23 / 159
第3章
10
しおりを挟む
木漏れ日が差し込む午後の街は、穏やかな風に包まれていた。
シェラは手すりにひじをかけて、すっかりこの国での居住地となった宿屋の二階からぼんやりと往来を眺めていた。昼下がりの空気は、夢と現実のあいだをふわりとたゆたわせるようだ。
自分の胸元をちらりと見る。
ローブの下、手を当ててみても何も感じない。
ウィンに解呪を手伝ってもらってから、紋章はしばらく落ち着きを見せていた。
(……ウィンちゃん。結局あの後なーんにもなかった、みたいに普通にしてきたけど……こっちはどんな顔していいかわかんなかったよ……)
紋章が発動してしまった、あのひと時。
ウィントスの腕の中で震えた記憶は、心の奥に火種のように残っていた。
けれど、結局宿で目を覚ましたとき、シェラの身体は綺麗に清められ、新しいローブを着せられ――そして、ウィントスの姿はどこにもなかった。
結局召喚で呼んで「ちょっと、どこ行ってるのよ!」なんて聞くのも――まるで彼女じゃん…なんてはばかられてしまって、結局次の日に街中を探し回り――やっぱり当たり前のように街角で女の子を口説いていたウィントスの姿は、あの日の繰り返しかと思うほどにいつも通りの“チャラい風の精霊”だった。
軽口を飛ばしながらヘラヘラと笑い、「あっ、シェラぴ♡ 今日も可愛い♡」という決まり文句。
こんなふうに身体を好きにも、弄んでおいてーー!
なんて、言えるはずもない。
(アクアさんだって、そうだよ。結局、あんなことがあったっていうのに……)
アクアリアスとも、あの後、何度か召喚で呼んだりひとり読書をしている姿を見かけることもあったけれど。
水面のようなあの瞳で「おや、シェラ様。こんにちは、今日はいい天気ですね?」と通常運転ののんきな挨拶してくるアクアリアス。まっすぐなあの視線に、いつもと変わらぬ礼節。そう、あんなに身体に触れられて、自分でも知らない内側まで触れられていたのに――。
まるで、あれは夢だったかのよう。
そう、精霊にとっては人間の存在、契約者なんてそんなものなんだろう。
(うん、そうだよね。精霊様たちにとっては人間なんて別の生き物。だってウィンちゃんもアクアさんも、本当はあの身体なんじゃない、っていつも言ってるもんね。わたしは――きっと、ただのペットみたいなもんだよね、かわいがってくれてるだけ。――わたしが勝手に意識して、勝手に心を乱してるだけ)
シェラは天を仰ぎ、目を細めた。
澄んだ青空に、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。
幼いころから召喚士の両親に育てられたシェラにとって、記憶は薄いが、多くの精霊が一緒にいてくれる環境は当たり前だった。。
精霊は大切な存在――家族みたいなものだと、そう思ってきたけれど。
(最近は……ちょっと、遠いかな)
寂しさは、冷たい風のように胸を通り抜けていった。
カタン、とその時宿の個人ポストに手紙が入る。
差出人は――現在シェラの滞在するこのギルド王国・エリーザの長・エリザベス。
「えええ!!?」
手紙を手にしたシェラは思わず声を上げてしまう。
マスター・エリザベス。
ギルドの長であり、この国の実質の王。
彼女からの、直々の手紙だった。
シェラは手すりにひじをかけて、すっかりこの国での居住地となった宿屋の二階からぼんやりと往来を眺めていた。昼下がりの空気は、夢と現実のあいだをふわりとたゆたわせるようだ。
自分の胸元をちらりと見る。
ローブの下、手を当ててみても何も感じない。
ウィンに解呪を手伝ってもらってから、紋章はしばらく落ち着きを見せていた。
(……ウィンちゃん。結局あの後なーんにもなかった、みたいに普通にしてきたけど……こっちはどんな顔していいかわかんなかったよ……)
紋章が発動してしまった、あのひと時。
ウィントスの腕の中で震えた記憶は、心の奥に火種のように残っていた。
けれど、結局宿で目を覚ましたとき、シェラの身体は綺麗に清められ、新しいローブを着せられ――そして、ウィントスの姿はどこにもなかった。
結局召喚で呼んで「ちょっと、どこ行ってるのよ!」なんて聞くのも――まるで彼女じゃん…なんてはばかられてしまって、結局次の日に街中を探し回り――やっぱり当たり前のように街角で女の子を口説いていたウィントスの姿は、あの日の繰り返しかと思うほどにいつも通りの“チャラい風の精霊”だった。
軽口を飛ばしながらヘラヘラと笑い、「あっ、シェラぴ♡ 今日も可愛い♡」という決まり文句。
こんなふうに身体を好きにも、弄んでおいてーー!
なんて、言えるはずもない。
(アクアさんだって、そうだよ。結局、あんなことがあったっていうのに……)
アクアリアスとも、あの後、何度か召喚で呼んだりひとり読書をしている姿を見かけることもあったけれど。
水面のようなあの瞳で「おや、シェラ様。こんにちは、今日はいい天気ですね?」と通常運転ののんきな挨拶してくるアクアリアス。まっすぐなあの視線に、いつもと変わらぬ礼節。そう、あんなに身体に触れられて、自分でも知らない内側まで触れられていたのに――。
まるで、あれは夢だったかのよう。
そう、精霊にとっては人間の存在、契約者なんてそんなものなんだろう。
(うん、そうだよね。精霊様たちにとっては人間なんて別の生き物。だってウィンちゃんもアクアさんも、本当はあの身体なんじゃない、っていつも言ってるもんね。わたしは――きっと、ただのペットみたいなもんだよね、かわいがってくれてるだけ。――わたしが勝手に意識して、勝手に心を乱してるだけ)
シェラは天を仰ぎ、目を細めた。
澄んだ青空に、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。
幼いころから召喚士の両親に育てられたシェラにとって、記憶は薄いが、多くの精霊が一緒にいてくれる環境は当たり前だった。。
精霊は大切な存在――家族みたいなものだと、そう思ってきたけれど。
(最近は……ちょっと、遠いかな)
寂しさは、冷たい風のように胸を通り抜けていった。
カタン、とその時宿の個人ポストに手紙が入る。
差出人は――現在シェラの滞在するこのギルド王国・エリーザの長・エリザベス。
「えええ!!?」
手紙を手にしたシェラは思わず声を上げてしまう。
マスター・エリザベス。
ギルドの長であり、この国の実質の王。
彼女からの、直々の手紙だった。
71
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。
具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。
※表紙はAI画像です
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
可愛すぎてつらい
羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。
初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。
初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。
しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。
***
なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。
ムーンさんでも同じものを投稿しています。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる