15 / 159
第3章
2
しおりを挟む「ねえねえ、サラち~! そんな怒んないでよ、そうだ! 今度こそ俺とデートしてよ、退屈させないよ♡」
ばちんと綺麗な音が聞こえるほどに完璧なウインクをしてサラにモーションをかけるウィントス。
「丁重にお断りするわ。わたし、精霊様の中だとイグニス様の大ファンなの♡」
こちらも完璧に決まった酒場のアイドルスマイルで応戦するサラ。
「あれぇ、もしかして僕、フラれちゃった?? こんなに僕が頼んでるのに無下にして許されるのはシェラぴとサラちだけだよ~?」
「あらあら~それは光栄ね! でもそうね、そこの他の女の手垢のついた手袋を処分してきてくれたら、考えてあげてもいいわ♡」
「ひどぉいサラち、手垢なんて嫉妬? 大切な思い出だよ♡」
「あら~~そうなのぉ? それにしては、あなたについてイイ噂を聞かないのだけど??」
近づくにつれて、あまりにもとげとげしい会話が耳に入り、シェラはぞぞぞ、と背筋を凍らせた。
モテる者、ふたりの会話だ。
こわい。リア充さすが。リア充こわい。
「あ、あのさぁ……そんなに喧嘩しないで……」
思わず小声になってしまうがおずおずと話しかければ、ふたりは相手に向けていた顔をは全く違う、ぱぁっとした笑顔を浮かべてこちらを見る。
「あぁん、シェラ! 今日も可愛いわね、ふふ、前髪ちょっと寝ぐせが付いてるわ。ランチどれにする? 私のお勧めでいい?」
「シェラぴが今日も可愛いのなんて当たり前だよね♡ シェラぴはいつでもかわいいよ♡」
サラにうんうん! おススメで! と元気よく返事をしたあと、シェラはキッとウィントスを睨んだ。
「かわいいね、じゃないよ! 探したんだよ、ウィンちゃん! 最近ずっと召喚に応じてくれなかったでしょ? 心配してたんだからね?」
「ふふ、風はきまぐれだからね」
ニコニコと人好きする笑顔でほほ笑み、ウィントスはその形のいい瞳でウインクした。
万人が格好いいと称す魅力のあるその姿だが、長い付き合いのシェラには通じない。
「ウインクしてもだめ! こないだの依頼だって、ウィンちゃんの力が必要だったのに……。何度も呼んだんだよ、召喚に応じない精霊とかどうかと思うな?」
「ごめんごめん! じゃあ『ウィンちゃんお願い♡』ってシェラぴが可愛くおねだりしたら、今度こそちゃんと応じてあげるから」
「ふざけないで!」
相変わらずの人をくった態度に、シェラのまなじりが吊り上がる。
それでもウィントスは動じる様子もなく、その少し垂れ気味の甘い瞳を細めてにっこりと笑った。
「ふふ、人間って面白いよねぇ。怒ってるシェラぴもかわいいから、ついついからかっちゃうんだよねぇ、ごめんね、シェラぴ♡」
怒るシェラをあやすようにニコニコとほほ笑みかけ、ウィンは正面からぎゅっとハグをした。
「ひゃっ?!」
いつもこうだ。
召喚に応じないことを咎めても、女の子のナンパや素行の悪さを指摘しても、ウィンのペースに飲まれ、結局いつもこうしてなぁなぁにされてしまうから――
でも、今日は違っていた。
「それよか――ふざけてんのはシェラぴでしょ? どしたの、その魔力?」
「……え?」
ニコニコしていたウィンからの、突然の冷ややかな温度の声にシェラは目を見開いた。
何か変なことでもしただろうか。
それにしても――――魔力?
「な、何、ウィンちゃん? わたし、なんか、変?」
「変っていうかさぁー……。うん、変だよ」
うろたえるシェラに、ウィンの緑の目が一瞬真剣な色に変わった。
そしてシェラの耳元に、唇を寄せて囁く。
「だって、シェラぴの今の魔力――アクアくんのが、べーったり、こびりついててぇ、すっごくいやらしいんだもん♡」
「ちょ、ちょ、ちょちょ、とっ!!??」
思いもよらない言葉に、シェラはうろたえる。
思い当たる節は―――
ありすぎる。
「…………」
頬がかあっと熱くなり、出来事が走馬灯のように思い出されて―――
「ちょっとまって!! 宿! 宿で話そう! 部屋で! サラごめん、注文はまた今度!!」
シェラは叫びながら、ウィントスの腕を掴んで強引に引っ張る。
サラは「オッケー! また来てね!」と明るく笑って、親指と人差し指で丸を作ってくれる。
どうやらシェラがナンパ三昧なウィンを何とかしてくれようとしてくれた、と好意的に判断したらしかった。
「やん、真昼間からオトコを部屋に連れ込むなんて、シェラぴ大胆だね!」
「ちょっと黙って!! ちゃんと説明するから!」
真っ赤な頬をそのままに、シェラはウィンをずるずると宿へと引きずって行ったのだった。
60
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
異世界に転生したら溺愛されてるけど、私が私を好きでいるために努力はやめません!
具なっしー
恋愛
異世界に転生したら、まさかの超貴重種レッサーパンダ獣人の女の子「リア」になっていた元日本の女子高生・星野陽菜(ほしの ひな)。
女性の数が男性の1/50という極端な男女比のため、この世界では女性は「わがままで横暴、太っている」のが当然とされ、一妻多夫制が敷かれています。しかし、日本の常識を持つリアは「このままじゃダメになる!」と危機感を抱き、溺愛されても流されず、努力することを誓います。
容姿端麗なリアは、転生前の知識を活かし、持ち前の努力家精神でマナー、美術、音楽、座学、裁縫といったあらゆるスキルを磨き上げます。唯一どうにもならないのは、運動神経!!
家族にも、そしてイケメン夫候補たちにも、そのひたむきな努力家な面に心惹かれ、超絶溺愛されるリア。
しかし、彼女の夢は、この魔法と様々な種族が存在する世界で冒険すること!
溺愛と束縛から逃れ、自分の力で夢を叶えたいリアと、彼女を溺愛し、どこまでも守ろうとする最強のイケメン夫候補たちとの、甘くも波乱に満ちた異世界溺愛ファンタジー、開幕!
※画像はAIです
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる