黒ずきんのアーニャ ~刻まれる快楽の呪い~

コロンド

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Ep.1-1 《敗北確定快楽拷問ゲーム》

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「ここの角を曲がって……あれ、この辺のはずなんだけど……」

結局、アーニャは招待状の誘惑に勝てなかった。
決勝リーグが終わってから数日後、招待状に書かれた住所を頼りに指定の場所までやってきた。
そこはフロンティア内のビジネス街エリア。
いつもアーニャが利用しているフロンティアアリーナの周辺地域とはまるで雰囲気が違う。
本当にこんな場所に会員制のフロンティアマッチの競技施設があるのか、どうにも信じ難かった。

「ここ、なのかなぁ……」

視界に映るのはとくに何の看板も掲げていない質素なビル。
招待状に書かれた住所に間違いがないのなら、ここで間違いないはずだ。
アーニャは本当にここであっているのか心配で少し周囲をうろうろした後、勇気を出してビルの中へと入った。

ビルの中はビジネスホテルのエントランスの雰囲気に近く、カウンターの奥には受付嬢がポツンと一人で立っている。

「あのー?」

「会員証か招待状はお持ちでしょうか?」

無機質な声で返事が来る。
人間ではなくNPCなのだろう。
アーニャは恐る恐る持っていた招待状を手渡した。

「フロンティアマッチ選手用の招待状ですね。ではこちらを」

招待状と入れ替えに手渡されたのは一枚のカードキー。

「会場へはあちらのエレベーターからどうぞ」

そう言って受付嬢がエレベーターホールの方へと手をかざす。
だがアーニャはまだ肝心なことを理解していなかった。

「あのー、会場っていうのは……? 私とりあえず来たはいいものの、ここのルール何も理解してないっていうか……」

「私からはお答え致しかねます」

「えっと、今日はちょっと気になって見学しに来ただけなんですけど」

「私からはお答え致しかねます」

丁寧な言葉づかいで何も教えてくれない受付嬢。
おそらく何時間粘っても同じ言葉しか返ってこないだろう。

「仕方がない、行くしかない」

意を決して、アーニャはエレベーターに乗り込むことにした。
きっと会場とやらについたら優しい誰かがこの施設について色々教えてくれるだろう、なんてことを期待しながら。

エレベーターホールにある端末にカードキーをかざすと、すぐにエレベーターの扉が開いた。
エレベーター内にボタンはなく、アーニャが入り込むと扉が閉まり自動で動き出す。
そして十秒もしないうちに、再びエレベーターのドアが開く。

「うわっ」

目の前に広がる光景に、アーニャは驚き声を漏らす。

床に広がる高そうな赤い絨毯。
室内を照らすシャンデリアの暖かい光。
手前のテーブルでは、慣れた手つきでカードを配るディーラーの姿。
そこにはアーニャがよく知るカジノの光景が広がっていた。

「あらお嬢ちゃん、ここは初めてかしら?」

「あ、えっと……」

分かりやすくうろたえているアーニャに一人の女性が声をかける。
赤いドレスに艶のある長い髪。
この場に似合う大人びた雰囲気の女性だった。

「そのー私、招待状を貰ってここに来たんですけど、会員制のフロンティアマッチをやってるって事しか知らなくて……」

「なるほどね。招待状を渡した人は? 一緒じゃないのかしら?」

「えーっと……」

そもそも招待状を渡したレオとは仲良くないし、連絡先さえ知らない。
なんと説明したらいいか迷っていると、ドレスの女性がじっと覗き込むようにアーニャの顔を見つめだす。

