退魔の少女達

コロンド

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救出 1

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この研究施設に入り込んでから連戦に連戦を続けてきたサクラ。
満身創痍になりながらも、決して心だけは折れてたまるかと戦いを続けてきた。
そんな彼女の瞳に、心から信頼しているカナの姿が映る。
その瞬間、必死に保っていた虚勢が崩れ落ちる。
サクラはカナの胸に頭をうずめ、子供のように泣き続けた。
そしてカナも、小さなサクラの背中をそっと抱き寄せ続けた。

「サクラ……口を開けて」

もうどれほどの時間泣き続けたのだろう。
サクラのしゃくり声がおさまってきたところで、今まで何も言わずにいたカナがそう口にする。

「え……」

サクラはくしゃくしゃになった顔でカナの顔を見上げる。
涙で歪んだ視界の中、カナの顔が近づき、そのまま口づけをされる。

「んんッ!?」

サクラは驚いて反射的に顔を離そうとするも背中と頭を強く抑えられ、カナはサクラを離してくれない。

「んぁ……んむぅ……っ」
「ん……ぁ……」

(あぁ、カナ先輩の舌…………気持ち、いい……)

絡み合う舌に頭を溶かされ、サクラは考えることをやめた。
ただ口から伝わるその気持ち良さに体を預けた。

それに何も抵抗することはない。
相手は淫魔ではないのだから。
口元から暖かい感覚が全身に広がり、体に力が湧いてくる。
これは精気の受け渡し、サクラにも経験のあることだった。

「んっ……ぷはぁ………はい、ここまで。サクラ、もう動ける?」
「んァ……ぁ……」

唇を離されても、サクラはまだとろんと惚けた顔をしていた。

「こらこら、物欲しそうな顔しないの」
「……え、いや、あの……ちがっ……」

ハッとして頭に思考力が戻ると、今度は顔を赤くしてもじもじとし始める。
そんなサクラをよそに、カナは立ち上がりサクラに手を差し伸べる。

「立てる?」
「あっ、はい!」

サクラはカナの手を握って立ち上がる。
ついさっきまでは地べたを這っていたというのに、思いの外スッと立ち上がることができた。

「あれ……体、すごく軽い」

サクラも自身の体の軽さに驚く。
普段の体よりもずっと軽く感じるくらいだった。

「すごい、カナ先輩の精気を分けてもらっただけでこんな……おっと」
「サクラっ!」

立ちくらみしたところをカナに支えられる。
とはいえ少し姿勢を崩しただけなのだが、今のカナは過剰なまでにサクラを心配していた。

「無理しなくて大丈夫。いきなり体力全回復、なんて都合のいいものじゃないんだ」
「そう……なんですね。すいません気をつけます」
「それに今与えたのは私の精気じゃない。サクラは今、巫女様の清浄なる精気を受けたんだよ」
「み、みこ……さま? せ、清浄、なる……?」

右上に視線を泳がせながら「あー」と声を漏らすカナ。

「つまり今のサクラはね、いつもより美味しいご飯を食べて元気ってことだよ」

彼女なりにサクラに伝わるよう言葉を選んだ結果がそれだった。

「ん、んん……? わ、分かりました…………?」

いまいち理解していないサクラだったが、とりあえずそう答えておくことにした。

「カナー! どこー?」

そうこうしていると、遠くから誰かの声が聞こえた。
密閉された地下の廊下に、女性の声が反芻する。

「こっち! ……ああ、安心して、味方だから」
「は、はい」
「それと……これ、着て」

いつもの制服姿のカナはカーディガンを脱ぐとそれをサクラに渡した。
そこでサクラはハッとして、自分の体に視線を落とす。
衣服はボロボロに擦り切れ、全身は粘液まみれ。
とても人に見せられる姿ではなかった。

「あ、あぅ……ごめんなさい……」

サクラはカーディガンを受け取ると、自分の体を隠すように羽織った。

「ちょっとー! カナ早ーい!」
「ごめん」

足音と共にやってきたのは妙にラフな格好の女性だった。
ダボダボのTシャツに短いホットパンツがチラリと見える。
およそ敵地にやってきた退魔師の姿には見えなかったが、カナが味方というからにはそうなのだろう。
女性はカナの後ろにいるサクラに気づくと、サクラの顔を凝視する。

