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しおりを挟む魔道具なのか、エルナドが視線を送ると天井の明かりは消え、寝台の小さなランプだけが緩く輝きはじめた。
寝台に仰向けに寝転んだシアの上にのしかかるようにして、エルナドは身体を載せる。そして、シアの顎に手を添えてきた。
大きな手だ。自分の顔全体すら軽々と掴めてしまいそうなその手の感触にシアは息を止める。これはキスをされるのかしら、とあいまいな知識の中からそんな考えが引っ張り出されて顔が真っ赤になるけれど、エルナドの瞳は何かを観察するような、どこか冷静な色をしていた。
「よろしくお願いします……」
「あぁ」
何と言っていいのかわからない。とりあえずそう言えばエルナドは短く返事を寄越してシアから手を離した。
「あの、エルナド様はお脱ぎにならないのですか?」
「……ああ。今夜は準備だけしよう」
「準備、ですか?」
「そうだ。子を成すには、性交しなければならない。その準備だ」
「せいこう?」
「私の身体の一部を、きみの胎内に埋める行為だ」
「うめ……、る? んっ!」
トン、と指で少しだけ強く下腹部を上から押され、シアはヒクンと身体を動かす。一瞬、身体全体に何か熱いものが散った。
「どういうことなのでしょうか?」
「……。きみは他の動物のそういった知識もないのか?」
「鳥はよく庭に巣を作っていましたので、てっきり動物はみんな卵でうまれるものなのかと思っていて……。に、人間はそうではないことくらいは知っています!」
シアの言葉に、またエルナドが、困ったような呆れたような、何と言っていいかわからない表情をしたので、シアは口をつぐんでうつむいた。
もう自分は喋らない方がいいような気がする。
「ごめんなさい……」
「きみの所為ではない」
淡々とそう言うと、エルナドはそのままシアの胎からゆっくりと手のひらを下ろした。
ストールの布一枚越しとはいえ、他人に触れられるのは初めての場所。恥丘を静かに辿られ、初めての感覚にシアの身体がかすかにふるえてくる。
無意識に唇を噛みしめた。心臓の高鳴りが大きくなり、なぜかまた泣き出してしまいそうな心地がするので懸命に耐える。
ひたり、とその大きな手が恥丘の上で止まった。
「この股の間から、私の性器をきみに埋める。そして、きみの胎奥にある子の源と結びつくように中に子種を出す。言葉にすればただそれだけのことだ」
「ええと……そ、そんなこと、できるのです?」
「できる」
「じゃあしましょう、今すぐに!」
「今すぐにはできない」
「どうしてです?」
寝室の薄闇の中、エルナドは静かにシアを見つめていた。そしてゆっくりと首を振る。
「性交は準備をしなければ内臓を裂くような行為だ。女側に負担がかかる行為でもある。それに子を成すのだぞ」
「わたし、大丈夫です! たぶん耐えられます!」
「よくわからないことに、無防備に突っ込んでいくなとさっき言っただろう」
「……そう、でした」
諭すような言葉に、シアはまた恥ずかしくなる。
あくまでも淡々と語ってくれるエルナドだが、この説明することも彼に負担をかけているのではないか、と思い当たりシアはますます身を縮こませた。
「ごめんなさい……」
「だから今夜はまず受け入れる準備をする。こういった行為は初めてだろう、嫌だったらすぐに止める。少しでも痛みや嫌悪感があったら言って欲しい」
「はい、……っ!」
シアの背中にエルナドの手が回った。何をされるのか、と警戒していたシアは、急に優しく抱きしめられて目を見開く。髪をふわりと撫でられ、そのまま上から包まれるようにすっぽりと覆われ、まるで寝台の上でエルナドに閉じ込められているような形になった。
暖かく、しっかりとした腕の力にシアの心はそわそわするが嫌ではなかった。
誰かに抱きしめられたのなど、遠い昔だ。いつだったかすら既に思い出せない。
そのままするするとゆっくり背中をさすられて、なんだかなぐさめられているような心地がした。
優しい手だ、とシアは思う。
大きくて、安心する。
記憶におぼろげにあるお兄様の手のようだ。
「なんだか胸の奥がポカポカしますね。うっとりします」
明るい声音のシアに、エルナドは一呼吸おいて尋ねた。
「きみは”黒”が嫌いではないのか?」
「嫌いじゃない、というか、ええと……。よく知らないのに嫌うのもおかしいなって、そう思っています。わたし、ほとんど屋敷から出たことがなかったので、黒の方とこうして会うの初めてなんです」
「……そうか」
エルナドは、黙ってその腕をシアの背に回したままじっとしていた。
密着する身体。服越しではあるのものの、触れる男の硬い身体と匂いに、シアの鼓動はますます激しくなる。体温をなじませるようにしばらく止まっていたその手が、ゆっくりと動き順番に身体を辿っていった。
ストールの上からそっと撫でられる刺激に、シアの柔らかな身体はふつふつと熱を帯びていく。
寝室を満たすのは、かすかな衣擦れとふたりの吐息だけ。
さっき巻き付けてもらったストールと同じ匂いがして、さりげなくシアは鼻先をエルナドの身体に近づけた。
――これがエルナド様の匂い。
「いい匂い……とってもあたたかくて……きもち、いい、です、ひゃっ!?」
