6 / 6
第五章
しおりを挟む
親戚の集まりがあってから、お婆ちゃんに風邪の症状がでるまで半月ほどあった。その間、私とメイはワクチン接種があった。その日からだった。家の中に私の嫌いなマタタビの匂いがするようになったのは。
マタタビは多くの猫は酔ったような感覚になるが、興味のないものや合わないものもたまに存在する。私もそうだった。あまり好きではない。その匂いが、かすかにワクチン接種の日から家の中でするような気がしていたのだ。
ワクチン接種の日なら、私に勘づかれないで2階に猫を連れて行けるだろう。あの日、雅人の運転する車で千菜美とお母さん3人で、動物病院に行った。
確か、混雑していたので、雅人は車にいるといって2人と院内に入った。結構待たされたので、雅人に犯行は可能だろう。その日に恭平や由美にも犯行は可能だが、猫アレルギーの由美には難しいように思える。恭平にはまず動機がない。由美は介護を押しつけられるかもしれないという動機があるが、恭平は実家を継いでおり、自分に飛び火しないのに手を汚す必要を感じないタイプだ。犯行が可能なのは雅人だけだ。
何らかの方法でマタタビをお婆ちゃんに付け、野良猫をつれてきて顔まわりに擦り寄らせる。猫好きのお婆ちゃんは何も考えず、触るだろう。
この家は閑静な住宅街で、人通りは多くない。警察は犯行日も特定できないのに、雅人が当日こっそり家に帰っていた事実にたどり着くのは難しい。何か奇跡が起きない限り、この事件は迷宮入りするだろう。
その後、警察も調査を続けてはいるものの、真実には辿り着かない様子だった。葬式は病死として行われ、またいつもの日常が戻ってくるだけだった。お母さん達も、子供が怪しいと思いながらも、そこには触れないようにしている。お婆ちゃんが子供たちに冷たく当たるのを止められなかった後ろめたさなのか、わが子可愛さなのか、猫の私には分かるはずもない。
落ち着いた頃、お母さんとお父さんが出かけている日を見計らって、由美が訪ねてきた。答え合わせが始まると私は勘を働かせ、窓際のカーテンの裏へ隠れる。ここなら話も聞こえるし、隣の部屋に追いやられることもないだろう。
由美と奈津美、雅人が揃う。やはり3人の共謀のようだった。
「雅人も色々手伝ってもらってごめんなさい。うちの兄にはどうしても頼めなくて」
由美が申し訳なさそうにいう。今回の作戦では猫アレルギーの由美には関われない部分がある。
「いや、仕方ないよ。あいつに頼めば上手くいかなかったかもしれない。俺だって、マタタビを溶かした水でお婆ちゃんの顔を拭くことと、野良猫を連れてきたことしかしていない。そんなに気にしないでくれよ」
マタタビを水に入れるという発想は私には出てこなかった。
「そんなこと言ったら、私なんか何もしてないよ。結局アリバイをお互いで作って話を合わせる必要性もなかったしね」
確かに奈津美も何もしていない。お母さんが途中で雅人の車がないことに気づかせないようにすること位だろう。
「ううん。私の案に、賛成してくれただけ嬉しかったもん……」
由美は涙ぐんでいる。どのような背景があるか分からないが、彼女は相当お婆ちゃんに傷つけられたのだろう。
3人はしばらく話をしてから、お母さんが戻る前に解散していった。彼ら以外で犯行を知っているのは私だけ。しかし猫の私には伝える方法も義務もない。
猫は動物なので殺されたことを恨んでも、殺したものを責めたりはしない。それが自然の摂理だから。私には関係のない話なのだ。
それでも、お婆ちゃん以外に被害者がいるとしたら利用された猫であろう。そいつは、いきなり連れてこられ興奮状態にされて放されたに違いない。何も知らないまま。いや、知っていたのかもしれない。
なんにせよ、今回の事件は猫しか知らない犯罪なのだ。犯行が暴かれるまでは。
マタタビは多くの猫は酔ったような感覚になるが、興味のないものや合わないものもたまに存在する。私もそうだった。あまり好きではない。その匂いが、かすかにワクチン接種の日から家の中でするような気がしていたのだ。
ワクチン接種の日なら、私に勘づかれないで2階に猫を連れて行けるだろう。あの日、雅人の運転する車で千菜美とお母さん3人で、動物病院に行った。
確か、混雑していたので、雅人は車にいるといって2人と院内に入った。結構待たされたので、雅人に犯行は可能だろう。その日に恭平や由美にも犯行は可能だが、猫アレルギーの由美には難しいように思える。恭平にはまず動機がない。由美は介護を押しつけられるかもしれないという動機があるが、恭平は実家を継いでおり、自分に飛び火しないのに手を汚す必要を感じないタイプだ。犯行が可能なのは雅人だけだ。
何らかの方法でマタタビをお婆ちゃんに付け、野良猫をつれてきて顔まわりに擦り寄らせる。猫好きのお婆ちゃんは何も考えず、触るだろう。
この家は閑静な住宅街で、人通りは多くない。警察は犯行日も特定できないのに、雅人が当日こっそり家に帰っていた事実にたどり着くのは難しい。何か奇跡が起きない限り、この事件は迷宮入りするだろう。
その後、警察も調査を続けてはいるものの、真実には辿り着かない様子だった。葬式は病死として行われ、またいつもの日常が戻ってくるだけだった。お母さん達も、子供が怪しいと思いながらも、そこには触れないようにしている。お婆ちゃんが子供たちに冷たく当たるのを止められなかった後ろめたさなのか、わが子可愛さなのか、猫の私には分かるはずもない。
落ち着いた頃、お母さんとお父さんが出かけている日を見計らって、由美が訪ねてきた。答え合わせが始まると私は勘を働かせ、窓際のカーテンの裏へ隠れる。ここなら話も聞こえるし、隣の部屋に追いやられることもないだろう。
由美と奈津美、雅人が揃う。やはり3人の共謀のようだった。
「雅人も色々手伝ってもらってごめんなさい。うちの兄にはどうしても頼めなくて」
由美が申し訳なさそうにいう。今回の作戦では猫アレルギーの由美には関われない部分がある。
「いや、仕方ないよ。あいつに頼めば上手くいかなかったかもしれない。俺だって、マタタビを溶かした水でお婆ちゃんの顔を拭くことと、野良猫を連れてきたことしかしていない。そんなに気にしないでくれよ」
マタタビを水に入れるという発想は私には出てこなかった。
「そんなこと言ったら、私なんか何もしてないよ。結局アリバイをお互いで作って話を合わせる必要性もなかったしね」
確かに奈津美も何もしていない。お母さんが途中で雅人の車がないことに気づかせないようにすること位だろう。
「ううん。私の案に、賛成してくれただけ嬉しかったもん……」
由美は涙ぐんでいる。どのような背景があるか分からないが、彼女は相当お婆ちゃんに傷つけられたのだろう。
3人はしばらく話をしてから、お母さんが戻る前に解散していった。彼ら以外で犯行を知っているのは私だけ。しかし猫の私には伝える方法も義務もない。
猫は動物なので殺されたことを恨んでも、殺したものを責めたりはしない。それが自然の摂理だから。私には関係のない話なのだ。
それでも、お婆ちゃん以外に被害者がいるとしたら利用された猫であろう。そいつは、いきなり連れてこられ興奮状態にされて放されたに違いない。何も知らないまま。いや、知っていたのかもしれない。
なんにせよ、今回の事件は猫しか知らない犯罪なのだ。犯行が暴かれるまでは。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる