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2章
26話
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「な、な…なーにをやっているんですのー!!!??」
6組の実技の訓練が始まる前。ナディアが訓練場に響き渡るほどの叫び声をあげた。その顔は怒っていいのか呆れていいのか、どうしたらいいのかわからないような複雑な色が浮かんでいた。
「まーたシノは厄介ごとに巻き込まれてるのだわ??どうにかならないのだわ?」
ウルは儂の肩の上でこてんと見上げながら儂の顔をのぞいて頬をパシパシと叩く。
「いやぁ、なんでだろうね?儂としては穏やかに剣の道を進みたいのだけれどね?」
あはは、と儂は頭の後ろに手を当てつつ、苦笑いで応える。
「どうすんだよ、決闘なんて。武器、魔法、魔術具なんでもありの真剣勝負。魔法の威力だって制限もないってことで結構やばくないか?3年は1年の俺達とは比べ物にならないくらい高度な術式を知ってるからな。それに、あのマルヴェックは火属性の使い手だろ?」
ヴァリが心配したように声をかけてくる。火属性は各種属性の中でも攻撃に特化していて危険な魔法も多い、という。
「シノなら大丈夫さぁ~??編入試験の炎見てたらそんじょそこらの火属性じゃ相手にならないともおもうけどね」
レオは心配ないさ~と相変わらず呑気な答えだ。決闘やるときは見に行くさ~ということでルーヴァルを誘ってあっという間に模擬戦を始めた。
彼女は至ってマイペースでほっとする。ふとナディアを見ると、額に手を当ててため息を何度もついている。
「…シノには迷惑をかけてしまいますわね。あんな愚兄に関して2度までも…。それと、タリムでしたわね?改めて私からも謝罪いたしますわ」
ナディアは最近、マルヴェックに関しての言葉が辛辣になってきている。儂らの環から少し外れた場所にいたタリムは、突然ナディアに謝られてびっくりした顔だ。
「そ、そんな!ナディアさんが謝る必要なんて…ないですよ。マルヴェックさんとナディアさんは全然違いますから…」
「私はあなたへの暴行を見て見ぬ振りをしてしまった事に対して後悔していますの。償いになるかどうかは分かりませんが、これからは貴方を庇護できるよう努力しますわ」
ナディアはすっとタリムに対して手を差し出し、おずおずとマルヴェックはその手を握る。
「しかし、クレモス領はマルヴェックが嫡子ということだが…現時点でギレー領との関係が少々危うくなっているようだ。ナディアは大丈夫なのか?」
儂はマルヴェックの様子を見て心配に感じていることをナディアに確認する。
「…面目もありませんわ。貴方からその話を聞いてからわたくしは初めて知りましたの。側室である母とわたくしには大した情報も入ってきませんし、領地の運営からは切り離されていて…。領内が盗賊団に荒らされているという情報も知る限りありませんでしたから…」
わたくしには力が無いのですと肩を落としている。ナディアの母と共に政務には関わっていないため、いろんな情報が届かないのだろう。儂としては、あそこまでマルヴェックが傍若無人にふるまっている状況が捨て置かれているのが気になってしまう。
それに、あの瞳の濁りよう…どこかで…。
「わたくしもできるだけクレモスの状況なども情報を集めてみますわ」
「まぁ、何かあったら俺も手を貸すぜ。って言っても、できることは少ないけどな!」
「僕はあんまりできることはないかもしれないですけど…」
「助かるよ。それと、リセリアっていう子はエルフだったんだが、皆は何か知っていることはあるか?」
3人にリセリアについて聞いてみると、ヴァリは上級生にエルフがいるという事くらいで、ナディアはエルフが興した国の正当な王女で留学生だということまで知っていた。
そして、タリムが彼女と面識があるとのことだ。
「えっと、リセリア様はこの学園に入学してから定期的にイレーネ様の研究室に足を運んでおられます。その、リセリア様がいらっしゃる時は僕は退出を促されますので、お二人でどういった内容を話しているのかはわかりません。ですがとてもお優しい方です。僕にも普通に接していただいています」
