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第七章╱杉井豊花(急)
Episode179╱十字架の鉄槌
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(267.)
両親を説得するのに苦労した。
それはそうだろう。いきなり引っ越ししたうえ愛のある我が家管轄の建物に移り住むと言い出したのだから。
最初は渋っていた母親も、父親が社会勉強になるだろうと言って、短期間ならこのボロアパートに風月荘に住むことを承諾してくれた。
『風の間』に入ると、内装は冷蔵庫とテレビ、ちゃぶ台しか配置されていない。
こんな家でいつまで持つのかが疑問符を抱いてしまう。
やることもないし、私はボロアパートの床に鎮座した。
「早速だけど仕事が入っているから」
そう言い出したのは、風月荘のなぜかリーダーに抜擢された微風瑠奈であった。
瑠奈は寝床があればどこでも爆睡できることから羨ましくも感じる。
よくよく見ると、碧と三島が部屋の外で待機していた。
「覚醒剤の密売なんだけど、ちょうど3人ともバラバラの依頼場所でさ、碧ちゃんと三島とかいう野郎と覚醒剤を届けにいってほしいんだよね」
「やっぱり家が変わっても業務内用は変わらないのね……」
瑠奈は三島、碧、そして私にも封筒を手渡してきた。
あれ?
アイロンで偽装はしないのだろうか?
「アイロンで接着するのは面倒だからね。封筒にそれぞれ覚醒剤が1gと注射器が入っているから三万円ずつ受け渡ししてきて」
「犯罪行為に荷担するのは気が引けるなぁ……」
だが愚痴っても仕方ない。
私は瑠奈から覚醒剤入りの封筒を手にすることにした。
「三島は遠距離の場所にあるから車で行って。あとは徒歩で十分だから。あ、でも豊花は電車に乗り継いだほうがいいよ。そこそこ遠いし。鹿島田だし」
「わかったよ……もう慣れてきたよこのやり取り」
「くれぐれもポリ公に捕まらないようにね。んじゃ地図を渡すから、ギリギリの時間になったら目的に行ってね」
三島は遠方なのか、さっそく車の手配に向かった。
碧は覚醒剤の結晶を見てキラキラ瞳を輝かせている。
本当に……やらないか心配なんだけど……。
部屋の鍵を開けて(力付くで崩壊しそうな扉だから鍵の意味がわからないでもないが一応用心に越したことはない)、私も外に出ることにした。
まだまだ雪がちらほら降っている寒い中、ポケットに手を入れて寒さを凌ぐ。
『花の間』というボロ部屋をあとにして、碧と三島と別れて行動することになった。
南武線に乗り込み、鹿島田駅を目指す。
どうせなら向こうから買いにきてくれたらいいのに……そう思いつつも、居場所が割れてはいけない気もする。
鹿島田駅に降りたら、ソワソワ誰かを待っている成人男性を発見した。
目はギョロギョロしており、落ち着きがない。
数ある覚醒剤依存症患者をたびたび見かける機会があり、すぐにこのひとが待っているのだと、連絡しなくても把握できた。
「アイスを注文した方ですよね」
男性に念のために声をかける。
「は、はははい! えっと三万円ですよね」
男性はいそいそとポケットから三万円札を取りだし、覚醒剤と交換した。
これで本日の業務は終了。急いで家に帰ろう。
と、思ったところで、男性が腕を引っ張ってきた。
「あ、あの、ハーフつかっていいのでエッチしてくれませんか?」
「はぁ!?」
こやつはなにをほざいているんだ。
第一……。
「アイスは腐るほど貯蓄があるので要りませんし、そもそも私はからだを売ることはしません」
「そ、そうですか……」
男性は隠さずに落胆を見せると、とぼとぼ改札内に帰っていった。
私もそろそろ帰宅しなければいけない。そう考え、男性とかち合わないように一本待ってから電車に乗車した。
電車内で待っていると、珍しく沙鳥からメールが届いた。
内容を見ると、あり得ない出来事がかかれていた。
『風月荘が何者かに破壊されました。今すぐ帰宅をおねがいします』
ふ、風月荘が破壊されただと!?
