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Ep.1-2 《敗北確定快楽拷問ゲーム》

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霞んでいた視界が徐々に鮮明になっていく。
地に足がつく感覚を確認した後、目の前にゲーム開始までのカウントダウンがホログラムで表示される。
その数字が0になるまで、その場を動くことはできない。
それまでの間、アーニャは周囲を見渡す。

そこはコンクリートで囲まれた狭い部屋だった。
壁に窓はなく鉄製のドアが一つだけあるだけ。
部屋を出る手段はそれしかなさそうだ。
それとは別に、室内には木製の箱が一つぽつんと置いてある。
おそらくなんらかの武器や便利な道具が入っているアイテムボックスだろう。

おおよそ周囲の状況を掴めたところでカウントダウンの数字が一桁になり、そして0になる。

「よし、ゲームスタート」

派手な演出もなく、静かに始まるサバイバル戦。
体の自由が利くようになった直後、アーニャはすぐさまアイテムボックスの方へと駆けだした。
サバイバルに役立つアイテムを期待して、アーニャは迷わずそのアイテムボックスを開ける。

(これは、鞭?)

中に入っていたのは革製の鞭。
普段サバイバルで銃やナイフを使うことはあっても、鞭という武器は珍しい。
とはいえ武器であることに違いはない。
アーニャはそれを手に取り、一度部屋から出ることにした。
ゆっくりと扉を開けると、そこは人気のない廊下。
おそらくいくつかの広い部屋と廊下が組み合わさった迷宮のような作りのステージなのだろう。
似たような構成のステージでの戦いはアーニャにも経験があった。

(さて、右に行くか、左に行くか……)

そんなことを考えていると数メートル先にある扉がゆっくりと開き、中から大柄な男が出てくる。

(くっ……いきなり!)

想像以上に早い敵との遭遇。
男が振り向くのと同時、アーニャは男に向けて鞭を振り下ろした。

「せやぁっ!」

コンクリートでできた廊下にバチンと甲高い音が響き渡る。
致命的な一撃を与えた、かのように見えた。

(え?)

だがどういうわけか、男はビクともしなかった。
確かに手応えを感じていたはずなのに

「お、女じゃん。ラッキー」

ボリボリと頭を掻きむしりながらこちらを見つめる男。
その視線にアーニャはゾクリと背筋を震わせる。
男は不潔で生理的に受け付けない容姿をしていた。
自身のアバターをある程度自由に設定できるフロンティアにおいて、ここまで不快感を誘うような容姿は逆に珍しい。

そのようなアバターを使う者はアーニャの経験上、2パターンいる。
1つ目は単純に美形なアバターを使うことに抵抗があり、あえて人が使わないようなネタに走った身なりにする者。
2つ目はあえて相手に不快感を与えるため、あえて意図的に生理的に受け付けないような容姿にする者。
男がニヤリと笑ったその瞬間、相手が後者であることをアーニャは確信する。

「……ッ! 近寄るなッ!」

アーニャはもう一度鞭を振るう。
その一撃は男の顔面に直撃するが、男はなんともなさそうな顔でこちらに近づいてくる。

「いいじゃんいいじゃん。俺こういう好戦的な子、好きなんだよねぇ」

そう言いながら男は懐から銃を取り出し、アーニャに向ける。

「くっ!」

男が引き金を引こうとしたその瞬間、アーニャは咄嗟の判断で真横に飛んだ。
銃口から赤い閃光が瞬き、さっきまで自分がいた場所からジュッと焼けるような音が響く。

(光線銃? でもこの距離なら)

意識を切り替え、アーニャは一気に男に接近する。
鞭でダメなら拳で。
低い姿勢から勢いを乗せて、アーニャは男のみぞおちに全力の拳を入れた。

(な、なんで!?)

だがまるで砂を殴っているかのように手応えがない。

「つーかまーえた」

「なっ、離せッ!」

接敵して相手に拳を入れるということは、相手の間合いに入るということ。
状況を飲み込めず困惑しているアーニャの頭を、男は大きな手で鷲掴みにして持ち上げる。

「あっ……ああッ!」

地面から足が離れ、アーニャはジタバタと暴れまわる。
そのまま男は人とは思えぬ怪力でアーニャを放り投げた。

「あがッ! がっ……げほっ……」

アーニャの体はコンクリートの壁に打ち付けられ、一瞬の浮遊感を感じた後、地面に崩れ落ちる。

(……肺が、呼吸が……できない……)

痛みと過呼吸の感覚が同時にやってくる。
とても仮想のものとは思えないその感覚に、アーニャは混乱していた。

「んー、なるほど。さてはお前、ルールを理解してないな?」

「げほっ……る、ルール? ……そんなの、敵を倒して最後まで立っていた者の勝ち。それがフロンティアマッチのルールでしょ!」

さも当然のことを口にしたつもりだった。
だがそんなアーニャの姿を見て、男はゆっくりと口角を上げる。

「ひっ、フヒ……フヒヒヒヒヒッ!」

そして突然、不快感を与えるような声で笑い出した。
一切理解できない男の言動に、アーニャは恐怖を感じ顔を引きつらせる。

「そうかいそうかい、なるほど、嬢ちゃんは何も知らずにここに来たってわけか。じゃあ教えてやるよ、お前騙されたんだ」

「だま……された……?」

男が何を言っているのか、アーニャは理解できなかった。

「規約はちゃんと読まなきゃダメだよお嬢ちゃん。このマッチはね、俺たち男が満足するためだけに組まれたマッチなんだよ」

「は、はぁ……? なに……それ……」

「男9人女1人のグループができたらマッチ開始。女側は男側に一切手出し不可。制限時間は1時間。女側は最後まで逃げ切ったら勝ちで、男に捕まったら何をされても構わない。これはそういうルールのマッチなんだよ」

アーニャは絶句する。
男の言っている事の意味は理解できても、簡単に信じることはできなかった。

「そ……そんなの、ルールとして成り立ってない!」

「いいんだよそれで。ここはいい子ちゃんの遊び場であるフロンティアアリーナじゃないんだからなぁ!」

男が足元に落ちていた鞭を拾い上げる。
そこでアーニャはさっきの衝撃で自分が武器を落としてしまっていたことに気づく。

(まずいッ!)

