魂のあて肉体のはて

鈴木澪子(Suzuki Mioshi)

文字の大きさ
1 / 1

飢餓愛

しおりを挟む
人のための愛の電気信号。愛のための人への電気信号。
それらを持つ人間の特性は、漠然と法則で決められていると言ってもいい。


特殊能力者2人が歩きながら話していた。
「お疲れ!いやー、今日もかなり楽で良かったな!怪物の討伐がうまくいった。」
髪に癖っ毛が目立つ能力者が言う。
「それは俺達がある程度強いからだろ。お前、自分の実力認識しなさすぎなんだよ。」
七三分けの髪型の能力者が言った。
2人は、この世に法則的に発生する、怪物を倒したその帰りだった。
そのとき、和服の着物を着た男2人とすれ違う。
「…?」
七三分けの能力者の表情が変わる。
「おい、どうした?」
それに気付き、癖っ毛のある能力者が話しかける。
「今のやつら…ただものじゃないな。」
「あいつらのことか?」
「ああ。霊的なエネルギーを強く感じてな。もしかして、強い特殊能力者だったりするのか?」
「ああ。あいつらは兄弟の特殊能力者だ。兄が甚義(じんぎ)、弟が甚樹(じんじゅ)という名前だったな。」
「特殊能力者か。やっぱりそうだったか。」
「彼等兄弟は、古くから強い特殊能力が生まれることで有名な、一族の屋敷に生まれたんだ。」
「そうなのか?だから、あんなに強いエネルギーを感じたのか…。なんか、硬派なのか喧嘩っぱやそうなのか、分からない雰囲気だったよな。」
「なに、2人とも目つきが悪くて肉体が筋肉質でおっかないが、喋ってみると柔軟で物分かりがいい。
良いやつらだよ。」


この世には、魂の情報と肉体の情報が互いに影響しあう法則が存在する。


甚義と甚樹は、自分達の家である屋敷にいた。
「兄貴…頭、撫でてくれ。」
「…わかった。」
甚義が甚樹の頭を撫でる。
彼が自分に寄りかかってきた。
「抱きしめろ。」
「ああ。」
そう返事をして、抱きしめる。
十数秒経ち、甚義は甚樹の様子を確認した。
「?」
甚樹は自分の胸の中で泣いていた。
「……どうした。」
「なんでもねぇよ。時々でてくるんだ。分かってんだろ。」
「いや、分からねえし。」
愛情を感じて安心しているのか。
そう思う。
弟の甚樹は昔、自分の生まれたこの屋敷にいた一族に、長く酷く虐げられていた。持っている体質が虐待の原因だった。
その虐待から解放されたのは、つい最近だ。
そのせいで、潜在的に愛情飢餓がある感性になってしまったのだろう。

甚樹には、特異な体質がある。
もとから生まれつき華力(かりょく)というエネルギーを用いた華のある特殊能力を扱えない。
その代わりに自然法則によって、身体能力が非常に高い肉体の情報が降ろされている。
また、肉体の情報が強いことが影響し、魂の情報が頑丈。
後天的に魂の仕組みの核心を非常につかみ、この世の様々な魂の性質が合わさって肉体を形成している。そのため、男性器も女性器も肉体に付属されている。
肉体の形は、本人の意思で好きなように変えることができる。

「抱きしめて。」
「……」
強く抱きしめる。
「もっと強く。」
「強すぎると苦しくなるぞ。」
「俺をなんだと思ってる…。俺の体質を忘れたか。」
「忘れていないが…俺も男だ。男の特殊能力者の力は、結構強いぞ。」
「そんなのどうだっていい。」
「そうか。」
「……。」
強く抱きしめ続けると、彼は大人しくなった。
十数分経った。
「…もういいよ。」
満足したようだった。
「……。」
甚樹は不敵な笑みをつくった。
「…フン…クソ兄貴が。」
「まあそう言うな。」
態度が悪くなるのは、甚樹なりの自虐も入っているのだろう。ここまで態度が変わるのは、甘えられる自分に対してだけだ。それを分かっているため、悪い態度への注意はあまりしない。

