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番外編
湖畔の襲撃 1
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こちらFantiaにてリクエストを受けて作成した作品になります。
本編終了後にもしかしたらあったかもしれない物語、くらいの感覚でお楽しみください。
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見渡す限りに広がる青々しい芝。
それを今は夕焼けがオレンジ色に染め上げていた。
「ふふん、初めて建てたテントにしてはいい感じなんじゃないかな?」
テントサイトに建てた自分のテントを、サクラはご満悦な表情で眺めていた。
一度テントの周りを一周して組み立てに問題ないか確認し、その後テントの中に入って大の字で寝転がった。
「はぁ……それにしても、まさか私が一人で仕事を任されるようになるなんて、もう一人前として認められちゃったのかなー?」
クイーン騒動以来、退魔師協会はごたついているようで、カナは自分の持ち場を離れ各地に淫魔退治に赴く日々が続いていた。
場合によってはサクラもカナに同行することもあったが、今回初めてサクラに単独の仕事が任されたのだ。
そうしてサクラはキャンプ場に現れたという淫魔討伐のため、一人山奥のキャンプ場にまでやって来たのである。
「でも一人キャンプかぁ…………はぁ、できればカナ先輩と一緒に来たかったなぁ……」
キャンプ用に買ったテントや、今着ているパーカーとレギンスは今日のために購入した新品。
任務とはいえ少なからず今日という日をワクワクしていたサクラだったが、こうして一人テントの中にいると孤独を感じずにはいられなかった。
ポケットからスマホを取り出し、カナから届いた最後のメッセージを確認する。
『一人でも気を抜かずに自分の役割を果たすこと』
メッセージが来ていることに気付いた時にはすでに圏外だったので、返信はできていない。
「うぅ……早く返信したい。ちゃっちゃと淫魔を倒さないと……」
一通り寝床を確保したサクラは見回りを始める。
あたりには色や形が様々で個性豊かなテントが点々と設置されている。
炊事場の近くではバーベキューを楽しむ女性の姿なども多く見えた。
「流石に淫魔だって、人気の多いところには来ないか」
テントを貼れるエリアは林を跨いだ向こう側にもあるため、キャンプ場全域を確認するのは難しい。
サクラはキャンプ場の地図を確認し、まだ確認していない方向へと歩みを進める。
辺りはどんどん暗くなり、淫魔の活動時間が始まる。
「ん?」
異変を感じたのはそんなときだった。
テントサイトの一番隅、木々に囲まれた人気の少ない場所にポツンと一つのテントが設置されていた。
そこから僅かながら淫魔の気配を感じる。
サクラは自身の気配を感じさせぬようゆっくりと、そのテントに近づいた。
「すいませーん」
テントの前まで来て、声をかけてみる。
返事はない。
「あっ……かっ…………ぃ……」
代わりに聞こえてきたのは、もがき苦しむような人の声だった。
「……っ!? すいません、中に入りますよ!」
勢いよくテントの入り口を開けると、そこにはうつ伏せになりながら苦しむ一人の女性がいた。
虚ろな表情で体を痙攣させている。
「大丈夫ですか!?」
「かひっ……あっ……」
サクラが女性の上半身を起こして声をかけると、女性はパクパクと口を動かし、何かを伝えようとしているかのようだった。
だが何を言おうとしているのか分からない。
女性の口元は濡れていて、まるで溺れているかのように呼吸がおぼつかない様子だった。
(一体何が起きて――)
そう思った直後。
「んっ……がッ! ごぼぁあ……ッ!」