「えーっと…………こんにちは、その子がサクラちゃん? 私は退魔師のツバキ。昔カナとコンビ組んでたの」
「え、あ、はい! サクラです! よろしくお願いします!」

深々と挨拶をするサクラを見て、「初々しいなぁ」とツバキが笑う。

気さくそうなツバキの態度を見て安心するサクラだったが、それよりも気になることがあった。
微笑むツバキの後ろには、巫女装束に狐のお面をかけた奇妙な集団がいた。
人数は7、8人ほど。
彼女達は足音も立てずに、ツバキの後ろに立ち続けていた。

「ああ、彼女達も私の仲間だから心配しないで」

サクラの視線に気づいたツバキがそう説明する。

「それにしても…………うわぁ、ゲロ吐きそうな程の淫魔の気配。この先にクイーンが待ってる、ってことでいいのよね、サクラちゃん?」
「あ、はい……この先に淫魔の子を植えつけられた人たちが捕らえられていて、その先に二人のクイーンと強い力を持った淫魔がいて、えっと、でもクイーンの一人はきっと敵じゃなくて、えっと――」
「はいストップ。落ち着いて」

ツバキはサクラの口元に指を当て、焦るサクラを静止させる。

「一応こっちも状況はいくらか理解しているつもりだから安心してちょうだい。まあ確かにサクラちゃんに色々と事情聴取したいところではあるのだけど……うーん、そこの先輩は早くサクラちゃんを安全な場所まで連れて帰りたいって顔してるなぁ……」
「え?」

サクラがカナの顔を見上げると、カナはプイとそっぽを向いた。

「いいわよカナ。サクラちゃんを連れて先に外、出なさいよ」
「……ありがとうツバキ、でも……大丈夫?」
「やばくなったらすぐ逃げるから安心して。それにこっちには巫女様の清浄なる精気もある、きっとなんとかなるわ」

また出てきた知らない単語に、サクラは小首をかしげる。
とはいえ彼女たちの会話を遮ることもできず、ただ黙って大人しくしていた。

「分かった、サクラを安全なところまで連れて行ったら戻ってくるから。ツバキ、焦らないでね」
「はいはい」

なんだか自分が足手まといのようで、サクラはだんだんと申し訳なくなってきた。

(私のことは気にしなくても……って言いたいけど、今は私がここにいること自体が足手まといなんだろうなぁ……)

自分より強い退魔師が来てくれた今、彼女たちの指示に従うのが最良の選択に違いない。
サクラはそう割り切ることにした。

「じゃ、サクラ。急ぎで行くよ」

そう言ってカナはサクラの背と太ももを掴んで体を持ち上げる。

「え? お、おぅわッ!?」

気づけばサクラは、いわゆるお姫様抱っこの持ち方で持ち上げられていた。

「ひあっ、カナ先輩ッ!? ちょ、ちょっとぉッ!」
「おうおう、カナったら王子様見たいなことするじゃん」
「……急ぐよ、サクラ」

囃立てる声を無視して、カナはサクラを抱えたままその場を後にする。

恥ずかしい格好、恥ずかしい体勢で抱えられ、どうしていいか分からなくなったサクラはピクリとも動けなくなり、ただカナに体を預け続けた。


 ***


二人は来た道を逆走していく。
改めて出口までの道のりを見ると、本当に迷宮のような研究施設だ。
今なら外敵を中に入れないための作りになっていることがよく分かる。

「強くなったね、サクラ」
「……え?」

道中ずっと黙っていたカナが口を開く。

「施設の中に淫魔と戦闘した痕跡がいくつもあった。サクラがやったんでしょ?」
「確かに……頑張りましたけど……私なんて勝ったとしてもいっつもボロボロで。クイーンを前に……何もできなくて……」
「ううん、強くなってる。サクラは前よりずっと強くなっているよ」

二人は大きく開けた空間に足を踏み入れる。
そこはサクラが人工淫魔の大軍と戦闘した場所だった。
立ち込める異臭と戦闘の痕跡がそこには残っている。

「ここまでの道のりを見れば分かる。サクラは退魔師として立派に戦った。もう私がいなくても、一人で立派に戦えるんだねって分かったよ」
「カナ……先輩……」

カナの言葉の一つ一つが、サクラの心を満たしていく。

「だから自信を持って、ね?」
「……はいっ!」

ずっと強張っていたサクラの体が和らぐ。
今だけはカナに甘え、その身を彼女に寄せ続けた。

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