発情紋章を刻まれた真面目な召喚士ですが、契約精霊たちに甘やかされて困ってます。

さわらにたの

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第3章

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「ねえねえ、サラち~! そんな怒んないでよ、そうだ! 今度こそ俺とデートしてよ、退屈させないよ♡」

 ばちんと綺麗な音が聞こえるほどに完璧なウインクをしてサラにモーションをかけるウィントス。

「丁重にお断りするわ。わたし、精霊様の中だとイグニス様の大ファンなの♡」

 こちらも完璧に決まった酒場のアイドルスマイルで応戦するサラ。

「あれぇ、もしかして僕、フラれちゃった?? こんなに僕が頼んでるのに無下にして許されるのはシェラぴとサラちだけだよ~?」
「あらあら~それは光栄ね! でもそうね、そこの他の女の手垢のついた手袋を処分してきてくれたら、考えてあげてもいいわ♡」
「ひどぉいサラち、手垢なんて嫉妬? 大切な思い出だよ♡」
「あら~~そうなのぉ? それにしては、あなたについてイイ噂を聞かないのだけど??」

 近づくにつれて、あまりにもとげとげしい会話が耳に入り、シェラはぞぞぞ、と背筋を凍らせた。
 モテる者、ふたりの会話だ。
 こわい。リア充さすが。リア充こわい。

「あ、あのさぁ……そんなに喧嘩しないで……」

 思わず小声になってしまうがおずおずと話しかければ、ふたりは相手に向けていた顔をは全く違う、ぱぁっとした笑顔を浮かべてこちらを見る。

「あぁん、シェラ! 今日も可愛いわね、ふふ、前髪ちょっと寝ぐせが付いてるわ。ランチどれにする? 私のお勧めでいい?」
「シェラぴが今日も可愛いのなんて当たり前だよね♡ シェラぴはいつでもかわいいよ♡」

サラにうんうん! おススメで! と元気よく返事をしたあと、シェラはキッとウィントスを睨んだ。

「かわいいね、じゃないよ! 探したんだよ、ウィンちゃん! 最近ずっと召喚に応じてくれなかったでしょ? 心配してたんだからね?」
「ふふ、風はきまぐれだからね」

 ニコニコと人好きする笑顔でほほ笑み、ウィントスはその形のいい瞳でウインクした。
 万人が格好いいと称す魅力のあるその姿だが、長い付き合いのシェラには通じない。

「ウインクしてもだめ! こないだの依頼だって、ウィンちゃんの力が必要だったのに……。何度も呼んだんだよ、召喚に応じない精霊とかどうかと思うな?」
「ごめんごめん! じゃあ『ウィンちゃんお願い♡』ってシェラぴが可愛くおねだりしたら、今度こそちゃんと応じてあげるから」
「ふざけないで!」

 相変わらずの人をくった態度に、シェラのまなじりが吊り上がる。
 それでもウィントスは動じる様子もなく、その少し垂れ気味の甘い瞳を細めてにっこりと笑った。

「ふふ、人間って面白いよねぇ。怒ってるシェラぴもかわいいから、ついついからかっちゃうんだよねぇ、ごめんね、シェラぴ♡」

 怒るシェラをあやすようにニコニコとほほ笑みかけ、ウィンは正面からぎゅっとハグをした。

「ひゃっ?!」

 いつもこうだ。
 召喚に応じないことを咎めても、女の子のナンパや素行の悪さを指摘しても、ウィンのペースに飲まれ、結局いつもこうしてなぁなぁにされてしまうから――
 でも、今日は違っていた。

「それよか――ふざけてんのはシェラぴでしょ? どしたの、その魔力?」
「……え?」

 ニコニコしていたウィンからの、突然の冷ややかな温度の声にシェラは目を見開いた。
 何か変なことでもしただろうか。
 それにしても――――魔力?

「な、何、ウィンちゃん? わたし、なんか、変?」
「変っていうかさぁー……。うん、変だよ」

 うろたえるシェラに、ウィンの緑の目が一瞬真剣な色に変わった。
 そしてシェラの耳元に、唇を寄せて囁く。

「だって、シェラぴの今の魔力――アクアくんのが、べーったり、こびりついててぇ、すっごくいやらしいんだもん♡」
「ちょ、ちょ、ちょちょ、とっ!!??」

 思いもよらない言葉に、シェラはうろたえる。
 思い当たる節は―――
 ありすぎる。

「…………」

 頬がかあっと熱くなり、出来事が走馬灯のように思い出されて―――

「ちょっとまって!! 宿! 宿で話そう! 部屋で! サラごめん、注文はまた今度!!」 

 シェラは叫びながら、ウィントスの腕を掴んで強引に引っ張る。 
 サラは「オッケー! また来てね!」と明るく笑って、親指と人差し指で丸を作ってくれる。
 どうやらシェラがナンパ三昧なウィンを何とかしてくれようとしてくれた、と好意的に判断したらしかった。

「やん、真昼間からオトコを部屋に連れ込むなんて、シェラぴ大胆だね!」
「ちょっと黙って!! ちゃんと説明するから!」

 真っ赤な頬をそのままに、シェラはウィンをずるずると宿へと引きずって行ったのだった。

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