女性の口元から一気に何らかの液体があふれ出した。
「なにっ――――んんっ!?」
そしてあふれ出た液体が、意志を持っているかのようにサクラの顔に覆いかぶさる。
粘性のあるその液体は生物のような動きでサクラの口を塞ぐ。
「んっ……このォッ!」
サクラは力任せにそれを引き剥がし、テントの床に叩きつける。
するとバケツ一杯分くらいのアメーバのようなその生物は、逃げるようにテントの入り口から飛び出していった。
「けほっ……げほっ…………あれは、淫魔……? くっ、待てぇっ!」
サクラも追いかけるようにテントを飛び出す。
林の中に逃げ込もうとしているその淫魔を見つけたサクラは、すぐさま刀を作り出し斬りかかる。
「てやぁあああッ!!」
スライム状の淫魔が半分に切断される。
半分になった片方はべちょりと地面に落ちた後動かなくなったが、もう片方はそのまま林の中へと消えていった。
「くっ、体の半分を失くしても動けるの……? 早く追いかけなきゃ……いや、救護が先か……」
テント内で苦しそうに咳き込んでいる女性を一人にするわけにはいかない。
サクラは女性を抱え管理棟まで連れて行き、すぐさま淫魔が現れたテントの付近に戻る。
「大丈夫、まだ気配をたどれる」
淫魔の姿は完全に見失ってしまったが、まだその気配をたどることはできる。
サクラは淫魔が逃げたと思わしき方向へと足を向ける。
もはや人が進む道ではない林の中を進み続け、しばらく進むと急に開けた場所に出た。
「わぁ……綺麗……」
そこにあったのは月明かりが湖を照らす幻想的な風景。
人工灯が一切ないにも関わらず、ほの明るく光るその景色にサクラの心が一瞬奪われる。
「いや、見惚れてる場合じゃない。淫魔はどっちに……?」
辺りから生物の気配はしない。
サクラは一度息を飲み、淫魔の気配を察知することに集中する。
ほのかにだが、邪悪な気配がこの湖のさらに奥から感じ取れる。
(湖の中……行ける、かな……?)
警戒しながらも、サクラは湖の中に一歩足を踏み入れる。
「冷たっ……でも、足はつく」
危険なことと理解しつつもサクラは二歩、三歩と少しづつ湖の中に足を踏み入れて行く。
湖の冷たさを太ももの辺りまで感じたその瞬間、背後からゾワリとした悪寒が走る。
「……ッ、そこッ!」
水面から蛇のように顔を出してきたスライム状の淫魔。
それをサクラは振り向きながら薙ぎ払う。
スライムは真っ二つになって、水面にぽちゃんと落ちる。
だが、まだ気配は消えない。
今度は左右前後、いたるところから細長く形を変えたスライムが現れサクラに襲いかかる。
「くっ、このっ、無限に湧いてくるっ!」
サクラは襲い掛かるスライムを一つ一つ切り落として行くがキリがない。
「んあっ!?」
そんな時、サクラの足元に何かが絡みつく。
「ぐっ、このおッ!」
サクラは足元に絡みついたそれを斬り払おうと、足元に向けて刀を振るう。
だが、勢いよく振るったはずの刀が途中で止まる。
「えっ、なんで――」
その感覚はスライムを切断した時の感覚とは全くの別物。
ゴムを棒で叩いたような奇妙な感覚だった。
「――ああっ!?」
状況を理解する間も無く、足元に絡みついた何かに足を引っ張られ、サクラは体勢を崩す。
体が水面に浸かり、口内に水が入り込む。
湖の中心の深い場所へとどんどん体を引っ張られ、もう手を伸ばしても水面には届かない。
(まずい……息が……)
必死に口を押さえるも、不意に水中に引きずり込まれた時点ですでに多くの酸素を失っていた。
そんな時、サクラの前に人の形を模した一つの影が現れる。
「んー? あれー? やっぱり、サクラおねーちゃんじゃーん!」
水中にいるにも関わらず、その影ははっきりとした声でサクラに語りかける。
「ん……むっ!?」
湖底まで届く月明かりが、目の前に佇む者の輪郭をおぼろげに映し出す。
(なんで……お前が……っ!?)
