙鳥に早急に知らせないといけない!






(222.)
「言われなくても存じていますよ」
「は?」

 沙鳥からの返答は、あっけらかんとした、なにを今さらと言いたげな返答であった。
 愛のある我が家に帰宅すると、室内にいた人間は様変わりしており、瑠奈がいなくなった代わりに香織がパソコンの前に座っていた。
 舞香も帰宅しており、札束を抱え沙鳥の机に静かに置いた。

「いやいやいや、だって顔がばれていたらやばいんじゃ!?」
「おちついてください。バレているのはダークウェブに接続している人や、警察関係者、異能力者保護団体関係者、あとは半グレや暴力団、裏事情に詳しい半グレと繋がりのあるヤンキーくらいです」
「でも……これから商売しにくくなるじゃないか! お菓子の件だってバレているし」

 沙鳥は癖毛を弄りながら返答を口にした。

「知っているのは顧客だけです。豊花さんはこれまでどおり商売をつづけていけばいいだけです」
「そんな……」

 なおさら危険に犯される可能性が増した仕事を、これからもつづけるというのだろうか。

 ふと、聞き逃していた単語を思い出す。

「ダークウェブって……?」
「だ、だだだダークウェブとは」
「香織さん、私が説明するので大丈夫ですよ」

 沙鳥はパソコンの前に立つ。

「通常のブラウザではアクセスできないようになっているサイトが、インターネットにはあるんです」
「普通には……? なんのために」
「特殊なブラウザを使い、特殊な設定をしてこそ見られる、ディープウェブのさらに深淵にあるのがダークウェブです」沙鳥は息継ぎをしてつづける。「ダークウェブでは麻薬、覚醒剤、大麻といった薬物の取引や、児童ポルノに関わる写真や動画の売買、拳銃などの武器もオークションなどで販売されています。噂によると、人身売買もあるのだとか」

 麻薬、覚醒剤、大麻は身近だから違和感は薄いけど、幼女の生々しい写真や武器の密売、果てには人身売買まで行われているだって!?
 でも、それがどうやって私たちに繋がるのだろう。

「愛のある我が家に限らず、指定異能力犯罪組織の大半は素性がバレていて、ダークウェブにばらまかれているんですよ。偽物も多いですけどね」

 話を聞くに連れて怖くなってくる。
 しかし沙鳥はさして気にしていないかのようにパソコンから離れた。

「偽物も多い情報群のなかから本物を見つけられるのは極僅かです。気にするだけ無駄ですよ。その本物にたどり着いたのが香織さんなんですけどね」
「え、えへへども」
「誉めてはいませんよ」

 沙鳥はソファーに座ると、舞香が冷蔵庫から取り出したビールを渡してもらい、それを一気に飲み干した。

「さあ、きょうの仕事は終わりです。帰る方はおうちに帰ってください」
「う、うん」

 なんだか、ダークウェブやらの裏世界を知ってしまったせいか、しばらく恐怖心が付きまとうのであったーー。
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