甚義は、ふと思い出す。
特殊能力者の任務により、長い間、家に帰らなかった時期がある。
甚義が久々に屋敷に帰り、甚樹と再会したときのこと。
甚樹は傷だらけで血まみれだった。
その体質を理由に、一族に脅迫され暴行を受けたらしい。
“辛かった…今迄どこいってたんだよ…。”
甚樹をひとけのない場所で抱きしめると、彼は自分の体にすがりつき、泣き崩れた。
“兄ちゃん、俺のこと置いていかないで…捨てないでね…。”
“そんなに辛かったのか。”
“もう…捨てないで…。”
“……甚樹。少し待ってろ。”
“……俺を置いてどこへ行くんだ?”
“殺しにいく。お前を虐げた奴等を。”
“……。……待て。”
“?”
甚義は立ち止まった。
“……俺も行く。俺を置いていくな。俺自身も、あいつらと決着をつける。”
“……フッ。”
甚義は笑った。

「兄貴。」
記憶を思い出していた甚義に、甚樹が話しかける。
「どうした?」
「俺のこと、捨てるなよ。」
甚樹に対し、甚義は振り返り、笑う。
「捨てないよ。」
捨てないよ。絶対に。


魂も肉体も電気信号の情報なら、人の愛とは、それからつくられる全てだ。


後日。
「兄貴。」
「分かっている。」
甚義は返事をしてふすまを閉め、甚樹のいる方向へ歩きだす。
2人は、畳の上に座った。
甚樹は甚義の背中に手を回す。
「ははっ、気持ちいい…。」
抱き合い、兄の体温を感じる。
「…気持ちいい…。」
甚樹は確かな幸福感を感じ、目を細めた。
甚樹の下半身が変形し、和服の下から、黒い鱗のある龍の尾が現れる。
甚義の着ている和服の上に、尾が振れる。尾を動かし、甚義の体に身に巻きつける。
「……ご機嫌だな。なにか良いことでもあったのか?」
「兄貴…兄ちゃん、褒めて。俺、今日も生きてるよ。」
「よく頑張っているな。愛している。」
「…ありがと。」
愛情の飢え。それを満たしてくれるのは兄だけだ。
「……お前は昔から一族に虐げられ、魂がその傷を覚えて変化し、病んでしまった。」
「…だからこうなったって言いたいのか?」
「特に責める気はない。」
「いつか俺が全知全能になったら、俺の魂も完璧に直る。
…俺は全知全能になれる。いつか、今度は俺が兄貴を守る番が来る。
ずっと兄貴と一緒だよ。」
「全知全能か。」
「ああ。この世の全ては電気信号でつくられているからな。電気信号を操ることができればいい。
全ての電気信号を、俺の肉体と魂レベルで捉えられれば、全知全能になることは物理学的にも華力学的にも可能だ。」
「流石だな。」
「前も言ったこと、あるだろ。」
「そうだが、お前は華力を扱えないが、華力に対する理解力や想像力はある。」
「当たり前だ…。俺は強いからな。」
「そうだな。…確かにお前は強い。」
「…もっと癒やして。」
「…ああ。」
兄が、自分の体を撫でる。
「俺、ちょっと邪魔か?」
「そんなことない。突然どうした。」
「…兄貴が辛いときは、俺が助けてやるよ。」
「そうか。ありがとうな。」
「本当だからな。もし兄貴が殺されそうになったら、その相手を殺してやる。」
「フッ、怖いこというんだな。」
「怖くねぇよ。仕事柄俺達、死体は慣れっこだろ。」

俺は愛情に飢えている。
だが、唯一救われた点は、兄が飢えたぶん愛情を与えてくれるということだ。
俺が撫でてほしいというと、兄は撫でてくれる。
反対に、兄が辛いことがあるときは俺がささえる。場合によっては何も言わず、場合によっては言葉に出す。
俺達は優秀なのだろう。
全てに悲観し、それに愉悦する。そして俯瞰する。
そんな思考を俺達はもっている。
それが心地いい。
俺も全ても、どうなろうが。
兄貴、俺はお前を愛し続ける。


抱き合っていよう、飢餓感が消えるまで。
一緒にいよう、全知全能になるまで。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...