少なくとも、王女という権力を振りかざすようなタイプではないようだ。
ヴィクターもいて、ジョシュアというロヴァネの長子もいたことから、何かしらの思惑があった可能性があるか…。
決闘が決まった時の状況を思い出す。
~~~~
「リセリア様、私は先に失礼いたします。決闘についてはご連絡、お待ちしております」
強烈な敵意を投げつけてきた様子は鳴りをひそめ、マルヴェックとその取り巻き想像以上に丁寧なあいさつをしてすぐさま校門へ向かっていく。午後の講義を受けるつもりはないようだ。
「やれやれ。やりたい放題だな、あいつは。私もそこまで強い力を持っていなくて完全に止めることができないのが口惜しいよ」
「そんなことはありませんよ。ヴィクター王子がいらっしゃることは非常に大きいと思います」
ヴィクターとジョシュアが言葉を交わしていると、リセリアがこちらに話かけてきた。
「シノ、とおっしゃいましたね。あぁ、そちらはイレーネ様の助手の方でしたか。決闘については差し出がましい真似をしてしまいました。お許しください」
彼女は胸に手を当て軽く会釈をする。
「助かりました。あのままではおそらく、あちらの都合のいいように進められていたかもしれませんから」
おそらくだが、自分の息のかかったものですべてを固めてしまって、取り決めも何も無視して一方的にやりたい放題するつもりだったかもしれない。
とはいえ、儂自身としては何がこようとも力づくてねじ伏せるつもりではあったが。
そんな儂の顔をみて、リセリアはくすっと笑う。
「ふふ。貴方はそれでもなんとかして見せた…といった表情ですね?」
「…今日の手合わせの感じであれば、特に問題はなかったかと思います」
リセリアはきょとんとした表情になった後、くすくすと笑う。
「ほぅ。あれでもマルヴェックは火属性の魔法についてはかなり優秀な成績を修めているぞ。簡単に言ってくれるものだ」
ヴィクターがニヤニヤしながら近寄ってくる。
「…君のことは父上や弟妹からの連絡で知っている。とはいえ、今どき決闘などと悪しき貴族の風習を持ち出してきたマルヴェックは何をしでかすか分からない。それでも問題ないと言えるか?」
ジョシュアが儂を試すような問いを儂に投げかけてきた。
「もちろんです。例えどのような状況になったとしても、ギレーやロヴァネに影響を与えるようなことにはしないと誓いましょう」
儂は肩をすくめて軽く笑う。ジョシュアは一瞬驚いた表情を見せたが、その口元に微笑みが浮かぶ。
「…その言葉、覚えておこう。弟妹を救ってくれた君に対して不利になるようなことにはさせんと私も約束しよう」
「さて、この中庭の惨状もどうにかせねばならぬ。決闘の手配もあるからそろそろ行くぞ、ジョシュア。そしてリセリア様もこちらへ」
「ああ」
「はい」
ヴィクターはジョシュアとリセリアに向けて移動を促すと、移動の際にリセリアが耳打ちしてきた。
「シノ様、貴方の力をしっかりと拝見させていただきます」
そのままぺこりとお辞儀をしてヴィクターとジョシュアの後を追っていった。
~~~
あの時の最後のリセリアの言葉を考えると、なにやら儂の力を見極めたい、といったニュアンスを含んでいるような気がした。
3人が登場したタイミングも都合がよすぎる気がしないでもない。とはいえ、決闘について儂ができることと言えば、友人を侮辱した相手との戦いに勝利することのみだ。
政治的な何らかの動きが絡んでいるかもしれないが、一剣士が考えることではない。タイミングがあれば、イレーネにリセリアについて聞いてみることにするか。
「ところで、シノ、聞きたかったのだけれど、その子は一体何なのだわ?」
決闘のことを考えていたところ、ウルがタリムについて聞いてきた。
「この子はタリム。今日会ってきたイレーネ先生の弟子で、儂らが前に助けてあげた子だよ」
ウルはすっかり忘れていたのか、タリムの顔をみて何度も頭をかしげていたが、手をポンと打ち、思い出したようだ。
「あの時の子なのだわ!思い出したのだわ!!!あの時は全然だったのにどうして今はそんなに精霊の匂いを感じるのだわ?」
「あぁ、イレーネ先生の研究室にはかなりの数の精霊が居たようでね。そこでしばらく過ごしていたからじゃないか?」