いてもたってもいられなくなり、車内でソワソワしながら最寄り駅まで到着した。
急いで風月荘までかけていく。
ーーそこには、信じられない惨状が広がっていた。
風月荘の建物に巨大な十字架が貫通して建っており、建物の呈をなくしていた。
「誰がこんな酷いことを……」
「わかりません。おそらく愛のある我が家の敵対勢力が見せしめに破壊活動を行ったとしか思えません」
そこでふと、愛のある我が家は無事なのか気になってきた。
「うわぁぁ! せっかくわたしの月の間も十字架に貫かれてる! 酷い! 絶対犯人を見つけ出して拷問してやる!」
瑠奈は怒り心頭で罵声を浴びせている。
瓦礫を力付くで退かしてみると、まだ中で待機していた雪さんや可奈子さんが潰れており、もはや絶命したとしか思えない状態になっていた。
なんとか脱出できた香織に事情を訊くと、パソコンを弄っていたらいきなり爆音が聴こえてきたと思ったら、巨大な、大きな、十字架が風月荘を潰していったらしい。
残念なことに犯人の顔は覚えていないらしい。
「ひとまず愛のある我が家に避難しましょう」
沙鳥に言われ、みんなでぞろぞろと愛のある我が家に向かうことにした。
ーーそこで待っていたのは、想像を絶する状態が待ち構えていた。
幾数もの巨大な十字架が幾数も貫通しており、愛のある我が家がとてもじゃないが機能しなくなっていたのである。
「……これをやったのは誰でしょうか?」
沙鳥は怒りを押し込めながらも冷たい言の葉を口から絞り出す。
「きっと、愛のある我が家に恨みがある異能力者? がこんなことをしでかしたのだと思う」
「これでは我々が住む根城がなくなります。早急に対策を念じなければ……」
「ええ! わたしの住む家がなくなっちゃうじゃん! ホームレスになっちゃうよ」
瑠奈は元々異世界から来た住民で、居住地が愛のある我が家しか存在しないのだ。新たにできた風月荘も十字架によって半壊されてしまい、いよいよもって住む家がなくなってしまったのだ。
それが悔しくて、瑠奈は地面を何度も殴打する。
「このような不躾をした敵対勢力は、後悔し懺悔したすえ殺害するしかありませんね」
沙鳥は冷静な口調だが、その瞳には憎悪を抱いていることがわかる。
「香織さん、心当たりがある異能力者をダークウェブなどを駆使して探してください。これは許されざることです」
「ははは)は、はい! か、可能な限り見つけ出します」
いつ持ち出したのか、香織はノートパソコンを開き情報収集を開始した。
いつもどおり、サーフィスウェブからディープウェブ、はたまたダークウェブの仲間を募集して情報を集めているのだろう。
「あの……ところで私はどうすればーー」嫌な予感が強烈に脳内で警告を発する。「まさか!?」
「あ、ちょっと豊花? どこにいくつもり?」
舞香の制止を押しきり、私は私の大切な住みかへ目指す。
嘘であってくれ!
嘘であってくれ!
なにがあるのだろうかと、舞香と瑠奈が追い掛けてくる。
だからどうした?
相手の素性がわからないながら、新生の風月荘を潰してきた相手だ!
嫌な予感が過る。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!
そんなことあるはずがない!
だけど、瑠奈や舞香、沙鳥の自宅は愛のある我が家だ。
鏡子は自宅に帰りたくないと言っているし、初期頃に入ったメンバーとして私は狙われる可能性がある!
ようやく自宅のあるマンションにたどり着いた。
だが、様子がおかしい。
なぜなら……。
マンションの屋上から自室に届くだろう距離まで大型の十字架がかけられている。
ーーマンション全域が十字架で串刺しにされていた。
「ここもなの!?」
「豊花、家族は大丈夫?」
舞香や瑠奈の言葉が耳に入らない。
無理やりマンションに入り込み、自室のチャイムを鳴らす。
しかし、誰も出てくる気配がしない。
緊張しながら鍵穴に鍵を入れて施錠する。
部屋に入った瞬間に、嗅いだことのある死臭が部屋に充満している。
「お母さん! お父さん、裕希姉!」
瓦礫と化した荷物を漁り、ようやく見つけたのは、十字架の先端に胸を突き刺された父親の亡骸となった父親の姿。
それを庇うようにうえに被さっている出血多量で亡くなっている母親の姿まで視界に入る。
「ああ……あああああ! うわぁあああああ!」
必死に瓦礫を退かして人工呼吸やらなんならを必死に試していく。
しかし、父の息は吹き返さない。
「ううっ……なんなんだよ! なんで無関係なひとにこんな仕打ちをするんだよ!?」
憎悪の炎がめらめらと胸に沸きだつ。
犯人は誰だ!?
ぜったい、必ず、ぶち殺してやる!!
ーー豊花、感情が強まっている。少し冷静になったほうがーー
うるさい!
おまえになにがわかる!?
両親や姉を1日で惨殺されたんだぞ!?
わかってたまるか!
ーー気持ちはよくわかる。だが、今は現実を直視することが大切だ。ーー
そのとき、扉が少し、慎重に、ゆっくりと開いてこちらを覗いてきた。
「裕希姉! 生きていてくれたの!?」
「ぐすっ……うん。でも、パパとママが……うっうっ」
「……誰のせいなんだ?」
私が異能力者になったから?
愛のある我が家に加入したから?
一時期異能力者保護団体に所属したから?
単なる怨恨か?
いくら考えても、この現状に変化はない。
「とりあえず、裕希姉は……警察を呼んでくれない?」
「うん、わかった……ずっ」
瑠奈と舞香は心臓一突きで絶命している両親を目の当たりにしたからか、私の騒ぎようにドン引きしているのか、死体を見るだけで会話を振ろうとはしない。
裕希姉は涙を袖で拭いながら涙を圧し殺す。
私だって泣きたい気分だ。
そのとき、沙鳥から連絡が届いた。
戸惑いながら通話に出る。
「このようなときに失礼します。愛のある我が家も風月荘も極悪な異能力者に潰された結果、しばらくは我々はホテルに滞在することにしました。豊花さんはいかがなさいます? 自宅に居たほうが安全かもしれませんが、十字架事件の件もありますし、豊花さんもホテルに滞在することにしますか?」
「……いいや。父さんと母さんが殺されたこの家に待機し、復讐を果たします。まだ異能力者である私を殺せなかったことから、自分を撒き餌にして殺害しに来たところに地獄を見せてやる予定です」
『そうですか……くれぐれも無理はなさらないように気をつけてくださいね』
それだけ言うと通話が切れた。
どうしてこうも毎度毎度厄介ごとに巻き込まれるんだ?
今までのは言ってはなんだが無関係なひとやちょっとした知人が被害に遭遇したことはある。しかし、いずれも死者は出していない。
なのに、なのにもこの仕打ちはなんなんだ!?
警察が来るのを待っているだけでは退屈だ。いや、今は退屈とは言えない状況だが……。
仲間を複数殺した犯人は、一見無差別殺人に思われるかもしれない。
しかし、敵対者が殺害、破壊したのは、可奈子や雪、私の両親ーーあわよくば姉である裕希姉の殺害すら企んでいた。
しかも、愛のある我が家本拠地を巨大な十字架で破壊したり、最近できたばかりの前々から準備していたであろう風月荘も再起不能にさせられた。なにより異能力者がいるからというだけで、杉井家にも十字架を落としやがった。
なんて……なんて卑劣な奴らなんだ。
相手の異能力もなんとなく理解できる。あれだけ異能力でバンバン破壊活動を行っているからこそ、考えなくてもわかる。
もしかしたら小さな十字架を建てることもできるかもしれない。
が、私たちが見たのは遥かに巨大な十字架だ。先端も鋭利にできている。
異能力自体は舞香や沙鳥、ゆきのほうが遥かに強い。だから不意討ち混じりに異能力をターゲットにして、破壊活動を繰り返しているにちがいない。
外からパトカーの音が木霊する。
こんなふざけた殺害方法を認知してくれるかは疑問だが、異能力者が現れてからというものも、異能力者に対する取り調べもきちんと調査してくれるだろう。
警察がしつこくノックする。
人見知りの私は出るに出られなくて、代わりに裕希姉が出てくれた。
私のせいで他の住民にも被害が出るにちがいない。
もはやこの家で暮らすのにも限度があるだろう。
相手の素性を捕まえて、もう二度と悪逆非道なことができないようにしてほしい。
相手の素性が判明したら、どこでもいい。引っ越ししよう。
裕希姉にも迷惑をかけられないし、同じマンションに住んでいる住民に迷惑をかけるわけにもいかない。
なるべく異能力犯罪者がいない地域を探して、いい物件を見つけるしかないだろう。
ーーこうして、愛のある我が家は一時的に瓦解してしまったのであった。
犯人は、ぜったいに許さないーー。
両親を説得するのに苦労した。
それはそうだろう。いきなり引っ越ししたうえ愛のある我が家管轄の建物に移り住むと言い出したのだから。
最初は渋っていた母親も、父親が社会勉強になるだろうと言って、短期間ならこのボロアパートに風月荘に住むことを承諾してくれた。
『風の間』に入ると、内装は冷蔵庫とテレビ、ちゃぶ台しか配置されていない。
こんな家でいつまで持つのかが疑問符を抱いてしまう。
やることもないし、私はボロアパートの床に鎮座した。
「早速だけど仕事が入っているから」
そう言い出したのは、風月荘のなぜかリーダーに抜擢された微風瑠奈であった。
瑠奈は寝床があればどこでも爆睡できることから羨ましくも感じる。
よくよく見ると、碧と三島が部屋の外で待機していた。
「覚醒剤の密売なんだけど、ちょうど3人ともバラバラの依頼場所でさ、碧ちゃんと三島とかいう野郎と覚醒剤を届けにいってほしいんだよね」
「やっぱり家が変わっても業務内用は変わらないのね……」
瑠奈は三島、碧、そして私にも封筒を手渡してきた。
あれ?
