精霊魔術師様は、ずっと見ていたらしいです。

さわらにたの

文字の大きさ
12 / 17

12*

しおりを挟む
「ケビンネ、様……」

 切れ長で格好いい翡翠色の瞳。通った鼻筋に、形のいい顎――最初に触手でぐるぐるにされた時より、ずっとドキドキしてます。
 
 路地裏で色々された時には、ただびっくりして身体だけがドキドキしていたけれど、今は、ちがいます。きっとうっすら、ううん、少しずつ、わたしケビンネ様のこと――好きになってきてます。
 口が悪くて、子どもたちと同程度レベルの悪態をつくような方ですけど、所々に優しさがあって、まだよくわからないですけど、わたしのことをずっと見ていてくれていたってわかる、暖かさが所々ににじむ。そんな彼のことを――わたしは――。
 でも。

「っ、ぁっ!!」

 胸を優しく揉まれて、そのままするっと服がたくし上げられて――丸見えになってしまったお腹をたどって、大きな手のひらが身体の上にするりと這います。
 熱い。ケビンネ様の手首から、路地裏の時みたいにしゅるりとすべすべのリボンみたいな黒い魔触手が出てきて、わたしの首元、鎖骨、それに胸の先端――すりすりと数本、ねだるように絡まってきました。
 刺激されて、膨らむ胸の先端。吐息が浅くなって、体の奥がジンジンと熱くなって、触手とケビンネ様の手のひらが触れる場所全部が、燃え上がるみたいに熱くなっていきます。

「ノノア……、ノノア」

 ケビンネ様の上ずってる声も、すりついてくる触手も、嫌じゃないです。細い触手が胸の先端にキュウキュウ巻きついて絞るようにされて、お腹の奥がキュウウンと啼きました。ケビンネ様の指腹がわたしの下腹部を伝いおちて、股の間にのびてーーすりすりと花芯を捕らえて擦ります。

「あっ……あっ……」

 上擦った声をあげちゃいます。触れられてる場所が、ゆらゆらと熱を持って震え始めました。身体全体が何だかおかしくて――震えて、心がドキドキ、ドクドク、変な音を立ててます。
 その時、ケビンネ様の身体が上から寄せられて――わたしのお腹に何か硬いモノが、ゴリッと当たりました。
 硬くて、すごく熱い、太い棒……みたいな。太くて、大きくて、たくましい……ええと、これ。これって、その……男の人のアレ、です、よね?
 見上げれば翡翠色の瞳。
 綺麗な美しかった色がどろどろの欲に濁って、ギラギラしていました。

「や、ぁっ……!」

 思わず、身をよじってしまいます。こんな、の……ちょっと、怖い……です!

「や、やだっ、……っ、ダメ……」
「ノノア?」
「ダメ、ですっ!!」

 身体が、震えていました。別に大丈夫。大丈夫なのに。そう心に言い聞かせてもビックリしちゃってました。夫婦なんですから。大丈夫なはず……ケビンネ様と一日一回って、約束したもの。それにこれは精霊様のために大事なことだから。お食事っていってましたよね? きっと、しなくちゃいけないこと、だから。
 必死に頭の中でそう言葉が回るんですけど、それでも、その、ちょっと、怖くて。

 視界が滲みました。情けないです。じわりと滲んだ熱い涙が頬をつたって落ちました。

「ごめん、なさい……」

 小さな声でそう呟いたわたしを、覆いかぶさっているケビンネ様がじっと見つめています。
 すりすりとわたしの手首を足首に巻きついていた数本の触手が、しゅるしゅると外れて消えていきました。

「……すまん」
 
 ケビンネ様がそんな顔しなくていいのに。わたしが、約束を守れてないだけなのに。
 そのお顔がなんだかとっても辛そうで、寂しそうで、苦しそうで。なんだかわたしまで悲しくなってきて、また涙がわたしの頬をつたっていきました。

 怖い、というよりも、たぶん、まだよくわからないんです。
 身体が上手く動かない。だってキスすら、ちゃんとしたことがないのに。ケビンネ様だって「好きだ」って「愛しの花嫁」なんていうくせに、常識はないし、めちゃくちゃするし、本当に好きかわかんないし。