イレーネの研究所の様子をウルに伝える。そして、彼は精霊との親和性があるようだとも教える。
「ふむふむ。よくわかったのだわっ!この子は土の精霊に好かれているみたいだわっ」
タリムが驚いたようにウルを見つめる。
「ぼ、僕が土の精霊に?」
「そうなのだわ。土の加護があると言っていたけど、魔力が少ないみたいだから、精霊の力を借りたほうが良いのだわっ」
相変わらず的確なウルの魔法に関するアドバイスである。
「んー、となると、やっぱりこの子がいいかしら?」
なにやらウルはぶつぶつと詠唱をようなものをつぶやくと、訓練場の地面から等身大の土人形のようなものが現れる。
「この子はノームなのだわっ。土魔法、というより、ゴーレムみたいな人形や造形物を作るのが得意な子だけど、あなたに合いそうなのだわっ」
手を出しなさいっとタリムに促すと、ゴーレムと彼の手が触れる。
今度も、タリムの右手の甲に紋章が現れては消える。すると、土人形は砂になって崩れた。
「これで大丈夫なのだわっ!」
これから精霊を呼ぶことができるようになるとタリムに説明してるが、信じられない、といった様子でウルを見ている。
「先導者がいるんだったらこれからはそっちに聞いたらいいのだわ?今回の契約はシノに免じて大サービスなのだわっ」
相変わらずウルは得意そうに胸を張っているが、気づくと、訓練場が大騒ぎになっている。
「おいおい!今のはなんだ?ゴーレム?」
「土の精霊とかなんとか言ってなかったか??」
「精霊との契約??え?嘘?こんなところでできるの??」
少し遠くで担任のロレンゾがすごい表情でワナワナと震えているかと思えば、とてつもない勢いで飛んできた。
「シノ君!?ウルさん!?今のは!?一体なんですか!?ねぇ!?精霊との契約!?は!?どういうことですか!?」
…しまった。精霊との契約はこんな人目に触れるところでするべきではなかった…。
ロレンゾに肩をがくんがくんと揺らされながら、ウルは「知ーらない」といった風にナディアの方に逃げる。
今後の精霊契約についてはちゃんとウルに相談しようと心に決めた。
6組の実技の訓練が始まる前。ナディアが訓練場に響き渡るほどの叫び声をあげた。その顔は怒っていいのか呆れていいのか、どうしたらいいのかわからないような複雑な色が浮かんでいた。
「まーたシノは厄介ごとに巻き込まれてるのだわ??どうにかならないのだわ?」
ウルは儂の肩の上でこてんと見上げながら儂の顔をのぞいて頬をパシパシと叩く。
「いやぁ、なんでだろうね?儂としては穏やかに剣の道を進みたいのだけれどね?」
あはは、と儂は頭の後ろに手を当てつつ、苦笑いで応える。
「どうすんだよ、決闘なんて。武器、魔法、魔術具なんでもありの真剣勝負。魔法の威力だって制限もないってことで結構やばくないか?3年は1年の俺達とは比べ物にならないくらい高度な術式を知ってるからな。それに、あのマルヴェックは火属性の使い手だろ?」
ヴァリが心配したように声をかけてくる。火属性は各種属性の中でも攻撃に特化していて危険な魔法も多い、という。
「シノなら大丈夫さぁ~??編入試験の炎見てたらそんじょそこらの火属性じゃ相手にならないともおもうけどね」
レオは心配ないさ~と相変わらず呑気な答えだ。決闘やるときは見に行くさ~ということでルーヴァルを誘ってあっという間に模擬戦を始めた。
彼女は至ってマイペースでほっとする。ふとナディアを見ると、額に手を当ててため息を何度もついている。
「…シノには迷惑をかけてしまいますわね。あんな愚兄に関して2度までも…。それと、タリムでしたわね?改めて私からも謝罪いたしますわ」
ナディアは最近、マルヴェックに関しての言葉が辛辣になってきている。儂らの環から少し外れた場所にいたタリムは、突然ナディアに謝られてびっくりした顔だ。
「そ、そんな!ナディアさんが謝る必要なんて…ないですよ。マルヴェックさんとナディアさんは全然違いますから…」
「私はあなたへの暴行を見て見ぬ振りをしてしまった事に対して後悔していますの。償いになるかどうかは分かりませんが、これからは貴方を庇護できるよう努力しますわ」
ナディアはすっとタリムに対して手を差し出し、おずおずとマルヴェックはその手を握る。
