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しおりを挟むヴィオレッタが暮らすのは、魔導公国ラダマンテュス。
魔導という名がつくけれど、今では体内の魔力を操って指先で術を描く「魔術」が使える人間はそこそこ珍しい。
そしてそのほとんどはスカウトされ、中央公都で魔術学院に通い「国家魔術師」となる。
上級貴族と同じ特別階級になれて、さらには破格の給料。
ヴィオレッタの弟も国家魔術師として働いている。
でもヴィオレッタは、このふるさとで生きる道を選んだ。
(国のためなんて。私にはちょっと荷が重すぎるわ)
階段を駆け下りながら、ヴィオレッタの白い指先がほのかにきらめく。
淡い光が踊り場の花瓶の埃をふわりと払い、手すりも床もピカピカになった。ヴィオレッタが得意な魔術は、掃除を中心とした家事魔術とちょっとした治癒魔術だから。
派手な弟と一緒に育ったせいか、ヴィオレッタはどこか控えめだ。引っ込み思案ではないけれど、誰かを支える方が性に合っていると思う。
母亡きあと、自分と弟を育ててくれた女将さんと姐さんたちには本当に感謝している。だからこのゴズの街で恩返しをしながら生きていくつもり。
そんな自分の人生に、ヴィオレッタは満足している――おおむね。
おおむね、なのは「ある男」のせいだけれど。
男の名は、ニコラス=ラダマンテュス。
称号として、国と同じ「ラダマンテュス」の名を与えられたエリート中のエリート。
この街・ゴズに魔獣討伐の指揮官として派遣されている彼は、ヴィオレッタの心にしつこく居座り続けている――主に、性的ないやらしい意味で。
ふと脳裏に浮かんだ夜の時間のアレコレをかき消すようにぶるぶるっと頭を振る。
そのまま玄関ホールを大股で突っ切ると、ヴィオレッタは勢いよく両手押しの華やかな扉を開いた。
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