前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第六章/平凡な非日常

Episode156╱初詣

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(223.)
 あれからいつもどおりの仕事をこなしつつ日々が経過したところ、ついに12月31日、大晦日の夜がやってきた。

「大晦日ですし、せっかくなので皆さんで初詣に行きましょう。愛のある我が家の親交を深めるのも兼ねてですから、今ここにいる方は参加してもらいます。構いませんよね?」

 室内にいる、瑠奈、舞香、香織、鏡子、澄、ゆき、朱音、そして私に向けてそう言ってきた。特に誰も嫌とは言わず、鏡子なんかは初めてなのか楽しそうな表情を浮かべている。
 私も異論はないから頷いたけど……どうせなら瑠璃たちと行きたかったな……。
 と考えていたところ、タイミングよく電話が鳴った。
 画面を見ると、葉月瑠璃の文字。
 もしかして……。

「もしもし」
『あ、豊花? 瑠衣と初詣に行くんだけど、一緒に行かない?』

 ななな、なんですとー!?
 タイミングが悪いのか良いのか。辺りを見渡すと、既にみんな着物に着替えたりなんなりしていて、初詣に行く気満々だ。
 
「あの……」そうだ! どちらも断らなきゃいい!「他にも来るひとがいるんだけど、そっちをさきに約束しちゃってさ。向こうで合流しない?」
『ほかのひと? まあ構わないけど。じゃあ、例のお寺の入り口に向かうから、さきに着いたら待っててね?』

 私は通話を切ると、沙鳥の方を向いた。

「ごめん、参加者増えちゃったけど、構わない?」
「はぁ……本来なら愛のある我が家の親交を兼ねての初詣なのですが、まあ、構いませんよ。葉月瑠璃さんですよね?」

 さすが読心術。言わなくても伝わるのは便利なときと恐ろしいときがあるなぁ。
 と、なにやら再び着信が……。
 …………。
 私は通話に出た。

『ゆったー? 一緒に初詣に行かない? 私いま彼氏もいないし独り身で寂しいんだよ。誰か友達連れてきてさー、私も混ぜてくんない?』
「……」

 チラッと沙鳥を見ると、ため息を吐きながら『べつにいいですよ』と頷いてみせた。

「べつにいいよ。ただし大人数だからね?」
『マジ!? 私の彼氏候補もいるかもじゃんラッキー! またあとでね!』

 と通話が切れてしまった。
 たしかに大人数とは言った。
 しかし、男がひとりもいるとは言っていない。
 嘘はついていないんだからどうでもいいだろう。
 裕希姉は年中無休で彼氏募集中なのだ。しかも高望みをするからできないだけなんじゃ……。

「では皆さんで向かいましょうか。あ、豊花さんの分の着物もありますので、ちゃっちゃと着替えてください」
「ええ!? 着物着るの!?」

 聞いていない聞いていない!
 しかし、既に準備は終えているようで、私に似合ったサイズの着物を渡されてしまった。着付けなんてわからないよ……。

 戸惑っていると、舞香さんが近寄ってきて気付けをしっかりしてくれた。
 舞香さんも珍しく制服などの似合わない服装ではなく、きちんと美しい着物で身を飾っている。
 こうしていれば美人なのに、どうして普段は奇抜な服装を好むのか疑問を抱かずにはおれない。せめて高校生が着るような制服はやめてほしい。

「結構似合っているじゃない。とっても可愛らしいわよ?」
「でも子どもっぽくないかな?」
「14歳のからだなんだから子どもっぽくていいのよ」

 たしかにそのとおりだけど、中身は未だに16歳を自負しているんだ。

「さあ、皆さん着付けが終わったようですので、初詣に向かうとしましょうか。澄さんは元から着物ですしそのままで大丈夫ですね」
「ああ。今回は返り血が着かなかったからな」

 物騒なお話をしていらっしゃること。
 澄は見た目だけなら普通の可愛らしい童女なのに、発言や行動が物騒過ぎていけない。

 沙鳥の一言で、皆がぞろぞろと外へと向かう。
 今回はこの場にいない裕璃や結愛はお休みらしい。事情が事情だから仕方ないだろう。







(224.)
「男が一人もいないじゃんっ!」と嘆く裕希姉と邂逅したあと、瑠璃たちとも会うことになった。

「ほかのひとって……予想はしていたけどそいつらなのね……」

 瑠璃は腑に落ちないような表情を顔に浮かべながら機嫌の悪さをおくびもなく出す。

「豊花、着物似合っているじゃない。いつにも増してかわいいわよ?」
「うん。あ、ありがと。瑠璃もかわいいね」

 ちょっとぎこちない返事だっただろうか?
 でも、こんなやり取りって女の子同士みたいでなんだか楽しい。

「ねえ、私は?」

 瑠衣がくいっと服を引っ張り意見を問うてくる。

「る、瑠衣もかわいいってば」
「えへへ」

 うっ、珍しく瑠衣は嬉しそうに頬を染める。それがなんだか可愛く感じてしまった。
 仕方ないだろう。姿は瑠璃と瓜二つなんだし。

「女の子ばかりでハーレムじゃん! やったー!」と喜ぶ瑠奈と、男がいなくてガッカリしている裕希姉は、なんて対極的な二人なんだ。

 裕希姉と愛のある我が家、瑠璃たちの邂逅。これは、意外とはじめてかもしれない。
 お互い知らない相手には軽く挨拶をする。

「あ、たこ焼き。豊花、食べたい」

 なぜ瑠衣は瑠璃ではなく私に言ってくるのやら。
 さらに、なぜ鏡子は急に私の着物を掴むのか。
 なにやら肉眼では瑠衣を見られないはずなのに、瑠衣の方に目をやり睨んでいるようにすら思えた。
 なんだか前に会ったときも、この二人って相性が悪かった気がする。