「あら、あなた……もしかしてこの間、決勝リーグに出てなかった? 確か……アーニャちゃん、だっけ?」

「え、そ、そう……です、ケド……」

自分の名を知ってもらえているのは嬉しいが、それはレオに敗北したあのシーンを見られたと言う意味でもある。
アーニャはどう反応したらいいのか分からず微妙な顔をする。

「なるほどね…………当ててあげる。アーニャちゃんに招待状を渡したの、レオの坊やでしょ? それも大して説明もせずに」

「あ、はい、そうなんです!」

「やっぱり、彼ってそういうところあるからねぇ」

アーニャの表情が和らぐ。
この施設の利用者が全員レオのような人ばかりだったらどうしようかと不安に思っていたが、少なくとも彼女とは話が合いそうで安心した。

「彼を、レオを知ってるんですか?」

「知ってるも何も彼はここの常連ね。ああ、ちなみに私の名前はミヨ、よろしくね」

「ミヨさん、よろしくお願いしま……え、ミヨ……?」

聞いたことのある名前だった。
アーニャは彼女の顔をまじまじと見つめ、記憶の中にいるある人物を思い浮かべる。

「み、ミヨさんってもしかして……昔エイミーさんとペアを組んでいた人じゃないですか!?」

「あら、知ってるの?」

そう言って微笑むミヨの顔を見て、アーニャは無意識に体が気をつけの姿勢になる。

「わ、私っ、今エイミーさんのギルドでお世話になっててっ! 二人がペアを組んで大会出てる動画何度も見返してますっ!」

「えー、なんだか恥ずかしいわねぇ」

心臓がドクドクと高鳴る。
目の前にいるのはアーニャがエイミーと並んで尊敬する人物だった。

(うそ……うそっ、なんでこんなところにっ!? に、偽物じゃないよね!? あーもう、今になるまで気づけなかった自分の頬を引っ叩きたい!)

「エイミーのとこの子なら、ちゃんともてなしてあげないとね。おいで、ここの説明してあげるわ」

「は、はいっ!」

背筋を伸ばしたまま、アーニャはミヨの後ろについていく。

「見ての通りここはカジノ施設。でもフロンティアは規約上賭け事は禁止なのよね」

「え、それって……」

「規約違反、って思うでしょ。違うのよ、だってここの施設はフロンティアの運営サイドが意図的に作った場所なのだから」

「え、え……?」

「ここはね、ベータエリアって呼ばれているの。今後フロンティアに導入される可能性がある機能の試験場だと思ってくれればいいわ」

「なるほど、だから会員制……」

「そう、一部のユーザーにテスターとして参加して貰っているの」

長い廊下を超えた先、広く開け放たれたフロアに二人は足を踏み入れる。
その瞬間、室内から激しい怒号や歓声が響き、アーニャの耳を劈く。

「……なに、これ」

フロアの中心には巨大なモニターがあり、殴りあう二人の男の姿が映される。
それを見て盛り上がる観衆達。
片方の男が顔面に拳を受け、血を吐きながら倒れると観衆はさらに盛り上がる。

「あの人知ってる。動画で見たことあるプロの人だ……」

アーニャは愕然としていた。
フロンティアアリーナで行われるフロンティアマッチでは出血や欠損の表現は規制されているため、こんな光景を見るのは初めてだった。

「ここは安全面を考慮されたフロンティアアリーナと対の場所、ベータアリーナと呼ばれているわ」

目の前に広がる、自分の知らない世界の光景。
その光景がアーニャの胸を熱くさせる。

「フロンティアマッチの機能試験施設って建前はあるものの、実際のところは賭け事がしたい者。安全面に考慮された表のアリーナのマッチじゃ満足できなくなった者。単純に力を求める者。ここはそういう人たちが集まるところよ」

色んな感情が入り混じり、それを整理できないまま心が高鳴る。

「どう? 興味持った?」

この気持ちをどう言葉で表したらいいのかわからなくなったアーニャは、ミヨを見つめ静かに首を縦に振った。

「な、なんか、よく分からないけど…………すごいです」

「そう、じゃあせっかくだし一戦やってく?」

「え? そんないきなりいいんですか?」

ミヨは部屋の隅にいくつもある端末の一つを、慣れた手つきで操作し始める。

「えーっと……次に予定されているサバイバルマッチはまだ参加者定員に達していないみたい。あら、受付終了まであと3分くらいね。どうする?」

折角の機会、それも憧れのミヨの目の前だ。
アーニャに断る理由はない。

「やります!」

「そう、じゃあここから手続きをお願いね」

アーニャはミヨが操作していた端末に近づき、内容を目視する。
対戦のルールは今まで行ってきたフロンティアマッチと相違ない。
迷わず参加ボタンを押すと、長い規約メッセージが表示される。

「ここでのマッチは痛みのフィードバックが規制されずそのままやってくるけど大丈夫? あくまで仮想の痛みだから、死にはしないけど」

「ちょっと怖いけど……多分大丈夫です!」

メッセージを飛ばし、アーニャは承認ボタンを押す。
するとマッチへの参加が承認された旨を説明するメッセージが表示された。

「これでOKね。後は時間が来たら自動で転送されるわ。大丈夫? 緊張してる?」

「だ、大丈夫です。むしろちょっとワクワクしてるくらいですよ!」

「そう、健気な子で良かったわ」

グッと手を握ってやる気を見せるアーニャを、ミヨは優しく微笑み眺める。

(よし! ミヨさんにいいとこ見せるぞー!)

初めて訪れた知らない世界。
そこに突然現れた憧れの人。
胸を打つ高揚感がアーニャの警戒心をほぐし、挑戦心を高めていた。

「ふふっ、ほんと……健気でいい子ね……」

アーニャは今、地獄の入口に足を踏み入れた。
そんなこととはつゆ知らず、当人は試合が始まるのをいまかいまかと心待ちにしていた。
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