媚薬を作っただけなのに!

さわらにたの

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「早速本題に入りますが、これはメル嬢、貴女が作ったものに間違いないですね?」

 星王国騎士団・副団長室。
 テーブルを挟んで向かい合う、わたし――国家錬金術師・メルと副団長・アレクディール様。
 コトリ。
 固い音を立てて、アレクディール様の白手袋をはめた大きな手が、わたしの媚薬をそのテーブルに置いた。小瓶に入ったどぎついショッキングピンクの液体が、ちゃぷんと揺れる。

「はい、そ、そうですけど……」

 いまさらごまかす気も、ごまかせる気もしない。
 喉奥から情けない声が漏れそうになったけど、きゅ、と白衣の裾を握って心を奮い立たせて答えた。国家に所属する錬金術師の証であり、誇りでもある金糸の刺繍の入った白衣だ。国家錬金術師の作る薬品リキッドには、全て瓶底にサインが入っている。アレクディール様の長い指が、くるっと小瓶をひっくり返せば、そこにはしっかりとわたしの工房クリエ・「ハルパ」の文字が刻まれていた。

 副団長・アレクディール様。この国に知らない者はいない、この星王国騎士団の「太陽と月」コンビの一人だ。太陽が赤髪の団長・ラファエル様、月が黒髪の副団長・アレクディール様ね。
 誰にでも優しい王子様みたいに明るい太陽のラファエル様に、クールな鉄面皮、月のアレクディール様。王都の女性人気を二分する若きイケメン騎士ふたりだ。
 でも、きゃあきゃあ騒がれてるラファエル様と違って、若干アレクディール様を見る目には畏怖が含まれてると思う。わかるわかる、だってめちゃくちゃ美人だもん。なんだか美しい石像の前に立ってるような気がして、こうやって前にいるだけでも緊張しちゃう。

 でもそんなことを考えてる余裕はない。
 このひりついた雰囲気。
 わたしの薬で何か問題が起きちゃった、とかそういうことですか……?

 月に一度、回復剤ポーションを納めている騎士団からの呼び出しが来た時、「わぁい! 増数かなあ~、臨時収入!」なんてのんきなことを考えていたわたしを引っ叩きたい。目の前で座るアレクディール様の鬼気迫る表情と鋭い金の瞳からすると、この先に楽しいことが待っているとは絶対に思えなかった。

「まさか貴女が、ポーション以外にもこんなものを作っていたなんて」
「こ、こんなものって……! そんな言い方ひどい……ような、気がします……けども……」

 鋭いその金の瞳に睨まれると、どうしたって弁明はモゴモゴしてしまう。
 美形に睨まれながら話すなんて初めての経験だし! 
 途中までの威勢を失い、わたしは碧の瞳を伏せて床のふかふかしている深紅の絨毯を見つめた。ついもじもじと頭のうしろでひとつの三つ編みにしている金髪を撫でつけてしまう。

「発情をもよおし、乱れるための薬に「こんなもの」以外のどんな呼称が? 実際、騎士団で問題が起きているんです」

 ひええ、やっぱり実害が出ちゃってるんだ……。
 わたしは身体を小さくして罪状を聞くことにした。

「元々問題化していた騎士たちの晩婚化、それによる出生率の低下が解決しています」

 ふうん。

「また若年層が家庭を持つことで騎士団内での落ち着きが産まれ、命令系統が通りやすくなり、喧嘩などの仲裁が取り持たれることによって内部の空気が穏やかになってきました」

 あれ?

「王に危惧されていた独身騎士たちの婚姻率がとうとう七割を超え、残りのうち、二割も相手を見つけつつあります」

 あれれれ?

「反対に離婚率は低下、男女の痴情のもつれによる人間関係の軋轢も減っていると」
「あのぉ……聞いてると、それっていい事ばっかりじゃないですか?」

 こほん、とせき込んだアレクディールさん。
 いい事な自覚はあるみたいだ。

「ですが。深夜の警邏中、物陰で”そういう"場面に遭遇する機会が増えてしまって、その」
「………」
「極めて、不快です」

 そういう場面。それはまぁ、致してらっしゃる現場、だろう。
 もー! 皆さんちゃんと個室で使ってくださいよ!

「そういった行為は、時と場所、節度を保ってすべき行為でしょう。それを助長させている罪は重いです」
「は、はい! そ、それは、そう、ですね……」

 話題が話題だけに、つい、わたしも顔が真っ赤になってしまった。
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