 仕方なくたこ焼きの屋台に近寄り、瑠衣、鏡子の二人の分を買うことにした。

「すみません。たこ焼き二つくださ……い」
「へい! おっ? おお!? たしか杉井だったか? 初詣か、がはは」

 屋台でたこ焼きを焼いているのは一さんだった。
 なぜヤクザがたこ焼きを焼いているんだ。

「これも大事なシノギなんだよ。はいたこ焼き二つ、1000円ね」
「はい……」

 ヤクザって、もっと儲かる仕事ばかりしているものだと思っていた。
 こういう地道なシノギもしているんだな~と無駄に感心してしまう。

「はい、瑠衣。鏡子も」

 瑠衣と鏡子にそれぞれたこ焼きを渡す。

「ありがとう」
「ありがとう……ござい……ます……」

 二人は例を言い、たこ焼きを食べ始める。
 熱いのか、猫舌なのか、鏡子は食べるのに時間をかけている。

「なにしてるのよ? 早く行かないと置いていかれるわよ?」

 瑠璃に言われ、みんなが進む本殿のある方向に歩き始めた。

「ん?」

 途中、伊勢原と楠瀬らしき人物が仲良く歩いているのをみかけた。
 でも、あの仲に邪魔するのは野暮ってものだろう。
 私は気づかないフリをして、沙鳥たちのあとを追った。

 お賽銭を入れる行列に並んでいると、今度はふらふら人気のない場所に向かう柊の姿が見えた。 
 何をしているのか気にはなるが、列から離れるわけにはいかない。

「柊さんのことが気になります?」
「え?」

 どうやら、沙鳥も会ったことのある人物。気づいていたらしい。

「柊さんは強い相手を探して、ナイフを隠し持ちながらふらふらさまよっているようですよ?」
「はあ!?」

 なんて物騒なことをしているんだ!?
 職務質問でもされたら問題になる。それ以前に、もしも他人に怪我を負わせたら刃傷沙汰だ。相手が不良でプライドがあるとかなら通報はしないかもしれないけど、相手によっては大問題。下手したら警察沙汰だぞ!?

「落ち着いてください。こんな大勢の前で喧嘩をしにきているひとなんて少ないでしょう」
「心配ならわしが見張っておいてやろうかの?」

 澄がありがたい提案をしてくれた。でも……。

「そしたら澄が参拝できなくなるんじゃ……」
「わしを誰じゃと思っておる。神に祈ることなぞなにもないわい」

 澄はそう言い残し、列から抜けていった。
 澄が見張ってくれているなら安心だけど、なんだか悪いことをしてしまった気がするな……。

「……参拝……って……こんなに並ぶんですね……」
「え、まあ……大晦日だし」

 普段はこんなに行列はできない。年末年始くらいだろう。


 やがて賽銭を入れ終え、なにをするか皆で話した結果、おみくじを引くことにした。
 さあさあ結果はーー大凶。
 ……見なかったことにしよう。

「それより澄さんを探しましょう。まだ帰ってきていません」
「そういえばそうだ。たしか、あの辺りの裏側に行っていたけど……」

 みんなでぞろぞろと澄のいそうな場所を探した。

 案外近場の人気の薄い場所に澄は佇んでいた。
 その対角線にはナイフを構えた柊の姿が……!
 よく見たら、地面には以前バーベキューをしてきたときに絡んできた大男が倒れている!

「助けてもらったのは礼を言うけど、私は強い相手を倒したい! 私は最強になりたいんだ!」

 柊は澄にそう叫ぶ。

「強くなって何をする? 強さだけで貴様らの社会では生きていくことはできぬぞ?」
「このっ!」

 柊は躊躇いなく澄にナイフを振るう。
 しかし、対して澄は身動きひとつせず、からだひとつで受け止めた。
 出血もなにもしていない。

「考え直せ。強さで上に立ちたいなら住む世界を変えることじゃ」
「住む世界を変える……?」

 沙鳥が二人に割ってはいる。

「そこで以前に話した豊花さんがリーダーの組織に入るという提案があります」

 え?
 え!?
 待って待って!?

「まだその話生きてたの!?」

 聞いていない! 聞いていない!
 なにひとつあれから聞いていない!

「愛のある我が家にも下部団体がちょうどほしかったのですよ。豊花さんをリーダーにしたある種の暴力団のような組織に入れば、その無駄な力が有意義に使えるかもしれないですよ?」
「……」
「ちょっとちょっと! まだ豊花になにかさせるわけ!?」

 瑠璃もさすがに黙っていられなかったのか、会話に割り込み非難する。

「少し……考えさせて……」

 柊はふらふらと歩き、お寺の出口に向かった。
 いや、考えなくていいよ。本当に豊かな生活みたいな組織が結成されたら恥ずかしすぎる。

「私たちも帰りましょうか」
「いろいろ文句はあるけど、まあいいわ。帰りましょう」

 なにはともあれ、騒がしい大晦日は終わりを告げた。
 除夜の鐘が煩悩を吹き飛ばしてくれることを祈って。
 鏡子、香織、豊花、結愛、裕璃とメンバーがここ最近増えたこの愛のある我が家の行き着くさきは、いったいどこなのだろうか?
 それと、本気で豊かな生活とやらを創設するつもりなのだろうか?
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