男が鞭を持った手を振り上げ、それを見て危険を察知したアーニャは回避行動を取ろうとする。
だが全身からやってくる痛みで、体が思うように動かない。
回避は不可能と察したアーニャは、せめて急所への一撃は避けようと防御の構えをとる。

バチンッ!

振り下ろされる鞭。
その一撃は、両手を前に組んで胸と頭を守ろうとしアーニャの右肩に当たった。

「――ッ!? ンぁあああああああッ!!」

あまりの痛みにアーニャは絶叫する。
急所であろうとなかろうと関係ない。
当たった場所が体であれば、問答無用で激痛が走る。
皮膚を一気に剥がされたかのような痛みがやってきた後、ジンジンとした痺れが継続的に続いていつまでも消えない。

(い、痛い……痛い痛い痛い! 何これ、痛みのフィードバックが普段と全然違う……ッ!)

安全管理の行き届いた場所でずっと戦闘を続けてきたアーニャにとって、それは未知の激痛だった。

「ヒュー、いい声で鳴くねぇ」

再び振り下ろされる鞭。
アーニャは地面に這いつくばり、転がるように必死に避ける。

バチンッ!

「い”い”――――ッ!」

だが避けきることはできず、体を狙って振り下ろされた鞭はふくらはぎの辺りに直撃する。
声にもならない悲鳴を上げ、アーニャはその場で自分の足を押さえてうずくまる。

「ほら、こっちもくれてやるよ」

自分の体を押さえて小さくうずくまるアーニャに向けて、男は光線銃を突き付ける。
鞭の痛みが恐怖として刻み込まれたアーニャにとって、その光景は一層恐ろしい物に見えた。

「ひっ……や、やめ……っ」

涙を流しながら懇願する。
だが男はやめない。
なんのためらいもなく、引き金を引いた。

――ジュッ

「ぃ、あっ!? ひぁあああああああッ!? なにッ!? なに、これぇ……ッ!」

レーザーが腹部に当たり、焼けつくような音がする。
そこから体が熱くなり、その熱が全身に広がっていく。
ただしそれはアーニャが想像していたような、体が焼き切れるような熱さとは別のものだった。
それはまるで、体の内側から疼くような熱さ。

「ははっ効果てきめんだなあ! このビームは女を発情させるんだ」

「はつ……じょう……? んッ、んぁあああ……っ!」

口から漏れる甘い声。
それはもう、悲鳴というよりは嬌声に近い声だった。
どくんどくんと心臓が強く高鳴り、気づけばアーニャは自分の胸と股間を押さえるように悶えていた。

(うそ……私の体、気持ちよく……なって……)

「これは男たちが楽しむためのゲームだからなぁ、用意されてあるアイテムも全部俺たちが楽しむための性能をしているのさ。さーて、どのくらい温まったかなっと」

男はニヤニヤと笑いながら、うずくまったアーニャの背筋をそっとなでる。
その瞬間、背中に電流が走ったかのようにビクンと強く体が跳ねた。

「ひぃあああああああッ!?」

「ははは、いい反応するじゃねーか」

(やだ……やだッ! こんな、私……ッ!)

男の両手が体をまさぐる。
服の上から胸を揉まれ、スカートをめくられ太ももをさすられる。
抵抗しようにも恐怖と痛みと官能的な刺激のせいで思うように動けない。
そんなアーニャの体を、男は好き勝手に触り続ける。

「さわ……る、なぁあ……ッ!! ひぐッ、あぁあッ!?」

男の手がショーツに触れた途端、また体がビクンと跳ねる。

「おいおい、お前のここ、こんなんなってるぜ」

男はアーニャに向けて、ねっとりと濡れた指先を見せつける。

「え……う……うそ……」

少し遅れて、それが自分の愛液なのだと気づく。
アーニャはこの仮想空間に、そんな表現が許されていることすら知らなかった。
自分が今まで活動していたフロンティアアリーナとは全く違うルールの世界。
そんな別世界の常識をまざまざと見せつけられているかのようだった。

「どうやらもう出来上がってるみたいだなぁ」

「――あぐッ!?」

愛液でビショビショになったショーツを少し強めにこすられ、その瞬間頭が弾ける。
もう自分の体の限界が近いことを、アーニャは体で理解していた。

(もう……やめて、これ以上は……ッ!)

いくらそう願っても、男は責めの手を止めない。
それどころかアーニャがより強く感じてしまうところを探し当て、そこを重点的に責めてくる。

「ほらッもう限界だろ? イけやぁ!」

男がさらに責めを強くしたその瞬間、アーニャは限界を迎える。

「ぁッ……そんなっ、つよッ、ンぁああッ!? いぅっ、だめぇええええッ!!」

絶叫と同時に甘い痺れが全身に広がる。
体の震えも、下半身から流れる熱い液体も止まらない。
名前も知らぬ男の手の中で、アーニャはただひたすらに強い快楽に蕩ける。

「あ、ああッ……ンぁ……」

それはアーニャにとって、仮想空間内での初めての絶頂だった。
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