発情紋章を刻まれた真面目な召喚士ですが、契約精霊たちに甘やかされて困ってます。

さわらにたの

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第3章

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 木漏れ日が差し込む午後の街は、穏やかな風に包まれていた。

 シェラは手すりにひじをかけて、すっかりこの国での居住地となった宿屋の二階からぼんやりと往来を眺めていた。昼下がりの空気は、夢と現実のあいだをふわりとたゆたわせるようだ。

 自分の胸元をちらりと見る。
 ローブの下、手を当ててみても何も感じない。
 ウィンに解呪を手伝ってもらってから、紋章はしばらく落ち着きを見せていた。


 (……ウィンちゃん。結局あの後なーんにもなかった、みたいに普通にしてきたけど……こっちはどんな顔していいかわかんなかったよ……)

 紋章が発動してしまった、あのひと時。
 ウィントスの腕の中で震えた記憶は、心の奥に火種のように残っていた。
 
 けれど、結局宿で目を覚ましたとき、シェラの身体は綺麗に清められ、新しいローブを着せられ――そして、ウィントスの姿はどこにもなかった。
 結局召喚で呼んで「ちょっと、どこ行ってるのよ!」なんて聞くのも――まるで彼女じゃん…なんてはばかられてしまって、結局次の日に街中を探し回り――やっぱり当たり前のように街角で女の子を口説いていたウィントスの姿は、あの日の繰り返しかと思うほどにいつも通りの“チャラい風の精霊”だった。
 軽口を飛ばしながらヘラヘラと笑い、「あっ、シェラぴ♡ 今日も可愛い♡」という決まり文句。

 こんなふうに身体を好きにも、弄んでおいてーー!
 なんて、言えるはずもない。

 (アクアさんだって、そうだよ。結局、あんなことがあったっていうのに……)

 アクアリアスとも、あの後、何度か召喚で呼んだりひとり読書をしている姿を見かけることもあったけれど。
 水面のようなあの瞳で「おや、シェラ様。こんにちは、今日はいい天気ですね?」と通常運転ののんきな挨拶してくるアクアリアス。まっすぐなあの視線に、いつもと変わらぬ礼節。そう、あんなに身体に触れられて、自分でも知らない内側まで触れられていたのに――。

 まるで、あれは夢だったかのよう。
 そう、精霊にとっては人間の存在、契約者なんてそんなものなんだろう。

 (うん、そうだよね。精霊様たちにとっては人間なんて別の生き物。だってウィンちゃんもアクアさんも、本当はあの身体なんじゃない、っていつも言ってるもんね。わたしは――きっと、ただのペットみたいなもんだよね、かわいがってくれてるだけ。――わたしが勝手に意識して、勝手に心を乱してるだけ)

 シェラは天を仰ぎ、目を細めた。
 澄んだ青空に、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。

 幼いころから召喚士の両親に育てられたシェラにとって、記憶は薄いが、多くの精霊が一緒にいてくれる環境は当たり前だった。。
 精霊は大切な存在――家族みたいなものだと、そう思ってきたけれど。

(最近は……ちょっと、遠いかな)

 寂しさは、冷たい風のように胸を通り抜けていった。



 カタン、とその時宿の個人ポストに手紙が入る。
 差出人は――現在シェラの滞在するこのギルド王国・エリーザの長・エリザベス。

「えええ!!?」

 手紙を手にしたシェラは思わず声を上げてしまう。 
 マスター・エリザベス。
 ギルドの長であり、この国の実質の王。 
 彼女からの、直々の手紙だった。
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