「しかし、クレモス領はマルヴェックが嫡子ということだが…現時点でギレー領との関係が少々危うくなっているようだ。ナディアは大丈夫なのか?」
儂はマルヴェックの様子を見て心配に感じていることをナディアに確認する。
「…面目もありませんわ。貴方からその話を聞いてからわたくしは初めて知りましたの。側室である母とわたくしには大した情報も入ってきませんし、領地の運営からは切り離されていて…。領内が盗賊団に荒らされているという情報も知る限りありませんでしたから…」
わたくしには力が無いのですと肩を落としている。ナディアの母と共に政務には関わっていないため、いろんな情報が届かないのだろう。儂としては、あそこまでマルヴェックが傍若無人にふるまっている状況が捨て置かれているのが気になってしまう。
それに、あの瞳の濁りよう…どこかで…。
「わたくしもできるだけクレモスの状況なども情報を集めてみますわ」
「まぁ、何かあったら俺も手を貸すぜ。って言っても、できることは少ないけどな!」
「僕はあんまりできることはないかもしれないですけど…」
「助かるよ。それと、リセリアっていう子はエルフだったんだが、皆は何か知っていることはあるか?」
3人にリセリアについて聞いてみると、ヴァリは上級生にエルフがいるという事くらいで、ナディアはエルフが興した国の正当な王女で留学生だということまで知っていた。
そして、タリムが彼女と面識があるとのことだ。
「えっと、リセリア様はこの学園に入学してから定期的にイレーネ様の研究室に足を運んでおられます。その、リセリア様がいらっしゃる時は僕は退出を促されますので、お二人でどういった内容を話しているのかはわかりません。ですがとてもお優しい方です。僕にも普通に接していただいています」
少なくとも、王女という権力を振りかざすようなタイプではないようだ。
ヴィクターもいて、ジョシュアというロヴァネの長子もいたことから、何かしらの思惑があった可能性があるか…。
決闘が決まった時の状況を思い出す。
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「リセリア様、私は先に失礼いたします。決闘についてはご連絡、お待ちしております」
強烈な敵意を投げつけてきた様子は鳴りをひそめ、マルヴェックとその取り巻き想像以上に丁寧なあいさつをしてすぐさま校門へ向かっていく。午後の講義を受けるつもりはないようだ。
「やれやれ。やりたい放題だな、あいつは。私もそこまで強い力を持っていなくて完全に止めることができないのが口惜しいよ」
「そんなことはありませんよ。ヴィクター王子がいらっしゃることは非常に大きいと思います」
ヴィクターとジョシュアが言葉を交わしていると、リセリアがこちらに話かけてきた。
「シノ、とおっしゃいましたね。あぁ、そちらはイレーネ様の助手の方でしたか。決闘については差し出がましい真似をしてしまいました。お許しください」
彼女は胸に手を当て軽く会釈をする。
「助かりました。あのままではおそらく、あちらの都合のいいように進められていたかもしれませんから」
おそらくだが、自分の息のかかったものですべてを固めてしまって、取り決めも何も無視して一方的にやりたい放題するつもりだったかもしれない。
とはいえ、儂自身としては何がこようとも力づくてねじ伏せるつもりではあったが。
そんな儂の顔をみて、リセリアはくすっと笑う。
「ふふ。貴方はそれでもなんとかして見せた…といった表情ですね?」
「…今日の手合わせの感じであれば、特に問題はなかったかと思います」
リセリアはきょとんとした表情になった後、くすくすと笑う。
「ほぅ。あれでもマルヴェックは火属性の魔法についてはかなり優秀な成績を修めているぞ。簡単に言ってくれるものだ」
ヴィクターがニヤニヤしながら近寄ってくる。
「…君のことは父上や弟妹からの連絡で知っている。とはいえ、今どき決闘などと悪しき貴族の風習を持ち出してきたマルヴェックは何をしでかすか分からない。それでも問題ないと言えるか?」
ジョシュアが儂を試すような問いを儂に投げかけてきた。
「もちろんです。例えどのような状況になったとしても、ギレーやロヴァネに影響を与えるようなことにはしないと誓いましょう」