アイロンで偽装はしないのだろうか?
「アイロンで接着するのは面倒だからね。封筒にそれぞれ覚醒剤が1gと注射器が入っているから三万円ずつ受け渡ししてきて」
「犯罪行為に荷担するのは気が引けるなぁ……」
だが愚痴っても仕方ない。
私は瑠奈から覚醒剤入りの封筒を手にすることにした。
「三島は遠距離の場所にあるから車で行って。あとは徒歩で十分だから。あ、でも豊花は電車に乗り継いだほうがいいよ。そこそこ遠いし。鹿島田だし」
「わかったよ……もう慣れてきたよこのやり取り」
「くれぐれもポリ公に捕まらないようにね。んじゃ地図を渡すから、ギリギリの時間になったら目的に行ってね」
三島は遠方なのか、さっそく車の手配に向かった。
碧は覚醒剤の結晶を見てキラキラ瞳を輝かせている。
本当に……やらないか心配なんだけど……。
部屋の鍵を開けて(力付くで崩壊しそうな扉だから鍵の意味がわからないでもないが一応用心に越したことはない)、私も外に出ることにした。
まだまだ雪がちらほら降っている寒い中、ポケットに手を入れて寒さを凌ぐ。
『花の間』というボロ部屋をあとにして、碧と三島と別れて行動することになった。
南武線に乗り込み、鹿島田駅を目指す。
どうせなら向こうから買いにきてくれたらいいのに……そう思いつつも、居場所が割れてはいけない気もする。
鹿島田駅に降りたら、ソワソワ誰かを待っている成人男性を発見した。
目はギョロギョロしており、落ち着きがない。
数ある覚醒剤依存症患者をたびたび見かける機会があり、すぐにこのひとが待っているのだと、連絡しなくても把握できた。
「アイスを注文した方ですよね」
男性に念のために声をかける。
「は、はははい! えっと三万円ですよね」
男性はいそいそとポケットから三万円札を取りだし、覚醒剤と交換した。
これで本日の業務は終了。急いで家に帰ろう。
と、思ったところで、男性が腕を引っ張ってきた。
「あ、あの、ハーフつかっていいのでエッチしてくれませんか?」
「はぁ!?」
こやつはなにをほざいているんだ。
第一……。
「アイスは腐るほど貯蓄があるので要りませんし、そもそも私はからだを売ることはしません」
「そ、そうですか……」
男性は隠さずに落胆を見せると、とぼとぼ改札内に帰っていった。
私もそろそろ帰宅しなければいけない。そう考え、男性とかち合わないように一本待ってから電車に乗車した。
電車内で待っていると、珍しく沙鳥からメールが届いた。
内容を見ると、あり得ない出来事がかかれていた。
『風月荘が何者かに破壊されました。今すぐ帰宅をおねがいします』
ふ、風月荘が破壊されただと!?
