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エピローグ/後日談
28:つなぐ未来に②
しおりを挟むこの本も”ハズレ”だ。
静かに頁を閉じる。冷えた指先が、紙の端を滑った。
六つの鐘が塔の上で鳴り響くのを聞き、本を戻す。彼女が起きる時間だ。部屋に戻らねば。
指を繰って棚に向かって印を取る。魔力をふわりとかければひとりでに本は綺麗にならび、ガタン、と鈍い音を立てて一段奥深くにその姿を隠していった。
エルナド自身、子に固執していたわけではない。だが毎回胎奥に出すときに自分の子を孕めばいいと思っている。もちろんニグラードの家を継ぐものとして男児が望まれているのは知っているが、そんなことはどうでもいい。エルナドはただ子が欲しいのではなかった。シアとの未来が欲しいのだ。
そのまま書庫の扉を押し開ける。朝の日差しが伸びる廊下を歩くエルナドの足取りは、軽くも重くもなく、ただまっすぐだった。
夫婦の寝室に静かに戻ると、そこは昨夜愛した名残のまま、裸体をシーツにくるませたままのシアが、寝台の上でころんと横倒しになって眠っていた。窓のレースのカーテンを透かすうっすらとした陽の光に照らされて、プラチナブロンドの髪が枕に広がって美しい光の海のようだ。
ふと寝返りを打ったその顔に、長いまつげの影が落ちていた。
エルナドは静かにその隣に滑り込むと、小さな背を抱き寄せる。華奢で、やわらかい身体。しっとりとした肌に透けるような白。ふわりと触れる髪からは、ほのかに甘いにおいがする。
大切な、大切な、愛しい妻だ。
「……シア」
つい漏れてしまったその声に、かすかに瞬きをしてシアが目を開ける。
「……エル? ふふ、おはよう……?」
「すまない、起こしたな。まだ眠るか」
「ううん、だいじょうぶよ……あなたは起きるでしょう? じゃあ一緒に起きるわ」
一緒が、いいもの。そう言って甘えたように小さな手が自分の胸元に触れてくる。
エルナドはその手を取ると、そのまま自分の唇へと押し当てた。
「……ふふ、エル? どうしたの、急に」
まだ少し眠たいのか、シアはどこかとろんとした表情で、くすぐったそうな声を上げて笑う。
何でもないよ、と優しく囁いてその姿を見つめた。
こうしてずっと、彼女が自分の隣で笑っていてくれるのなら、本当に何もいらないと本気でそう思う。
自分のいないところで、もう泣かないで欲しい。傷つかないでいて欲しい。
――そのためにも、早く子を成すために解決策を見つけなければ。
焦りを胸の奥に沈め、エルナドは愛しい妻の唇に唇を重ねた。ん、と漏れる声はすでに濡れている。そのまま舌を絡めれば、昨晩散々シアの胎奥へと吐き出した自らの雄が、またそこに入りたいと疼き始める。
「んっ……もう、よして」
「そんな抵抗では、煽られるだけなんだが」
「エルのバカ……」
ぽす、と軽く胸板を拳でたたかれる。一瞬で真っ赤になってしまったすべらかな頬に潤んだ紫の瞳。怒りながらも、重なった次の口づけはシアからだった。
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