前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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最終章

Episode207╱歪な感情

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(311.)
 裕璃と瑠奈と私で、久しぶりに愛のある我が家にやってきた。
 詳しくは聞いていないが、沙鳥からの依頼があるらしい。昨晩、沙鳥から瑠奈に連絡があったみたいだ。
 裕璃を異世界に帰還させる都合もあるため裕璃も連れてきたのである。
 レジで空箱を指定し中に入る。
 内装は襲撃を受けた跡が少し残る程度で、既にあらかた直っていた。
 皆が集合する部屋の鍵を空け、足を踏み入れる。
 室内には舞香と沙鳥、朱音、鏡子の四人がいた。

「裕璃は異世界に戻るんだろう? ついておいで」

 部屋に入るなり朱音は部屋から出る。
 裕璃は「じゃあまたね、豊花」と言いながら朱音に着いて出ていった。

 部屋には重苦しい空気が漂っている。
 沙鳥の無気力な感じに脱力しつつも、瞳には怒りが宿っていた。

「さとりんから呼び出すなんて珍しいじゃん。個人的な復讐だって? いいよいいよ、さとりんとわたしの仲じゃん。水くさい」

 個人的な復讐?
 なにかあったのだろうか?

「さとりんはおやめくだい」
「はいはい。で、沙鳥の復讐って? ようやく人身売買で沙鳥を買った糞野郎を殺す気になった?」

 そういえば、前に何度か聞いたことがある。
 沙鳥は子どもの頃、両親に売られて醜い男性に買われ犯されつづけたと。
 両親には死を以て復讐したのに、買った男性には未だ復讐を遂げていないというのも前に瑠奈から聞いた気がする。

「その私を買った男性をーー殺した犯人を殺戮します」
「へ?」
「犯人は聞き出しました。私と同時期に買われた森屋(もりや)まつりです」
「ちょちょちょちょっと待って! おかしいじゃんおかしいじゃん。レイプしてきたクズ野郎に復讐するならわかるけど、そいつを殺した犯人ーーしかも沙鳥と同じ被害者を殺すなんておかしいじゃん。意味がわからないよ」

 沙鳥はテーブルを全力で殴る。

「私が殺す予定だったひとを横から殺されたんですよ? 怒ってなにが悪いんですか?」

 私にも意味がわからない。
 けれど、沙鳥は真顔だ。本気で言っている。

「鏡子さん。この顔写真の女性を異能力で見つけてください。瑠奈さんは見つけ次第、まつりの居場所まで私と舞香さん、豊花さんを運搬して現地に飛ぶ準備をしておいてください」

 鏡子は渡された写真を沙鳥の目線を借りて見るなり、異能力を発動しはじめた。

「あのさ、沙鳥? どうして沙鳥を犯したクズ野郎ーー話に聞く限りまつりって子も犯していたんでしょ? なんでそんなクズの為に復讐するのさ? まつりって子に要は復讐されたんじゃん。自業自得だよ。なにがしたいのさ? なにがあったの、沙鳥の過去に……」
「……あのひとは私を金銭で売買したゲスには違いありません。正直、毎日のように犯される日々は苦痛以外の何者でもありませんでした。ですが」沙鳥はどこか宙を見ながら一拍置いてつづけた。「あのひとは、犯すとき以外はやさしかったんです……教養も身につけさせていただきました。そして捨てられたあと復讐に行ったら、心底から私に対して罪悪感を覚えていて、常に懺悔のために私に殺されることを祈っていたんです。だから私はできるかぎり長く苦しめたあと殺してやろうと……そう誓ったんです。あの、ゲスに対して出来うるかぎりの復讐の為に……」

 沙鳥はその男性に対してクズだのゲスだの言うわりには、どこか懐かしいことを思い出すかのように、視線を空にやる。

「でもさ、まつりも同じ苦しみを味わっていたんでしょ? おかしいよ、狂ってるよ……」

 瑠奈は腑に落ちないらしく、沙鳥の行動が間違っているとでも言いたげにそう口にした。

「あのひとは……まつりさんではなく私を選びました。言いたくはありませんが、あのクズ親から救いだしてくれたと言っても過言ではありません。無論、大嫌いなひとですが、だからこそ、私を出し抜いてさきにあいつを殺したまつりさんは断じて許せないんです……!」

 沙鳥はあまり見せたことのないような複雑な表情を浮かべている。
 私にはわからない感情だ。
 自らを買い、犯しに犯しつくし最終的に捨てた相手が殺されたからといって、仲間といえる商品であろうまつりという名の女性に殺されたからといって、どうして復讐の目標がまつりに移るのか到底理解が及ばない。

「おかしいよ……」
「無論、無理強いはしません。いわば私のわがままです。瑠奈さんや豊花さんが手を貸してくれなくても、私ひとりで復讐に向かいます」
「……」私は考えたあと、始めて拒絶しようと思った。「悪いけど、今回の復讐にはどう考えても手は貸せない」
「わたしも豊花と同意見。女の敵とでもいえるクズ野郎が死んだからといって、女の子であるまつりちゃん? を殺すなんてわたしには無理。一抜けた」

 沙鳥は断られるのがわかっていたみたいに、無言で頷いた。

「私は沙鳥の手伝いをするわ。何にせよ、沙鳥がやるって言うなら、私は力になりたいもの」
「ありがとうございます。舞香さん……」

「帰ろ、豊花。沙鳥がこんなに意味不明な復讐をするだなんて幻滅したよ」
「う、うん……」

 私は呆れてため息を溢した瑠奈の提案に頷き、瑠奈と共に玄関に向かう。

「男嫌いな沙鳥が男のために……しかも、そんなゲス野郎のために復讐するなんて……本当に幻滅したよ」

 瑠奈は愚痴るように吐き捨て、玄関を開ける。

「もしも……もしも気が変わったら、連絡ください。すぐに復讐に出向かうつもりもありませんので」
「気が変わるわけないじゃん! どんな事情があるにせよ、沙鳥は間違ってるよ」

 瑠奈は下らない復讐のためなんかに呼び出されたことに腹を立てているのか、その文句を最後に乱暴に玄関を開けると、外へと出ていく。
 私もそれにつづき外へと出た。

「豊花……さとりん、おかしくなったのかな?」

 瑠奈は再三ため息を溢しながら私に問いかける。

「わからない。でも……沙鳥の瞳に宿した憎悪は本物だと思った。多分、口では蔑む買った男性に対して、長年住むうちに情のようなものが移ったのかもしれない」
「なんにせよ、犯されたまつりとやらが復讐する権利はある。むしろ、復讐して当然じゃん。……あーあ、男性嫌いなわたしと同士だと思っていたのに、裏切られた気分だよ」

 おそはく、沙鳥には沙鳥なりの事情があるのだろう。
 あの怒りかたは尋常ではない。
 さすがに舞香を負傷させた相手に対する怨嗟よりは弱いけど、似たようなものが感じられた。
 ……今の段階では手伝う気にはなれないけど、もう少し深く事情を聞いていれば、もしかしたら手を貸す気にはなれたのかもしれない。

 まあいい。
 既に手は貸さないと決めたんだ。
 沙鳥の復讐は沙鳥にしかわからない。それは、べつの問題、物語だ。
 私たちには関係ない話だ。
 復讐を完遂するのか気になるけど、後日談としての話くらいは、聴いてみたい気がしたのであったーー。 
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