いてもたってもいられなくなり、車内でソワソワしながら最寄り駅まで到着した。
急いで風月荘までかけていく。
ーーそこには、信じられない惨状が広がっていた。
風月荘の建物に巨大な十字架が貫通して建っており、建物の呈をなくしていた。
「誰がこんな酷いことを……」
「わかりません。おそらく愛のある我が家の敵対勢力が見せしめに破壊活動を行ったとしか思えません」
そこでふと、愛のある我が家は無事なのか気になってきた。
「うわぁぁ! せっかくわたしの月の間も十字架に貫かれてる! 酷い! 絶対犯人を見つけ出して拷問してやる!」
瑠奈は怒り心頭で罵声を浴びせている。
瓦礫を力付くで退かしてみると、まだ中で待機していた雪さんや可奈子さんが潰れており、もはや絶命したとしか思えない状態になっていた。
なんとか脱出できた香織に事情を訊くと、パソコンを弄っていたらいきなり爆音が聴こえてきたと思ったら、巨大な、大きな、十字架が風月荘を潰していったらしい。
残念なことに犯人の顔は覚えていないらしい。
「ひとまず愛のある我が家に避難しましょう」
沙鳥に言われ、みんなでぞろぞろと愛のある我が家に向かうことにした。
ーーそこで待っていたのは、想像を絶する状態が待ち構えていた。
幾数もの巨大な十字架が幾数も貫通しており、愛のある我が家がとてもじゃないが機能しなくなっていたのである。
「……これをやったのは誰でしょうか?」
沙鳥は怒りを押し込めながらも冷たい言の葉を口から絞り出す。
「きっと、愛のある我が家に恨みがある異能力者? がこんなことをしでかしたのだと思う」
「これでは我々が住む根城がなくなります。早急に対策を念じなければ……」
「ええ! わたしの住む家がなくなっちゃうじゃん! ホームレスになっちゃうよ」
瑠奈は元々異世界から来た住民で、居住地が愛のある我が家しか存在しないのだ。新たにできた風月荘も十字架によって半壊されてしまい、いよいよもって住む家がなくなってしまったのだ。
それが悔しくて、瑠奈は地面を何度も殴打する。
「このような不躾をした敵対勢力は、後悔し懺悔したすえ殺害するしかありませんね」
沙鳥は冷静な口調だが、その瞳には憎悪を抱いていることがわかる。
「香織さん、心当たりがある異能力者をダークウェブなどを駆使して探してください。これは許されざることです」
「ははは)は、はい! か、可能な限り見つけ出します」
いつ持ち出したのか、香織はノートパソコンを開き情報収集を開始した。
いつもどおり、サーフィスウェブからディープウェブ、はたまたダークウェブの仲間を募集して情報を集めているのだろう。
「あの……ところで私はどうすればーー」嫌な予感が強烈に脳内で警告を発する。「まさか!?」
「あ、ちょっと豊花? どこにいくつもり?」
舞香の制止を押しきり、私は私の大切な住みかへ目指す。
嘘であってくれ!
嘘であってくれ!
なにがあるのだろうかと、舞香と瑠奈が追い掛けてくる。
だからどうした?
相手の素性がわからないながら、新生の風月荘を潰してきた相手だ!
嫌な予感が過る。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!
そんなことあるはずがない!
だけど、瑠奈や舞香、沙鳥の自宅は愛のある我が家だ。
鏡子は自宅に帰りたくないと言っているし、初期頃に入ったメンバーとして私は狙われる可能性がある!
ようやく自宅のあるマンションにたどり着いた。
だが、様子がおかしい。
なぜなら……。
マンションの屋上から自室に届くだろう距離まで大型の十字架がかけられている。
ーーマンション全域が十字架で串刺しにされていた。
「ここもなの!?」
「豊花、家族は大丈夫?」
舞香や瑠奈の言葉が耳に入らない。
無理やりマンションに入り込み、自室のチャイムを鳴らす。
しかし、誰も出てくる気配がしない。
緊張しながら鍵穴に鍵を入れて施錠する。
部屋に入った瞬間に、嗅いだことのある死臭が部屋に充満している。
「お母さん! お父さん、裕希姉!」
瓦礫と化した荷物を漁り、ようやく見つけたのは、十字架の先端に胸を突き刺された父親の亡骸となった父親の姿。
それを庇うようにうえに被さっている出血多量で亡くなっている母親の姿まで視界に入る。
「ああ……あああああ! うわぁあああああ!」
必死に瓦礫を退かして人工呼吸やらなんならを必死に試していく。
しかし、父の息は吹き返さない。
「ううっ……なんなんだよ! なんで無関係なひとにこんな仕打ちをするんだよ!?」
憎悪の炎がめらめらと胸に沸きだつ。
犯人は誰だ!?