「あの、ケビンネ様。わたし、ヤギさんの、そういうことしか、みたことなくて……よく、わからなくて。ヤギさんは数秒で終わるんですけど……、その、ケビンネ様は数秒じゃない、ですよね?」
「……。さすがに、そんなに早漏じゃないな」

 ケビンネ様は、おどけたようにそう言って静かに笑いました。
 空気を和ませるみたいに。

「……わかった。もう、しない」

 ふわりと温かい気配がしてハッとしました。ケビンネ様が優しい手つきでさっきの柔らかな浄化魔法をかけてくれたあと、わたしの髪を撫でてくれています。
 変な顔したり、睨まれたり、怒られるかと思いましたけど、違いました。すごく、優しい瞳です。
 
「……そちらのほうが、お前にとって、いいだろうしな」
「? どういう、意味、ですか?」

 きょとんとしているわたしの身づくろいをさっさと整えて横にばふっと寝転ぶと、ケビンネ様はニヤリと笑いました。

「からかうのはここまでにするから、お前も早く帰って寝ろってことだ。それともなんだ、迫ってフられた可哀想な旦那様と添い寝くらいはしてくれるのか?」
「でも精霊様にとっては"お食事"で、大事なこと、なんじゃ……」

 わたしのその言葉に、ケビンネ様はハッと鼻で笑いました。
 口の端をゆがめる、ちょっと悪い笑い方です。さっきまでの真剣な傷ついたような悲しい笑顔とは、全然違う雰囲気でした。

「やっぱりニンゲンはおめでたいな、いや、ノノアの頭がめでたいのか」
「!! も、もしかして……ケビンネ様……! わたしのこと騙したんですかっ!?」

 隣に寝転んだまま肩をすくめて何も言わないケビンネ様。
 もしかして、ただエッチなことがしたいだけ……だったんですか??
 ひどい、ひどすぎます!  へ、変態な上に嘘つきだなんて……ひどい人、じゃなくてひどい精霊様!
 真っ赤な顔をしているわたしに、ケビンネ様は薄く笑いました。

「俺はノノアを愛しているからな、無理強いはしない。まぁ……力になってやるさ」

 さらりとそう言って、しっし、とほとんど納屋を追い出されるようにして――扉が閉まりました。
 ホッとしてる自分は確かにいますけど……本当に、これでよかったんでしょうか?

「おやすみなさい……ケビンネ様」

 納屋の前でぽつりとそうつぶやいて、わたしは孤児院の建物に戻りました。
 ――この時の、いいえ、出会った時からの、ケビンネ様の優しさも知らないままで。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖痕を奪われた無自覚最強聖女、浄化力が強すぎて魔界の王子を瀕死(HP1)にしてしまう。物理的に触れられないのに、重すぎる愛で逃げられない

唯崎りいち
恋愛
「役立たず」の聖女アイドル・私。教皇に「悪魔の聖痕だ」と追放され、魔界の森に捨てられたけれど……実は私の聖痕、世界を浄化しすぎる最強の力でした。 そこで出会ったのは、呪いでHP1の瀕死な魔界王子。 「君に触れると浄化で死にそうだが……一生離さない」 いや、死んじゃいますよ!? 王子が写真をばら撒いて帝都を大混乱に陥れる中、私は「専属契約(ガチ恋)」から逃げられないようで――!? 勘違い聖女と執着王子の、ドタバタ魔界ラブコメ!

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜

水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。 目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。 女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。 素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。 謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は… ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。

結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!? 本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。

家政婦の代理派遣をしたら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
このご時世、いつ仕事がクビになるか分からない。社内の派遣社員が一斉にクビを告げられた。天音もそんな1人だった。同じ派遣社員として働くマリナが土日だけの派遣を掛け持ちしていたが、次の派遣先が土日出勤の為、代わりに働いてくれる子を探していると言う。次の仕事が決まっていなかったから天音はその派遣を引き受ける事にした。あの、家政婦って聞いたんですけど?それって、家政婦のお仕事ですか!? 強面の雇い主(京極 樹)に溺愛されていくお話しです。

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

処理中です...