サクラは驚きを隠せなかった。
水中でゆらゆらと揺れる半透明な体。
「やっほー、パティちゃんだよー!」
そこにいたのは、過去に倒したはずの海月型の淫魔だった。
本編終了後にもしかしたらあったかもしれない物語、くらいの感覚でお楽しみください。
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見渡す限りに広がる青々しい芝。
それを今は夕焼けがオレンジ色に染め上げていた。
「ふふん、初めて建てたテントにしてはいい感じなんじゃないかな?」
テントサイトに建てた自分のテントを、サクラはご満悦な表情で眺めていた。
一度テントの周りを一周して組み立てに問題ないか確認し、その後テントの中に入って大の字で寝転がった。
「はぁ……それにしても、まさか私が一人で仕事を任されるようになるなんて、もう一人前として認められちゃったのかなー?」
クイーン騒動以来、退魔師協会はごたついているようで、カナは自分の持ち場を離れ各地に淫魔退治に赴く日々が続いていた。
場合によってはサクラもカナに同行することもあったが、今回初めてサクラに単独の仕事が任されたのだ。
そうしてサクラはキャンプ場に現れたという淫魔討伐のため、一人山奥のキャンプ場にまでやって来たのである。
「でも一人キャンプかぁ…………はぁ、できればカナ先輩と一緒に来たかったなぁ……」
キャンプ用に買ったテントや、今着ているパーカーとレギンスは今日のために購入した新品。
任務とはいえ少なからず今日という日をワクワクしていたサクラだったが、こうして一人テントの中にいると孤独を感じずにはいられなかった。
ポケットからスマホを取り出し、カナから届いた最後のメッセージを確認する。
『一人でも気を抜かずに自分の役割を果たすこと』
メッセージが来ていることに気付いた時にはすでに圏外だったので、返信はできていない。
「うぅ……早く返信したい。ちゃっちゃと淫魔を倒さないと……」
一通り寝床を確保したサクラは見回りを始める。
あたりには色や形が様々で個性豊かなテントが点々と設置されている。
炊事場の近くではバーベキューを楽しむ女性の姿なども多く見えた。
「流石に淫魔だって、人気の多いところには来ないか」
テントを貼れるエリアは林を跨いだ向こう側にもあるため、キャンプ場全域を確認するのは難しい。
サクラはキャンプ場の地図を確認し、まだ確認していない方向へと歩みを進める。
辺りはどんどん暗くなり、淫魔の活動時間が始まる。
「ん?」
異変を感じたのはそんなときだった。
テントサイトの一番隅、木々に囲まれた人気の少ない場所にポツンと一つのテントが設置されていた。
そこから僅かながら淫魔の気配を感じる。
サクラは自身の気配を感じさせぬようゆっくりと、そのテントに近づいた。
「すいませーん」
テントの前まで来て、声をかけてみる。
返事はない。
「あっ……かっ…………ぃ……」
代わりに聞こえてきたのは、もがき苦しむような人の声だった。
「……っ!? すいません、中に入りますよ!」
勢いよくテントの入り口を開けると、そこにはうつ伏せになりながら苦しむ一人の女性がいた。
虚ろな表情で体を痙攣させている。
「大丈夫ですか!?」
「かひっ……あっ……」
サクラが女性の上半身を起こして声をかけると、女性はパクパクと口を動かし、何かを伝えようとしているかのようだった。
だが何を言おうとしているのか分からない。
女性の口元は濡れていて、まるで溺れているかのように呼吸がおぼつかない様子だった。
(一体何が起きて――)
そう思った直後。
「んっ……がッ! ごぼぁあ……ッ!」
女性の口元から一気に何らかの液体があふれ出した。
「なにっ――――んんっ!?」
そしてあふれ出た液体が、意志を持っているかのようにサクラの顔に覆いかぶさる。
粘性のあるその液体は生物のような動きでサクラの口を塞ぐ。