ぜったい、必ず、ぶち殺してやる!!
ーー豊花、感情が強まっている。少し冷静になったほうがーー
うるさい!
おまえになにがわかる!?
両親や姉を1日で惨殺されたんだぞ!?
わかってたまるか!
ーー気持ちはよくわかる。だが、今は現実を直視することが大切だ。ーー
そのとき、扉が少し、慎重に、ゆっくりと開いてこちらを覗いてきた。
「裕希姉! 生きていてくれたの!?」
「ぐすっ……うん。でも、パパとママが……うっうっ」
「……誰のせいなんだ?」
私が異能力者になったから?
愛のある我が家に加入したから?
一時期異能力者保護団体に所属したから?
単なる怨恨か?
いくら考えても、この現状に変化はない。
「とりあえず、裕希姉は……警察を呼んでくれない?」
「うん、わかった……ずっ」
瑠奈と舞香は心臓一突きで絶命している両親を目の当たりにしたからか、私の騒ぎようにドン引きしているのか、死体を見るだけで会話を振ろうとはしない。
裕希姉は涙を袖で拭いながら涙を圧し殺す。
私だって泣きたい気分だ。
そのとき、沙鳥から連絡が届いた。
戸惑いながら通話に出る。
「このようなときに失礼します。愛のある我が家も風月荘も極悪な異能力者に潰された結果、しばらくは我々はホテルに滞在することにしました。豊花さんはいかがなさいます? 自宅に居たほうが安全かもしれませんが、十字架事件の件もありますし、豊花さんもホテルに滞在することにしますか?」
「……いいや。父さんと母さんが殺されたこの家に待機し、復讐を果たします。まだ異能力者である私を殺せなかったことから、自分を撒き餌にして殺害しに来たところに地獄を見せてやる予定です」
『そうですか……くれぐれも無理はなさらないように気をつけてくださいね』
それだけ言うと通話が切れた。
どうしてこうも毎度毎度厄介ごとに巻き込まれるんだ?
今までのは言ってはなんだが無関係なひとやちょっとした知人が被害に遭遇したことはある。しかし、いずれも死者は出していない。
なのに、なのにもこの仕打ちはなんなんだ!?
警察が来るのを待っているだけでは退屈だ。いや、今は退屈とは言えない状況だが……。
仲間を複数殺した犯人は、一見無差別殺人に思われるかもしれない。
しかし、敵対者が殺害、破壊したのは、可奈子や雪、私の両親ーーあわよくば姉である裕希姉の殺害すら企んでいた。
しかも、愛のある我が家本拠地を巨大な十字架で破壊したり、最近できたばかりの前々から準備していたであろう風月荘も再起不能にさせられた。なにより異能力者がいるからというだけで、杉井家にも十字架を落としやがった。
なんて……なんて卑劣な奴らなんだ。
相手の異能力もなんとなく理解できる。あれだけ異能力でバンバン破壊活動を行っているからこそ、考えなくてもわかる。
もしかしたら小さな十字架を建てることもできるかもしれない。
が、私たちが見たのは遥かに巨大な十字架だ。先端も鋭利にできている。
異能力自体は舞香や沙鳥、ゆきのほうが遥かに強い。だから不意討ち混じりに異能力をターゲットにして、破壊活動を繰り返しているにちがいない。
外からパトカーの音が木霊する。
こんなふざけた殺害方法を認知してくれるかは疑問だが、異能力者が現れてからというものも、異能力者に対する取り調べもきちんと調査してくれるだろう。
警察がしつこくノックする。
人見知りの私は出るに出られなくて、代わりに裕希姉が出てくれた。
私のせいで他の住民にも被害が出るにちがいない。
もはやこの家で暮らすのにも限度があるだろう。
相手の素性を捕まえて、もう二度と悪逆非道なことができないようにしてほしい。
相手の素性が判明したら、どこでもいい。引っ越ししよう。
裕希姉にも迷惑をかけられないし、同じマンションに住んでいる住民に迷惑をかけるわけにもいかない。
なるべく異能力犯罪者がいない地域を探して、いい物件を見つけるしかないだろう。
ーーこうして、愛のある我が家は一時的に瓦解してしまったのであった。
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