儂は肩をすくめて軽く笑う。ジョシュアは一瞬驚いた表情を見せたが、その口元に微笑みが浮かぶ。
「…その言葉、覚えておこう。弟妹を救ってくれた君に対して不利になるようなことにはさせんと私も約束しよう」
「さて、この中庭の惨状もどうにかせねばならぬ。決闘の手配もあるからそろそろ行くぞ、ジョシュア。そしてリセリア様もこちらへ」
「ああ」
「はい」
ヴィクターはジョシュアとリセリアに向けて移動を促すと、移動の際にリセリアが耳打ちしてきた。
「シノ様、貴方の力をしっかりと拝見させていただきます」
そのままぺこりとお辞儀をしてヴィクターとジョシュアの後を追っていった。
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あの時の最後のリセリアの言葉を考えると、なにやら儂の力を見極めたい、といったニュアンスを含んでいるような気がした。
3人が登場したタイミングも都合がよすぎる気がしないでもない。とはいえ、決闘について儂ができることと言えば、友人を侮辱した相手との戦いに勝利することのみだ。
政治的な何らかの動きが絡んでいるかもしれないが、一剣士が考えることではない。タイミングがあれば、イレーネにリセリアについて聞いてみることにするか。
「ところで、シノ、聞きたかったのだけれど、その子は一体何なのだわ?」
決闘のことを考えていたところ、ウルがタリムについて聞いてきた。
「この子はタリム。今日会ってきたイレーネ先生の弟子で、儂らが前に助けてあげた子だよ」
ウルはすっかり忘れていたのか、タリムの顔をみて何度も頭をかしげていたが、手をポンと打ち、思い出したようだ。
「あの時の子なのだわ!思い出したのだわ!!!あの時は全然だったのにどうして今はそんなに精霊の匂いを感じるのだわ?」
「あぁ、イレーネ先生の研究室にはかなりの数の精霊が居たようでね。そこでしばらく過ごしていたからじゃないか?」
イレーネの研究所の様子をウルに伝える。そして、彼は精霊との親和性があるようだとも教える。
「ふむふむ。よくわかったのだわっ!この子は土の精霊に好かれているみたいだわっ」
タリムが驚いたようにウルを見つめる。
「ぼ、僕が土の精霊に?」
「そうなのだわ。土の加護があると言っていたけど、魔力が少ないみたいだから、精霊の力を借りたほうが良いのだわっ」
相変わらず的確なウルの魔法に関するアドバイスである。
「んー、となると、やっぱりこの子がいいかしら?」
なにやらウルはぶつぶつと詠唱をようなものをつぶやくと、訓練場の地面から等身大の土人形のようなものが現れる。
「この子はノームなのだわっ。土魔法、というより、ゴーレムみたいな人形や造形物を作るのが得意な子だけど、あなたに合いそうなのだわっ」
手を出しなさいっとタリムに促すと、ゴーレムと彼の手が触れる。
今度も、タリムの右手の甲に紋章が現れては消える。すると、土人形は砂になって崩れた。
「これで大丈夫なのだわっ!」
これから精霊を呼ぶことができるようになるとタリムに説明してるが、信じられない、といった様子でウルを見ている。
「先導者がいるんだったらこれからはそっちに聞いたらいいのだわ?今回の契約はシノに免じて大サービスなのだわっ」
相変わらずウルは得意そうに胸を張っているが、気づくと、訓練場が大騒ぎになっている。
「おいおい!今のはなんだ?ゴーレム?」
「土の精霊とかなんとか言ってなかったか??」
「精霊との契約??え?嘘?こんなところでできるの??」
少し遠くで担任のロレンゾがすごい表情でワナワナと震えているかと思えば、とてつもない勢いで飛んできた。
「シノ君!?ウルさん!?今のは!?一体なんですか!?ねぇ!?精霊との契約!?は!?どういうことですか!?」
…しまった。精霊との契約はこんな人目に触れるところでするべきではなかった…。
ロレンゾに肩をがくんがくんと揺らされながら、ウルは「知ーらない」といった風にナディアの方に逃げる。
今後の精霊契約についてはちゃんとウルに相談しようと心に決めた。
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