「んっ……このォッ!」
サクラは力任せにそれを引き剥がし、テントの床に叩きつける。
するとバケツ一杯分くらいのアメーバのようなその生物は、逃げるようにテントの入り口から飛び出していった。
「けほっ……げほっ…………あれは、淫魔……? くっ、待てぇっ!」
サクラも追いかけるようにテントを飛び出す。
林の中に逃げ込もうとしているその淫魔を見つけたサクラは、すぐさま刀を作り出し斬りかかる。
「てやぁあああッ!!」
スライム状の淫魔が半分に切断される。
半分になった片方はべちょりと地面に落ちた後動かなくなったが、もう片方はそのまま林の中へと消えていった。
「くっ、体の半分を失くしても動けるの……? 早く追いかけなきゃ……いや、救護が先か……」
テント内で苦しそうに咳き込んでいる女性を一人にするわけにはいかない。
サクラは女性を抱え管理棟まで連れて行き、すぐさま淫魔が現れたテントの付近に戻る。
「大丈夫、まだ気配をたどれる」
淫魔の姿は完全に見失ってしまったが、まだその気配をたどることはできる。
サクラは淫魔が逃げたと思わしき方向へと足を向ける。
もはや人が進む道ではない林の中を進み続け、しばらく進むと急に開けた場所に出た。
「わぁ……綺麗……」
そこにあったのは月明かりが湖を照らす幻想的な風景。
人工灯が一切ないにも関わらず、ほの明るく光るその景色にサクラの心が一瞬奪われる。
「いや、見惚れてる場合じゃない。淫魔はどっちに……?」
辺りから生物の気配はしない。
サクラは一度息を飲み、淫魔の気配を察知することに集中する。
ほのかにだが、邪悪な気配がこの湖のさらに奥から感じ取れる。
(湖の中……行ける、かな……?)
警戒しながらも、サクラは湖の中に一歩足を踏み入れる。
「冷たっ……でも、足はつく」
危険なことと理解しつつもサクラは二歩、三歩と少しづつ湖の中に足を踏み入れて行く。
湖の冷たさを太ももの辺りまで感じたその瞬間、背後からゾワリとした悪寒が走る。
「……ッ、そこッ!」
水面から蛇のように顔を出してきたスライム状の淫魔。
それをサクラは振り向きながら薙ぎ払う。
スライムは真っ二つになって、水面にぽちゃんと落ちる。
だが、まだ気配は消えない。
今度は左右前後、いたるところから細長く形を変えたスライムが現れサクラに襲いかかる。
「くっ、このっ、無限に湧いてくるっ!」
サクラは襲い掛かるスライムを一つ一つ切り落として行くがキリがない。
「んあっ!?」
そんな時、サクラの足元に何かが絡みつく。
「ぐっ、このおッ!」
サクラは足元に絡みついたそれを斬り払おうと、足元に向けて刀を振るう。
だが、勢いよく振るったはずの刀が途中で止まる。
「えっ、なんで――」
その感覚はスライムを切断した時の感覚とは全くの別物。
ゴムを棒で叩いたような奇妙な感覚だった。
「――ああっ!?」
状況を理解する間も無く、足元に絡みついた何かに足を引っ張られ、サクラは体勢を崩す。
体が水面に浸かり、口内に水が入り込む。
湖の中心の深い場所へとどんどん体を引っ張られ、もう手を伸ばしても水面には届かない。
(まずい……息が……)
必死に口を押さえるも、不意に水中に引きずり込まれた時点ですでに多くの酸素を失っていた。
そんな時、サクラの前に人の形を模した一つの影が現れる。
「んー? あれー? やっぱり、サクラおねーちゃんじゃーん!」
水中にいるにも関わらず、その影ははっきりとした声でサクラに語りかける。
「ん……むっ!?」
湖底まで届く月明かりが、目の前に佇む者の輪郭をおぼろげに映し出す。
(なんで……お前が……っ!?)
サクラは驚きを隠せなかった。
水中でゆらゆらと揺れる半透明な体。
「やっほー、パティちゃんだよー!」
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