大きな手が頬から降りて首をなぞり、自分の身体を辿っていく。耳を掠めた指先に思わず変な声がでてしまった。
くすぐったいのとも少し違う。どこかむずむずする、甘いかゆみのようなものが、エルナドに触れられた場所から広がっていく。
一枚を隔てただけの肌をなだめるように触れられる優しさは、シアにとって初めての感覚だった。
「ん、ぁ……」
鎖骨からゆっくり胸を辿られ、シアの唇から甘い吐息がこぼれた。無意識に眉が寄り、ぎゅう、と汗の滲んだ手のひらが寝台のシーツを握りしめる。
薄い胸だがふくらみは確かにある。ストール越しに触れられるとビクンと身体が跳ね、同時にふるんとかすかに揺れた。
はぁ、と甘い息が漏れて身をよじれば、一度エルナドは静かに手を引いた。
「どうか……なさったの、ですか?」
「苦しくないか?」
「いいえ、なんだか変な感じですけれど、苦しくはないです。ただ熱くて……お腹の奥が、くつくつ鍋のように煮立てられているというか」
「鍋か」
自分の表現はおかしかっただろうか、とシアは不安になった。エルナドはどこか面白そうな顔で自分を見ている。
ええと、と恥ずかしくなりながらもシアはつづけた。
「あの、もっと触れて欲しいです。胸に触れられると、ちょっとくすぐったくて、あったかくて……エルナド様の手が触れた場所が全部気持ちよくなっていくんです」
シアの言葉は本心だった。
性の快楽を全く知らないシアは、そうたどたどしく感じたままに説明する。何が恥ずかしいかもわからない彼女のあけすけな言葉に、そうか、とだけ答えたエルナドは、覆うようにしていた手のひらを指先だけに変えて再び胸への愛撫を再開した。
「んう……!? あっ、……ゃ、あっ!」
胸への刺激にストールを握りしめていたシアの手から力が抜け、覆っていたストールがするりと身体から落ちてしまう。白くひかえめな胸が露わになった。
「あ、あの……や、っ」
ピン、と張った桜色の頂を目にしてシアの顔は真っ赤になる。
こんなふうに自分の身体を見るのも初めてだし、さっきまでとの違いにどぎまぎしてしまう。これで大丈夫なのかしらと思うけれど、エルナドの手は止まらないし、おそらくこれでいいのだろう。
彼はただゆっくりと、シアの身体を撫で続けている。
止まらない指先は胸の下を辿って頂へと這い、その先端に咲いている突起を指の腹で擦るようにして軽く触れた。
「ぁ、うぅんっ!?」
思わず大きな声が出てシアは口元を抑えた。
今の声は何だろう。なんだか鳴き声みたいな声を上げてしまった自分が恥ずかしくなり、頬がますます熱くなった。
「ご、ごめんなさい、こんな、鳴き声みたいな声……」
「気にしないでいい」
「はい……っ、ん、ふぅ……っ」
怒られてもあきれられてもいないようでシアはホッとする。
そのままエルナドの指の腹はシアの胸の突起を愛撫し続け、シアは喉奥から勝手に出る甘い声を上げ続けた。
さすり、撫で、時折押されるようにグッと潰されて、指に二本で摘ままれると、全然違う場所なのにキュウっとなぜか下腹部のあたりが苦しくなる。
「や、ぁ、あっ……っ、もう、だめです……」
しばらく愛撫され続け、やっと胸からエルナドの手が離れたときには、シアの瞳にはうすく涙の膜が張り、荒く息を吐いていた。
まるで駆けてきたかのような吐息。身体のうちがわがくつくつと相変わらず熱く、なんだか脳内がぼうっとしてくる。
「大丈夫か」
「はい……。でも熱くて、からだも、あたまも、ぼうっとしています……」
「性交するときは興奮でこうなる。気にしなくていい」
「はい……、んふ、ぅ……ぁあっ」
次は腰に直接触れられ、鼻から抜けるような声が出た。
声が止まらない恥ずかしさで、シアは自分の手で口を覆うが、目の前のエルナドは変わらず目を伏せ気味にしているため表情がよくわからない。
わたしが変な鳴き声を出して身体も鍋で煮込まれたようになっているのに、なんだか不公平だわ、とシアは思った。しかしその感情も、すぐに熱い波に攫われていく。
エルナドの手が触れるたび、シアの身体は応えるようにけなげに震えた。
「痛くないか」
「はい、すごく気持ちいい、です、……ん……ぁ、」
合間にそう問われ、シアも感じるままに言葉を返す。ぼうっと浮かされるような心地がしていた。
太ももをすり、と擦られてまた鼻奥から声が出てしまう。慌てて口に手を当てるが、クンクン鳴くような自分の声は止まらない。
声は出していいって言われたもの、と、もうシアは開き直ることにした。
「ん……ぁ……くぅんっ」
あたたかな湯につかっているような感覚。
そのまますり、と脚を何度も撫でられて、くすぐったいようなむずがゆい心地にどうにかなってしまいそうだった。
額をそっと指で拭われて、自分が汗を掻いていることに気づく。
頬が赤らむけれど、その指先が優しくて気持ちがよかった。エルナドの顔をみれば彼の額にもうっすら汗がにじんでいて、シアはそっと手を伸ばしてその額をなぞる。
「!」
「あの……エルナド様も汗が……。苦しくはないのですか?」
「私は大丈夫だ」
「よかった、です」
ホッと息を吐いてシアは瞳を伏せる。
目を閉じれば感覚が鋭敏になり、ますます身体が熱くなるような心地がした。
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